2-17(クラスメイト).
ヤスヒコはアカネが未だに精神的な不安定さから立ち直れないことを心配していた。
ハルとユイが突然にいなくなってからもう二週間が経った。ヤスヒコがコウキから衝撃的な話を聞いてから二週間ということでもある。
コウキはアカネのことはヤスヒコに任せるという態度だが、本当はかなり心配しているのがヤスヒコにも分かる。コウキとアカネは幼馴染だ。
ヤスヒコはといえば、もちろんアカネのことが好きだ。というより、自分が思った以上にアカネのことが好きなことに気がついてヤスヒコは戸惑ってさえいる。
こんなに一人の女をかけがえのない存在だと感じるなんて自分らしくない。だが、悪くない気分だ。だからこそアカネには早く元気になってもらわないと・・・。
マツリ、サヤ、カナの3人は以前より口数は少なくなったものの今のところ精神的には安定している。少なくともヤスヒコにはそう見える。3人の中ではカナがちょっと心配ではあるが、ヤスヒコは、まあ、サヤが付いていれば大丈夫だろうと思っている。
サヤとカナはもともとコウキの取り巻きとみなされていた女の子だが、この世界に転移してきて以来、それほどコウキに執着しているようにはヤスヒコには感じられない。アイドルに憧れてたっていう感覚だったのだろうか。
ハルとユイは今頃どうしているのだろうか?
ヤスヒコは、ハルはあれで案外運が良いから絶対生きていると思っている。最初に話を聞いたときは混乱したが、冷静に考えてみると、あのハルが簡単に死ぬとは思えない。ユイもハルが付いていればきっと大丈夫だとヤスヒコは思っている。
二人は生きている。ヤスヒコはそう信じている。だからなのかヤスヒコは意外と冷静だ。
それにしても、コウキの言う通りで、王国の説明は信用できない。
なんとか自分たちでハルたちを見つけられるといいのだが・・・。
王国といえば、クラネス王女はやはりコウキが好きみたいだ。少なくともヤスヒコにはそう見える。コウキも嫌がっていない。嫌がっているのはマツリだ。まあ、コウキのことだからその辺はうまくやるだろう。コウキはクラネス王女と親しくなることで自分の王国での立場を強固なものにしようとしているのではないかとヤスヒコは考えている。別にコウキが権力を欲しているとかではなくクラスメイト全員の安全を確保するためだ。
コウキはそういうやつだ。
相変わらず、全員のことを考えているのだろう。あいつは・・・。
だが、ヤスヒコはコウキとはちょっと違う。冷たいようだがヤスヒコにとって一番気になっているのはアカネのことであり、次に親友のハルとその彼女のユイのことだ。親友のハルが2番目なのは、やっぱりどこかでハルなら大丈夫だと思っているからだ。
王国は、まだ異世界召喚を行ったことを公にしてないんだから、本気でハルたちのことを探してはいないんじゃないかと思う。だいたい奴らはハルたちがすでに死んでると思っている。そのくらいはヤスヒコにだって分かる。
クラネス王女も大したことは知らないと思うから、コウキを通じての情報収集もそれほど期待できないのではないか。やはりヤスヒコとしては実践訓練で王宮から出たときになんとか情報を集めたい。それに、コウキは無理だと言ったが、どうにかして王国を出てハルたちを探しに行けないだろうか?
