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2-14(提案).

 魔族と人族の融和を図りたいとの話に僕が同意すると、魔王エリルしばらく僕の顔を見ていた。そして、いたずらっぽい笑みを浮かべて言った。


「それに、お前たちのことを助けた理由はそれだけではない。ここに転移してきて以来、お前たちの様子を窺っていて、ハルのことがちょっと気にいったからでもある。クレアはお前を殺そうとしてたらしいのに助けたんだろ? 話を聞いていてグッときたぞ」


 そう言って僕の顔を覗き込んできた。顔が近い。僕は自分でも顔が赤くなるのが分かった。


「ハル様、ユイ様がいるのにエリル様にも手を出そうとしてるのですか?」


 クレアの目が怖い。

 いや、僕は何もしてないし、どっちかっていうと魔王エリルの方が・・・。


「ク、クレア、魔王様に手を出すって、それは魔王様に失礼ですよ。僕はまったくそんなことは思ってないです」

「それは、それで失礼だな。ハル!」


 いや、確かに魔王エリルは、すごい美人というか可愛いというか、でも僕にはユイがいるし、決してそんな・・・。

 

「でも、さっきはエリル様の手を握ったり、エリル様のことを可愛いとか言ってたし・・・。ハッ、そういえば以前私のことも・・・やっぱり私のことも狙って・・・」


「ク、クレア・・・」


 ダメだ全然人の話を聞いてない・・・。

 と、とにかく、クレアのことはおいといて大事なことを相談しないと・・・。


「魔王様、図々しいのは承知でお願いするのですが」

「大樹海から出るのに協力しろというのだろう?」


 魔王エリルは予想していたのだろう。僕たちの様子は窺っていたと言ってたし・・・。


「すまないが、大樹海から出るのに同行することはできない」


 正直、さっきの魔王様の強さからして一緒に大樹海の外まで行ってくれないかとは思っていたが、さすがにそれは図々し過ぎたか。


「もうそろそろ魔王城に帰還しなくてはならない。今の私の立場では、あまり長く魔王城を留守にするのは危険なんだ。実はすでに予定の半年が過ぎている。それに例え大樹海の外に出ることができたとして、今度は私が一人でここまで戻れない」


 僕たちが転移してきた気配を感じたのなら、その直前にここに転移していたとしても、半年はとうに過ぎている。

 それに、さっきも麓からここまで一人で来るのは無理だと言っていた。


「お前たちのいうところの神話級や伝説級などの強力な魔物がいるのはもちろんだが、数が多い場合なんかも一人では対処するのは難しいな」


 魔王エリルは悔しそうに言った。


 魔王エリルによると、魔王城とこの大樹海を繋いでいる転移魔法陣に必要な魔力を注入するには、魔石の質にもよるが、半年くらいかかる。

 エリルはこれまでも2回ここで修業しているが、魔法陣が起動できるようになる度に魔王城に帰っている。それはそうだろう、魔族の頂点に立つ者としての仕事もある。まして魔族全体を掌握しきれていない状態で長い間魔王城を留守にするのが危険なのは、僕にも解る。必ず半年で帰還するようにと魔王派の四天王サリアナにも強く言われているらしい。

 ちなみに魔法陣は、この別荘のような魔王エリルの拠点からから少し離れた、同じく龍神湖の湖畔にある。さっきの話からすれば、その魔法陣はもともとあった場所から動かされていない失われた文明の遺物なのだろう。


「魔法陣でお前たちを魔王城へ連れて行くことはできなくはない。だが・・・」

「ユイを探すことができなくなりますね」

「そうなるな」


 魔王城はシデイア大陸の北だ。そしてここはヨルグルンド大陸の南。僕が魔王城に行き、運良くルヴェリス王国まで帰り着いたとして、そこから事情を説明してユイを探しに行く。ユイが転移したらしいのはこの大樹海に隣接する国だ。ルヴェリウス王国からはものすごく離れている。うん、ダメだ。いつになるのか、そもそもできるのか、全く分からない。僕にとってユイを探すのが最優先だ。そこは譲れない。


「クレア、クレアだけでも」

「ハル様、私はハル様と一緒にいます」


 クレア・・・クレアがそう言ってくれるのは助かる。僕一人よりクレアと二人の方が、生き延びてイデラ大樹海を脱出しユイを見つけ出す確率はずっと上がるだろう。魔王エリルでさえ一人では無理だと言ったのだ。でも、そのために・・・。


「ハル様が気にする必要はありません。私はハル様とユイ様を殺そうとしたんです。そもそもこうなったのは私の責任です」


 僕はそれでも魔王城へ行けとクレアに言えなかった。

 ・・・僕は卑怯者だ。


 黙り込んだ僕を見て魔王エリルは「そもそも、魔王城へ行くのは勧めない。さっきも言ったように、未だ人族との融和に反対の者のほうが多い。お前たちの安全が保証できない」と言った。更にエリルは「本当は、私がワイバーンでも使役してお前たちを送らせればいいんだが・・・。私は使役魔法を使えないんだ」と悔しそうに付け加えた。


