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2-25(脱出その2).

 その後も上級から中級の魔物を倒しながら、僕とクレアは先を急ぐ。上級魔物は強敵であり僕もクレアも少なくない傷を負ったが、なんとかクレアの回復魔法と回復薬で乗り切った。また上級回復薬を使ってしまった。ここはこの世界で最も危険なイデラ大樹海の最深部だ。この程度なら想定の範囲内だと。僕はそう思っていた。


 その魔物に出会うまでは・・・。 


 龍神湖畔の拠点を出て5日が経過した頃、僕たちは恐れていた伝説級の魔物に遭遇した。そろそろ一番危険な地帯は抜けていてもおかしくない頃だ。二人とも寝る間も惜しんでここまで来たので疲れも溜まっている。


 なのに・・・ここで伝説級の魔物だ。


 フェンリルだ!  


 ルヴェリウス王国の書庫でも見たことがある狼の魔物。それが今僕たちの目の前にいる。白い大きな巨体と金色の瞳。その瞳は僕たちを真っすぐに捉えている。


「逃るのは?」

「無理だと思います。狼型の魔物は素早いです。ましてフェンリルは伝説級ですから」

「倒せるかな?」

「分かりません」


 これまでの経験からも素早い魔物はそれだけでもやっかいだ。その上伝説級だ。クレアだって倒せるとは断言できない。当たり前だ。


「私が時間を稼ぎます。ハル様だけでも」

「二人で倒そう」

「でも・・・このフェンリルは特殊個体のようです」

「え?」


 そういえば、ルヴェリウス王国の書庫で見たフェンリルの絵姿はもう少し灰色がかっていた。目の前のフェンリルは真っ白だ。特殊個体は通常種より強力なことが多いと習った。


「ですから、ハル様だけでも」


 僕は黙って首を横に振る。


 今の僕たちでも二人で伝説級の魔物を倒すのは難しい。二人でハクタクとサイクロプスを倒したが、正直ハクタクのときは運が良かったし、サイクロプスのときはエリルのアドヴァイスがあった。それがここにきて特殊個体だ。神様が今まで運が良かった分の辻褄を合わせにきたのか。

 だいたいフェンリルなんてのは、ラノベとかなら80%以上の確率で仲間になる魔物だ。真っ白な特殊個体ともなれば、その確率は95%以上のはずだ!


 僕がクレアに頷くと、いつものようにクレアは走り出した。


 クレアはいつもの風属性魔法を使って高くジャンプすると剣を振りかぶってフェンリルに斬り掛かる。

 しかしフェンリルは素早い動きで蛇行するように走ってクレアの一撃を躱す。さらに向きを変えると頭を低くしてクレアに突進する。クレアもそれを左に躱して剣で薙ぎ払う。しかしフェンリルもそれを躱して、低くしていた頭を振るようにクレアを攻撃する。

 クレアもバックステップして間一髪でそれを躱す。


 ここまでお互いの攻撃は当たっていない。凄い攻防だ。クレアもフェンリルも身体能力というかスピードがすごい。

 もちろん僕は、その間に魔力を溜めている。魔法の二重発動を使って、攻撃する準備すると同時に防御魔法でクレアを援護する準備もしている。


 しばらくクレアとフェンリルの攻防が続く。


「あっ!」


 フェンリルの右前足での攻撃がクレアに掠った。あまりに素早い攻防に防御魔法を出す暇もなかった。


 ズズズー!


 掠っただけなのにクレアの体が3メートルくらい飛ばされた。


黒炎爆発ヘルフレイムバースト!」


 僕は限界突破した黒炎爆発ヘルフレイムバーストを放つ。


 当たれ!


 僕の祈りも空しく、フェンリルは頭上から迫る巨大な黒い炎の塊が自身を包み込み爆発する寸前で、跳ねるように移動した。


 外した!


