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8-25(侵入).

「ハル様、あれは」


 100人くらいの騎士の一団が内側の城壁の南門に近づいている。南門を入って真っすぐ行けば王宮広場がありそれを抜けると王宮の入り口だ。


「コウキたちだ」


 先頭には馬に乗ったコウキたち4人と、4人に並ぶようにギルバートさんの姿がある。沿道には多くの見物人がいる。人々は勇者一行を一目見たいと思ってる様子で独立を宣言したコウキたちに反感を持っているようには見えない。むしろガルディア帝国を退けた勇者たちを歓声で迎えている人たちが大半だ。コウキは沿道の人たちに軽く手を振った。歓声がより大きくなる。コウキは堂々としている。


「コウキくんたち大丈夫かな」とユイが心配そうに言った。 


 コウキたちは間違いなく強い。だけど、王宮の敷地の中に100人の騎士全員は通されないんじゃないだろうか・・・。大半は手前の王宮広場辺りで待機させられそうだ。それでも、コウキたち4人とギルバードさんの実力を考えれば、何とかなりそうな気はする。少なくとも逃げるだけなら・・・。


 なんだか嫌な予感がする。それにマツリさんから頼まれたこともある・・・。


 僕たちの見ている前でコウキたち一行は、民衆の歓声に送られて南門から内側の城壁を通り王宮や上級貴族たちの屋敷があるエリアに入っていった。


「やっぱり、僕たちもなんとかあのエリアの中に入りたいね」


 僕たちがコウキたちが入っていった南門を見つめていると「おい、ハル」と声が聞こえた。


「え?」


 辺りを見回しても誰もいない。僕がキョロキョロしてると「俺だよ、俺」とまた声が聞こえた。それでようやく僕はその人物を認識できた。でも俺って・・・。目の前にいるのは貴族のメイドか侍女らしい可愛らしい女の子だ。いつの間に・・・。


「あ、あのー、あなたは?」

「何言ってんだよ。だから俺だって」

「ハル、カナンだよ」


 ユイの言葉にもう一度その女の子をよく見た。言われてみればカナンだ。それにしても相変らず女装が似合っている。こんな可愛らしい少女に気がつかなかったなんて不思議なくらいだ。


「ハル様、認識阻害の効果です」


 そうだった。カナンは認識阻害の固有魔法を持っていた。それに髪が・・・。


「染めてんだよ」


 僕が髪を見ているの気がついたのかカナンがそう言った。カナンの髪はあの特徴的な真っ白ではなく茶色になっていた。僕やユイと同じで染めているようだ。


「カナン、どうしてここへ?」とクレアが尋ねた。

「お前たちに同行を断られたから勝手に来たんだよ。クレアだって私から一本取ってからだとかなんとか言って俺がついていくのを反対しただろう」

「確かにそう言いましたけど・・・」


 カナンは、ずっと僕たちに協力したいと言っていた。だけど、いろいろ理由をつけてトラリアに置いてきた。カナンを危ない目に合わせたくなかったからだ。


「ふふ、勝手についてくるなんて、あのときみたいだね」


 ユイの言葉にドロテア共和国で初めてカナンに会った頃のことを思い出した。相変わらずの言葉使いだけど、今のほうがずっと生き生きしている。僕たちのしたことがそれに少しでも役立ったのならうれしい。


