表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

317/327

9-7(魔王城前).

「ハル、あれが・・・」

「ああ、魔王城みたいだ」


 前に座るサリアナも頷いている。


 魔王城は想像以上に巨大だった。この世界で見た建物の中で最大のものだ。強いて言えば、エラス大迷宮の入口の建造物がそれに近い。最初に召喚されたとき、僕たちは魔王討伐を依頼された。そして今、魔王城を目にしている。長かったような短かったような不思議な気分だ。


 だけど、僕たちの目的は魔王討伐ではなく魔王エリルの救出だ!


 僕たちは三日三晩ケルベロスを始めとする3体の魔物を走らせてここまで来た。並走するオルトロスに乗ったコウキたちも魔王城の大きさに驚いている。魔王城を指さしてあんぐりと口を開けているカナさんの姿が見える。後ろを走るクーシーの方からも歓声が上がっている。


 ケルベロスたちには少し窮屈そうだった森の中を抜けて視界が開けたとたん、いきなり魔王城が現れたのだから無理もない。魔王城は険しい山脈の中腹にその威容を誇っている。魔王城の遥か彼方にもゴアギールの大地は続いている。ゴアギールは広い。いくつか街を見かけたが、街と街の間はかなり離れていた。やはり人族の支配地域に比べると人口密度(魔族密度?)が低いことが伺われる。この世界は人族や魔族より魔物が住んでいる場所のほうが遥かに広い。人族と魔族が争うのなんて無意味だ。アノウナキ人とやらが最初からそう創らなければ、とっくに人族と魔族の争いなんて収まっているだろう。


「ハル様、魔王城の前で」

「うん、なんか小競り合いが」


 魔王城の前で魔族同士が争っている。大規模な戦争というより睨み合っている感じだ。


「あれは、エリル様と私の配下がメイヴィスやデイダロスの配下と対峙しているように見えるな」

「どっちが?」

「魔王城を守るように布陣しているのがメイヴィスとデイダロスの配下だな」


 普通なら逆のように思える。確かに魔王城の入口前にいる魔族の中に巨人の一団がいる。あれが巨人の王デイダロスの配下なのだろう。ここに来るまでにサリアナから聞いた話では、デイダロスは巨人族の長だ。昔の巨人族はもっと大きかったそうだ。だが、見たところ今でも相当な体格だ。


「それにしても、メイヴィスとデイダロスの配下が魔王城を守っているなんて変ですね」

「ああ、もっと変なのはジーヴァスの配下がいないってことだ」


 僕とサリアナはジーヴァスが僕をおびき寄せるためにエリルを何らかの方法で拘束したのではないかと考えた。そして、確信はなかったが、ジーヴァスが魔王城に現れるのではないかと思ってここまで来た。なのに、どうやら主のいない魔王城を占拠しているのはジーヴァスではなくメイヴィスやデイダロスのようなのだ。


 僕たちが魔王城の前に到着すると、大柄な一人の魔族がサリアナの方へ走ってきた。巨人族に負けない大柄な魔族だ。


「デロン説明しろ!」


 走ってきたのは、武闘祭にも参加していたサリアナの部下のデロンだった。


「サリアナ様、メイヴィスとデイダロスが魔王城を占拠しています」

「なぜ、簡単に明け渡したんだ!」

「それが、大魔王ベラゴスを名乗る者が一緒で」


 大魔王ベラゴス! 初代魔王のことなのか?


「馬鹿なことを言うな! 2000年も前に死んだ魔王がいるわけがないだろう!」


 サリアナが怒鳴る。


「わ、私もそ思うのですが、とにかく魔王としか思えない強者のオーラを感じたのは確かです。そ、それで、こちらからも寝返る者も現れて、あっという間に占拠されてしまいました」

「なんだと!」


 また、サリアナが怒鳴る。だけど、本当に大魔王べラゴスが現れたのなら分る気もする。魔族は強い者に従う傾向にあると聞いたことがあるからだ。


「しかも大魔王ベラゴスと名乗る者はエリル様をその手に抱いていたのです」

「エリル様を! エリル様は無事なのか?」

「分かりません。死んでいるようにも眠っているようにも見えました」

「なんということだ・・・」


 エリル・・・心配だ。


「ハル、大魔王ベラゴスって?」

「初代魔王のことだな」


 ユイの質問に答えたのはコウキだ。


「どうやら俺の出番だな。魔王を倒すのは勇者の役目だ」

「コウキ、俺たち、でしょう。魔王を倒すのは勇者一行の役目よ」

「マツリさんの言う通りだね」

「そうだよね、サヤちゃん」


 4人ともやる気だ。


 それにしても大魔王ベラゴス・・・。僕にはなにかピンと来るものがあった。今回の異世界召喚では、最初から勇者と賢者が二人ずついたからだ。


 だけど、そんなことよりエリルだ。エリルを助けなければ・・・。エリルはきっと生きている。あのエリルが簡単に死ぬわけがない。


「人数的にはかなりの劣勢です。相手は魔王べラゴスを名乗りその手にはエリル様らしき姿もありました。ただ、我らがエリル様を確認しようにも奴らがここを通しません」


 確かに魔王城を守っている魔族のほうが数が多い。デロンたちはそれを遠巻きにして何もできないといった感じだ。


「突入しよう」

「サリアナ、どうやって?」

「強硬突破しかないだろう」


 それしかないか・・・。だが、相手は数が多い。従魔らしき魔物も相当数いる。中には上級も含まれている。


「あまり、魔族同士殺し合いたくはないが・・・」


 突入しようと言ったもののサリアナも悩んでいる。魔王城を守っている魔族たちはメイヴィスやデイダロスの配下であるだけでなく、ベラゴスと名乗る魔族を魔王と認めてここにいるのだろう。