 なるほど、空を飛ぶ魔物を使えばここを脱出することができるかもしれない。魔族には使役魔法が得意な者が多いとの話だったが、魔王エリル自身は使えないようだ。魔物を使役するなんていかにも魔王らしいのにちょっと意外だ。


「そういえばエリル様も空を飛んでましたよね」とクレアが質問した。

「空中浮揚の魔法は魔族にはときどき使えるものがいる固有魔法だ。それほど高く長時間は飛べないし、そもそも他人を運ぶのは無理だな」


 やっぱり僕はクレアに、クレアだけでも魔王城へ行けと強く勧めるべきではないだろうか。それほどここは危険だ。


「ハル様、ハル様が気にする必要はありません。ハル様は偶に分かりやすいですよ」そう言ってクレアは少し微笑んだ。


 僕は慌てて話題を変えてエリルに質問した。


「ワイバーンってドラゴンの一種ですよね。ドラゴンってやっぱり魔物の王みたいな存在ですか?」

「ワイバーンは確かにドラゴンの一種ではあるが亜竜だな。本物のドラゴンには、この付近に住む火龍、中央山脈に住むといわれる地龍、ギディア山脈に住む氷龍などがいるな。こいつらはヒュドラより上で、お前たちのいう神話級の中でも最上位だ」


 ルヴェリウス王国で習った知識では正式な魔物の最上位の呼称は伝説級だが、その中の上位のものは神話級と呼ばれることもある。ヒュドラもそうだ。その中でもさらに最上位の存在、要するに最強の魔物だ。


「エリル様、子供の頃のおとぎ話で読んだ闇龍や聖龍はいないのでしょうか?」

「・・・そうだな。私はいると思うが、どこにいるかは知らないな」


 魔王エリルは、しばらく考えてからクレアの質問にそう答えた。


「魔王様、使役魔法で本物のドラゴンも使役できるんですか?」

「いや、それは無理だ。サリアナでも神話級は無理だな」

「サリアナ・・・さんって、さっき魔王様の言っていた四天王ですね」

「うむ、魅惑の女王サリアナ、魔族の中でも最も使役魔法を得意としている。そのサリアナでも使役できるのは、お前たちが伝説級と呼んでいる魔物までだ。神話級は無理だ」

「なるほど。でも、伝説級なら使役できるんですね」


 あのハクタクや僕たちが逃げ帰ったサイクロプスも使役できることになる。すごい能力だ。


「まあ、四天王だしな。ただし、上位の魔物を使役するほど、使役できる魔物の数は減る」

「数が減る・・・」

「そうだ、サリアナクラスになれば下級の魔物なら100匹単位で使役できる。だが伝説級なら2匹が限度だ。それをすると他の魔物は使役できない。そして神話級はそもそも使役できない」

「使役魔法って人間も使役できるんですか?」

「それも無理だ。人族や魔族のような知性のあるものは使役できない。知性のあるものは支配しようとすれば魔道具を使うしかないだろうな」

「ハル様、奴隷の首輪の話を覚えていますか?」


 そういえば、クレアが僕の奴隷になると言い出したときに奴隷について説明してた。あまりよく聞いていなかったけど、この世界では犯罪者などが奴隷になるのは良くあることで、それに利用されているのが奴隷の首輪だとか、そして奴隷の首輪はもともと失われた文明の遺物である隷属の首輪を研究して開発されたとか、たしかそんな話だった。


 とにかく使役魔法で人を使役することはできないらしい。

 

「3ヶ月だ」

「え?」

「もう3ヶ月だけ私もここに残って、お前たちの訓練を手伝おう。私の見たところお前たちは人族にしてはかなり強いが、二人でここから脱出するにはまだ実力不足だ。どうだ?」


 魔王エリルはどうすると尋ねるように僕を見る。

 早くユイを探しに行きたい。しかし無駄死にしてはなんの意味もない。現に今日は死にかけた。それにユイは比較的安全そうな場所に転移したらしい。3ヶ月は魔王エリルにとっても最大限の譲歩なんだろう。


「魔王様、お願いします。僕たちがこの大樹海を脱出できるように鍛えてください」


 僕と一緒にクレアも頭を下げる。


「分かった。もう3ヶ月だけ魔王城に帰るのを遅らすことにしよう。訓練は厳しいものになるだろう。覚悟するんだな。それにしてもサリアナには叱られそうだな」 


 こうして魔王エリルは大樹海を脱出するのに同行することはできないが、いろいろと協力してくれることになった。3ヵ月間で大樹海を抜けるルートやこのあたりの魔物の弱点など必要な知識を授けること、僕たちたちがより強くなるための訓練に協力すること、この魔王エリルの拠点にある装備品を提供することなどを約束してくれた。

 ボロボロだった僕たちの装備や衣服を代えられのは正直助かる。クレアの服もボロボロで、魔物の素材などで胡麻化していたけど正直目のやり場に困っていたのだ。


 魔王エリル、いや魔王エリル様、ありがとうございます。この恩は絶対に忘れません。

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