 フェンリルはやはり素早い。エリルとクレアが牽制していた火龍のときなど違い素早いフェンリルに魔法を当てるのは難しい。もう少し人数がいてフェンリルを足止めできればいいんだろうが、今ここには僕とクレアの二人しかいない。そもそも伝説級の魔物に二人で挑むのは無謀なのだ。おまけにこのフェンリルは特殊個体だ。


 しまった!


 魔法を放った僕の方にフェンリルが突進して来た。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 バリィィーーン!


 黒炎盾ヘルフレイムシールドが砕かれ体に衝撃が走る。一瞬気が遠くなる。気がついたら巨木の根本にへたり込んでいた。ここまで飛ばされたらしい。


「ハル様ー!」

「クレア」


 クレアが僕を抱きかかえて、ジャンプする。


 ドゴォォオオーン!!!


 さっきまで僕がいた巨木にフェンリルが激突した。危なかった。クレアが助けてくれなかったら死んでいた・・・。


「ハル様、大丈夫ですか?」

「うん。クレアありがとう」


 黒炎盾ヘルフレイムシールドは破壊されたが、フェンリルの攻撃の威力をかなり吸収してくれていたみたいだ。やはり防御魔法の威力も上がっているし身体能力強化も上がっている。以前の僕ならもう戦闘不能になっていただろう。


 僕とクレアは再びフェンリルと対峙する。

 最初と同じような攻防がフェンリルとクレアの間に繰り返される。

 そして最初と同じように・・・。


黒炎爆発ヘルフレイムバースト!」


 一段階限界突破の黒炎爆発ヘルフレイムバーストを放つ。


 ダメだ・・・。


 また躱された。さっきと同じだ。黒炎爆発ヘルフレイムバーストは一度黒い炎が相手を包みこんでから爆発する魔法だ。威力は高いがその性質上躱されやすい。これでは二段階限界突破したとしても同じ結果になるだろう。


「クレア僕も剣で戦うよ」

「分かりました」


 この場所は樹木の生えている密度が低く比較的開けている。川の近くだから仕方がない。ここでクレアだけで素早いフェンリルの動きを完全に封じるのは無理だ。僕は、必殺技ともいえる限界突破した黒炎爆発ヘルフレイムバーストを当てるの諦め、エリルに貰った黒っぽい剣を構えた。


 基本はクレアが攻撃して僕も剣でフォローする。剣を使いながら黒炎弾ヘルフレイムバレットも放つ。黒炎弾ヘルフレイムバレットは火属性初級魔法の炎弾フレイムバレットから変化したものだが威力は上がっている。かなりのスピードで黒い炎の弾を放つ魔法なので黒炎爆発ヘルフレイムバーストよりフェンリルに当てやすい。


 エリルから貰った黒い剣の切れ味は凄まじく、かなりの防御力を誇るフェンリルの皮さえ突き破って傷つけることができる。この剣に斬れないものは無いのではと思うくらいの切れ味だ。だがいかんせん僕にはクレアほどの剣技はなく、素早いフェンリルに偶に掠る程度だ。

 それでもときどき放つ黒炎弾ヘルフレイムバレットと合わせて少しづつダメージは与えている。それに伴いクレアの大剣がフェンリルを捉える。しかしフェンリルの皮はなかなかに硬く致命傷は与えられない。僕の剣をクレアに渡したほうがいいのだろうか? いや、エリルは魔王の加護持ちでないとこの剣は使えないと言っていた。


 僕たちの攻撃が当たり始めフェンリルがイライラしているのを感じる。フェンリルとしてはちょこまかと動きやがってってとこだろう。


「クレア、ハクタクを倒したときのこと覚えるよね?」

「もちろんです」 


 あのときクレアはハクタクの下敷きになりながら、大剣でフェンリルの顎から頭にかけてを貫いた。同じようにフェンリルの頭を貫きたい。この剣なら貫けそうだが、僕の剣技で可能だろうか? それにあのときの僕はハクタクの視界から消えていた。ハクタクは僕を敵とは認識していなかったのだ。だから僕の魔法が不意を突くことができた。


