表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/327

2-15(タツヤ).

 四天王メイヴィスの眷属となった俺は、メイヴィスに気に入られ側近として仕えている。

 もともとのメイヴィスの部下の中には、突然現れた俺がいきなり側近となったことに不満を持っている者もいる。まあ、当然だ。しかしメイヴィスは気にせず基本俺をそばから放さない。そのため俺をメイヴィスの愛人だと思っている者もいるようだ。もちろん実際には違うが、メイヴィスが望むならそうなってもいい。復讐のためならなんだってする。それにメイヴィスは人間の美的感覚からいってもかなりの美人だ。


 今日はメイヴィスの側近として魔族の幹部会議に参加している。俺が参加するのも今日で3回目だ。

 魔族の幹部とは魔王と四天王のことだが、俺みたいな側近や実務担当者も数人参加している。一見したところ人間の会議とあまり変わらない。実際、議題も人族との小競り合いの状況、新しい街の開拓状況、魔道具を使った首都のインフラ整備の状況などで、俺が魔族の会議と聞いてイメージしていたものとは凡そかけ離れている。


 実務的な事項の説明が担当者から淡々と行われ、ほとんどの議題が滞りなく承認されていく。


「さて、私が以前から提案している人族との融和策についてだが、各々検討してもらえただろうか?」


 魔王エリルは魔王就任以降、人族との融和政策を主張し続けている。この話題になると、発言するのはほぼ四天王だけだ。


 メイヴィス以外の四天王は、魅惑の女王サリアナ、巨人の王デイダロスそして四天王筆頭である破壊の王ジーヴァスという顔ぶれである。ちなみにメイヴィス自身は再生の魔女という二つ名がある。その由来はもちろん死者を蘇生するメイヴィスの固有魔法にあるが、それ以外にも欠損を再生するほど回復魔法に長けていることもその由来となっている。メイヴィスによるとそれは人族のいうところの聖属性魔法とは違う固有魔法だという。


 3メートルを超える巨人であるデイダロスは力だけなら四天王の中でも一番であり、どうやらメイヴィスに惚れている。メイヴィスの意見には何でも賛成するが、俺に対する視線はきつい。その巨体ゆえ四天王の中でも外見的には一番人間、いや魔族離れした男だ。


 サリアナは緑の髪をした妖艶な女魔族だが、魔王に対する忠誠心の塊といっていい。サリアナは魔物を使役する魔法を得意としていて現在は伝説級の魔物ケルベロスとオルトロスを従属させている。俺も見たが、伝説級の魔物というのは想像以上の威圧感がある。そんなものを2匹も使役しているんだから四天王というだけのことはある。


 最後に四天王筆頭である破壊の王ジーヴァスだが、こいつは見ただけでやばいと感じるやつで何を考えているのか分からない。暴風のルドギス、炎の化身アグオス、剣魔インガスティというこれまたやばそうな3人の側近を従えている。俺はジーヴァスの側近3人が揃っているのを初めて見た。いつもはインガスティだけを連れていることが多い。3人はジーヴァスと同じ一族の出身で側近というよりジーヴァスの分身とでもいうべき存在である。ジーヴァス本人は3人(3魔族)の力すべてを併せ持っているという。


 そして、こいつらを束ねる立場にいるのは魔王エリルだ。魔王エリルは俺より年下にしか見えない赤い髪の女だ。角が一本生えていて魔族らしい青白い肌をしているが、髪色が魔族に多い白や青系統でなく赤いこともあり、ちょっと目には人間のようにも見える。見かけどおり、まだ若く修行中らしい。メイヴィスが説明してくれたところによると魔王というのは、魔王しか使えない特別な魔法を使える魔族のことであり、混沌の神バラスに選ばれた者である。メイヴィスは他の者がいないところでは、あの小娘とかと呼んでいる。この若い魔王は、さっきの発言の通り人族との融和を望んでいる。


「私は反対よ。これまでの多くの同胞の犠牲を忘れることはできないわ」

 

 真っ先にメイヴィスが魔王の人族との融和策に反対の意志を表明した。これもいつも通りだ。メイヴィスは訊くと怒るが、おそらくこの中でも最も年長であり、最も長い間人族と争ってきた魔族の一人なのだ。


「同じく、俺も反対だ」とデイダロスがメイヴィスに追随する。こいつはメイヴィスの言うことにはすべて賛成だから当然だ。

「わたしはエリル様に賛成です。エリル様の言う通り、もう3000年も決着がついていない無意味な戦いです。デイダロス、あなたの領地やあなたの一族の中にも人族の血を引いている者がいると聞いていますよ」