「それにルヴェリウス王国にもまだ違法奴隷になっている同胞がたくさんいるんだ」


 確かにそれらしき獣人系の侍女や従者を見かけた。


「それでハルたちは、あの中に入りたいんだろう?」


 カナンは城壁を見た。


「そうなんだけど」

「だったらついてきて」


 そう言ってカナンは歩き出した。僕たちは言われるままにカナンの後を追った。それは人通りの少ない辺りに停まっていた。


 貴族のものらしき立派な馬車だ。


 貧しい身なりの少年たちが周りを見張っている。カナンとそう変わらない年に見える。


「お前たち、もういいぞ」


 カナンはそう言うとその少年たちに銀貨を数枚渡した。子供たちはそれを確認して頷くと去って行った。


「一応あいつらに見張ってもらってたんだ」

「カナン、これは?」

「まあ、中を見てくれ」


 その立派な馬車の中に入ると6人の人物がいた。6人のうち5人は手足を縛られて転がされている。残り一人はカナンと同じようなメイド姿だ。しかもカナンと同じ獣人系だ。


「お前、こんなことしてただで済むと思っているのか」

「は? 俺に逆らうのか?」

「ぐわあーー!!」


 カナンを罵倒した男は縛られたまま苦しみ出した。


「この苦しんでるのがなんとかっていう伯爵だ」

「伯爵?」

「ああ、そんで、隣が奥さんで、残り3人は使用人兼護衛らしい」

「なるほど」


 とすると縛られていない獣人系のメイドが・・・。


「私はモニカです」

「モニカは俺と同じで村ごと襲われてバイラル大陸から連れて来られたんだ」

「大変だったんだね」とユイが言うとモニカは目に涙を浮かべた。

「カナン様がバイラル大陸に帰してくれるって・・・」


 そこから先は言葉にならなかった。赤い顔をしてカナンを見つめている。


「それでこいつらをやつけてモニカを解放した。いやあ、それがこの護衛とかいう3人の剣士がさ。クレアに比べると全然弱くて拍子抜けしたよ」


 いや、クレアより強い剣士なんてこの世界にそうはいないだろう・・・。護衛が3人だけってことはルヴェンから出るつもりはなかったんだろう。それにしても護衛3人はカナンに手酷く痛めつけられたようだ。手足があらぬ方向に曲がったり片目が塞がったりしている。まあ、殺してないだけよかった。


「ハルがくれたこれが役に立ったよ」


 カナンは僕が渡した新型の奴隷の首輪を外すための鍵を見せた。


「逆にこいつら全員に新型の奴隷の首輪を嵌めてやったんだ。これまで何人かの違法奴隷の首輪を外したから持ってた」


 それでさっきカナンに危害を加えようとしたなんとか伯爵は苦しんでいたのか。実際には手足を縛られているんだから危害を加えることはできない。だけど危害を加えようと考えるだけで首輪の効果は発動する。それは僕もよく知っている。そしてあの苦しみも・・・。普通は人が耐えられるようなもんじゃない。それをカナンは耐えてエイダンの街を脱出したのだ。こう見えてカナンは凄いやつだ。


「よし、なんとか伯爵、俺たちを城壁の中に連れていけ! もし俺に逆らったら、どうなるか分かってるな」


 なんとか伯爵はコクコクと頷いている。あの苦しみを経験したのなら無理もない。


「カナン、それにしてもずいぶん準備がいいね」

「ちょっと前からハルたちが中に入りたそうにしてたから用意したんだよ」

「僕たちをずっと見張ってたの?」

「そうだぜ。気がつかなかっただろう?」


 うーん、カナンの認識阻害は前よりレベルが上がってる気がする。


「ハル、ユイ、クレアは椅子の下に隠れて、俺はモニカに成りすます。えっとなんとか伯爵と奥さんは連れて行くとして、護衛の3人のうち一人が御者だから・・・残り二人はとりあえずここに捨てとくか」


 カナンは一番傷の浅い護衛に御者をするように命じた。残り二人は建物の陰に放置することにした。


 まあ、彼らはどこにいようとカナンから逃げられない。逃げようと考えるだけであの苦しみが襲ってくるからだ。新型の奴隷の首輪に付け加えられた効果は、主から逃げられないこと、それに奴隷になった経緯を喋れないことだ。主に危害を加えることができないのは元からの効果だ。そして新型の首輪の場合、その効果に反することをしようとすると地獄の苦しみが待っている。


