2-22(ええー!!).
エリルは、夜遅くなってやっと、目を覚ました。
「うー、 ・・・ここは?」
「目が覚めたの? エリル」
エリルは何度か瞬きをして、僕を確認している。
「ハル、無事だったのか?」
「はい。エリルのおかげです」
「クレアは?」
「クレアも無事ですけど、かなり疲れたみたいで、さっき寝てしまいました」
「そうか」
「エリルもずいぶんぐっすり寝てましたよ。なかなか目を覚まさないから心配しました。それで体の調子はどうですか?」
「うむ、すっかり元気だ。あの魔法は魔力を使いすぎる。私もまだまだ修行が足りないな」
拠点にあった上級回復薬をずいぶん使った。それでも目を覚まさないから心配したけど良かった。
エリルは、ベッドからゆっくりと上体を起こして辺りを見回すと「私の部屋か・・・」と呟いた。
「それにしても、意識を失った私を連れて、よくここまで辿り着いたな? 火龍は倒したのか?」
「ええ、火龍はエリルの魔法で相当なダメージを受けていたので、そこを僕とクレアで攻撃して・・・でも何度ももうだめかと思いましたよ。でも、命の恩人を見捨てるわけにはいきませんから頑張りました」
「火龍は個としてはこの世界最強の一体だ。3人で倒せたとすれば上出来というか・・・まあ、奇跡だな」
「エリルの魔法のおかげです」
「いや、私のほうこそお前たちのおかげで命拾いしたようだ」
その後、エリルは何かを考えるように黙っていた。
なんか、まずいことでも言っただろうか?
何を気にしてるんだろう?
ひょっとしたら、あのときと・・・クレアのときと同じか?
「エリルが意識を失っている間に、決して変なとこに触ったりはしていません。ここまで運ぶときも、お姫様抱っことはいきませんでしたが、なるべく丁寧に運びました。傷の手当とかは主にクレアがしましたから安心してください」
「なるほど。だが、主にということは、ハルも手当してくれたのか?」
あれ、言い方を間違えたのかな?
「いや、それは、確かにそうですけど・・・」
「胸にも傷を負った気がするが、うん、もう治っているな。それに、服も着替えさせてくれているな。ハル、触ったのか?」
エリルは、傷の具合を確認するように自分の胸を見ながら質問してきた。やっぱりこれは、クレアのときと同じパターンだ。今度は失敗しないように慎重に答えよう。僕はちゃんと学習するタイプだ。
「いえ、決して触ってません!」
「私の胸がさわるほどの魅力がなかったということか?」
あれ、また間違ったのか?
「いえ、エリルはすごく魅力的です。しかし僕にはすでに心に決めた女がいますので」
「私の胸は魅力的か・・・。そうか魅力的だから触ったのか」
ユイほど大きくはないし、クレアにも大きさでは負けてるだろう。でも、たしかに魅力的ではある。
いや、僕は何を考えているんだ。
僕が言ったのは胸のことじゃなくて、そもそも触ってないって言ったはずだ。
ちゃんと、心に決めた女がいるって言ったし・・・。
「フフッ、魅力的か・・・」
エリルは機嫌が少し良くなったみたいで、うれしそうだ。
なんとか危機は乗り切れたのだろうか?
「ところでハル、私のことをどう思っている?」
エリル、急にどうしたんだろう?
「どうって?」
「好きかとか、嫌いかとかだ」
「好きか、嫌いかって言われればもちろん好きですよ」
「大好きか?」
「はい。命の恩人で大樹海を出るのにも協力してくれて、その上、人族と魔族との争いをなくそうとしているエリルは、大好きだし尊敬してます!」
「ずっと好きか?」
エリルは、ずいぶん心配そうな顔して上目づかいで尋ねてきた。いつもの自信満々なエリルとは、なんか雰囲気が違う。魔王なのにドラゴンに怪我をさせられて弱気になってるんだろうか? 元気付けてあげないと・・・
「もちろんです。好きに期限なんかありませんよ」
エリルは「そうか」という僕のほうに身を乗り出して「私の胸は魅力的で、私のことはずっと好きでいてくれるんだな? 良く分かった」と言った。
何が分かったんだろう?