その場合アカネも連れて行ければいいのだが・・・。
そういえば、コウキはちょっと過激な方法で情報収集すると言っていた。それでヤスヒコにも協力してくれと・・・。
今のところコウキはあれから何も言ってこない。
ヤスヒコは最近気がついたのだが、コウキには何か危ういとこがある。
これ以上悪いことが起こらなければいいのだが・・・。
★★★
ユイとハルがいなくなってもう1ヶ月近くが経過した・・・。
アカネは、ヤスヒコに対して以前のように自然に振る舞えない自分に嫌気がさしていた。あんなに自分のことを心配してくれているのに。でもどうしようない。常に不安なのだ。そのためアカネがヤスヒコと話をする機会は前よりも減ってしまった。
ユイとハルがいなくなって、アカネは、ただただ不安だ。
やっぱり死んでしまったのだろうか。
そう考えると、とても怖い。とても心細い。
最近のアカネはそんなことばかり考えている。そのせいか体調もあまり良くない。だが自分ことを不安そうな目で見てくるヤスヒコをこれ以上心配させるわけにはいかない。そう思うのだが、心や体が言うことをきいてくれない。それがまたアカネをイライラさせる。悪循環だ。ヤスヒコだけでなくコウキだって心配してくれているのは、アカネもよく分かっている。
それに、コウキは何かほかにも気になっていることがある様子だ。アカネに対しては、昔のように優しくなった気はするけど・・・そう小さいころのように・・・でも、相変わらず何を考えているか分からないとこがある。
コウキは、たぶんみんなのことを考えて一番良い行動を取ろうとしている。昔からアカネは心配するだけだ。いつもあの強すぎる正義感がアカネを心配させる。何か嫌な予感がする。
★★★
二人がいなくなったのにあたりまえのように訓練を続けている。ルヴェリウス王国から言われるがままに・・・。カナは、そんな自分たちの状態に今更ながら怖くなった。
もう二人が姿を消してから2ヶ月は経つ。
カナは二人と前より親しくなってきたところだった。それなのに・・・。
それでも、この世界で生きていくには王国の言う通りにするしか、今のカナたちに選択肢はない。
お父さんやお母さんにも会いたい。でも、それは今のカナには決して叶わない夢だ。
「カナっちのことは私が守るよ」
ぼーっとしているカナにサヤが声をかける。
「サヤちゃん、ありがとう」
カナはサヤにお礼を言うと、離れたところにいるコウキとマツリを見る。マツリの魔法訓練を見ているコウキの表情は険しい。ちょっと前にマツリが体調を崩したせいだ。
一方で、カナの見るところ、マツリは以前のようにあからさまにコウキに甘えるような態度を見せなくなった。
「私は大丈夫よ。コウキ」マツリが心配そうな顔のコウキに何か話している。
カナたちの間に流れる空気は以前より明らかに重い。
カナはサヤが心配そうに自分を見つめているのに気がついた。
カナは無理に笑顔を作る。
「サヤちゃんがいるから、私は大丈夫だよ」
サヤはそれでも不安そうな顔している。
「サヤちゃん、いつも心配してくれてありがとう。サヤちゃんだって、ほんとは不安なはずなのに・・・」
「カナっち・・・」
これ以上サヤを心配させるわけにはいなかないと思ったカナは、もう一度サヤに向かって微笑んで見せた。
★★★
ハルとユイがいなくなってから半年以上が経った。
コウキは最初からルヴェリウス王国に対して強い怒りを抱いていたが、その怒りは、いまや最高潮に達していた。普段冷静なコウキが自分を律するのが難しいほどに。
自分たちを勝手にこの世界に召喚したルヴェリウス王国は犯罪国家で間違いない。しかもこれまでも何度も同様のことを行っている。これを許せるはずがない。
それに王国が魔王討伐とは別の何かにコウキたちを利用しようとして召喚したことは間違いない。
その結果がこれだ!
コウキは王国を利用してクラスメイトたちを守ろうと最初から思っていた。
だが、結果として何もできなかった。
くそー!
くそー!
くそー!
ううー! 俺は勇者なのに・・・。
コウキは腹の底からうめき声を上げた。
ドン!
気がついたらコウキは自分の部屋の机を叩いていた。
コウキは机の引き出しから小さな金属片を取り出した。これはこの世界に召喚された最初の日にコウキがこの部屋を徹底的に調べて見つけ出したものだ。
コウキはその金属片を握りしめると、王国の奴らは許さないと心の中で繰り返した。
四人のクラスメイトの視点で、三人称を使って書いてみましたが、やっぱり三人称は難しいですね。
少しは上達しているといいのですが。




