2-29(出立).
僕の傷もほぼ治り、タイラ村を立つときがきた。
頼んでいた火龍の鱗で作った大剣と特殊個体のフェンリルの皮で作った白いローブも受け取った。実は追加でユイ用の杖も作ってもらった。大剣と同じく一部に火龍の鱗が使われているほかにヒュドラの魔石がセットされている。特殊個体のフェンリルなどの他の魔石と迷ったが職人に見てもらったところ、これが一番だと言われた。サカグチさんの言った通りこの村の職人の腕は素晴らしく仕事も早かった。これは職人用の魔法を持っている人がいるおかげもあるらしい。
ただ問題が一つある。クレアが大剣を受け取ってくれないのだ。クレアの大剣をモデルに作ったのだから受け取ってもらわないと困るんだけど、そんな貴重なものをと言ってきかない。こうなるとクレアはなかなか頑固だ。まあ、それでも時間が解決してくれるだろうと思っている。僕はとりあえず大剣をアイテムボックスに保管した。
急がないと。ユイと離れ離れになってすでに一年だ。
「ダゲガロ、頼んだぞ」
「はい」
ダゲガロと呼ばれている人は、僕たちを護衛してくれる戦士のリーダーだ。ダゲガロさんはサカグチさんに黙って頷く。寡黙な戦士っていう感じだ。筋骨隆々で頼りになりそうでドワーフの血を引いている。よく見ると戦士の中に獣人の血を引いていると思われる女性がいた。ついに会えたケモミミ美少女だ。名残惜しさが増してきた。
「ハル様」
気のせいかクレアの表情が険しい。
「クレア、行こう」
タゲガロさんたちタイラ村の戦士を先頭に僕たちは城壁に作られている門を潜り、再びイデラ大樹海の中に歩を進めた。
この辺りは中級魔物の縄張りだ。
まだまだ、油断できるような場所ではない。
だけどもう少し・・・そう、あともう少しだ。
僕たちはダゲガロさん率いるタイラ村の10人の戦士とともにイデラ大樹海をキュロス王国へ向う。これからは道に迷う心配はない。
戦士の中のケモミミ美少女とならぶもう一人の女性は魔導士のトモカさんだ。トモカさんはセイラさんの姪にあたるそうだ。日本人のような名前だ。
「良い名ですね」
「はい。サカグチのお爺ちゃんが付けてくれたんです」
サカグチさんの名前であるソウタと同じで誰かにちなんでいるのだろうか?
「ハル様、ワイバーンです!」
「上だ!」
僕たちが、岩場を歩いているとき、クレアとダゲガロさんがほぼ同時に上空のワイバーンに気がつき戦闘になった。
相手は5匹だ!
ワイバーンは上級魔物だが、上級の中でも上位なので伝説級の魔物に近い存在だ。それが5匹だ。これまでも何度か戦闘になったことはあるがすべて単体だった。それでも結構苦労した覚えがある。
「黒炎弾!」
黒炎弾がワイバーンの羽に命中してワイバーンが高度を下げる。もともと初級魔法だし大したダメージはないが、それでも以前の炎弾より威力は上がっているし凝縮して発動し威力を高めている。
多少のダメージがあったのかそれとも僕を狙ってなのか高度を下げてきたワイバーンにクレアが大剣で斬りかかる。だが急所を外したため仕留めることはできない。ワイバーンは上級上位で空も飛ぶ強力な魔物だ。簡単な相手ではない。旋回したワイバーンは鋭い爪でクレアに襲い掛かる。
「黒炎弾!」
「黒炎弾!」
僕は、次々と黒炎弾を放つ。仕留めることが目的ではなくクレアを襲っているワイバーンを牽制するためだ。今度は威力を抑え発動速度を重視して使っている。凝縮された黒い弾が次々飛んでいく様は、まるで銃を使っているようだ。
何度か同じようなやり取りを繰り返したあと、ついにクレアの大剣がワイバーンの首元を捉えた。完全に地面落ちたワイバーンにクレアが止めを刺そうと斬り掛かる。
地面に落ちたワイバーンは思った以上に大きい。さすがに亜竜とはいえドラゴンの一種だ。爪や嘴でクレアに反撃してくる。クレアも慎重に攻撃している。
僕も剣を抜くとクレアと反対側からワイバーンに斬り掛かった。
「ふー」
やっとクレアが大剣でワイバーンに止めを刺した。
上級上位は伊達ではない。強かった。
クレアは大きく息をすると、すぐに次のワイバーンとの戦闘に向かう。僕もそれを魔法でフォローすべくクレアに続いた。
タゲガロさんたちも確実にワイバーンを倒していた。彼らの中にはトモカさんを始め魔法を使えるものが複数いる。風刃など比較的速度の早い魔法でワイバーンを狙い。降りてきたところをダゲガロさんなど戦士が倒している。
ものすごく高く飛び上がってワイバーンを切りつけているのはケモミミ美少女だ。トモカさんの魔法コントロールも洗練されている。基本的には僕たちと同じやり方だが手慣れている。