それにさっきまでの弱気な態度と違っていつの間にかいつも通りの雰囲気に戻っている。
「ハル、目を閉じろ!」
すごく真剣な声だ。いったいどうしたんだろう? とりあえず、僕は言われるままに目を閉じた。
すると、突然、僕の唇に柔らかいものが押し付けられた。
「えっ?」
思わず目を開けると、目の前にエリルの顔があった。
エリルが僕に抱きつき、キスをしていた。
ユイごめんなさい・・・。
慌てて、エリルから離れようとしたが、ますます強く抱きしめられた。すると、何か僕に暖かいものが流れ込んでくるような、そんな感覚に包まれた後、だんだん意識が薄れてきた。
★★★
朝、目が覚めると、僕はいつも通りベッドに寝ていた。
いつ寝たんだっけ?
エリルが心配で、ずっとそばについていたから疲れていたのかな?
ん? そういえば、なんか夢の中でエリルと・・・キスしたような。夢の中とはいえ、ユイごめん。
とりあえず、起きて部屋を出るとエリルとクレアが会話していた。
「クレア、私は、そろそろ魔王城へ帰らなければならない」
「エリル様には、ずいぶん助けてもらいました。ありがとうございます」
「私がもう少し魔族を統率できていればいいんだが、今はまだ魔族も一枚岩ではないのだ」
エリルが魔族を統率して人族と魔族の争いがなくなると良いな。エリルにはまた会いたい。そこで、僕も会話に加わる。
「エリルが魔族を統率して人族と魔族が仲良くできるようになることを、僕も願っているよ」
「ハル、やっと目が覚めたのか。ちょうどよかった。魔王城に帰る前にハルに言っておきたいことがある」
エリルがちょっと真剣な顔をしてそう言った。
何だろう?
大樹海を脱出するためのアドバイスがまだあるのかな?
「何ですか?」
「ハルとクレアが大樹海を脱出するのに同行はできない」
「ええ、それは前から聞いてますけど・・・」
「うむ、それで、その代わりにハルに魔王の加護を授けておいた」
「魔王の加護?」
コウキが持っている創生の神イリスの加護みたいなものだろうか?
「そうだ。魔王の加護によってハルの身体能力強化は多少上がっているはずだ。それに他にも何か効果があるかもしれない。それは自分で確かめてくれ」
やっぱり神様の加護と似たような効果だ。それにしても神様と同じようなことができるなんて、やっぱり魔王はすごい。
「それは、かなり助かりますね。ハル様」
確かにクレアの言う通りだ。これから大樹海を脱出しなければならない僕たちにとっては少しでも強化されるのは助かる。それにコウキやヤスヒコなど他の前衛に比べてちょっと身体能力強化が弱いことは僕の弱点の一つだからそこが強化されるのは、ありがたい。
「実は私も加護の効果を正確には知らないのだ。まあ、いろいろ試して見てくれ あ-、それから、この剣をやる」と言って、派手ではないが品の良い装飾が施された鞘に収まっている剣を渡してくれた。
「ハルちょっと剣を抜いてみろ」
僕はそっと剣の柄に手を添える。ほとんど抵抗もなく鞘から抜けて現れたのは、片手でも両手でも扱えそうな普通の大きさの剣だ。刀身は黒光りしていて、なんだか魔王軍の暗黒騎士かなんかが使ってそうな剣だ。
エリルは剣を抜いた僕を無言でじっと見つめている。
どうかしたのだろうか?
「エリル、なんかすごそうな剣だね」
「実際、すごいぞ」
「え、それなら人族の僕が貰ったらまずいのでは?」
「いいんだ。どっちにしてもハルにやるしかないんだから」
それは、どういう意味なのだろう?
「とにかくそれはハルが持っていろ」
「分かった。加護に剣まで・・・エリル、本当にありがとう」
エリルには本当に世話になった。
ユイを見つけることができたら、エリルが目指している人族と魔族が共存する世界の実現に僕もできるだけ協力しよう。
「でも、さすが魔王というか・・・加護を授けることができるなんて、味方をどんどん強化できるすごい能力だよね」
僕がそう言うと、エリルはちょっと怒ったような顔になった。
「ハル、何を言っているのだ? この加護を授けられるのは一人だけだ!」
「え、一人だけ? そんな貴重な加護を僕に・・・。僕に使っちゃって良かったの?」
僕は驚いて問いかける。
「良かったも何も、この加護は、魔王に永遠の愛を誓う魔王の配偶者だけに与えられる加護だ」
一瞬、エリルの言っている意味が分からなかった。
クレアもポカーンとした顔をしている。
「え、永遠の愛を誓う・・・魔王の配偶者・・・まさか」
「フフッ・・・そのまさかだ! ちなみにその剣は魔王の配偶者にしか使えない」
エリルは、口角を吊り上げてニヤッと笑みを浮かべた。魔王らしい邪悪な笑みだ!
「よろしく頼むぞ! だ、ん、な、さ、ま!」
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