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9-10(サヤ、カナ対デイダロス、グリマドス).

「やっと、戦えるのか。少しは楽しませてくれるんだろうな」


 デイダロスとかいう四天王の巨人がニッと笑いながら言った。意外と愛嬌のある顔をしている。デイダロスは魔物のような巨人だが角などはない。それに髪の色も茶色でこの世界で最も普通の色だ。


「そっちこそ、四天王とかいうくらいなんだからちょっとは頑張ってよね」


 サヤちゃんが言い返す。サヤちゃんは落ち着いている。私も頑張らないと。杖を持つ手に力が入る。


炎弾フレイムバレット!」


 グリマドスとかいう魔族が魔法を使おうとする気配を感じた私は炎弾フレイムバレットを放った。グリマドスは「おっと!」と言って、ちょっと小動物のような動きで炎弾フレイムバレットを躱した。


 ガキン!!


 私が魔法を使ったのを合図にデイダロスがサヤちゃんにハルバートで殴り掛かってきた。サヤちゃんは一歩も引かずにそれを受け止めている。ギリギリとデイダロスとサヤちゃんの力比べが続く。体格の違いが凄い。大人と子供どころか、巨人と子供だ。でもサヤちゃんは全く負けていない。


「うおぉーー!!!」


 サヤちゃんが気合を入れてデイダロスを盾で思いっきり押すように弾いた。巨人デイダロスがハルバートを持ったまま仰け反っている。力比べはサヤちゃんの勝ちだ。これにはグリマドスもデイダロス本人も驚いている。


炎柱フレイムタワー!」と私は叫ぶ!


 態勢を崩しているデイダロスの足元から炎が吹き上る。火属性の上級魔法だ。


「うおーっ!」


 デイダロスは慌てて後ろに飛びのいた。だけど炎柱フレイムタワーは上級魔法で威力も高いし範囲だって結構広い。皮膚の焼ける匂いがする。なんとか炎柱フレイムタワーの範囲外まで下がったデイダロスだがその場で膝をついている。サヤちゃんが炎柱フレイムタワーを回り込むようにデイダロスの背後から近づく。大きな盾を持っていてもサヤちゃんの動きは速い。


 デイダロスが振り返った瞬間、サヤちゃんが飛び上がるようにして剣でデイダロスの喉元を突いた!


氷盾アイスシールド!」


 カキン!!


 サヤちゃんの剣は氷の盾に弾かれた。剣を弾かれたサヤちゃんはクルンと回転するように受け身を取るとすぐに立ち上がって盾を構えた。大きな盾を持ったままこの動きはさすがサヤちゃんだ。


 デイダロスは「グリマドス、余計なことをするな!」と怒鳴った。


「いやいや、今のはかなり危なかったでしょう」とグリマドスが呆れたように言った。

「そんなことはない。わざと誘っただけだ」


 デイダロスはかなりの負けず嫌いみたいだ。


 再びデイダロスがハルバートでサヤちゃんを攻撃してサヤちゃんが盾で受けるという展開になった。ガンガンと凄い音が部屋にこだまする。部屋全体が揺れているようだ。見ているだけで二人とも怪力だと分かる。デイダロスはかなり火傷をしたと思うんだけど、それを感じさせない動きだ。根性はあるみたいだ。


炎弾フレイムバレット!」


 私は魔法でグリマドスを攻撃してサヤちゃんから注意を逸らす。グリマドスはちょこちょこと動いて私の魔法を避けている。なんか緊張感のない動きだ。


 油断しちゃいけない。私は自分に言い聞かせる。


 いくらサヤちゃんだってデイダロスとやり合っている間に魔法で攻撃されたらまずい。そういえば、デイダロスは私のほうは無視してサヤちゃんとやり合っている。身体能力強化の弱い私を攻撃してこないのは、案外、正々堂々とした戦いが好きなのだろうか? それとも力自慢だけあってサヤちゃんとの力比べに固執しているのか。


氷弾アイスバレット!」

炎盾フレイムシールド!」


 グリマドスが氷弾アイスバレットを放ち、私が炎盾フレイムシールドで防ぐ。


 膠着状態だ。


 大がかりな魔法を使いたけど、サヤちゃんを巻き込むわけにはいかない。よし、それなら!


