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9-16(戦いの終わり).

 エリルは魔王城のバルコニーのような場所に立つと「魔族も人族も今すぐ戦闘を止めろ!」と叫んだ。魔族たちの間に「エリル様だ!」と声が上がった。中でも大声で叫んでいるのはケルベロスに乗ったサリアナだ。

 エリルが姿を現したことにより徐々に戦いは収まっている。一部の戦いを継続しようとした魔族たちにサリアナが「魔王様の指示に従え!」と一括した。


 そしてついに戦いは収束した。


 魔王であるエリルが命令している上に、四天王のサリアナだけだけでなくデイダロスも現れてエリルに従うように部下たちに命令したのだから当然の結果だ。


 戦いが収まってしばらくすると、魔王の間にユウトたちが現れた。クーシーやタロウも一緒だ。


 ユウトが僕たちを見回して「みんな無事だったんだね」と言うと「ユウトくんたちもね」とカナさんがホッとしたような表情で応じた。


「ヤスヒコくんもね・・・」とユイが呟くように付け加えた。ヤスヒコは未だにメイヴィスの死体を前に無言で座り込んでいる


 マツリさんがユウトたちに今起こったことを説明する。


 すると突然サヤさんが僕を見た。


「ハルくんってさ、魔王だったんだね!」

「え!?」


 僕はサヤさんの言った意味がすぐには分からずサヤさんを見詰めていた。


「サヤちゃん、なに言ってるの。ハルくんが魔王だなんて」

「でもカナっち、あのハルくんの魔法、どう見ても闇魔法だったよ」


 僕の魔法・・・黒炎属性の魔法・・・ヤスヒコの奥義と相打ちになった黒炎爆発ヘルフレイムバーストのことか・・・。


「いやいや、サヤさん、エリルが使ってたのとは違うでしょう」


 僕はなんとかサヤさんに反論した。あれ、サヤさんはエリルの魔法を見たことがなかったか・・・。


「そうかなー。私はエリル様の魔法は知らないけどさ。もともと火属性魔法を使えたハルくんが、その後に魔王になったからあんな魔法になったんじゃないの? 何の切っ掛けでそうなったのかは私にも分からないけど」

「なるほど、そっか。じゃあハルくんってサヤちゃんの言う通りでほんとに魔王なの?」


 カナさんはなんか納得しそうになっている。


「いやいや、あの魔法はエリルの加護で・・・」

「私は加護なんて授けられないぞ。神じゃないし」とエリルが口を挟んだ。


 なんだって!


「でも・・・」

「イデラ大樹海でのあれは嘘だ。ハルにちょっと自信をつけさせてやろうと思ってな。優しいだろ? それにしてもハルが私と同じ魔王だったとは・・・。さすがの私も気がつかなかったぞ」

「いや、でも・・・」 


 勇者は二人いた。賢者もだ。だから魔王もとは思っていた。だから大魔王べラゴスが復活したんだと思っていた。だけど、ベラゴスの復活は不完全なものだった。いくらメイヴィスが自身の魔法を研究してもやっぱりそれは不可能だったのだ。


 じゃあ、二人目の魔王はどこに?


 ま、まさか・・・僕は・・・ほんとに魔王・・・なのか?


「そっか、ハルって魔王だったんだ」


 ユイはすっかり納得している。


「いや、ユイ・・・」

「ハル様、それで黒龍剣も闇龍の杖も使えたしエラス大迷宮も攻略できたんですね。納得です」


 クレアも大きく頷いている。


 エラス大迷宮を攻略したときレリーフに大きく描かれていた魔王と四天王、勇者と賢者のうち賢者はいた。ユイがそうだ。でも魔王と四天王はどちらもいなかった。なのにクリアできたのはちょっと気にはなっていた。


 だけど、もし僕が魔王だったとしたら・・・。


 考えてみると、聖龍と闇龍を比べると僕の暴走があったとはいえ聖龍のほうが短時間で討伐できた。闇龍のほうは時間がかかった。魔王はいたけど勇者はいなかったからだと考えると納得できる。アノウナキの話もその辺りが曖昧だった気がする・・・。