「お前が、ちょっとでも怪しい素振りを見せたら、なんとか伯爵を殺す。俺は躊躇しない」


 カナンがそう言うと、なんとか伯爵が「い、言う通りにするんだ」と御者役の護衛に命じた。


 護衛たちがちょっと気の毒だけどしょうがない。違法奴隷を売買するような貴族に仕えていたことを恨むんだな。


「それでモニカはどうするんだ?」

「ああ、この街で俺が親しくなった下町の連中がいるから、ことが終わるまではそいつらに保護してもらう」

「そんな人たちが・・・」

「ああ、その中には違法奴隷じゃないけどバイラル大陸出身者もいるんだ」

「なるほど」


 カナンはそうした者たちと親しくなる才能があるのかもしれない。カナンがモニカを預けに行っている間、僕たちは馬車を見張っていた。


 その後、僕たちは、なんとか伯爵夫妻とカナンに連れられて無事内側の城壁の中に入ることができた。


「カナン、ありがとう。助かったよ」

「な、俺も結構役に立つだろう」


 得意そうなカナンも可愛らしい。


 すでにコウキたちは王宮だろう。もう会議が始まっているかもしれない。どう考えても会議が決裂する未来しか見えない。コウキはルヴェリウス王国から独立したんだからと一応筋を通しに来ただけだ。もちろん民衆に必要なことはやったとアピールする狙いもある。


「で、ハル、これからどうやって王宮に入るの?」

「ハル様、それとも王宮の外で待機ですか」

「うーん」


 できれば王宮の中に入りたい。しかし、さすがに無理か・・・。


「なあ、こいつらまだ使えるんじゃないか?」


 カナンが伯爵夫妻を見て言った。


「なるほど。伯爵なら王宮にも入れるか・・・」

「だめだ、だめだ、お前たちみたいな奴を王宮に入れるなど」

「うるさいんだよ!」


 カナンが凄みを利かす。可愛らしい顔立ちなのに怖い。この年でこんな感じでいいんだろうか。


「そういえば、伯爵、名前を教えてもらえませんか」と僕は尋ねた。

「・・・」

「名前だよ。名前、早く言えよ!」


 カナンが殴り掛かる素振りを見せる


「ひっ! クロイド・バンクスだ」

「バンクス・・・」


 クレアが何か考え込んでいる。クレアはガルディア帝国のスパイとしてルヴェリウス王国騎士団に入り込んでいた。スパイとしてそれなりの知識はある。クレアは今度はバンクス伯爵の奥さんを見ている。


「奥様は、グノイス王の娘ですね。次女のカタリナ様じゃありませんか?」


 カタリナ、次女・・・。クラネス王女は第三王女だ。姉が二人いる。お母様が違うとかエリザベスお姉さまとか・・・聞いたことがある気がする。エリザベス、カタリナ、クラネスの3姉妹ってことか。そういえばグノイス王にちょっと似てる・・・のか?


「質問に答えろ!」


 カナンが声を荒げた。うーん、凄く悪者っぽい。バンクス伯爵の奥さんは、カナンの言葉に首をすくめて「は、はい」と返事をした。


「決まりだな」


 カナンはニヤっとすると「俺たちを王宮の中まで案内してもらおうか。王の娘夫妻なら問題ないだろう」と言った。


「貴様!」と言ってバンクス伯爵はカナンに掴みかかろうとしたが次の瞬間「がはっ!」と胸を押さえて蹲って痙攣した。


 しばらくしてもう一度カナンが「俺たちを王宮の中まで案内しろ!」と言った。「ひっ、ひっ」としゃくり上げるような声を出してバンクス伯爵は頷いた。その隣でグノイス王の次女でバンクス伯爵の奥さんであるカタリナは怯えたような目をして震えていた。


 やっぱり、どう見てもカナンのほうが悪者に見える。でも外見は可愛らしいメイド姿だ。ギャップが凄い。


 だけど、カナンのおかげで僕たちは王宮の中まで入り込めそうだ。

 実は密かに? ネット小説大賞に応募していたのですが、やっぱりダメでした。予想された結果とはいえ、ちょっと落ち込み気味です。やはり序盤の展開が遅くインパクトが少ないのかなー、などあれこれ考えています。プロットやアイデアは結構いいところもあると思うのですが、自信過剰でしょうか。本作も完結に近づいているので気を取り直して最後まで頑張りたいと思います。


 もし少しでも面白い、今後の展開が気になると思っていただけたら、ブックマークへの追加と下記の「☆☆☆☆☆」から評価してもらえるとうれしいです。

 また、忌憚のないご意見、感想などをお待ちしています、読者の反応が一番の励みです。

 よろしくお願いします。

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