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ありふれたクラス転移  作者: たまふひ
第1章(クラス転移)
4/206

1-4.

最初のうちは、説明的な描写が多いです。割と世界観とか設定みたいのを書くのは好きなのです。読む人にあまり退屈でなければいいのですが。ゆっくりと物語も動きますので見捨てないで読んでくれるとうれしいです。

 朝起きたら昨日のあれはすべて夢だったということはなく、見知らぬベッドで目覚めたそこは異世界だった。


 僕たちは朝食の後、早々に建物の中の会議室のような場所に集められた。訓練とやらの時間だ。といってもまずは座学というか、いろいろ説明があるらしい。この先ここで生きていくのなら僕たちはこの世界について学ばなければならない。ただ、たった一晩過ごしただけで分かったこともある。


「この世界って思ったより生活水準が高いよね」

「うん」


 僕の言葉にユイちゃんは頷いた。 


 この世界は中世ヨーロッパ風の見かけとは違い意外と便利だ。部屋には電気製品の代わりに魔道具と呼ばれるものが備え付けられている。部屋を照らすもの、水が出てくるものなどがある。流石にエアコンは無かったが暖炉のようなものはあった。

 魔道具の基本的な使い方は、魔力を軽く通すと起動し再び魔力を通すと止まるという簡単なものだ。昨日説明を受けただけの僕たちでも、まるで呼吸するかのように自然と使うことができた。昨日から何度も思ったことだけど、ずいぶんと転移するには都合のいい世界だ。


「トイレが思ったより清潔そうで良かったよ」


 そう、ユイちゃんの言う通りだ。案内してくれた人の説明では。魔導技術と呼ばれるものによってこうしたインフラは整備されているらしい。

 だが、思ったより快適だったとしても、僕たちは見知らぬ世界に勝手に連れてこられて、もっと文句を言っていい立場だろう。これは誘拐であり犯罪といっていい行為だ。それなのに朝起きて食堂で朝ごはんを食べ、言われるままにここに集まっている。それはまるで学校の授業の様だ。そう僕たちはある意味思考停止しているような状態だ。何も分からない世界で、ただ言われるがままに行動している。


「なんだか学校の寮かなんかに入れられたみたいだね」

「うん。そんな感じ。私もハルも寮なんて入ったことないのにね」

「だね。イメージだよ」


 こうやって座ってあれこれ考えていると、僕はこんなに異常事態にもかかわらずこの世界に対して興味がわいてくるのを感じている。そう、この世界がラノベやアニメで何度となく描かれた剣と魔法の世界らしいのは昨日の説明で分かっていた。


 周りを見ると2人掛けの机がいくつか並べられており、僕とユイちゃん、ヤスヒコとアカネちゃん、御神くんと三条さん、浅黄さんと如月さんって感じで自然とペアになって座っている。中島くんだけは日本にいるときと同じで一人だ。正面にはこちらに向かって複数人座れる机が置いてある。教師役の誰かが座るのだろう。机や椅子はかなり高級そうなものに見える。


「魔王討伐なんて冷静に考えると、なんで私たちがって感じだよね」


 小柄でショートカットの活発な感じの如月さんは少しいつもの調子を取り戻したのか、そう浅黄さんに話しかけている。いや、無理にそうしているのかもしれない。


「とてもそんなことできそうにないよ。それよりお母さんに会いたい」


 如月さんと違っておとなしい感じの浅黄さんは不安そうで少し涙ぐんでいる様子だ。その様子を見てみんなの間に動揺が広がる。知らない世界に連れて来られてもう家族にも会えないかもしれない。そのことの恐ろしさが、また波のように襲ってくるのだ。


 そのとき、少し大きめの、それでいてみんなを安心させるような柔らかな声で、御神くんが話し始めた。


「みんなが不安なのは当然だ。僕だって不安だ。でもまずは昨日決めたように訓練してみよう。どっちにしても知らない世界で生きていくのに必要なことを学ぶんだ。これからどうするのか結論を出すのはその後でも遅くない。とりあえず今この国の人たちに逆らって、僕たちだけで生きていくには情報も不足している。とにかく今は力をつけ情報を集める。それに集中しよう。僕たちは1人じゃない。9人いるんだ」


 御神くんは浅黄さんに優しく微笑んだあと、みんなを見回した。


 御神くんの言葉に、この場が少し落ち着きを取り戻した。さすが御神くんだ。ただ、御神くんの態度は少し芝居がかっているような・・・そんな気もした。御神くん自身も見かけより不安なのかもしれない。半分は自分に言い聞かせているのかもしれない。

