2-13(魔族とは).
ユイが生きている可能性が高いことを知って嬉し涙を流している僕を魔王エリルはしばらく見守っていた。
ようやく僕が落ち着いてきたのを確認したのか魔王エリルは再び口を開いた。
「ところでハル、私からも質問がある」
「なんでしょう? 僕に分かることでしたらできるだけ魔王様の質問にはお答えします」
僕は、心からそう言った。魔王だろうがなんだろうがこの少女は僕に希望を与えてくれた。ユイが生きているという希望を。できるだけ質問には答えるのは僕にとっては当然のことだ。
「ハル、お前は異世界人なのであろう?」
「なぜそれを・・・?」
「お前たちが転移してきた気配を感じ、お前たちの様子を窺っていたと言っただろう。クレアとやらが、異世界人を殺すためのスパイとかいう話をしていたのを聞いた。それにルヴェリウス王国ときたら、異世界からの勇者召喚だ。私を殺すためのな」
なるほど、気配を消してそんなことまで聞いていたとは・・・。魔王というだけのことはある。すごい能力だ。
「ハル、私を殺すか?」
「それはあり得ません。むしろ魔王様はなぜ僕を助けたのですか? 見殺しにしておけば、あなたを討伐に行く異世界人が一人減りましたよ」
魔王エリルはそれには答えず反対に質問してきた。
「ハルは、魔族を見るのは初めてか?」
「はい」
「私を見てどう思う?」
どうって?
うーん、髪が赤くて角があって・・・それで・・・。
「可愛い女の子に見えますね」
「か、可愛い・・・いや、そうではなくて」
魔王様・・・テレてるのかな? ちょっと顔が赤い。
本当に可愛い。
「そうではなくて、人族と較べてどうかとか、そういうことだ」
「うーん、それでしたら、思ったより人族に近いように見えます。失礼かもしれませんが、魔王っていうと豚みたいな頭をしてるとか、もっと魔物に近い存在だと思ってました」
実際ルヴェリウス王国では魔族は魔物から進化したものだと教えられた。
「うむ。魔族がどうして生まれたのかは分からない。それは人とて同じであろう。人族は魔族のことを魔物に近い存在などというが、魔族は魔物とは全く違う。むしろ魔族と人族は両者ともに知性があり外見も非常に近い」
知性がある・・・か。確かに、僕は今魔王エリルと普通に話している。この先も、命の恩人でユイが生きている希望を与えてくれた魔王エリルを討伐したいと思うことはないだろう。
「私は、魔族と人族との争いは終わりにしたいと考えている」
魔族に知性があるのなら知性があるものを殺すより仲良くするほうが良い。
魔王エリルの言う通りだ。
ルヴェリウス王国で聞いた話とはだいぶ違う。
「エリル様! それなら、どうして魔物に人族を襲わせるのですか? わ、私の両親は、魔物に殺されたのです!」
そうだった。クレアの両親はブラックハウンドに殺された。
「私は、魔物に人族を襲わせたりなどしてないぞ! そもそも魔物には知性がない。龍族とか多少賢い魔物もいるが知性と呼べるほどのものは持っていない。魔物は人族や魔族とは全く違う生き物だ。私たちの仲間でもなんでもない。私は魔物を倒して強くなる修行をしてるんだぞ。聞いてなかったのか?」
そうだ、魔王エリルはこの辺は魔物が強いから修行に来ていると言っていた。
「魔族には魔物を使役する魔法を得意としている者が多い。だから戦争ともなればその魔法を使うこともある。だが魔族と魔物が近い存在というわけではない。お前たち人族の中にも数は少ないが魔物を使役する魔法を使う者はいるだろう。魔族が使役してない魔物は普通に魔族も襲ってくる。だいたい考えてもみろ、魔族や人族よりも魔物のほうがはるかに数が多いんだ。しかも中には伝説級や神話級のような強者もいる。魔王である私でも一人で倒すのは困難な強者がな。これら全てが魔族の仲間であるなら、人族との戦争など、あっという間に魔族の勝利で終わっているだろう」
「た、確かにそうですね」
この世界はすごく魔物が多い。だからこそ、冒険者は多いし魔物を倒す強者は尊敬されている。その魔物が全部魔族の配下なら戦争にすらならないだろう。だいたいこの大樹海にいる魔物だけでも人族を滅ぼせそうだ。それに魔王エリルの言う通りで、人族のほうにも魔物を従える魔法があると聞いた。
「確かに人族が使う特殊魔法の中にも使役魔法はあります。魔族はその使役魔法が得意なものが多いだけなのかもしれません。でも私の両親は・・・」
「クレア、お前の両親については気の毒に思うが魔物は人族だけでなく魔族も襲う生き物だ。それに、もしお前の両親を殺した魔物を魔族の誰かが操っていたとしても、魔族と人族は何千年にも亘って争っている。これは戦争なんだ。だから私はそれを終わりにしたいと思ってるんだ」
確かに眼の前にいる魔王エリルは角もあるし肌の色もなんとなく青白い。だがそれが何だ。そんなものは人種の違い程度でしかない。眼の前の魔王エリルは確かに魔物というよりは人族に近い存在だ。
