2-31(ユウト).
第2章の最後はユウト編です。ユウトの話は一つの短編みたいなテイストになるように書いてみたのですが、少し長くなったので2話に分けて投稿します。
短編といえば、第1章第1話で文芸部のハルが文化祭のために書いたという設定の「善人の星」を投稿してますので、そっちもよろしくです。このユウトの話の半分くらいの短い話なのですぐ読めます。
僕、中島優斗が今拠点としているのはエニマ王国のサリスという町だ。街ではなく町だ。
サリスは、なんとエラス大迷宮の地下1階にある。エラス大迷宮はエラス山の地下に広がる巨大な地下空間だ。地下なのに常に夕暮れ程度の明るさがある。迷宮といえばイメージする迷路のような洞窟ばかりではなく、壁が見えないほど広い空間もある。広い空間に木々がお生い茂っている森のような場所やゴツゴツした岩場などは、一見すると地上と変わらない。
それでも、ここは明らかに人工的な空間だ。何より地下なのに一定以上の明るさがある。それに話に聞いていた通り魔物は倒すと魔石に変わる。倒してもまた新たに出現するので魔物との遭遇率も高い。
巨大な地下空間である迷宮の中には、いくつか魔物の襲ってこない安全地帯があることが分かっている。そんな安全地帯の一つにサリスはある。地下1階だけでサリスのような町が5ヶ所もあってサリスはその中で入口から見て3番目の町だ。
エラス大迷宮はまだ攻略されていない迷宮だ。人が足を踏み入れたことがあるのは6階層までで、未だに最深部には誰も到達できていない。3階層までは詳細な地図が完成しているが、4階層からは地図はあっても完璧なものではない。
エラス大迷宮に実際に来てみると、トリスタンさんが4階層まで行ったことがあるというのが、すごいことなのだとよく分かった。
僕はエニマ王国へ到着してすぐにエラス大迷宮に挑んでいる。ユウジロウという名の冒険者としてだ。冒険者であることを証明してくれる魔道具である冒険者証に書かれた名前はユウト・ナカジマだが通名で活動しても冒険者ギルドは何も言わないしそれを漏らすこともない。
コウキのアドヴァイスに従って、できるだけルヴェリウス王国に見つからないよう配慮している。トリスタンさんにさえ本名は名乗らなかった。
僕は異世界に連れてこられたナカジマだが、ユウジロウという名でエラス大迷宮に挑戦する駆け出し冒険者であり、ヨウシではないし王でもなかった。そもそも僕は男だ。どっちかというとさ◯えさんのナカジマくんに近い。
僕は未だにパーティーを組まずに1人で活動している。まあ、とりあえずは無理をせずに、ゆっくりと迷宮にチャレンジしている。幸い王国から貰った支度金のおかげで、この世界の庶民の基準で数年は暮らしていけるくらいには裕福だ。
はじめてスライムを見たときには感動した。スライムは迷宮にしかいない魔物だ。
僕の迷宮での冒険は氷弾でスライムを倒すことから始まった。僕のエニマ大迷宮での最初の魔法は見事にスライムを仕留め小さな魔石を得た。
最初のスライムに苦戦しなかったからといって魔物と戦うことが簡単だったわけではない。日本で生まれ育った僕が、魔物と戦うには勇気がいる。すぐには体がいうことを聞いてくれなかった。物語のようにはいかないのだ。何度かトラウマになりそうな失敗を重ねて、ようやく慣れてきたところだ。
みんなはどうしてるだろうか?
