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2-12(光明).

「それじゃあ魔王様、そもそも、ここはどこなんでしょうか? そしてなんでこんなところに魔王様がいるのでしょうか?」


 この世界の人族と敵対する魔族の王それが魔王だ。僕は魔王を倒すために召喚されたのに、なぜかエリルと名乗る魔王に対して敬語で話している。


「ここはヨルグルンド大陸の南の端にあるアガイデラ山脈の麓に広がるイデラ大樹海の最深部だ。ここに私がいるのは、まあ修行のためかな。この辺りは強い魔物が多いので修行にはもってこいの場所なのだ」


 アガイデラ山脈・・・書庫で見た地図ではヨルグルンド大陸で一番高い山を含む山脈だ。その麓を含む一帯はヨルングルンド大陸の4分の1を占めるほど広い。そしてヨルグルンド大陸の南端、最もルヴェリウス王国から離れている場所でもある。

 僕がその名に記憶に留めていたのはイデラ大樹海が多くの伝説に彩られた場所であり、書庫でそれらの物語を好んで読んでいたからだ。

 曰く英雄クラスの冒険者たちが何人も行方不明になった。曰くアガイデラ山脈にはドラゴンの巣がある。曰く人を惑わし揶揄う魔物がおり何日も同じところを周回させれられる。曰く何年も行方不明になっていた男が突然麓の町に現れたがまったく年を取っていなかった。とにかくその奥地には絶対に足を踏み入れるなと言われている場所だ。


 どおりで、やたらと強い魔物が多いはずだ。なんせヨルグルンド大陸で最も危険と言われている場所なのだ。それにしても、魔王が修行中とは・・・。そういえば魔王も成長に時間がかかるとか聞いた気もする。でも、良い情報もある。ヨルグルンド大陸ってことは、やっぱり違う世界に転移したわけじゃなかったんだ。その点に関しては安心した。

 

「エリル様、ヨルグルンド大陸の南端と言いますと、エリル様の治めるシデイア大陸北部のゴアギール地域とまったく反対の場所ですよね。エリル様はどうやってこの場所へ来られたのでしょうか? 麓から登ってこられたのですか?」


 クレアが質問した。


「この場所は、転移魔法陣で魔王城と繋がっている。私でも麓から一人でこの場所に辿り着くのは難しいぞ」


 魔王でも無理・・・ここはそんなにまで危険な場所なのか。

 いや、それよりも、今なんて言った。そう転移魔法陣だ!


「魔王様は転移魔法陣に詳しいのでしょうか? 転移魔法陣のことで是非教えてもらいたいことがあるのです」


 僕は勢い込んで質問した。


「私に分かることなら、教えよう」

「ありがとうございます」


 僕は、ルヴェリウス王国から魔法陣でここまで転移してきたこと、その魔法陣がどんな種類の魔法陣かは知らずに起動させてしまったこと、同じ魔法陣で転移したと思われるユイを探していること、同じ魔法陣で転移してきたのでユイもこの近くにいると予想して、転移してきた付近を半年捜したけど未だに見つけられないことなどを説明した。


「魔王様お願いします。僕は、僕はユイを見つけたいのです。何かユイの居場所についてヒントになるようなことはないでしょうか?」


 魔王エリルは、しばらく考え込んでいた。  


 そしてやっと考えが纏まったのか「そのユイとやらは、よほどお前の、ハルの大切な者なのだろうな」と言って話を続けた。


「ハル、転移魔法とは二つの対になる魔法陣の間を一瞬で移動するものだ。今の話を聞いた限りでは、その転移魔法陣は正常に稼働しなかったようだな」

「正常に稼働しなかった?」


 僕は魔王エリルの言ったことを繰り返す。


「うむ、さっきも言った通り転移魔法陣は特定の二つの場所の間を移動することができる魔道具だが、現在の技術では作成することができない。おそらく、ハルが起動させた転移魔法陣は失われた文明の遺物であり、どこかの遺跡から移設されたものであろうな」

「それは、僕たちも同じことを考えました。魔法陣のあった場所は研究所なので」

「なるほど。それでなんだが、移設してしまうと魔法陣が正常に稼働しなくなることがある」

「それはよくあることなのですか?」

「ああ、失われた文明の遺物は人族だけでなく魔族においても長い間研究されている。原因は分からないが転移魔法陣を移設すると正常に稼働しなくなることはよく知られている」


 移設すると正常に稼働しなくなる。移設する際にどこかが破損するとかだろうか・・・。もしくは初期化されてしまうとか。


「その場合、どうなるのでしょう?」

「いろいろだ。全く動作しなかったり、予定していたのとは異なる場所に転移したりだ。だが、異世界に転移するとかはない。通常の転移魔法陣にそこまでの力は無いからな」


 やっぱりユイもこの世界のどこかに転移した可能性が高い。これはいい情報だ。でもなぜ魔王エリルは異世界なんて言葉を・・・。


「ありがとうございます。魔王様に訊いて良かったです」

「いや、私は特別に魔法陣に詳しいわけではない。それと転移魔法陣の事故自体は過去にも何度か起こっている」

「過去にも同じことが・・・。それで生きて帰ってきた人はいるのですか?」

「少ないが生きて発見された者はいると聞いている。たまたま近くに転移した。安全な場所に転移した。そんな感じだな。ただ、移設して研究中の転移魔法陣の事故については私もあまり知識がない」


 そうか。生還した事例もあるんだ。

 

「それとユイとやらのことだが、お前たちが想像していた通りで、この近くに転移したんだと思うぞ」

「え! それは本当ですか? 魔王様は何か知っているのですか?」


 僕は思わず魔王エリルの方に身を乗り出すようにして聞き返した。


「うむ、私が、お前たちが転移してきた気配を感じたとき、実はもう一つの気配が少し離れたところへ飛んでいくのを感じた」

「ほ、本当ですか?」


 動機が速くなるのを感じる。

 

「本当だ。嘘など言わん。魔法陣も何も無い空間に何かが転移してきたから、私にもその異常が感じ取れた。そこで転移の気配を追ってお前たち二人見つけ監視していた。だが、気配はもう一つあった。それはお前たちと違って、ここからすこし離れたところへ落ちたようだ。残念ながら正確な場所は分からない」

「そ、それは大体どの辺りなんでしょうか?」

「おそらく大樹海浅層か・・・ちょっと出た辺りくらいかな。ギネリア王国かキュロス王国の近くだと思うぞ」

「そ、そのギネリア王国とかキュロス王国というのは・・・」

「イデラ大樹海に隣接している人族の国家だ」


 ギネリア王国かキュロス王国・・・人族の国家・・・。


 大樹海は浅い層ほど安全になる。その上、人族国家の近く。間違いなくここより安全な場所だ! 

 例えそれがイデラ大樹海の中であったとしても浅層であれば、ユイの実力から考えて・・・ユイなら絶対に生きているはずだ。


 ユイは生きている!

 

 僕は思わず魔王エリルの手を両手で握りしめていた。


「魔王様、ありがとうございます。ありがとうございます」


 僕は、魔王エリルの手を握ったまま、ありがとうございますと繰り返しながら、ボロボロと涙を流していた。

 クレアは安堵の表情を浮かべた後、僕が喜んでいるのを見て「ハル様、良かったですね」と言って目に涙を浮かべている。

 魔王エリルは僕に手を握られたまま照れ臭そうな顔をしている。


 今日は、この森に、イデラ大樹海に転移してきてから、間違いなく一番うれしい日になった。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 

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