「ダゲガロさん、ワイバーンは上級魔物ですよね」
僕はワイバーンを黒炎弾で攻撃しながら背中越しにタゲガロさんに話しかける。
「そうだ」
「このあたりは中級魔物の縄張りなのでは?」
「ワイバーンは空を飛べるから行動範囲が広い。こんなことも偶にはある」
タゲガロさんは一息いれて呼吸も整ったのか、次のワイバーンに向かっていった。
かなりの時間がかかったが、なんとかすべてのワイバーンを倒して戦闘は終了した。それにしても12人で上級魔物5匹だ。普通は上級魔物が5匹も出れば数十人規模の討伐隊が編成される。やっぱりタイラ村の人たちは強い。あんな場所に村を築いて1000年以上なんだから当たり前なのだろうが、この世界にはまだまだ知られていない強者が潜んでいる。
「さすがに御使様の固有魔法はすごいな」
「いえ、タゲガロさんたちタイラ村の戦士の強さには驚きました」
どうやら僕の銃撃のような黒炎弾は固有魔法だと思われたようだ。
ダゲガロさんに言われて、僕とクレアで倒した二匹ワイバーンの鋭い爪と被膜、それに魔石をアイテムボックスに回収する。被膜は生地として優秀でいろんなものに使われるらしい。空を飛ぶワイバーンの素材は上級魔物の素材の中でもかなり価値が高い。
その後、因縁のブラックハウンドの群れに襲われたが、今度は特殊個体もいない上、こっちの人数も多く問題なく討伐できた。それにしても、やっぱりタイラ村の人たちは普通ではない強さを持っている。
野営も挟んで進むこと5日、主に下級魔物にしか遭遇しなくなった。
やはり平地での移動と違い大樹海の中を魔物と戦闘しながらの移動は時間がかかる。クレアと二人であれば倍以上の日数が必要だっただろう。
「ここからキュロス王国まで3日だ。この辺りにはキュロス王国の冒険者たちも入ってくる。もう迷うこともないだろう」
「はい」
「ここから先は下級魔物の縄張りだ。お前たちの強さならなんの問題もない」
「はい」
「俺たちはここで引き返す」
「ありがとうございました。本当に助かりました」
「大樹海深層から訪れた御使様は俺たちにとって歓迎すべき者だ。いつでも訪ねてくるといい」
「はい」
「それと、これはサカグチからだ」
ダゲガロさんは手紙のようなものを取り出し僕に渡してきた。ちなみにこの世界には普通に植物由来の紙がありインクもある。紙の手触りはどちらかというと和紙に似ている。
「これを僕に」
「ハルに渡すように言われた」
トモカさんも頷いている。サカグチさんから聞いていたのだろうか。
僕は取りあえず手紙をしまう。
「それじゃあ、行きます」
ダゲガロさんは、うんと頷くと、仲間のほうを見る。僕とクレアはトモカさんや他の人たちにも頭を下げる。彼らも表情を緩めて頷く。ケモミミ美少女の笑顔が眩しい。この5日間、彼らと一緒に魔物と戦い連帯感のようなものが芽生えていた。
タゲガロさんは僕たちに背を向け、何も言わず軽く片手を上げると、皆を引き連れ来た道を引き返した。なんだかとても格好良かった。
僕とクレアはダゲガロさんのたちの姿が木々の中に消え見えなくなるまで見送った。
「クレア、行こう」
「はい。ハル様」
久しぶりの人族の国は近い。
★★★
「ん?」
俺が自分の部屋に戻るとベッド脇の小テーブルに本のようなものが置いてあるのに気がついた。
メイヴィスが置いたのだろうか?
俺はその本のようなものを手に取る。通常の本より大きくて重い。
こ、これは・・・。
それは、どうやら日記のようだった。あまりきれいとは言えない文字が連ねてあった。だが、そんなことよりも、書かれている文字だ。それは、どう見ても日本語だった。
俺はその日記を読み始めた。
この日記の書いた男は俺と同じで大切な女を亡くしていた。
そうか、そうだったのか。
なぜ、俺は気がつかなかったのか? だからメイヴィスはあれほど人族への復讐に拘っていたのか・・・。
俺はさらに日記を読み進める。
読み進めるにつれ・・・俺は・・・。
日記を持つ手が怒りで震える。文字を追うのに支障が出るほどだ。
俺の心はこの日記を書いた男にシンクロしていた。それにより、俺の復讐心はこれまで以上に高まった。
俺は必ずこの世界の人族に復讐する。愛する女を奪ったこの世界の人族に、この男の意思も継いで必ず復讐を成し遂げる!
復讐心に囚われた俺の中に何か新たな力のようなものが湧いてくるのを感じる。そう、この世界に来て与えられた俺の能力はこれまで以上に高まっている。
俺はメイヴィスの暗い目を思い出した。
メイヴィスは世界で最も危険な場所とやらで俺のことを鍛えるという。ありがたいことだ。俺には力が必要だ。
俺は必ずやり遂げる!




