8-28(エピローグ1).
ちょっと短いです。
「こっちだ」
グノイス王の指示で王宮の奥にあるルヴェリウス一族のプライベートエリアを足早に進む4人の人影があった。グノイス王、クラネス第三王女、セイシェル、王国騎士団長のアトラスの4人だ。すでに避難したのか他にグノイス王の関係者はいない。
ルヴェリウス王家の紋章が刻まれた扉にグノイス王が触れる。扉が開くとそこには魔法陣があった。
「これで脱出できる。これはルヴェリウス王家の者にしか使えない」
「お父様、これはどこに?」
「勇者記念公園のアレクの銅像の地下にある部屋に繋がっている」
「陛下、我々だけで大丈夫でしょうか?」
アトラスは心配そうだ。
「中央広場には1000人以上の王国騎士団がいる。彼らと合流できればまだ反撃できる。それにアイゼルもそろそろルヴェンに到着する頃だ」
「アイゼル!? 第二師団が・・・ですか?」
騎士団長にもかかわらずそのことを聞かされていなかったアトラスは驚いた。
「そうだ」
「確かにそれなら・・・」
「それに、クランティアには第五師団だっているんだ」
「そうですね」
「その上、異世界召喚魔法陣は決して破壊できない。あれがある限り我らに負けはない!」
王の言葉は自分に言い聞かせるようであり、それを聞いたアトラスもまた自分を納得させるように頷いた。
一方、クラネスは賭けに負けたと感じていた。
クラネスは小さい頃から正妃の子であるアルフレッドやエリザベスが嫌いだった。いつか彼らを退けて自分が一番になりたいと思っていた。それは、もう少しで成し遂げられそうであったが、今は父と共に逃げている。やはり、コウキのほうに賭けたほうが良かったのか・・・。だが、勇者であるコウキにはあの忌々しい賢者が、マツリがいた。クラネスはまた自分が一番になれないのは嫌だった。
クラネスは戦場からいち早く脱出して隣にいる婚約者のセイシェルを見た。
セイシェルは無言だ。クラネスは優秀な魔導士であるセイシェルに早くから目を付けていた。だが、セイシェルはキス以上のことをクラネスに求めてこなかった。何を考えているのか今一つ分からない男だ。
「いくぞ!」
4人が魔法陣に乗ると、グノイス王が魔法陣に魔力を流した。
周りが見えなくなるほど魔法陣が光る。そして光が収まった後、4人は別の部屋にいた。部屋から階段が上に続いている。
4人は驚いている時間も惜しんで階段を昇った。
突き当りは天井になっていたがグノイス王がまた魔力を流すと天井の一角が横にズレて地上に出ることができた。
4人は地上に出ると周りを見回した。そこはグノイス王の言った通り勇者記念公園だった。目の前には勇者アレクの銅像がある。公園は緑が多い。木々が風に揺れてさわさわと音を立てた。
「なんだお前たちは」
突然4人の頭上から声がした。
4人が上を見上げると、木々の間から顔を覗かせている巨大な赤いドラゴンとドラゴンに乗った人の姿が見えた。ドラゴンはすぐに何本かの木をバリバリと押しつぶしながら4人の前に降りてきた。
「ふーん、なんかこの辺りが怪しいと思っていたが、王とクラネス、それにセイシェルじゃないか。うん? お前は誰だ? まあ、王と一緒にこんなところから出てきたってことは・・・。そうか、クラネスとセイシェルも・・・」
ドラゴンの背に乗った男が何かを納得したように呟いている。
「貴様何者だ!」とグノイス王が叫んだ!
「お前、俺の顔すら覚えてないのか・・・」
グノイス王と違いクラネスは男の顔に見覚えがあった。だが、クラネスが口を開く前に「お前ら全員!」とドラゴンの背に乗った男が叫んだ!
ゴゴゴオオォォー!!!
赤いドラゴンがブレスを吐くと、あっという間にグノイス王、クラネス第三王女、アトラス騎士団長は灰になってその生を終えた。
「アカネの敵だ!」
赤いドラゴンの背に載った男は吐き捨てるように言った。
「それで、生き残ったセイシェル、お前何者だ?」
男の質問にセイシェルは何も答えない。セイシェルだけは、防御魔法を使って赤いドラゴンのブレスを耐えて生き残っていた。
セイシェルが素早く左手を動かすと、複数の風の刃がドラゴンの背に載った男に向かって放たれた。
「光の剣!」
空中に巨大な光の剣が現れセイシェルに向う。光の剣はセイシェルが生成した風の刃をものともせずに一直線にセシェルに迫る。すでに赤いドラゴンのブレスでダメージを受けていたセイシェルにそれを避けるすべはなかった。セイシェルは悲鳴を上げる間もなく消え去った。
セイシェルが立っていた場所がキラリと光った。魔石だ・・・。
「そういえば・・・。ルドギス、運が悪かったな。これは勇者アレクの奥義と同じ魔法だそうだ。大魔王べラゴスを倒した魔法だよ。ルヴェリウス王国に協力していたことを恨むんだな」
次話の「エピローグ2」で第8章も終わりです。




