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2-32(ユウト)

第2章の最終話です。

 残された僕と少女の目の前にはオーガがいる。 


 オーガは同じ人型でもゴブリンより一回り、いや二回り以上の巨体だ。こん棒のようなものを持っている。道具を使う知恵はあるらしい。あれで殴られたら即死だろうなと僕は意外と冷静に考えていた。


 少女が僕のローブをつかんで僕を見る。僕は大丈夫だというように頷いた。


 あー、僕はどう見てもモブなのに。でもトリスタンさんにもすごい冒険者になるって約束した。まあいい。モブでもなんでも自由に生きるって決めた。女の子に頼られて頑張らないわけにはいかない。そもそも女の子に頼られるなんて初めての経験かもしれない。


 僕は腰から小ぶりの剣を抜いて右手に持った。


氷弾アイスバレット!」


 僕の左手の掌から氷の弾が発射されてオーガの太腿に命中した。


「グアー」と声を上げたオーガは踏み出そうとした足を止めた。トリスタンさんから貰った指輪の効果なのか僕の初級魔法は思ったより効いている。今だと、転がるようにオーガに接近した僕は魔法で傷つけた太腿を剣で斬りつけた。


「うわー!」


 僕は剣で斬りつけた足でそのまま蹴られて後方に飛ばされてしまった。飛ばされた勢いで腰と頭を強く打った。オーガが二重に見える。ぶらふらと少女を庇うように立ち上がる。


回復ヒール!」


 な、なんだ!


 後ろから少女が回復魔法を使った。回復魔法を使えるのは非常に貴重な人材のはずだ。

 そうか! それでギリアムはパーティーも組まずに活動できていたのだ。この少女がいたから実績を上げることができてたんだ。


「回復魔法、使えたんだ」

「はい。ギリアムさんから他の人には秘密にするよう命令されてました。でもギリアムさんは死にました。そしてこの首輪も外れました」


 少女が手に持っていたチョーカーのようなものを見せてくれた。

 奴隷の首輪と呼ばれている魔道具だろう。その効果のことはよくは知らない。主人にしか外せないとか、主人に危害を加えることはできないとかの効果だった気がする。主人だったギリアムが死んで首輪が外れたらしい。


「僕と同じで自由になったんだね」


 少女は自由という言葉に少し首を傾げてから頷いた。


「ガー!」


 オーガの叫び声を聞き、素早く少女を突き飛ばすと、オーガの持つ棍棒を剣で受けた。僕は後退したが今度は飛ばされなかった。


 くそー。異世界人の身体能力強化はチートなんだよ! 


 クラスメイトの中では明らかな魔法職の人を除くと、僕とハルがやや身体能力強化で見劣りしていた。でもそれはクラスメイトの中ではだ。


 チートな異世界人をそこら辺の駆け出し冒険者と比べてもらっちゃ困るぜ!


 なぜか心の中で強気になった僕は、オーガと丁々発止の攻防を続けた。というと聞こえがいいが明らかに押されている。


回復ヒール!」


 僕がダメージを受ける度に少女が回復魔法をかけてくれる。

 ありがたい。


氷弾アイスバレット!」


 僕もときどき攻撃魔法を繰り出すが、本当にときどきだし当たらない。ハルは剣を操りながらすごい速さで魔法も使っていた。中級の魔法さえ使っていた。僕にはとても剣で戦いながら中級魔法を発動できる気がしない。

 僕の使える魔法は、初級の氷弾アイスバレット、中級の防御系魔法の氷盾アイスシールド、それに中級攻撃系の氷槍アイスジャベリンの3つだ。氷槍アイスジャベリンは単体相手だとかなり強力な魔法なのでこれを使いたいとこだがこのザマだ。     

 剣と魔法を均等に訓練していたハルと違って、僕はむしろ魔法を練習していることのほうが多かったはずなのに。やっぱり剣と魔法を一緒に使うのは難しい。ハルみたいにもっとちゃんと練習してれば良かった。