 それに・・・新型の奴隷の首輪、あれって結局、賢者のユイや魔王のエリルと同じで僕自身にも外せることが後で分かった。僕が異世界人だからだと思ってたけど・・・。


 さらに言えば、さっきの勇者であるヤスヒコとの戦い。初代勇者アレクの必殺技と同じだというヤスヒコ魔法を僕は2発の二段階限界突破した黒炎爆発ヘルフレイムバーストで相殺した。僕のほうが押されたとはいえ、勇者の必殺技にすら対抗できる僕の魔法・・・。いや、僕がやや押されたことすら、勇者に倒されるはずの魔王が僕だったとしたら・・・。


 僕とヤスヒコの戦い、あれこそは、魔王対勇者の戦いだったのだろうか?


 いろいろ思い当たるふしがある・・・。


 じゃあ、本当に・・・。





★★★





 あれから一月が経過し3000年に亘る人族と魔族の戦いはひとまず終結した。 


 旧ルヴェリウス王国全体がミカミ王国となり、そのミカミ王国は魔族との休戦を宣言した。これからは両種族の融和を図っていく方針だと世界に伝えられた。ミカミ王国と並ぶ大国であるガルディア帝国とドロテア共和国もこれに賛同した。

 エリルとサリアナのほうは魔族側に今回の休戦を納得させるのはいろいろ大変だったみたいだ。未だに忙しそうにしている。四天王のうちジーヴァスとメイヴィスは死んだ。四天王は魔王が代わらないと死んでも補充されないそうだ。だけど、魔族と人族の戦争は終結するんだからそれで問題ないだろう。少なくともエリルが生きている間は休戦は守られると思う。

 永久に平和が続くかどうかは分からない。それほど単純ではないかもしれない。今だってお互いに相手を憎んでいる者たちはたくさんいる。3000年に亘って争ってきたんだから当然だ。それでもこれは大きな一歩だ。


 きっと勇者コウキと魔王エリルの名は伝説になるだろう。


「ねえハル、結局異世界召喚魔法陣って破壊できなかったね」


 僕たちはコウキたちに請われて未だに王宮に滞在している。


「うん」


 そうアノウナキが人族に与えた異世界召喚魔法陣は破壊することができなかった。王都ルヴェン改め王都コウキにある結界魔法陣も同じだった。多少傷をつけてもすぐに再生してしまう。


「とりあえず異世界召喚魔法陣については魔石を抜いて封印するってコウキが言ってたよ」

「それしかないよね」

「これで、絶対に日本には戻れないってことだ」


 日本に戻る手段があるとすれば異世界召喚魔法陣を研究するしかないだろう。


「うん」

「ハル様、ユイ様・・・」

「クレア、心配ないよ。僕たちはすでにこの世界で生きていく覚悟をだいぶ前からしている。それに仮に戻れるとしてもクレアを置いて戻る気はないよ。だって家族だからね」

「そうだよ、クレア」


 実際、戻る気もないし、戻れるとも思っていない。


「ハル様、ユイ様、すみません。私はハル様とユイ様が戻れないことを喜んでいます」

「クレア、それでいいんだよ」とユイがクレアの頭を撫でた。


 そう、それでいい。ユイの言う通りそれでいいんだ。


「それにしてもいろいろあったね」


 本当にいろいろあった。


「ハルは魔王だったしね」


 最初から賢者が二人いたことに疑問を持ったことを思い出す。あの頃のことを考えていたらアカネちゃんのことを思い出した。


「アカネちゃん・・・」


 僕は思わず口に出して呟いていた。


「ヤスヒコくん大丈夫かな?」

「ヤスヒコなら大丈夫だよ」


 今、ヤスヒコはメイヴィスの屋敷にいる。グリマドスとかいう小柄な魔族が何かとヤスヒコの世話を焼いている。メイヴィスの墓も屋敷の近くにある。ほんとはべラゴスと一緒に埋葬したかったけどべラゴスは塵となって消えた・・・。

 僕はゴアギールを去るときヤスヒコに「メイヴィスが救ってくれた命を無駄にするな」とだけ告げた。たぶん言わなくてもヤスヒコには分かっている。だけど言わずにはいられなかった。ヤスヒコは何も返事をしてくれなかった。無理もない。そんなに簡単にヤスヒコの心の傷は癒えない。


 だけど僕は知っている。ヤスヒコが必ず立ち直ることを。僕はヤスヒコの親友だ。それに、僕はヤスヒコが立ち直るまで何度でもゴアギールを訪問するつもりだ。


(ハル、ヤスヒコを頼んだよ)


 え!?


