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2-9(ヒュドラその1~僕は逃げない!).

 僕が朝起きると、クレアさんがいつも以上に強く抱きついていた。

 クレアさんは目を覚ますと、「いいんですよ。私はハル様の奴隷ですから」と僕の耳元で囁いて、さらに強く僕に抱きついてきた。いや、抱きついてきたのはクレアさんのほうだし僕は奴隷になることを許可していないはずだ。

 

 僕たちはこの拠点での最後の朝食をとる。調味料もないまともな味のしない食事にも慣れた。人はどんなことにも慣れるものなのだろうか?


 いよいよ、この森から出る!


 安全地帯であるこの場所から離れれば死ぬかもしれない。

 いや、僕たちはここ何ヶ月かの生死を分けるような戦いの中でかなり強くなったはずだ。できると信じるしかない。もちろん油断してはいけないが、最初は苦戦した魔物でも今は余裕を持って倒せるやつもいる。特にクレアさんは、僕の目にはあれほど超人的に見えたギルバートさんと変わらないか、もしかしたら上なのではと思わせるような動きをしている。僕たちの連携も日に日にスムーズになってきている。


 今がその時だ!


 なんとしても生きて、ここを出てユイを探す。

 見つかるまで世界中を探す! 


 食料になる魔物の肉やお金になりそうな素材とかもできるだけ持った。僕は顔を引き締めて「それじゃあクレアさん、行きますか」と言った。


 クレアさんから返事はない。黙って僕を見てる。

 

「ク、クレア! 行くぞ」

「はい! ハル様」

 

 やっぱりこうなるのか。

 僕はまじまじとクレアさん、いやクレアを見る。僕たちは生活魔法のおかげである程度清潔さを保っている。そのせいもあって、クレアは最初の頃と変わらない美少女だ。青みがかった白銀の髪に涼しげな目元。ボロボロの服を着ていても、奴隷どころか、その容姿は貴族令嬢が冒険者をやってるって感じだ。孤児院から帝国白騎士団の幹部に引き取られたって言ってたから、ほんとに貴族になってるのかもしれない。

 クレアの武器は大剣だが、刃幅はやや狭いタイプで、割とほっそりとした剣に見える。ただ、長いのでそう見えるが、僕の持つ剣よりかなり大きい。その剣を、腰の後ろにベルトのようなもので鞘を留めて装備している。長い剣を器用に片手で抜いて両手で構える様はすごくカッコいい。


 あれ、クレア、なんで剣を抜いているんだ?


 んっ、何かいやな気配が・・・とても巨大な気配が・・・。


「ハル様、危険です!」


 僕も剣を抜いて構えた。

 すぐに身体能力強化をする。

 さらに、炎弾フレイムバレットをいつでも打てるよう魔力を溜め始めた。

 僕は自分が震えているのに気がついた。

 クレアの顔も緊張なのかいつもより青白く見える。大剣を握る手も力が入り白くなっている。


 目の前の潅木に覆われた沼地から、ボコボコと泡のようなものが盛り上がってきた。


 ゴゴゴゴーーー、ズズズーーー。


 地鳴りのような音が聞こえてくる。


 じ、地震なのか・・・?

 いや、違う。

 何か恐ろしいものが・・・。


 潅木に覆われた沼地、その沼地が、今は小山のように盛り上がっている。

 安全地帯だったはずのこの場所に何かが現れようとしている。


 沼地の中から現れたのは・・・頭が、7つ、8つ、9つある蛇の化け物だ。


「グォー!!!」


 その怪物は大きく咆哮すると、体中の泥を落とそうとするかのように複数の首を振り躰を震わせた。


 で、でかい!


 あのバジリスクと同じくらい長く。それ以上の体高を誇る。

 蛇のようでいて4本の足がある。

 頭のたくさんある恐竜みたいだ!

 まるで、キング○ドラだ!


 そうか、それでか。

 ここが安全地帯だったのはこいつがいたからだ。だから他の魔物が近寄ってこなかったんだ。ただ気配は全く感じなかった。


「高位の魔物はその気配を完全に消すものもいると聞いています」

「じゃあ、魔物たちはなんで・・・」

「気配がなくともここが、この化け物の住処だと知っていたのでしょう」


 まさに化け物、あのハクタクも霞むような威圧感!