 今度は急に弱気なってきた僕は少女を見る。少女は僕を信頼している目をしていた。いや、そんな気がした。


 なんとか氷槍アイスジャベリンを当てたい。上級魔法を使えるのはこの世界ではほんの一握りだ。まして最上級なんて伝説クラスだ。カナさんたちクラスメイトと比較する必要はない。中級でも十分すごいのだ。その上、氷槍アイスジャベリンは単体相手に向いている魔法だ。オーガは強いが所詮中級だ。上級ってわけじゃない。氷槍アイスジャベリンを当てれば勝機はある。


「私も武器があれば戦えます」

「え?」

「戦えます」


 少女は繰り返す。武器といえば迷宮に入る前に買った予備の剣がアイテムボックスに入っている。アイテムボックスはルヴェリウス王国から出るとき貰ったもので容量はあまり大きくないがそれでも普通は相当上位の冒険者しか持っていない便利アイテムだ。


「これ使える?」


 アイテムボックスから小ぶりの剣を取り出して後ろ手に少女に渡す。


「もう一本ありますか?」

「あるよ。はい」


 少女が2本の剣を受け取った瞬間、僕と少女は急いでオーガの攻撃を避けて左右に別れた。


 ゴン!


 オーガが振り下ろした棍棒の跡が地面に残っている。


 それより少女の身のこなしだ。速い!

 クラスメイトの中でもスピードに特化していたヤスヒコのようだ。とにかく飛んだり跳ねたり走り回ったりでかなりの身体能力強化だ。これほどの身体能力強化ができて回復魔法が使えるってすごい人材じゃないだろうか。


 少女はオーガの周りをすごい速さで動き回りながら両手に持った剣で攻撃している。さすがにパワーはあまりないようで致命傷は与えられない。


 だけどこれなら・・・。

 いたいけな少女に前衛を任せるのは心苦しいけど・・・。

 ちょっとだけ時間稼ぎをしてもらおう。


 少女がオーガを翻弄するように動き回る。


 僕はその間に氷槍アイスジャベリンを発動するため魔力を溜める。

  少女の身体能力強化はすごい。少女の動きに見とれている間に十分魔力が溜まった。


 よし!


「オーガから離れて!」


 僕の声に反応した少女は、オーガの膝のあたりを蹴ってその反動でオーガから距離を取った。


氷槍アイスジャベリン!」


 僕の頭上に巨大な氷の槍が出現した。

 僕が左手掲げオーガの方を指し示すように下すと、巨大な氷の槍は僕の腕の動きに合わせて凄いスピードでオーガに向かって行く。オーガは避けようとするが少女が牽制してそれを許さない。


 その結果、巨大な氷の槍はオーガの胸を貫いた!

 

 どうっと倒れたオーガの目にすでに生命の灯はない。

 これぞ異世界人チートの力だ。本気をだせばオーガなんて僕の敵ではない。いや、当たったのは少女のフォローのおかげもある。危なかった・・・。


「ふー。やっと倒せたか」

「今の魔法すごいです」

「いや、ただの中級魔法だよ」

「でも初めて見ました」


 さもなんでもないことのように答えた僕の心臓はバクバクしていた。

 少女は僕を尊敬の眼差しで見ている。でも僕はむしろ少女の能力に驚いていた。


「えっと、きみ名前は? ああ、僕はユウジロウ」

「ルルです。ユウ・・・チ・・・ロウ様」

「ユウチロウ!?」


 このあと主人を失った少女が僕の最初のパーティーメンバーになるのは自然な流れだった。ラノベでも絶対そうなっただろう。違うのは僕が主人公ではないことだ。


 これが、両親の借金のかたとして奴隷として売られた獣人の血を引く少女ルルが、僕の仲間となった経緯だ。ちなみに獣人の血を引いているといってもルルにケモミミはない。


 無念である。


「まあ、よろしく頼むよ。ルル」

「はい。ユウビロウ様」

 明日から第3章に入ります。

 第3章はこの物語のクライマックスの一つとなる予定の第4章に向かって、さらに盛り上がっていく章になる予定です。楽しみしていただけるとうれしいです。

 残念ながら、未だ読者が多いとは言えない状況ですが、それでも感想やレビューを下さる方もいてとても励みになっています。おかげで第2章も毎日投稿を続けることができました。

 ありがとうございます。

 というわけで、第3章も毎日投稿を頑張って続けてみます。 

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― 新着の感想 ―
ケモ耳奴隷少女パートナーだと… やはりこの男、「持っている」な
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