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9-14(コウキ、マツリ対魔王).

  俺とマツリはハルたちを置いて先に向かった。ヤスヒコのことは気になるが、やっぱりヤスヒコのことはハルに任せるのが一番だ。だが、あそこにはヤスヒコ以外にもメイヴィスと火龍がいた。


「コウキ、信じるしかないわ」


 マツリの言う通りだ。デイダロスがいた部屋にサヤとカナを置いてきた。そして今度はハルとユイ、それにクレアを置いてきた。それもこれも勇者である俺と賢者であるマツリがべラゴスを倒すためだ。2000年前のアレクとシズカイと同じように・・・。


 その部屋の扉はこれまでで一番大きかった。黒光りしている扉には人だか神だかに見える絵が描かれている。俺が扉に手を触れると扉は微かに音を立てたがほとんど抵抗を感じることなく内側に開いた。


 俺とマツリは扉の中に入った。


 一番奥に玉座のような立派な椅子がある。そこには小柄な赤い髪の少女がほとんど横になるようにもたれ掛かっていた。目を瞑ってぐったりしているが胸が上下している。


 その横には大柄な男が胡坐をかいて座っている。見たこともないほど立派な二本の角がある。髪は青く肌の色は青白い。典型的な魔族だ。


 魔族の男は俺とマツリを見ると立ち上がった。


「お前が今代の勇者か。アレクにはあまり似ていないな。お前もニッポンをかいう地域から呼ばれたのだろう?」

「ああ、日本から来た。それで、お前がべラゴスか?」


 べラゴスは「そうだ」と言うと俺たちの方に歩いてきた。


「どうやって蘇った?」

「さあ、我も詳しくは知らん」

「・・・べラゴス、2000年前の亡霊のお前が俺たちと戦う理由があるのか?」

「亡霊? 確かにそうかもしれん。だが、魔王と勇者が戦うのに理由など必要ない。我の後にも多くの魔王と勇者が戦ってきたと聞いたが・・・。違うのか?」


 2000年振りに復活したという大魔王べラゴスは俺たちと戦うことに何の疑問も持っていない様子だ。


「魔王エリルは人族と和解したがっていると聞いた」


 べラゴスは奥の立派な椅子で眠っている少女の方とチラっと見ると「今代の魔王が何を考えているのかは知らん。だが我は勇者と戦う。それが我の生き方だ。とは言っても一度その生は途絶えたのだがな」と言って笑みを浮かべた。


「それなら、今回は違った生き方をしてもいいんじゃないの?」

「お前が今代の賢者か。シズカイより気が強そうだな。それに口も立つ。だが、我はお前たちと戦う。これは決定事項だ。ただし、戦いの後のことは今代の魔王に任せる。お前たちの言う通り我は過去の亡霊だからな」


 べラゴスはどこからともなく巨大な杖を取り出した。ずいぶん立派な体格だがやはり魔王は魔導士タイプなのだろうか。


 べラゴスが杖を一閃すると、黒い炎の玉が次々と現れ俺たちに向かって来た。ハルの使っていた魔法にちょっと似ている。だが、数が多い。べラゴスが杖を振る度に複数の黒い炎の玉が渦を巻くような動きで飛んでくる。


光盾シャイニングシールド!」


 俺は光の聖剣で黒い炎の玉を斬り裂きながら光盾シャイニングシールドも発生させた。マツリは俺の後ろに隠れるように位置取っている。


氷矢雨アイスアローレイン!」


 べラゴスの頭上からマツリの創り出した氷の矢が降り注ぐ。べラゴスはその体格からは想像できないほど素早い動きで氷の矢を躱すが全てを躱すことはできない。


 べラゴスが頭上に円を描くように杖を動かすとべラゴスの頭上に黒いシールドが出現した。黒いシールドに氷の矢が当たると水蒸気のような煙が上がって氷の矢は消滅している。


 突然べラゴスが杖を振りかぶって間合いを詰めてきた。魔導士タイプじゃないのか!


岩石錐ロックニードル!」


 マツリがべラゴスの前に岩石のドリルを発生させた。しかし、べラゴスは素晴らし反射神経でそれを飛び越えると俺に向かって杖を振り下ろした。


 ガン!