「サリアナ、あれは?」


 見ると上空から一体の魔物が迫ってくる。


「グリフォンだな。ということはクダアクだな」

「サリアナ、クダアクとは?」

「ケルカの兄だ」


 グリフォンの背に魔族の姿が見える。獣騎士団長だったケルカの兄か。妹と同じく使役魔法を得意にしているようだ。


「ハル、ここにいる連中は私が引き受ける。その間にハルたちは魔王城に突入しろ!」

「分かった」

「当然俺も魔王城に入るぞ」とコウキが言った。

「突入するのはコウキたちと僕たちと」

「ハル、僕たちはここでサリアナさんと一緒に魔族たちの相手をするよ。クーシーやタロウもいるしね」

「ユウト・・・」


 突入するのと、ここで多くの魔族の相手をするのとどっちが危険なのかは分からない。いくらケルベロスとオルトロスがいてもかなりの人数差がある。相手にだって魔物がいる。ユウトたちが残ってくれるのなら助かる。それにサリアナはできるだけ魔族の犠牲を抑えようと考えているはずだ。そうでなければ、おそらく一人でジーヴァスを迎え撃ったのであろうエリルの作戦を無駄にしてしまう。


「決まりのようだな。じゃあ行くぞ!」


 サリアナは魔王城を守る魔族たちに向かって「ここを通せ! 四天王である私がそのベラゴスとやらと話をする!」と叫んだ。


 すると、それに答えて魔王城を守っている魔族の一人が「サリアナ様、それはできません! 我らはメイヴィス様、デイダロス様、それに大魔王ベラゴス様の命によって、ここを守っているのです!」と言い返した。


 大魔王ベラゴスの名の口にしたときその魔族の顔に喜悦の色が浮かんだ。周りの魔族たちの士気も上がったようだ。短期間の間にこれほど魔族たちの心を掴むとは、やっぱり大魔王ベラゴスは本物なのか・・・。


 サリアナはケルベロスの背に飛び乗ると魔王城の入口に向かって突っ込んだ。オルトロスもそれに続いた。それでも魔王城の入口の前に陣取る魔族たちは動かない。大したものだ。それどころかサリアナやケルベロスたちを囲むように他の魔族も集まってくる。デロンたちサリアナ側の魔族がそれを邪魔しようと動き出すが、相手のほうが数が多い。


「僕たちも行ってくる」

「ユウト、慎重にだ」


 コウキがユウトに声をかける。


「分かってるよ、コウキ、命を大事にでしょう。勇者一行の作戦の一つさ」

「ユウ様なんですか、それは」

「僕のポリシーさ。というわけで、みんな命を大事に頑張るよ!」


 そう言ってユウトたちはサリアナに続いた。サリアナと二体の従魔を囲もうとしていた魔族たちだが、その後ろからクーシを先頭にユウトたちが突っ込んだことにより、デロンたちも含めて魔王城の前は大乱戦になった。


「ハル、俺たちも行くぞ」

「うん」

「ユウトたちが乱戦にしてくれた。どさくさに紛れて魔王城に突入する」


 コウキたち4人と僕たち3人の合計7人が魔王城の入口を一直線に目指す。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」

黒炎弾ヘルフレイムバレット!」

光弾シャイニングバレット!」


 僕とコウキが魔法を放ちながら走る。


氷矢雨アイスアローレイン!」


 マツリさんが水属性の上級魔法を使った。氷でできた無数の矢が魔王城入口あたりに降り注いでいる。どう見ても敵味方関係無く逃げ惑っている。


「なんか文句でも?」

「いえ、なんでもありません」


 ズサッ!


 見るといつの間にか先頭に立ったクレアが次々と魔族を斬り捨てている。それも、急所をなるべく外している。クレアがぶんっと大剣を振ると一度に数人の魔族が吹き飛ばされた。


「死にたくなかったらそこをどきなさい!」


 クレアの気迫に魔族たちが一瞬怯む。


炎竜巻フレイムトルネード!」


 ユイが得意の混合魔法を使った。


「うわあー!!」

「おおー!!」


 魔族たちが竜巻に巻き上げられていく。それを見た他の魔族が「あれはやべえー」とか言いながら炎の竜巻から距離を取ろうとしている。しかし魔王城の入口辺りは魔族密度が高いので逃げ切れない魔族が次々に餌食になっている。


 たぶん味方の魔族も巻き込まれていると思う。


「何か文句でもあるの、ハル?」

「いえ、なんでもありません」

「これでも手加減はしているから、大火傷くらいで済むと思うわ。なんなら後で治すし」


 大火傷・・・。


「うん、そうだね」


 そのとき魔王城入口前に炎の火柱が上がった。カナさんだ!


 魔族たちは慌てて入口前から移動しようとしている。


「ハル、突っ込むぞ!」


 コウキの掛け声に僕たちは7人は炎の火柱の中に突入した。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