僕と同じで毎日魔物と戦ったりしてるのだろうか。クラスメイトたちと本音で話ができたのは、王宮を出ると宣言して実際に王宮を出るまでの2週間ほどだ。なのに彼らのことを本当の仲間だと感じて懐かしく思っていることに、僕は少し驚いている。
「ユウジロウさん、はぐれ個体が目撃されたようなので注意してください」
サリスの冒険者ギルドに魔石を買い取ってもらっていると冒険者ギルドの職員であるネルさんに注意喚起された。
サリスには小さな冒険者ギルドがある。魔物は魔石に変わるか、稀にドロップ品を落とすだけなので、ほぼ魔石の買い取りしか冒険者ギルドの仕事はない。一応各冒険者の活動をチェックして冒険者ランクの管理などもしているようだが、僕には分からない。
ネルさんは僕の本名がユウジロウではなくユウトだと知っているはずだが、僕が名乗っているユウジロウと呼んでくれる。
「すみません。ネルさん、はぐれ個体って」
「お前、そんなことも知らないで、よくここまで来れたな」
後ろに並んでいた冒険者が呆れたように言った。たしか5人パーティーのリーダーをしている・・・。
「えっと」
「エバンだ」
そうそうエバンさんだ。彼も彼のパーティメンバーも若い。そもそも1階層のこの辺りには若い冒険者が多い。
「はぐれ個体っていうのは、本来はこの辺りにはいない強い魔物が現れた場合、そいつをそう呼ぶんだ。1階層に2階層の魔物が現れる感じだな」
「そうなんです。目撃されたのは人型の魔物でどうやらオーガのようです」
このあたりに出る人型の魔物はゴブリンだけだ。スライムと並んで定番の魔物だ。そうえばハルがこの世界がアニメやラノベの設定にあまりにも似てるのをいつも気にしていた。
なぜこんなに僕たちにとって都合よくこの世界はできているんだろう、なんて呟いて腕を組んでいた。懐かしい。
「オーガですか。オークじゃなくて?」
「はい。そのようです」
「それはかなり危険ですね」
オーガ、これも定番の魔物だ。確か中級の魔物だ。この世界では魔物は下級、中級、上級にざっくりと分けられている。ざっくりなので同じクラスでも強さには結構差がある。オークなら下級上位だがオーガなら中級だ。中級ともなればこの辺の若い駆け出し冒険者たちには荷が重い相手だ。
「しばらく町から出ないほうがいいかもしれないな」
エバンさんはどうやら慎重な性格のようだ。リーダーならそうあるべきだろう。サリスは安全地帯なのでサリスにいる限りは魔物には襲われない。だが迷宮は巨大な空間なのではぐれ個体のオーガに遭遇する可能性はあまり高くないようにも思える。だが油断すべきではないのだろう。ゲームのようにやり直しはできないのだから。
その日の夜、これから僕はどうすべきか考えていた。そろそろ次の町の移りたいと思っていた。オーガが出たのは狼岩の辺りだと言っていた。次の町イーブランは狼岩からは方向としては90度違う。ましてこの広い迷宮でオーガに会う可能性は少なそうではある。ちなみにイーブランとは初めて3階層に到達した昔の偉い冒険者の名前だ。1階層の中では一番大きな町だ。
よし、明日イーブランへ立とう。オーガが現れた以上、イーブランの方がむしろ安全ともいえる。
翌朝、僕は冒険者ギルドにイーブランに移ると告げてサリスを立った。
「氷弾!」
サリスを立ってすぐに2匹のゴブリンが現れた。僕は一匹を氷弾で仕留めると、2匹目を剣で一閃した。ゴブリンは消えて魔石が2個残っている。いつ見ても不思議な光景だ。
うん、我ながら鮮やかだ。ゴブリン2匹程度ならこんなもんだ。イーブランに移るのは良い判断だったと、2個の魔石を拾いながら、心の中で自画自賛した。
その後、ホーンラビットや単にワームと呼ばれている気持ち悪い芋虫のような魔物を倒しながら進むと、長年に亘って冒険者たちによって整備された道が2つに分かれている地点に着いた。左に行くと狼岩と呼ばれる特徴的な形の岩がある岩場だ。右の道がイーブランに続いている。当然右を選んで進む。
「た、助けてくれオーガが、オーガが出た!」
後ろを振り返るとスリムな体型の冒険者が僕に向かって叫んでいた。
「オーガが? どこに?」