 光の聖剣とべラゴスの杖が激突した。杖を打ち下ろしてきたべラゴスに力負けした俺は横に転がるようにして逃げた。マツリも俺と一緒に移動している。


光槍シャイニングジャベリン!」


 俺の頭上に巨大な光の槍が出現した。それを見たべラゴスは、ハッとしたような顔をした。べラゴスは素早く自分の前で杖を動かした。すると黒いシールドがべラゴスの前に出現した。


 ガジュー・・・。


 光の槍は黒いシールドに激突すると蒸発するように消えた。黒いシールドのほうが上か・・・。


「つまらん!」


 べラゴスが吐き捨てるように言った。


「今のはなんだ?」


 何だと言われても光属性の中級魔法なのだが・・・。


「アレクが我に止めを刺した魔法かと思えば・・・。期待外れだな」


 べラゴスが杖を剣でも振るように斜めに振り下ろすと俺の足元から黒い炎が吹きあがった。今度は炎属性の上級魔法である炎柱フレイムタワーに似ている。俺はすぐにその場を飛びいた。しかし、炎柱フレイムタワーと違って黒い炎が俺を追うように次々と吹き上る。おれは次々と吹き上がる炎を避けるように移動する。マツリとばらばらになってしまったが、べラゴスがマツリを攻撃する気配はない。


光盾シャイニングシールド!」


 俺は光盾シャイニングシールドで防御しつつ吹き上がってくる黒い炎を避ける。しかし、次々に下から吹き上がってくる攻撃は厄介だ。完全には避け切れない。


大回復メガヒール!」


 マツリが俺に近づいて回復魔法を使ってくれた。だが、このままでは埒が明かない。


光弾シャイニングバレット!」


 俺は光弾シャイニングバレットを放つと黒い炎を避けながら間合いを詰めてべラゴスに斬り掛かった。


 ガン!


 俺の剣とべラゴスの杖が交錯する。その後何度か打ち合うが、さっきと同じで力負けをした俺が床に転がった。


「ぐわあーー!!」


 俺が転がった場所から黒い炎が吹き上がった。俺はゴロゴロと転がってその場所を脱出する。マツリが「コウキー!」と叫んで近づいてくると「超回復エクストラヒール!」と叫んで俺を回復する。


 しかし、目の前にべラゴスが迫っている。


「マツリ!」


 俺はマツリを抱えると慌てて距離を取る。幸いスピードでは俺のほうが少し上のようだ。


「ふん、やはり賢者がいると厄介だな」


 マツリの最上級聖属性魔法で回復した俺を見てべラゴスが言った。今のところ物理攻撃でも魔法でも俺のほうが劣っている。俺はまだべラゴスに一撃も入れることができていない。大魔王べラゴスとはこれほどまでに強いのか。こっちは二人いるのに・・・。マツリも俺が押されているので攻撃魔法は使い難い状況だ。


 仕方ない。そろそろ使うか・・・。


祝福の光(デバインブレッシング)!」


 俺とマツリの体が薄く発光する。これが俺の奥義、最上級の光属性魔法だ。俺の奥義は俺自身や味方の身体能力や魔法威力を大幅に上げる魔法だ。もちろん時間制限はある。だから安易には使いたくなかった。


「ほー、アレクも使っていなかった魔法だな。見たところ自身と味方の能力を上げる魔法のようだ」


 べラゴスはすぐに俺の奥義の効果を見抜いた。なかなかの洞察力だ。見た目とは違って脳筋ではないようだ。


 俺はすぐにべラゴスに斬り掛かった。この魔法には時間制限がある。時間が惜しい。ガンガン!と光の聖剣とべラゴスの杖が激突する音が部屋に響く。今度は力負けしていない。


「少しは面白くなってきたな」


 べラゴスは薄く笑みを浮かべて俺の剣を杖で捌く。しばらく互角の打ち合いが続いた後、俺とべラゴスは再び距離を取った。


氷槍アイスジャベリン!」

光槍シャイニングジャベリン!」


 俺とマツリは次々に魔法を放つ。通常よりも遥かに強化された氷の槍と光の槍がべラゴスを襲う。べラゴスはまた杖で円を描くようにして自身の前に黒いシールドを発生させた。


 黒いシールドとマツリの発生させた巨大な氷の槍が激突した。白い煙が上がる。巨大な氷の槍は防がれたが今度は黒いシールドも消えた。続けて俺の発生させたさっきより強化された光の槍がべラゴスに迫る。


「うぐっ!」


 べラゴスは間一髪で、光の槍を避けたが腕に傷を負った。始めてまともなダメージをべラゴスに与えた。しかも杖持っているほうの腕だ。


 チャンスだ!