「ハル、どうしたの?」

「ううん、なんでもない。ヤスヒコが落ち着いたら前みたいにいろいろ話したいなって」

「そうだね」


 ヤスヒコに今必要なのは時間だ。それに僕だってヤスヒコのためにできるだけのことをする。だから、心配しないでね、アカネちゃん・・・。


「ヤスヒコはきっと立ち直る。アカネちゃんだってそれを望んでる」


 きっとメイヴィスだって・・・。


 早くそんな未来がきてほしい。


「それで、その後はどうしようかなー」


 僕たちはミカミ王国が落ち着くまでしばらくコウキたちの手伝いをするつもりだ。ヤスヒコの様子もしばらくは見守る必要がある。だけど、その後どうするかは何も決めていない。


「私はハル様やユイ様ともっと冒険がしたいです」


 確かに、この世界にはまだ行ったことがない場所がたくさんある。


「そういえばユウトくんたちはバイラル大陸に行ってみるって言ってたよね」


 そう、戦いが終わった後、ユウトたちはあっさりとミカミ王国を出立した。「また会おう」と言って片手を上げて去っていったユウトは颯爽としていた。全員がクーシーに乗っての旅立ちだ。最初に見たときに比べてクーシーはずいぶん大きくなった。タロウはユウトの肩の上に乗っていた。


「ハル、何を笑っているの?」

「え、笑ってた?」

「うん」

「なんかね。ユウトたちが一番ラノベやアニメの主人公みたいだなって思ったんだ」

「ふふ、そういえばそんな気もするね」

「私にとってはハル様とユイ様こそ英雄譚の主人公です。ユウト様や勇者であるコウキ様より凄い英雄です」

「クレア、ありがとうね。でも私とハルがそうならクレアだって同じだよ」


 ユイにそう言われたクレアは「私なんか・・・」と言って照れている。


「本当にユイとクレアと一緒でよかったよ。クレアの言う通りで3人でもっといろんな場所に行ってみよう」

「そうだね」

「はい」


 僕たちもいつかはバイラル大陸に行ってみよう。ガガサトやフランにも会いたいし、何よりカナンの故郷でもある。カナンにはずいぶん助けられた。うん、カナンと一緒にバイラル大陸に行ってみるのもいいかもしれない。


「それにさ、『レティシアと愉快な仲間たち』でももっと冒険したいよね」

「そうですね。でも、レティシア様は大公だから無理かもしれませんね」

「僕は、案外早く『レティシアと愉快な仲間たち』は活動再開できる気がするよ」


 どうもレティシアさんは大公代行から正式に大公になる流れのようだ。だけど、あのレティシアさんがずっと大公として大人しくしているとは僕には思えない。


 でも、その前にヤスヒコの様子を見にゴアギールに行かなくっちゃ。エリルともゆっくり話がしたい。 


「ハル、もしかしてエリルのことを考えてたでしょう」

「え、それは・・・」


 相変らずユイは鋭い。


「どうしようかなー。ハルがどうしてもって頼むんなら考えてみようかな。ね、クレア」

「はい、ユイ様。ハル様がどうしてもって言うなら・・・ですね」


 うーん、ユイとクレアの連携は完璧だ。


「考えるって、な、何を?」


 ユイは「さあー」と言い、クレアは可愛く首を傾げている。


 こうして僕たちの冒険譚は一応の完結を見た。

 次話のエピローグでこの長い物語も完結です。


 ここまでお付き合い頂きありがとうございます。

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