9-13(ハル対ヤスヒコその3).
「黒炎爆発!」
「黒炎爆発!」
僕は僕の必殺技の「黒炎爆発!」を発動した。しかも2発だ。2発とも二段階限界突破している。
「凄く凝縮されてる・・・」
ユイの声が聞こえた。
そう、僕は黒炎爆発を限界まで凝縮して発動した。ここまで凝縮して発動するのは初めてだ。だけど、練習はしていた。エラス大迷宮で爆風でみんなに迷惑をかけた。もともと黒炎爆発は範囲魔法だ。でも、あの経験から僕は黒炎爆発もっと凝縮して発動することが必要だと考えていた。僕の最強の魔法を限界まで凝縮して発動する。そう、まるで単体相手の魔法のようにだ。
魔法のコントロールは僕の最も得意とするところだ!
ヤスヒコの生み出した光の剣が僕に迫る。僕は光の剣に二つの黒い炎の塊をぶつけた。あまりに凝縮されているためそれは炎には見えない。黒光りして不気味に渦巻いている個体と液体の中間のような何かだ!
「岩盾!」
ユイの声が聞こえた。
「炎盾!」
この声は・・・。なんとカナさんだ! いつの間に? デイダロスたちを倒したのか・・・。
「ユイさん、クレアさん私の後ろに!」
今度はサヤさんの声がした!
全てが一瞬の出来事だ。
ゴゴゴオオォォーーーン!!!
ヤスヒコの必殺技と僕の必殺技が激突して轟音をたてる。嵐に巻き込まれた木の葉のように僕は飛ばされた。
「ぐおぉー!!」
激しく床に激突して骨の折れた感触と痛みに思わず悲鳴を上げる。僕はゴロゴロと床を転がった。
痛い! 激痛に涙が出る。だけど生きている。
ヤスヒコの魔法と僕の魔法が激突してその威力がある程度相殺されたんだと思う。倒れたまま周りを確認するとサヤさんの盾の後ろにユイ、クレア、カナさんがいる。無事のようだ。
メイヴィスは?
メイヴィスは火龍の後ろで難を逃れたようだ。その代わり火龍はかなりのダメージを受けたようで床に伏せている。それに鱗もかなり剥がれ落ちて、その巨体から煙のようなものが上っている。
そうだ、肝心のヤスヒコは?
「ハル、凄いな。俺が使ったのは2000年前に勇者アレクが大魔王べラゴスを倒したときに使った魔法と同じだと聞いていたんだけどな。まさか防がれるとは・・・」
いや、あまり防げていない・・・。
ヤスヒコが向こうからゆっくりと歩いてくる。ヤスヒコも無事だったみたいだ。だけど、左手はぶらりとさせて右手にしか剣を持っていない。足も引きずっている。その歩みは遅い。僕は立ち上がろうとしたが足が言うことを聞かない。
ヤスヒコはゆっくりと僕に近づくと右手に持った剣を振り上げた。しかし、力が入らないのか手が震えている。
「ヤスヒコ、そんなんじゃあ、僕は殺せないぞ!」
僕は床に転がったままヤスヒコに言った。
「二人共もう止めなさい!」
僕とヤスヒコの間に割って入ったのはユイだ。その隣にはユイを守るようにクレアもいる。
「ヤスヒコくん、もう止めようよ」
「カナっちの言う通りだよ」
ユイは、僕とヤスヒコを睨むと「アカネちゃんだって、ハルとヤスヒコくんが殺し合うなんて望んでないよ!」と叫んだ! ユイの目には涙が光っている。アカネちゃんの名前を聞いたヤスヒコの顔が歪む。
「超範囲回復!」
ユイが最上級の範囲回復魔法を使った。清浄な光が部屋全体に広がった。その光は敵味方問わずこの部屋にいる全員を包み込んだ。ユイの聖属性魔法はやっぱり規格外だ。命の危機は去ったけど僕はまだ動けそうにない。命にかかわるような大怪我の場合、回復魔法で治療してもすぐには動けない。やっぱりヤスヒコと僕の戦いは僕の負けのようだ。
「タツヤ、タツヤが無理に戦う必要はないわ」
ユイの回復魔法でさっきより元気になったヤスヒコは戸惑っている。
「メイヴィス・・・」
「タツヤこっちへ」
メイヴィスの指示でタツヤがよろよろとメイヴィスの下に向かう。
「勘違いしないで。タツヤに知り合いを殺させる必要はないと思っただけよ。貴方たちは私が殺す。今べラゴス様のところへ行かれても面倒だからね。私は2000年前のことを知っている。異世界人たちを侮ることは決してないわ」
メイヴィスが何か合図のようなものをすると、伏せたままの火竜が首を上げた。ユイの魔法が火龍も回復させてしまったのかもしれない。
「みんな危ない! ブレスが来る!」
エラス大迷宮で何度も見たブレスを吐く前の予備動作だ。火龍はその場で首を波打たせた後、大きく口を開いた。
ゴゴゴゴゴオオオォォォー!!!
僕たちに向かってブレスが放たれた。僕はまだ魔法を使えない。ここにはレティシアさんもいない。
「うおぉぉー!!」
サヤさんが盾を掲げて動けない僕の前に立った。ユイ、クレア、カナさんも僕のそばにいる。
「炎盾!」
カナさんだ!