 御神くんの言うことは正しい。まずは情報だ。それがなければ何も判断出来ない。これから始まる授業とか訓練とやらをとにかく真剣にやる必要がある。高校の授業よりも、もっともっとそれこそ命がけでだ。だって文字通り僕たちの命がかかっているのだ。

 それにしても御神くん、昨日はあっさり魔王討伐に同意して調子がいいなって思ったけど、案外いろいろ考えているのかもしれない。中身のないイケメンってわけではなさそうだ。


「コウキの言う通りよ」

「情報が大事ってのは同意だな。アカネだってそう思うだろ」

「分かってるわよ。それより情報が大事とか言いながら学校の授業みたいに寝ないでよね」


 三条さんは相変わらず御神くんの言葉が絶対みたいだし、ヤスヒコとアカネちゃんも、いつもの調子を取り戻してきたみたいだ。浅黄さんと如月さんもみんなの言葉にうんうんと頷いている。中島くんは相変わらず影が薄い。


「ねえハル、魔法ってちょっと興味あるよね」


 ユイちゃんが僕を元気づけようとしたのか話題を変えた。


「うん」


 ユイちゃんはとっても可愛い。これで凄い魔法使いだったらまさにラノベの女主人公みたいだ。その場合、僕はどうなるのだろうか。見かけからいえば、やっぱりモブ・・・なのかな。


 そのとき左側の扉から3人の人物が入ってきた。クラネス王女とあとは男の人が2人だ。茶色の短髪で精悍な感じの渋い感じのイケメンと同じく茶色だけど長い髪を後ろで束ねている人だ。短髪のほうが30代半ば、長髪のほうはかなり若く20代前半くらいだろうか。

予想通り3人は正面の空いた席に着いた。


「みなさんおはようございます。昨日はよく眠れましたか?」


 クラネス王女の一言から異世界での最初の授業が始まった。

 最初にクラネス王女が2人の男性を紹介してくれた。2人の男性は剣術の先生と魔術の先生になる人だった。まあ予想通りだ。


 剣術の先生は短髪の方で、立ち上がって、ギルバートだ、とだけ言うとすぐまた席についた。いかにも無駄口は叩かない軍人っぽい印象の人だ。すごく強そうである。

 クラネス王女が補足してくれた説明によると、ギルバートさんは王国騎士団の副団長で王国から剣聖の称号を与えられているらしい。これは特に剣術に優れ、国に貢献した人に与えられる称号で各国に数人しかいないとのことだ。この世界でも大きな国の一つであるらしいルヴェリウス王国の剣聖といえば、相当な名誉らしい。ルヴェリウス王国にはギルバートさんを入れて剣聖が3人いるんだとか。


「ギルバートさんはこの国で最強の剣士の一人ということですか?」今日も何となく御神くんがみんなの代表っていう感じで質問する。

「その通りです。今は剣神もいませんしね」

「剣神?」


 クラネス王女の説明によると剣聖の上に剣神という称号があるらしいのだが、現在この国には剣神はいない。剣神の称号を得るには伝説的な魔物を倒すとかそれこそ伝説的な偉業を達成する必要があるらしい。現在この国には剣神の称号を持つ者はいないので、剣聖であるギルバートさんは王国最強の剣士の一人というわけだ。それにしても伝説的な魔物って・・・魔王だけでなくそんなのもいるのだろうか。 


 そのとき、僕は体全体に何か不快な目に見えない気配のようなものを感じた。いわゆる鳥肌の立つ感じだろうか。思わず隣のユイちゃんを見る。目に入ったユイちゃんの横顔も何か苦い薬でも飲んだような表情に見えた。僕と同じような感じを受けたのだろうか? ユイちゃんもすぐに何かを言いたそうな表情でこっちの方を向いたので、お互いに顔を見合せたようになった。

 

 僕がユイちゃんに話しかけようとしたタイミングで「僕は宮廷騎士団で魔導士部隊の隊長しているセイシェルと言います」と今度は長髪の男性の方がそう挨拶した。


 えっと長髪の男性は宮廷騎士団の魔導士でセイシェルさんか・・・。こちらもイケメンだがギルバートさんと違って人なっつこそうな笑顔を浮かべている。隊長っていうには若い。さっきギルバートさんは王国騎士団の副団長だって紹介されたけどセイシェルさんの所属は宮廷騎士団だ。どう違うのだろう。


「宮廷騎士団というのは王国騎士団と違って王族や王宮を守ってくれる親衛隊のことです。優秀な方ばかり選ばれていて、その中でもセイシェル隊長は魔導士ではトップなんですよ」