光弾シャイニングバレット!」


 俺は光弾シャイニングバレット放つと同時にベラゴスに斬り掛る。最も得意とする攻撃だ。そして光弾シャイニングバレットの威力も剣の速さも強さもさっきまでより段違いに強化されている。


 べラゴスは黒いシールドも使いながら俺の攻撃を防ぐ。


氷弾アイスバレット!」


 マツリも魔法で攻撃する。


 行ける!


「面白い!」


 べラゴスのほうも床から吹き上がる黒い炎の魔法を使ってマツリを牽制する。だが、マツリの身体能力も上がっている。


 今度は明らかに俺たちが押している。


「うっ!!」


 べラゴスの脇腹を俺の光の聖剣が捉えた。少し浅かったか・・・。


「マツリ!」


 俺はマツリに声を掛ける。マツリも頷いた。


氷槍アイスジャベリン!」

光槍シャイニングジャベリン!」


 俺とマツリはほぼ同時に魔法を放つ。さっきと同じだ。ここで決める!


 べラゴスのほうも逃げながら、さっきと同じで杖で円を描いて黒いシールドを発生させる。


 バーン!


 二つの魔法が続けて黒いシールドを襲う。俺は強化された身体能力ですでにべラゴスの懐に飛び込んでいる。


「これで終わりだ!」


 すでにさっきと同じでマツリの魔法と黒いシールドが激突し両者ともに破壊されている。俺は、強化された光槍シャイニングジャベリンに合わせて光の聖剣を持ってベラゴスに迫った。


「うおぉぉーー!!」


 気合を入れたベラゴスは体を反らすようにして光槍シャイニングジャベリンをギリギリで避けた。一回目のときで学んだのだろう。だが、こちらも1回目と違う。ジャンプした俺は体を反らして上を向いたベラゴスに向かって剣を振り下ろした。


 ベラゴスは反らした体を更に捻るようにして光の聖剣を避けようとしたが、光の聖剣はベラゴスの肩から腹にかけてを斬り裂いた。


「がはっ!!!」


 ベラゴスの腹から血しぶきが上がる。口からも血を吐いている。


 勝った!


「コウキ!!!」


 マツリの叫び声が聞こえた。俺は何かを察してその場を飛び退こうとした。


 だが、遅かった・・・。


 何かが上から降りてきて、俺の右腕を光の聖剣ごと斬り落とした。降りてきたのは黒い巨大な鎌だ。


「ぐわあぁぁーー!!!」


 今度は俺の腕のない右肩から血が吹き出して床を濡らしている。


「コウキー!!!」


 マツリが駆け寄ってきて「超回復エクストラヒール!」と最上級の聖属性魔法を使った。マツリなら腕の再生すら可能だが、それには時間が必要だ。


「今のが我のとっておきだ」


 ベラゴスが言った。


 俺はベラゴスを睨む。マツリはまだ俺の治療を続けている。


「2000年前、この魔法から身を挺してアレクを守ったシズカイが命を落とした。そして2発目はアレクの奥義との撃ち合いになった。アレクの奥義のほうが僅かに威力が上だった。そして我は敗れたというわけだ」


 ベラゴスは腹や肩から血を流しながら、それを全く気にせず淡々と話している。


「勇者コウキとやら、お前の奥義はアレクとは違い味方の能力を上げるものだった。それは味方が多ければ多いほど力を発揮する。だから、今回は我のほうが少し有利だったかもしれんな。さすがにすぐには腕も再生すまい」


 ベラゴスの言う通りだ。いくら賢者といえども欠損部位の再生には時間が必要だ。普通なら・・・。


 俺はゆっくり立ち上がった。そして光の聖剣を拾った。右手でだ。


「そうとも限らないぞ、ベラゴス」


 俺の右手はすでに再生していた。


「なるほど、賢者の能力も強化されているというわけか・・・」

「お前はもう満身創痍だ。これで俺のほうが有利になったな」

「それは、どうかな。右腕はなんとか再生したようだが万全な状態には見えん。それに賢者はさっきから聖属性魔法を使い過ぎだ。さすがに次はこうはいくまい。そもそもお前の奥義の効果はあとどのくらい持つのかな?」


 俺とベラゴスは目を合わせるとお互いにニヤリと笑った。


 これはまだ長引きそうだ。俺がそう思った瞬間だった。


「うおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーー!!!」


 突然ベラゴスが大声を上げて苦しみ始めた。ベラゴスの声で魔王の間が揺れている。


 一体何が!

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