でも、まだ足りない・・・。
「隕石竜巻!」
サヤさんの盾の後ろから、ユイが、ユイ必殺の火属性、土属性、風属性の3つの上級魔法を合成した魔法を放った。
火龍のブレスと巨大竜巻が激突した。燃える岩石の渦が火龍のブレスを吸い込むとさらに大きくなって吹き上る。巨大な部屋の天井まで到達している。ゴゴゴという地鳴りのような音で床が揺れる。僕は床に倒れたままなので体が揺れて気持ち悪くなるほどだ。
そのまま時間が経過する。
火龍はブレスをある程度の時間吐き続ける。一方、竜巻系の魔法も一定時間その場に留まることができる。両者が激突した余波をサヤさんが盾で防いでいる。
やがて火龍のブレスは終わり、隕石竜巻も消えていった。
「さっき、ハルがヤスヒコくんの必殺技に2発の黒炎爆発をぶつけて相殺したでしょう。それを真似してみたよ」
「ゆ、ユイ・・・助かったよ」
「うん」
ドン!
ユイは僕に頷きながら崩れ落ちるように倒れた。な、なんで・・・。
クレアが「ハル様、たぶん魔力切れです」と言った。やっと動けるようになった僕はなんとかユイを抱き起す。良かった生きている。ユイは最上級の聖属性魔法を使った後、それほど時間を置かずに隕石竜巻を使った。魔力切れになるのも無理はない。
カーン!
メイヴィスが火龍の陰から飛び出してきて手に持った剣で斬り掛かってきたのをクレアが大剣で防いだ。メイヴィスとヤスヒコは、火龍を盾にして火龍のブレスとユイの魔法が激突した余波に耐えたらしい。火龍のほうは再びダメージを受けている。
メイヴィスは剣で攻撃すると同時に複数の氷の刃を放ってきた。武闘祭でルビーさんが使っていた同時に複数の氷弾発射する技に似ている。だけど、氷の刃は氷弾と違って、いかにも避け難そうな不規則な動きでクレアを襲っている。
クレアはもの凄い動きでそれらすべてを躱すか大剣で防いでメイヴィスに斬り掛かる。メイヴィスも間一髪でクレアの大剣を躱す。
二人とも凄い身体能力だ!
おそらく両者ともに風属性魔法を補助に使っている。メイヴィスはその二つ名から四天王の中では回復役的存在だと予想していたのに、その剣技はクレアに引けを取っていない。
それでも、僕はクレアがメイヴィスに負けるとは思えない。剣での勝負ならクレアが最強だ!
だけど、相手には火龍とヤスヒコもいる。火龍はまだダメージが残っているのか動かないが、次のブレスがいつ襲ってくるか分からない。僕は火龍のブレスに備えて魔法の二重発動も使って黒炎盾の準備を始めた。二段階限界突破した黒炎盾が二つあれば火龍のブレスにも対応できるはずだ。
「・・・ハル・・・どうなったの?」
「ユイ、気がついたのか。無理しすぎだよ」
「うん。でも大丈夫だよ。魔力が切れただけだもん」
サヤさんとカナさんも近くに来てユイを心配そうに見ている。
「サヤさん、カナさん、デイダロスたちは?」
サヤさんは、僕たちの前に立って盾を掲げて防御態勢を取りながら「まあ、私たちにかかればね。でも殺してはいないよ」と答えてくれた。
そうか、デイダロスとあの小柄な魔族は倒したのか。サヤさんも、カナさんもさすがだ。
「サヤちゃん、ヤスヒコくんってやっぱり勇者だったみたいだね」
「うん。あの必殺技、どう見ても光属性魔法だったもんね。でもハルくんの魔法も凄かったよ。勇者の魔法に引けを取ってなかった」
「いや、僕の負けだよ。僕のほうが大きなダメージを受けた」
「でも、それは魔法の性質の違いだよ。だってハルくんのあれって本来は範囲魔法だよね。それを凝縮したんでしょう?」
サヤさんはさすがに良く見ている。
「対してヤスヒコくんの必殺技はさ、かつてアレクがべラゴスを倒すのに使ったのと同じだとかなんとか言ってたよね。たぶん、単体相手に使う魔法だよ」
「サヤちゃん、私はさっきのユイさんの魔法にも驚いたよ」
「うん、うん、カナっちの魔法と同じくらい強力な魔法に見えたよね。ユイさんは聖属性魔法も使えるんだから、ちょっとチート過ぎるよね」
「え、そうかな。照れるなー」
確かにユイは強すぎる・・・。
こうしている間にもクレアとメイヴィスの戦いは続いている。だけど、僕の目には徐々にクレアが押してきているように見える。やっぱりクレアは最強の剣士だ。
「カナっちクレアさんも強いね」
「サヤちゃんの言う通りだね」
「そうよ。クレアはとっても強いのよ」とユイが言った。
ユイもクレアも強い。僕はなんだか誇らしかった。
ユイは神話級の魔物である火龍のブレスと対等に渡り合える魔法を使った。ユイは賢者であり回復役なのにだ。クレアは2000年生きている四天王メイヴィスと対等に渡り合っている。相手は、剣技に優れているだけでなく不規則な動きで襲ってくる複数の氷の刃を操っているというのにだ。
僕たちは間違いなく強くなった。いろんな経験を経て成長したのだ!
見ているとヤスヒコはメイヴィスを助けに参戦しようか迷っている様子だ。火龍のブレスもそろそろ2回目が来るかもしれない。火龍の再生力は高い。僕もそろそろ普通に動けるようになりそうだ。まだまだ油断できない。
そんな緊張感が漂う中、それは起こった!




