2-19(伝説級の魔物その2).
サイクロプスを倒した後、しばらくしてエリルが次の魔物を発見した。
巨大なワニと亀が混じったような魔物だ。
そいつは、ヒュドラが潜んでいた場所の側を流れていた小川がもっと大きな川に合流した辺りにいた。
デカい・・・。
ガ〇ラみたいだ。
サイクロプスよりもっと大きい。
もしこんな怪物が街に出たら、二人で立ち向かう馬鹿はいないだろう。
正直、エリルが付いていてくれなければ、逃げる一手だ。
「タラスクだな」
ワニのような姿だが、よく見ると足が6つもある。それに甲羅のようなもので背中を守っている。
いかにも堅そうだ。
後から聞いたんだけど、これでもドラゴンの一種らしい。サイクロプスと同じく伝説級の魔物だ。
「エリル、タラスクって弱点はあるの? なんか堅そうだけど・・・」
「ワニ皮と甲羅って高く売れそうですね。ハル様」
「物理攻撃にはめっぽう強いな。魔法攻撃にも結構強い」
「それって、あんまり弱点がないってことなのかな?」
「防御力だけなら神話級にも引けを取らない魔物だ。ただ腹は弱いな。それと動きはたいして速くないぞ」
腹か・・・でもどうやって攻撃したらいいのか・・・。
動きが速くないのなら炎爆発で焼くか。
前にユイが使っていた地面から岩石ドリルみたいのを出す土属性魔法が使えればいいのに。僕もクレアも土属性魔法は使えない。
「クレア、炎爆発を使ってみるから、魔力を溜める時間を稼いでもらえる?」
「了解です。ハル様」
クレアは、大剣でタラスクを攻撃するが、エリルの言った通りで物理的なダーメージは全くといっていいほど通らない。
でも、これもエリルの言った通りでタラスクの動きはサイクロプスほど速くない。タラスクの攻撃もクレアに当たる気配はない。
タラスクが口から、僕の炎弾によく似た炎の玉を吐いてきた。
クレアはなんとか避ける。
川辺にいる癖に炎を吐くのか・・・。
お互いダメージを与えられない攻防が続く。
魔力も十分に溜まったので限界突破した炎爆発を発動する。
ヒュドラを倒した魔法だ。
タラスク頭上に巨大な炎の塊が出現し徐々に下がってタラスクをドーム状に包み込む。そして爆発する!
「グォーー!」
さすがに無傷とはいかないようだが、タラスクは甲羅の下で丸まって爆発を耐えた。タラスクより上の神話級であるヒュドラを倒した魔法なのに、やはりタラスクの防御力は高い。
確かエリルは、ヒュドラは神話級の中では比較的防御力が低い方だと言ってた。対してタラスクは伝説級ではあるがその最大の武器は防御力の高さだ。
その後も似たような攻防が続くが、とにかくタラスクは防御力が高くダメージを与えられない。もしくは多少のダメージを与えてもすぐに回復してしまう。高位の魔物は再生力が高い。
僕たちがだんだん疲れてきたせいで六本の足で動き回るタラスクの攻撃が当たり始めてきた。さっきも、タラスクの炎の玉がクレアを掠った。大剣で炎を切り裂いたものの、完全には防げずクレアはダメージを負っている。
クレアが囮になっている間に、僕はバジリスク戦を思い出して、タラスクの目を狙って炎弾を放つが、タラスクは瞼まで固く目を瞑られてダメージを与えられない。やはりタラスクは防御力だけなら、これまで出会った魔物の中でも一番だ。
うーん、じり貧だ。
クレアも疲れてきている。ダメージも負っている。
炎の玉がやっかいだし、後ろに回ると尻尾での攻撃が結構速い。
このままでは、まずい。
「ハル様、炎盾で援護をお願いします」
そう言うと、六本の足で立ち上がったタラスクに、クレアが突っ込んでいく。
「クレア! 何を・・・」
足で踏みつぶそうと攻撃してきたタラスクの前で、態勢を低くしたクレアは、タラスクの腹の下にスライディングするように潜り込んだ。そして大剣を下からタラスクの腹に突き上げた。
あのときと同じだ!
僕は最初にハクタクと戦ったときのことをすぐに思い出した。
タラスクは、腹の下のクレアを押しつぶそうとする。
「クレアーーー! 炎盾!」
僕はとっさに、クレアとタラスクの腹との僅かな間に炎盾を発生させた。
巨大なタラスクからクレアを守るのに強度は大丈夫なのか?