竜巻トルネード


 私は風属性上級魔法の竜巻トルネードを使った。上級だし、自慢じゃないけど私が使えば普通の上級よりも威力が高い。


「うわあ!」


 目の前に現れた竜巻トルネードを見たグリマドスは踏鞴を踏むような動きをして立ち止まった。こんな場合なのにこの魔族の動きはどこか滑稽だ。そして踵を返すと竜巻トルネードから逃げ出した。それを見た私は、今度はデイダロスの背後に竜巻トルネードを移動させた。


 それに気がついたデイダロスはサヤちゃんにハルバート打ち込みながら「くそー、面倒な!」と言いながら竜巻トルネードから離れるように移動する。


「きゃあー」

「カナっち!」


 気がついたら、頬を切られていた。手を当てるとべったりと血がついた。風刃ウィンドカッターだ。大きなデイダロスの体の陰から攻撃された。上手く死角を突かれた。


「避けられましたか」


 グリマドスがニヤっと笑った。風刃ウィンドカッターは初級だがスピードに優れる魔法だ。正直、今のを避けられたのは運が良かった。氷属性だけでなく風属性の魔法も使えたのか。少人数の戦いになると大規模範囲魔法よりもスピードに優れる魔法が有効だ。


「カナっち、私の後ろに」

「うん」


 私はサヤちゃんの後ろに移動する。でも、その前に・・・。


風刃ウィンドカッター!」


 私がサヤちゃんの盾の陰から発動した風刃ウィンドカッターはグリマドスの頬を捉えた。グリマドスの頬から血が滴った。この状況ならスピードに優れる魔法が有効だと教えてもらったから、そのお礼だ!


「痛い! なんですか、私のより速いじゃないですか」


 グリマドスは驚いている。でも何か緊張感がない。


 私がサヤちゃんの後ろに隠れるよう移動するとグリマドスのほうもデイダロスの背後に移動する。そして、またデイダロスはガンガンとハルバートをサヤちゃんに打ち込む。偶にハルバートを回転させるような攻撃も挟んだりしているがすべてサヤちゃんの盾に防がれている。私とグリマドスはときどき風刃ウィンドカッターを打ち合う。だけどお互いに今の位置取りでは当たらない。


 膠着状態だ。そして、膠着状態は延々と続く。デイダロスもサヤちゃんの防御力と怪力には手を焼いている。サヤちゃんも私がいるせいもあって無理に倒しにはいかない。


 先に行ったコウキくんたちは大丈夫だろうか? それに外で戦っているユウトくんたちは・・・。


 そのときバタバタと物音がして一人の女魔族が部屋に入って来た。20体くらいの魔物を連れている。ブラックハウンドとブラッディベアだ。どちらも中級だ。ユウトくんやサリアナさんを突破して魔王城に入ってきたのだろうか?


「お前たちが来る前から、魔王城に隠れていたんだよ」


 私の疑問を感じ取ったように女魔族が言った。


「ケルカ、邪魔をするな!」


 デイダロスが叫んだ。


 ケルカ・・・。思い出した。ガルディア帝国の獣騎士団の隊長だ。確か、サイクロプスを使役していたがサイクロプスを倒した後、止めを刺そうとしたコウキくんから逃げ出したはずだ。だとすればジーヴァスとかいう四天王の部下のはずだ。


「私は勇者たちに恨みがあるのさ」

「お前の事情など知らん。それにジーヴァスは死んだ。引っ込んでろ!」


 ケルカは「ふん」とデイダロスの怒声を無視すると「やれ!」と魔物たちに指示した。


 魔物たちは私たちを囲むように近づいている。身体能力強化に劣る私が後ろから魔物に襲われたらサヤちゃんでも守れない。だって前にはデイダロスたちがいるのだ。


「サヤちゃん、サヤちゃんだけなら・・・」


 サヤちゃんは首を横に振った。


「カナっち、あれを使って、必殺技を」

「サヤちゃん・・・」

「大丈夫、私を信じて」


 私は盾を持ってデイダロスと対峙しているサヤちゃんの背中を見た。小さいのに凄く大きく見えた。


「分かった」


 サヤちゃんは振り返ることなく頷いた。


 私は集中して体中の魔力を集める。


天雷ミリアッドライトニング!」


 大きな部屋の天井辺りに黒い雲が湧き出でたちまち天井中に広がった。そのとき、サヤちゃんが「岩盾ロックシールド!」と叫ぶ声が聞こえたと思ったら目の前が真っ暗になった。


 バリバリと大音響が轟く!