僕の考えを読んだかのように魔王エリルが話しを続けた。
「魔族と人族の違いといえば、一般的には魔族は青系統の髪を持つ者が多く肌の色も青白い場合が多い。私のように角があったりするものもいる。あとは・・・そうだな人族よりは魔法が得意な者も多い。こんなとこだ。だが私の髪を見ろ。私の髪は赤く魔族としては少数派だ。クレアの髪の方がむしろ魔族らしいな。それに角だって獣人の血を引いている者など人族にも角があるものが少数だがいるぞ」
「・・・私は小さいころ魔族のような髪の色だとからかわれたことがあります」
そうなのか・・・。
「魔族は人族と子をなすこともできる。実際にお前たち人族の中にも魔族の血が混じっている者も結構いる。そもそも人族との間のほうが子供ができやすいとさえ聞いている」
魔王エリルが言うには、魔族は人族に比べてかなり寿命が長いが、その代わり人族よりも子供ができにくいらしい。そのため人族より数が少なく戦争で数が減ると元に戻るのに時間もかかる。
人族との戦争において、個々には魔族のほうが魔力も高く強いし魔物を使役する者も多くいる。それに対して人族は数が多い。魔族に魔王が現れると、人族には勇者が召喚される。こうしてバランスが保たれ、どちらも完全に滅びることはなく今に至っている。これはルヴェリウス王国で聞いた話とも一致している。
こうした歴史の中で、徐々に魔族と人族の血は混じってきている。ある意味戦争も交流なのだ。そんなことを千年単位で続けていれば血が混じるのは当然だ。そもそも子をなせるということは、やはり人種の違いくらいの差異しかないといえる。元居た世界でも人種や宗教の違いで長い年月争いが続いている。だが実際にはどんどん血は混じり合っている。
そこでだと魔王エリルは言う、「私は魔族と人族との争いを終わらせたいのだ」と。
魔族と人族がこのまま争い続けても、今まで通りで、どちらかが完全に勝利することはない。それなら争いを止めたほうがよっぽど良い。これが、魔王エリルの考えだ。
ルヴェリウス王国で聞いたことより、魔王エリルの言っていることのほうがはるかに納得できる。ルヴェリウス王国で得た知識だと魔族は魔物が進化した存在だ。しかし、エリルを目の前にして、これまでの説明を聞いてみると、人族と魔族との間には人種の違いといった程度の差しかない。そして、すでに人族と魔族の血は混ざり合っている。
魔王エリルを改めてよく見る。やっぱり普通に美少女だと思う。ユイやクレアと同じ魅力的な女の子だ。
「でもエリル様、エリル様が魔王なら、魔族に命令して人族と争うことを止めさせ、人族に和平を申し込めば良いのではないですか?」
魔王エリルはちょっと悔しそうな顔をしてクレアの質問に答えた。
「まず、私は魔族全体を掌握できていない。まだ力不足なのだ。四天王の中でも私の考えに賛成なのが一人、反対が二人、曖昧な態度なのが一人ってとこが現状だ」
やっぱり魔王の幹部って四天王なんだ。本当にこの世界はテンプレでできている。
「それと人間に和平の申し込みはしていないが、私とサリアナは、なるべく人族と争わないように注意はしている」
「サリアナ?」
「私の意見に賛成している四天王、魅惑の女王サリアナだ」
魅惑の女王?
サキュバスの血でも引いているのだろうか?
会ってみたい・・・。
「ハル様、顔が・・・」
「と、とにかく、それが本当なら魔物が活発化していると説明してたルヴェリウス王国は信用できないね。クレア」
「サリアナが魅惑の女王と呼ばれているのは、サリアナが魔族の中でも特に使役魔法が得意だからだ」
使役魔法が得意な四天王サリアナは魔王エリルの意見に賛成か・・・。やはり魔物が活発化しているというルヴェリウス王国の説明はおかしい。いや、ガドア大森林の件があったか・・・。だけど、各地で魔物が活発化しているってほどではなかった気がする。その程度で、異世界召喚魔法を使ったのか?
エリルが魔族全体を掌握できてないとしても、少なくとも、以前より魔族との争いが激しくなっていることはないだろう。実際、王都ルヴェンや他の都市でも魔族との戦争が激化しているという危機感は感じなかった。やっぱり、ユイを見つけたら他のクラスメイトにもこのことを伝えるべきだ。
「まあ、というわけで、ハル、私はお前が、私を殺すために召喚された異世界人だからこそ、お前を助け、このことを教えた。私に協力してもらいたいのだ」
僕だって平和な日本から来て戦争なんか望まない。僕は魔王エリルの質問に即答した。
「分かりました。でも僕は、まずユイを見つけたい。それが最優先なのです。その後でもよければ、魔王様に協力したいと思います。他のクラスメイトにも魔王様の話を伝えます。クラスメイトを戦争になんて行かせたくないですからね」
「クラスメイトとは他の異世界人のことか? そうしてもらえると助かる。私もできるだけ早く力をつけて、魔族を纏めるとしよう」