「いや、やっぱり、あのときと同じ方法ではだめだ」


 あのときとは違う。それなら・・・。


「クレア、考えがある。あまり無理しないで、いつものように時間を稼いで」

「でも、黒炎爆発ヘルフレイムバーストを当てるのは・・・」

「うん。でも、もう1回時間を稼いでみて」

「分かりました」


 クレアはフェンリルを牽制しながら時間を稼ぐ。僕も剣でクレアをフォローする。


 僕は魔力を溜める。

 限界突破1回目。

 まだ溜める・・・。


 クレアごめん。もう少し頑張ってくれ!

 大して役に立たないが、魔力を溜めながら僕も剣でフェンリルを牽制する。魔力を流し込むのが失敗してしまわないように注意しながらなので神経を使う。


 よし! 2回目の限界突破が来た!

 そこからさらに溜める。そろそろ限界か・・・。やはり3回目は無理なようだ。

 あとはコントロールする。

 できるだけ速く。

 できるだけ小さく。

 そして威力はできるだけ高く・・・。

 

黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 僕が放ったのは黒炎爆発ヘルフレイムバーストではなく二段階限界突破した黒炎弾ヘルフレイムバレットだ。予想通り限界突破は黒炎弾ヘルフレイムバレットでもできた。そして僕の得意とする魔法の精密なコントロールで小さく凝縮して威力とスピードを高めた。

 なぜ今まで黒炎爆発ヘルフレイムバーストではなく黒炎弾ヘルフレイムバレットのほうを限界突破することを思いつかなかったのか不思議だ。


 凝縮された黒炎弾ヘルフレイムバレットはまるで黒い鋼の弾丸のよう見えた。そして、その黒い弾丸はものすごい速さでフェンリルのこめかみを貫いた。素早いフェンリルもこれは躱せない。


 ギャァァアアー!


 フェンリルは雄叫びを上げる。頭を振り回して狂ったように攻撃してくる。ものすごい生命力だ。僕とクレアは逃げるようにその攻撃を躱そうとするが。僕は躱しきることができず大きく跳ね飛ばされた。


「うう・・・」

「ハル様、大丈夫ですか?」

「うん、なんとか」


 い、痛い・・・かなりのダメージを受けた。

 でも、早く止めを刺さなければ・・・。

 

「ク、クレア、今だ。今がチャンスだ」


 僕がそう言うと、クレアは一瞬の逡巡の後、フェンリルに向かっていった。

 見るとフェンリルは苦しさからかまだ狂ったように頭を振って暴れている。こめかみを貫かれたのだから当たり前だ。でも、これまでの経験では高位の魔物は信じられないほど再生力が高い。時間をかけすぎると回復してしまう可能性もある。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 僕は黒炎弾ヘルフレイムバレットでクレアを援護する。今度のは限界突破していない普通のやつだ。限界突破はしていないが小さく凝縮して放つ。見かけはさっきのとよく似ている。フェンリルは黒い弾丸を見て一瞬動きが止まる。本能的に黒炎弾ヘルフレイムバレットを恐れている。

 クレアにはそれで十分だった。風属性魔法の補助も使い高くジャンプしていたクレアは、その隙を逃さずフェンリルの頭に着地すると両手で握った大剣をフェンリルのこめかみ辺りに突き立てた。さっき僕が黒炎弾で貫いた場所と同じ場所だ。


 えぐい!


「グギャァァァァァーーーー!!!!!」


 フェンリルは凄まじい叫び声を上げて頭を振る。クレアはフェンリルの頭に深々と突き刺さった大剣の柄を両手で持って離さず、より深く差し込もうとしている。

 しばらく暴れていたフェンリルだが、やがてぐったりして・・・動かなくなった。


 倒したのか・・・。

 良かった。

 あれ・・・体が全然動かない。フェンリルの突進で思ったよりダメージを受けていたみたいだ。


 そして、僕は意識を・・・失った。

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