「サリアナ、俺に喧嘩を売っているのか?」

「別に、ただ事実を言っているだけよ」

「貴様!」


 サリアナはデイダロスの低く威圧するような声にも動じない。


「まあ、落ち着け。3人の意見は前と変わらない、そういうことだな」


 魔王エリルは飄々とした口調で確認する。このメンツの中でこの態度、若いのにさすが魔王というべきだろう。


「で、ジーヴァスお前はどうだ?」

「やはり勇者が召喚されたのは間違いないようです」


 ジーヴァスは魔王の質問に直接答えず、落ち着いた口調でそう報告した。こいつも中々食えない男だ。


「そうか」

「ルドギスに調べさせておりましたが、どうやら間違いなようです」と言ってルドギスを見る。ルドギスはそれに応えて頷いた。


 ルヴェリウス王国が勇者召喚を行った可能性は、すでに前回報告されていた。まあ、俺がここにいるのが異世界召喚魔法陣が起動された動かぬ証拠だ。だが、メイヴィスは俺が異世界人であることを報告していない。何か考えがあるようだ。

 ただ、俺のことがなくとも魔族と人族とはすでに3000年以上争ってきており、お互いに情報を集める伝手を持っている。俺が見たところ魔族と人族の外見は思ったほど違いがない。魔族と人族の間で子をなすこともできる。さっきサリアナが指摘したように3000年に亘る争いの中でその血は混じっている。人族の中に魔族のスパイだっている。まあ、逆もまた真だろう。


「勇者を召喚したってことは、人族は私たちと和解する気はないようね」


 皮肉気な口調でメイヴィスが言う。当然メイヴィスは最初からルヴェリウス王国が勇者召喚を行ったことを知っている。


「私がバラス様の加護を得て魔王に選ばれたのだから、勇者が現れるのもいつもの通りなのではないか? そしていつもの通り戦いの決着はつかない。意味のない戦いだ」


 魔王は若いが全く臆するところはない。大した胆力だ。

 メイヴィスは魔王の言葉に怒りを浮かべた表情で言い返す。


「魔王・・・様、お言葉ですが、これまでの同胞の尊い犠牲を忘れたわけではないでしょうね」

「だからこそ、これ以上尊い犠牲を増やさないようにしようと言っているだけだ」


 混沌の神バラスは魔王を選び創生の神イリスは勇者を選ぶ。魔族には四天王がいて人族には賢者だの大魔導士などがいる。魔族は個としては平均的に人族より強いが子供ができ難く数が少ない。人族は個としては魔族に劣るが数の面では有利だ。バランスがとれており戦いの決着はつかない。

 こう考えてみると、魔王エリルの言うことには一理ある。一理あるが俺にとってはそれでは困る。俺の目的はこの世界の人族への復讐だからだ。彼女の死に顔を忘れることは決して無い。


「勇者たちは、これまでの例からすると力をつけるのに数年の時間がかかります。魔王様も修行中。ここは今しばらく様子を見るということでは」


 ジーヴァスの表情からは何も読み取れない。


「いつも通りの結論だな」

「恐れ入ります」

「なぜ今、勇者召喚を行ったのかが気になります」


 サリアナが口を挟む。


「ふん、それはエリル様が言われたようにエリル様が混沌の神バラスの加護を得て魔王に選ばれたからだろう。魔王がいる時代には必ず勇者がいる」


 デイダロスの言う通り、これまでも魔王がいる時代には勇者がいた。


「確かにそうなのだが。現状、我々はエリル様の意向もあり積極的に戦いを仕掛けていない。なのになぜルヴェリウス王国は勇者召喚を行ったのだろうか。勇者召喚はそれほど頻繁にできるものではないはずだ」

「我々がルヴェリウス王国の情報を持っているように、奴らも我々の情報を持っている。我々に魔王様が現れたことを知ったのでしょう。だから勇者召喚を行ったのでは」


 ジーヴァスの言う通りだ。戦争とは情報戦でもある。人族だって魔王顕現の情報を得ていてもおかしくない。

 そのあとは似たような議論が繰り返され、引き続き様子を見つつ情報収集するといういつもの結論に落ちついた。


「そうだ、私はしばらく修行のために留守にする。留守の間のことはジーヴァスに一任する。勇者たちだってすぐに戦力になるわけではないから問題ないだろう。頼んだぞジーヴァス」

「かしこまりました」


 こうして、人族との融和策については何ら新しいことが決まることなく会議は終了した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