 無数の稲妻が降り注いでいる音だ。魔物の悲鳴があちこちで上がる。魔族の悲鳴も混じっている。私はそれらをサヤちゃんの体の下で聞いた。稲妻が降り注ぐ瞬間サヤちゃんが私に覆いかぶさってきたからだ。


 私は「ぐぅー」と思わず声を上げた。体のあちこちに鋭い痛みが走る。それに動けない。私の上でサヤちゃんも呻き声を上げていたが、やがて聞こえなくなった。


 どのくらい経っただろうか。どうやら私は生きている。それに動ける。私は覆いかぶさっているサヤちゃんの体を退けようとした


 お、重い・・・。


 やっとサヤちゃんの体の下から抜け出すと、重いはずだと思った。サヤちゃんの体をサヤちゃんの巨大な盾が覆っていた。サヤちゃんは天雷ミリアッドライトニングを盾と岩盾ロックシールドで防御しようとしたのだ。だけど私の天雷ミリアッドライトニングは無駄に威力が高い。


「サヤちゃん!」


 私はサヤちゃんの盾をやっとの思いで退けるとサヤちゃんに声を掛けた。返事はない・・・。


 サヤちゃん・・・。


「サヤちゃん、サヤちゃん!」


 この世界に転移してきてからずっと私を支えてくれていたサヤちゃんが・・・。


「か、カナっち・・・。ちょっと回復薬を飲ませてくれないかな」

「サヤちゃん、もう、心配したよ」


 私はサヤちゃんを抱きしめてわんわん泣いた。


「く、苦しい・・・。か、カナっち早く回復薬を・・・」


 私はアイテムボックスから取り出した上級回復薬をサヤちゃんに飲ませた。しばらくするとサヤちゃんはまた寝眠りについた。


 やっと私は周りを見た。魔物が積み重なるようにして死んでいる。中級程度の魔物が天雷ミリアッドライトニングの直撃を受ければこうなるのは当然だ。


 デイダロスは・・・。


 デイダロスは部屋の隅の方で床に俯せに倒れている。そばには心配そうにデイダロスを覗き込んでいるグリマドスの姿がある。グリマドスもあちこちを稲妻にやられたような傷があるが生きている。もしかして私がサヤちゃんに庇われたようにグリマドスもデイダロスに庇われたのだろうか?


 そのとき背後で物音がした。振り返るとケルカがいた。手に剣を持っている。


 まさか・・・。


「魔物たちはよく言うことを聞いてくれた」


 魔物の死体の下に隠れていたのか・・・。


「死ね!」

「ぐああー!!」


 叫び声を上げて倒れたのは私ではなくケルカのほうだった。氷の槍がケルカに突き刺さっている。グリマドスだ。


「すいません。そこの魔導士のお嬢さん。ちょっと上級回復薬を分けてもらえませんか。私は回復魔法は使えないし、うっかり回復薬を準備するのを忘れてしまいました」


 私はグリマドスを見た。私はグリマドスに命を救われた。それにグリマドスとデイダロスの二人は正々堂々と戦っていた。本当は殺し合いに正々堂々もないんだろうけど・・・。


 私は頷くとグリマドスに上級回復薬を渡した。


「ありがとうございます」


 グリマドスは私にお礼を言って上級回復薬を受け取ると、デイダロスの大きな顔を持ち上げて上級回復薬を飲ませた。デイダロスは死んでなかったらしい。凄い耐久力だ。とっさの判断で部屋の隅の方に避難したのも良かったのかもしれない。


「グリマドスさん、貴方も飲んだ方がいいですよ」


 私はアイテムボックスからもう一つ上級回復薬を取り出した。グリマドスはちょっと驚いた顔したが「貰います」と言って上級回復薬を受け取った。


「それにしても凄い威力の魔法でしたなー。さすがに勇者一行と言ったところでしょうか。どうやら私たちの負けのようです。あとは魔王様と勇者様の戦いがどうなるかですな。いくら勇者様が強くてもべラゴス様に勝てるとは思えませんがね」


 コウキくん・・・。

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