2-4(捜索その2).
僕とクレアさんはハクタクの死体を確認した後、引き続き辺りを探索している。
クレアさんによると、もし人の住む地域の近くに伝説級の魔物が現れたら、英雄と呼ばれる剣神やSS級冒険者、それが無理であれば最低でも剣聖とかS級冒険者を含む10人から20人くらいで討伐隊が組織されるだろうとのことだ。「意外と人数が少ないのでは?」と聞いてみると「足手まといになる人をたくさん連れて行っても仕方がない」と答えてくれた。
それなのに、僕とクレアさんはたった二人だ。この先のどうなるのだろう。
そんなことを考えていると、何かが僕の肩にふれるのを感じた。
「え?」
クレアさんが、僕の方を振り返ると、僕に斬り掛かってきた。
僕は、慌てて横に飛びのいて、クレアさんの剣を避けた。そしてクレアさんに反撃しようと・・・。
「あれ?」
僕がさっきいた場所の後ろの樹木が切り倒されている。いや、樹木のような魔物だ。まだ動いている。
「トレントです」
クレアさんが僕の方を見たので魔法で燃やした。僕の火属性の魔法でも普通に燃やすくらいはできる。クレアさんが、大剣であっさり倒したけど、このトレントという魔物はそれなりに高位の魔物だったはずだ。やっぱりクレアさんは頼りになる。
ちなみにクレアさんは、僕を治療してくれた聖属性の初級魔法に加えて水属性と風属性の魔法が使える。その身体能力といいすごいスペックである。ただ本人が言うには水属性は生活魔法程度、風属性は主に身体能力強化の補助に使っているだけらしい。
その後、ユイを探して移動していたらオーガに遭遇した。オーガは前に訓練で見たことがある。中級の魔物だ。前に見たのより大きくて凶暴そうだ。
「キングオーガです!」
キングオーガ! 上級だ。
キングの後ろにも3体のオーガが見える。そっちは普通のオーガみたいだ。
「がぁー!」
気合とともに、クレアさんがキングに飛び掛かる。キングは片手に丸太のようなものを持って振り回している。道具を使う知恵はあるようだがクレアさんには当たらない。キングは、クレアさんに斬られて、たちまち血まみれになるが、クレアさんの大剣でも、キングを一刀両断とはいかないみたいだ。
他のオーガもクレアさんと僕を取り囲むように移動してきた。
クレアさんと僕は囲まれないように後退する。
「炎爆発!」
オーガたちが追ってきたところに、僕は炎属性中級魔法の炎爆発を放った。僕が使える最も威力の高い魔法だ。
オーガたちの頭上に現れた巨大な炎の塊は、ドーム状にオーガたちを包み込み爆発した。
「ギャー!」
「グォー!」
オーガたちが叫び声をあげる。爆風で少し怯んでいる。僕の魔法でもある程度ダメージは与えることができた。クレアさんが戦っている間に魔力を溜めていたので、それなりに威力があったのだろう。
クレアさんとキングオーガは、爆風を受けても気にせず戦っている。スピードはクレアさんが上だが、徐々にパワーに押されているように見える。
キングオーガの丸太攻撃を剣で受けたクレアさんがそのパワーによろめいた。そこにキングオーガのもう一方の腕が迫る。
「炎盾!」
僕の炎盾がキングオーガの攻撃を受け止めた瞬間、クレアさんは攻撃に転じ、あっという間にキングオーガの片腕を斬り落とした。速すぎてよく見えなかったが、たぶんクレアさんは同じ個所を何度か斬ったのだ。クレアさんが持っているのは大剣だ。すごいとしか言いようがない!
僕は、3体のオーガを剣で相手にしながら。ときどき炎弾で攻撃したり、炎盾でクレアさんの補助をしたりする。剣で攻撃しながら次々と魔法の発動させるのは得意とするところだ。発動速度を速くするとその分威力は落ちるが牽制にはなる。
ここが森の中で良かった。オーガたちも動きにくそうで3体同時に相手にせずにすんでいる。固まって同時に攻撃されたらこうはいかなかっただろう。
クレアさんはまだキングを相手にしている。見ていてもキングは相当に強力な魔物だ。だけど片腕を失ったこともあり、今度はクレアさんが押してきているように見える。
そして・・・ついにクレアさんがキングオーガの首元に一撃を入れ勝負はついた。
「グオォォォォーーーー!!!」
キングオーガの最後の咆哮があたりの木々を揺らし、ドウッとその体を地面に横たえた。
その後は、残りのオーガとの戦闘にクレアさんが加わり、程なくすべてのオーガに止めを刺すことができた。
「ふー、これで全部ですかね?」
「みたいですね」
助かった。
キングオーガには僕では勝てない。クレアさんは頼りになる。
僕とクレアさんはキングオーガの魔石と額から生えていた角を回収する。魔石は心臓の下辺りに埋もれていた。ハクタクのものよりかなり小さい。
その後も、捜索を続けたが、魔物は出るものの、ユイは見つからない。
途中で捕獲したウサギや猪みたいなやつの肉をよく焼いて食べる。調味料も何も無いので不味い。細菌とかが怖いのでとにかくよく焼いた。火魔法が使えて良かった。それにクレアさんの水魔法があるから水にも困らない。クレアさんに襲われたのは、討伐の訓練から帰ってきて部屋に戻らずユイと話をしていたときだったので、冒険者用の装備を身につけたままだったのも助かった。
暗くなる前に、ユイを探すのを諦めて、拠点とすることに決めた小川のそばに戻る。
今日はユイを見つけることができなかった・・・。
焦る気持ちを抑えて、沼地になっていて潅木が多く茂っている辺りで空を見上げる。この辺は高い樹木が少なくてちょっと開けている。
空に何かが飛び回っている。
「あれは、ワイバーンですね」
「ワイバーンってドラゴンの仲間ですよね?」
「はい、上級の魔物です。上級の中でも上位に位置する相当に手ごわい魔物と聞いています。私も戦ったことはありません」
空にワイバーンが飛び回っているのを見ると、恐竜映画みたいだ。
空飛ぶ竜とか、戦いたくないな。
夜は、クレアさんのそばで寝る。離れて寝るのは危険だ。
拠点に定めた場所の周りには高い木がないので、遠くの山脈の上に浮かぶ月が見える。大の月だ。よく見ると少し離れたところに中の月も見える。今日は2つの月が夜空を彩っている。
初めてユイとキスした場所でも月を見たなー。
あのときは元の世界と同じで夜空に浮かんでいたのは大の月だけだった。
最初は、クレアさんと交代で魔物の警戒をしていたが、二人とも疲労が酷くてよく寝ないと厳しい。一応、寝ていても、魔物の気配ですぐ起きるくらいのことはできるとクレアさんが言うので、もう諦めて二人で寝ることにした。不思議とここには魔物が近寄ってこない。
寝ようとすると、またユイのことを思い出してしまう。
ユイもこの月を、まるで墨で描いたような山脈の上に浮かぶ二つの月を見ているのだろうか?
ずーっとそばにいるって約束したのに・・・。
ぜんぜん約束を守れてない・・・。
とにかく明日も頑張ってユイを探そう。幸いクレアさんの協力も得られた・・・。