 間違いなくこれまでで最強の魔物だ。

 

 クレアは僕を庇うように前に出た。


「ハル様、これはおそらくヒュドラです」

「ヒュドラ?」

「はい。伝説級の魔物の中でも上位に位置する魔物です。神話級と呼ばれることもある文字通り神話の中の魔物です。まさか本当にいるとは・・・。私が時間を稼ぎますので、ハル様は予定通り、森からの脱出を図って下さい。お供できず申し訳ありません」


 伝説級の上位?

 神話級?

 伝説級の魔物でさえ遭遇すれば逃げることにしていた。それがさらに上位の神話級だなんて・・・。


 だとしても・・・クレアを置いて逃げるわけにはいかない。


「クレア、僕も一緒に戦います」

「ダメです。二人とも死んでしまいます。神話級の魔物に勝てるはずがありません。ハル様を守るのが私の役目です。逃げて下さい!」


 クレアは引かない。

 しかたない


「クレア、僕はヒュドラと戦う。援護しろ! これは命令だ。お前は僕の奴隷だろ。命令に従うんだ!」

「ハ、ハル様・・・」


 クレアは、反論しかけたが、思い直したようにこっちを見ると、


「分かりました。命令に従います。でも状況によっては逃げて下さい」と言いながら、正面からヒュドラに向かって突っ込んでいった。


 クレアは巧に9つの首を避けながら、ヒュドラに攻撃する。でもヒュドラの鱗は硬くて致命傷には遠い。

 僕はその間に魔力を溜める。

 クレアがヒュドラの注意を引き付ける。


 僕は頭の中に魔法陣をイメージする。そしてそこに魔力を溜める。イメージした魔法陣に魔力が溜まって強い光を帯びる。そこからもっと魔力を溜める。とにかく最大限溜める。頭の中の魔法陣がより強く輝いているのを感じる。 


炎弾フレイムバレット!」


 僕は最大限魔力を溜めた炎弾フレイムバレットを放った。小さめに発動して威力に全振りしている。


「ギャウゥゥー!」


 ヒュドラの首に傷をつけることができた。初級魔法としては上出来だ。

 クレアは、僕のつけた傷を正確になぞるように数回攻撃してヒュドラの首を斬り落とした。

 ものすごい技術だ。

 クレアは、その身体強化能力で、ヒュドラの胴体を足場にして駆け上がり、次の首を狙っている。

 さらに、風属性魔法も使って高くジャンプする。


 次の首を狙ったクレアの渾身の一撃は硬い鱗に傷をつけたものの一刀両断とはいかない。

 僕はまた魔力を溜めている。

 さっきと同じパターンでクレアを援護するためだ。


 時間がかかっても順番に首を落としていけば・・・なんとかなるのか?


 しかし、すぐに希望は絶望に変わった。

 切り落とされた首が再生しているのだ。

 上位の魔物は再生力が高いが、それにしてもヒュドラの再生力は異常だ。いくらなんでも落とした首がこんなに早く再生するなんて・・・。


 時間をかけたらダメだ。

 でもどうすれば・・・。 


 突然、ヒュドラの頭の一つがクレアに向かって炎のブレスを吐いた。

 クレアは、素早くそれを避けたが、避けたところに別の頭が今度は氷のブレスを吐いた。


炎盾フレイムシールド!」


 間一髪、僕の炎盾フレイムシールドが間に合った。


 その後も同じような攻防が続いた。


 僕が魔法でクレアを守り、クレアが素早く動き回ってヒュドラの首を落とす。クレアは正確に同じところを何度も攻撃してして首を落としている。

 ただ、一つの首を落とすのに最低3回は攻撃する必要があるため再生するのに追いつかない。とにかく再生のスピードが異常に速いのだ。さらに炎と氷のブレスのほかに毒のブレスを放ってくるやつもいるので避けるのが大変だ。


 僕は攻撃はせずヒュドラのブレスを避けながら炎盾フレイムシールドでクレアを守るのに徹した。


 これではきりがない。


 このままでは絶対に勝てない。

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