あー、やっぱり強度が足りない!
バリィーン!
炎盾が壊される音が・・・。
「闇盾!」
エリルが僕の炎盾に重ねるように黒い盾のようなものを発生させた。
僕の炎盾はタラスクの腹で破壊されてしまったが、エリルの黒い盾のおかげでクレアは、なんとかタラスクの腹に押し潰される前に脱出してきた。クレアが脱出してきた後、エリルの黒い盾の方も破壊された。
間一髪だった。
クレアの服は僕の炎盾に触れたせいなのか少し焦げている。
クレア、心臓に悪いよ!
「クレア、無茶しすぎだよ」
「ハル様を信じてましたから」
いや、僕の炎盾はタラスクに破壊されてしまったよ。
信じてくれるのはうれしいけど。エリルがいなかったら死んでたからね。
せめて何をしようとしているのか説明してから突っ込んでほしい。魔力を溜める時間もなくてあんまり強度の高い炎盾を発生させられなかった。
見るとクレアの手には大剣がない。クレアの大剣は、タラスクの腹に刺さり、さらにタラスクがクレアを押しつぶそうとしたため、深々とその腹を貫いていた。
タラスクは、苦しみながら、川の中に逃げようとしているが、腹に大剣が刺さったままで動きは鈍い。まさに亀の歩みだ。
僕は甲羅に覆われていない部分を狙って炎弾を次々浴びせる。
クレアに僕の剣を渡すと、クレアも剣で攻撃する。クレアは甲羅は避けて首や手足を斬り刻む。
もともとそれほど俊敏ではないタラスクは、腹に刺さった大剣のせいで、さらに動きが鈍くなり、僕たちは一方的に攻撃する。
クレアは動きが鈍ったタラスクに対して、同じ場所を正確に何度も攻撃する。ヒュドラの首を落としたときと同じだ。
傷口に何度も攻撃されたら痛いだろうな・・・。
クレアは容赦ない。
僕も十分に魔力溜め威力を高めた炎弾で追撃する。
かなりの時間それを続けて、やっとタラスクを倒すことができた。
いやー、硬かった。
僕たちは、サイクロプスの角とタラスクの驚くほど硬い甲羅の一部、それに二つの魔石を戦利品に、今日の魔物討伐を終わることにした。
「エリル今日もありがとう」
「エリル様ありがとうございました」
「ハルもクレアもかなり強くなったし、この辺りの魔物にも慣れてきたと思うぞ」
ここ数日のエリルとの魔物討伐のお陰で、この辺の魔物の弱点や倒し方がだいぶ分かってきた。
そして今日は、エリルのフォローがあったとはいえ、二人でサイクロプスとタラスクという2体の伝説級魔物を相手にすることができた。
この辺の魔物は異常に強いが、クレアの動きとその上達ぶりはすごい。もともと強かったが、今日の動きを見ても、僕はついていくのがやっとだ。それに、僕もクレアの意図が前以上に分かるようになって、二人のコンビネーションもより良くなった。もちろん、エリルのアドバイスが的確だったおかげもある。
「それもエリルのおかげだよ。でも、やっぱり伝説級の魔物は強いね」
そう、いくら僕とクレアが強くなったといっても、やはり伝説級の魔物をクレアと二人で相手をするのは危険だ。伝説級の魔物に出会ったら可能なら逃げた方がいい。まして神話級には遭遇しないように祈るしかない。
考えてみれば、サイクロプスはともかくタラスクは伝説級としては比較的動きは遅かった。逃げればいい魔物だったんだから、討伐の練習は不要だったのではないだろうか。まあ、倒せたからいいのか。いや、サイクロプスと違ってタラスクはエリルがいなかったら倒せなかった・・・。
「伝説級以上の魔物に遭遇する可能性が低いルートはこないだ教えた通りだ。ただ絶対とは言えないからできるだけ経験はしといたほうがいい。とにかくこの辺りには伝説級の魔物が多い」
エリルには感謝しかない。ユイに会えたらこの恩を返さないといけない。魔族と人族の融和に協力しよう。黙ってそんなことを考えていたら、結構長い間エリルを見ていたんだろうか、エリルが恥ずかしそうに目を逸らした。
うーん。やっぱりエリルは可愛い。可愛くて強い。
「ハル様、どうかしたのですか?」
「え、えっと、クレア、なんでもないよ。脱出のルートを僕も考えていて・・・」
クレアは僕とエリルを交互に見ていたが、それ以上は何も言わなかった。