 僕の疑問が聞こえたかのようにクラネス王女が説明してくれた。なるほど王国騎士団がこの国の軍隊みたいなものだとすると宮廷騎士団は王族の親衛隊か。だとすると当然優秀な人が選抜されているのだろう。


 セイシェルさんは先ず魔法についての基本的なことを僕が説明しますと言ったあと、「これまでの召喚者の記録よると、皆さんがこれまでいた場所では魔法は存在しなかったと聞いています。それで間違いないでしょうか?」と僕たち全員を見回すような感じで質問した。


「ええ、日本には、いえ地球には魔法はありません」

「えーと、ミカミコウキさんでしたね。ありがとうございます。地球というのはあなた方がいた世界の呼び名で日本というのがあなた方のいた国の名前ですね。これまでの記録と一致します」


 これまでの記録? これまでの召喚者も全員日本人だったのだろうか? だとするとこの世界と日本はなんらかのルートみたいなもので繋がっているのだろうか?


「皆さんの世界に魔法が無かったとしても心配には及びません。これまでの異世界からの召喚者は、皆優れた魔法使いでした」

「この世界の人たちは全員魔法を使えるのでしょうか?」引き続き僕たちを代表してコウキが質問する。

「そうですね。皆さんの世界には魔法は無かったのですから、基本的なことから説明しましょう。まずこの世界ではすべてのモノに魔力、厳密にいえば魔素と呼ばれる魔力の素となるものが含まれています。というか含まれていると考えられています」

「すべてのモノっていうのは人間とか生き物だけでなく、文字通りすべてのモノなんですか?」

「そうです。ただし、含まれている量と質には大きな違いがあります。例えば鉱物でいえば、ほとんどの鉱物には他に影響を与えるほどの魔素は含まれていません。ですが、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトは魔素の含有量が多く、この3つの鉱物を総称して魔鉱石と呼んでいます。魔鉱石は魔道具や武器、防具などの素材によく利用されています。通常の金属に比べて丈夫ですし、含まれている魔素の力によって魔法に対する親和性も高いのです」


 ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトか・・・。ラノベやアニメの世界でよく耳にする鉱物だ。この世界は本当にファンタジーのような世界だ。


 「先ほどのコウキくんの質問ですが、この世界ではすべての人が魔素を持っておりその影響を受けています。しかし先ほどの鉱物と同じで、持っている魔素の量や質には違いがあります。そのため実際の戦闘に役立つほどの魔法を使える人は限られています。1000人に1人くらいでしょうか? そういった人の多くは騎士団に入るか冒険者になることが多いです」


 冒険者! ファンタジー世界定番の職業だ。


「もちろんそれ以外の職業でも魔法は役立ちます。例えば身体能力強化の魔法。これは無属性の魔法で、すべての人が常にその影響を受けています。ただ意識して使えるほどの人は限られており、そうした人であれば力仕事などに役立ちますね。ですが特に優れた身体能力強化を持つ者はやはり騎士や冒険者になることが多いです。優れた騎士はこれを意識的に操ります。身体能力強化はいわば自分自身にかける魔法です。もちろん皆さんも優れた身体能力強化の素質があるはずですが、それについては私ではなくギルバート副団長が皆さんに教えることになります」


 ギルバートさんが教える。ということは、身体能力強化の魔法は剣術とかに使うのか。それでその身体能力強化とやらは無属性の魔法であると・・・ということは。


「私が皆さんに教えることになるのは主に属性魔法と呼ばれるものです。属性魔法には火、水、風、土、聖、光、闇の7つがあります」


 やっぱり属性魔法があるんだ。ファンタジーでは定番の概念だ。それにしても光と聖って別なのか・・・。


「そのうち聖、光、闇については特殊な魔法で、まず光と闇についてはこの世界に使い手は1人ずつしかいないとされています。すなわち勇者と魔王です。光の魔法が使えるのが勇者で闇の魔法が使えるのが魔王です」


 勇者と魔王・・・。


「これまでの歴史では勇者も魔王も一度に複数存在した例はありません。そして勇者はすべて異世界からの召喚者です」

「それと聖属性魔法ですが、これは回復魔法とも呼ばれていて他の属性に比べて使い手が少ないです。傷や病気を治療する魔法ですが、特に傷を治すのに優れていて病気の場合は利かないものもありますね」


 確かにすべての病気が治るとかは感覚的にもあり得ない気はする。


「とにかく聖属性魔法の使い手は貴重であり、高度な使い手は聖者や聖女と呼ばれることもあります」

「なるほど。それで僕たちはいったいどんな魔法が使えるのでしょうか?」


 いよいよ僕たちの魔法能力が判明するのだろうか・・・。

 

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