「この先だ。俺は足が速いんで、と、とにかくギリアムさんが助けを呼んでこいって」
ギリアム。僕はその名の聞いて眉を顰める。いつも尊大な態度で周囲を見下している背の高い冒険者だ。背が高いだけでなく冒険者としては少しふっくらした緩んだ体形をしている。貴族の三男だか四男だかという噂だ。正直あまり助けに行きたいタイプではない。だが・・・。
「狼岩の方ですよね。冒険者ギルドの注意は聞いてなかったんですか?」
まあ、こんなときに町を出て移動している僕もあまり人のことは言えないが。
「いや、それがギリアムさんがオーガを倒して名を上げるって言いだして。俺も誘われて・・・」
僕は呆れてしまった。この辺の冒険者が中級の魔物を相手にするとか馬鹿じゃないのか。しかも中級を倒したくらいで名を上げられるわけもない。この辺にはいないが2階層3階層には中級くらい倒せる冒険者はいくらでもいる。
もしかしてこのサリスの周辺もしくは1階層だけで自慢したかったのだろうか。確かにギリアムは、認めたくはないが、この辺りではなかなかの実績を上げていて有望な若手冒険者と目されていた。
だとしてもやっぱり馬鹿だ。
「とにかく行ってみましょう」
「い、いや、俺は臨時にギリアムさんに雇われただけだし冒険者ギルドに助けを呼びに行ってくる」
なんてことだ。僕に助けを請いながら自分は戻らないらしい。ギリアムの人望がないのか・・・。
「分かりました。できるだけ急いでくださいね」
僕はそういうと三叉路を狼岩の方面に走り出した。
正直ギリアムなんか助けたくない。ってか僕ってオーガに勝てるんだろうか? なのに僕は狼岩の方に走っている。僕の脳裏に浮かんでいるのはギリアムではなくギリアムの連れている少女だ。
僕は以前ギリアムを見かけたことがあった。ルヴェリウス王国の港町アルトでだ。ギリアムはそのときも尊大な態度で使用人と思われる少女を後ろに立たせたまま食事をしていた。そこは普通の宿でそんなことしているのはギリアムだけだった。その少女の暗い目を僕は覚えていた。
そんなギリアムと少女をここサリスで見かけた。気がつかなったが、僕と同じ船でエニマ王国に来ていたんだろう。ギリアムの性格からすれば大方迷宮で名を上げようとでも思ったのだろう。別にそれは悪いことではない。僕にだってそんな気持ちがないとは言えない。
だけど・・・うん、やっぱり好きになれない。
僕が狼岩の方に向かって走っていると、向こうから走ってくる二つの人影が見えた。
おー、なんとか逃げられたのか。まあ、良かったと言っておこう。
「大丈夫か?」
「・・・」
ギリアムは何も答えない。肩で息をしている。そろそろ限界なのだろうか。そんな緩んだ体をしているからだ。一方少女のほうはまだ余力がありそうだ。
それにしても逃げ出してきただけでも大したものだ。だが、二人が走ってきた方向を見るとオーガらしい人型の巨体がすぐそこまで迫っていた。
「おい、逃げるぞ」
僕は二人に声をかける。
「ここに留まってオーガを足止めしとけ!」
少女は黙って頷く。
「おい! 今なんて」
「うるさい。これでお前だって助かるんだ。さっさと逃げろ」
そう言うとギリアムは一目散にその場を逃げ出した。僕はそれを唖然として見送った。
「ぐあーー!!」
だが、次の瞬間ギリアムの頭は潰れていた。間違いなく死んでいる。
ジャイアントウルフだ。この辺りではもっとも手ごわい魔物で下級だが上位に位置している。叢から突然飛び出してきたそれはギリアムの頭を噛み砕いた。ギリアムのことは嫌いだったが頭を噛み砕かれたギリアムを見て喜ぶ気にはなれない。
ジャイアントウルフはオーガを見るとギリアムの頭を咥えたまま藪の中に去った。
次話で、ユウト編も終わり第2章も最後となります。
なんとか、ここまで毎日投稿を続けることができました。
残念ながら、未だ読者が多いとは言えない状況ですが、少数ながら感想やレビューを下さる方もいてとても励みになっています。ありがとうございます。
というわけで、次の第3章も毎日投稿を頑張って続けてみようと思っています。
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