8-24(コウキ~王宮からの脱出そして絶対絶命!).
寝坊して、投稿が遅くなりました。失敗・・・。
「そこを退いてもらおうか」
俺は、廊下の向こうで行く手を阻んでいる騎士たちに言った。
「どこへ行かれるのですか?」
「話し合いは決裂した。我々は帰るところだ」とギルバートが答えた。
「勇者様たちには今夜は王宮にお泊まりいただくよう指示を受けております」
彼らは俺を王とは呼ばない。
「お前たちの指示は受けない」
俺は冷静に返答をする。正面の騎士たちは剣を構えた。
「いいのか? 俺たちは強いぞ」
騎士たちの返事はない。
「勇者たちを逃がすな! 場合によっては殺しても構わん!」と騎士たちに指示したのはアトラスだ。いつの間に・・・。
勇者を殺してもいい、その言葉に騎士たちの間に動揺が走った。無理もない。勇者とはそれほどの存在なのだから。特にここルヴェリウス王国ではそうだ。
「退いてください。こっちも手加減できませんよ」
これは最後通告だ。俺はヤスヒコと違ってルヴェリウス王国の人を皆殺しにしたいわけじゃない。だが、必要な時にはやる!
相手は当然のように引かない。しかたがない。
「光槍!」
俺は巨大な光の槍を騎士たちに向けて放った。中級の光属性魔法だ。一度に多くの騎士を巻き込むように大き目に生成した。
「コウキ!」
マツリの声に俺はその場から飛びのいた。
「氷槍!」
今度はマツリが巨大な氷の槍を放った。
「炎爆発!」
マツリに続いたのはカナだ。騎士たちを炎の塊が包むと爆発した。
「ぐわー!」
「ごふっ!」
「あがー!!」
3つの中級魔法に次々と騎士たちが倒れていく。
「サヤ!」
「任せて!」
俺たちは盾を掲げるサヤを先頭に倒れた騎士たちを踏みつけて前に進む。ときどき相手からもバレット系の魔法が飛んでくるがサヤが盾で防いでいる。
すると今度は3人の騎士が一度に斬り掛かってきた。
「うおぉー!!」
サヤが気合を入れて巨大な盾を思いっきり前に突き出した。
「ガハッ」
「ぐぶっ!」
「あばっ!」
3人の騎士はサヤの盾に激突して大きく弾き飛ばされた。飛ばされた3人の騎士は床に倒れて痙攣している。失禁している者もいるようだ。サヤはあの巨大なワイバーンすら弾き飛ばしたことがある。
「サヤちゃん・・・」
「相変らず怪力だな」
「それは女の子に向かって失礼だよ」
「匂うから早く行きましょう」
こうして俺たちは次々と襲ってくる騎士たちを倒しながら進む。出口は一体どっちだ。
「コウキ左だ!」
ギルバートさんが指示する。曲がったとたんに騎士たちが数人現れたが、俺とギルバートさんが次々と斬り捨てた。狭い通路で魔法は使いずらいが、逆に相手も通路に何百もの騎士は入れない。少数対少数なら俺たちが圧倒的に有利だ。
こうして俺たちは無事に王宮の建物から脱出した。だが、勝負はこれからだ。王宮の敷地は広い。外でなら多くの騎士たちが動くことができる。それに対して俺たちが連れてきた騎士100人は、今俺たちと一緒にいる数人を除いて王宮の敷地の外で待機させられている。
「コウキくん、こっちだ」
見ると魔導士らしき男が立っている。
「セイシェル」
ギルバートがその男の名を呼んだ。
「ギルバートさん、話しは後だ。こっちが一番手薄だ」
「分かった」
俺たちはセシェルが示す方向に向かった。
「ここは」とマツリが呟いた。
そう、ここは俺たち専用の建物があるエリアだ。隣には魔導技術研究所がある。俺たちにはお馴染みの場所だ。
「ここから北へ行って北門から敷地の外へ出ましょう」とセイシェルが言った。
俺たちは俺たち専用の建物を南から迂回する。この向こうは広場のようになっているはずだ。
「マツリどうした?」
「今、何か音がしたような・・・」
「とりあえず、急ごう」
「ええ」
建物の南を迂回した俺たちはセイシェルの言う通り北に向って広場に出た。
「これは・・・」とギルバートが呻くように言った。
俺たちの前には一大隊と言えるほどの騎士たちが待ち構えていた。
「クラネス!」
なんと先頭にはクラネスがいる。
「コウキごめんなさい。コウキはなかなか魅力的だったんだけど、私、王妃じゃなくて女王になりたかったの。ね、お父様」
クラネスの呼びかけに騎士たちの間から進み出てきたのはグノイス王だ。隣には騎士団長のアトラスもいる。
「ああ、お前の望み通り、私の後継者はクラネス、お前だ」
グノイス王はクラネスに頷いた。
「コウキのことをね。お父様に報告しちゃったの。それでアルフレッドお兄様に代わって私がお父様の後継者になることになったの。私、アルフレッドお兄様やエリザベスお姉様があんまり好きじゃなかったから、とってもうれしいの」
クラネスは喜々として説明してくれた。俺は驚きを通り越して自分の愚かさに呆れていた。
「そうそう、コウキ。私ってお母さまじゃなくてお父様に似ているのよ。知ってた?」
クラネスは妖艶に笑った。確かに笑うとグノイス王に似ている。そういえば、最初に召喚されたとき二人が親子だとすぐに分かった。
「この程度で俺たちをどうにかできるとでも?」
俺は動揺を悟られないように尋ねた。実際、俺たちにはカナの魔法だってある。百人を一度に葬るような最上級魔法だってあるのだ。
「それができるんですよ」
答えたのはいつの間にかクラネスの隣に立っているセイシェルだ。
「あ、それとね、コウキ、私、セイシェルと結婚するつもりなの。ごめんなさいね」
そう言ってクラネスはセイシェルの腕を取った。
クラネスが女王になればセイシェルが王配になるということか。なんでこんな女のことを簡単に信用したんだろう。思えば俺に近づいてきたときも色仕掛けだった・・・。
「残念ですよ、コウキくん。本当はもっと王国の役に立って欲しかったんですけどね。まあ、コウキくんも気がついているんでしょうけど、異世界召喚魔法陣は改良されています。数年後には新たな勇者を召喚することができるでしょう」
セイシェルはずいぶん饒舌だ。
「セイシェル、俺は最初からお前が嫌いだった。胡散臭いと思っていた」
「ギルバートさん、それは私もですよ」
「俺はほとほとルヴェリウス王家には愛想がつきた。帝国を退けた恩人たるコウキ様たちを殺そうとするとはな」
「それは、コウキくんたちが独立なんて馬鹿なことを言い出したからですよ、ギルバートさん」
「先に俺やコウキ様たちを切り捨てようとしたのはそっちだ」
そのときグノイス王が一歩進み出た。
「勇者がなんだ! 異世界人など我々の言う通りにしてればいいのだ! そのために召喚されたんだろう!」
会議では落ち着いた態度を装っていたが、それが本音か・・・。ほんとに醜いなグノイス王。
「王のいう通りだ。馬鹿者が!」とアトラスも続いた。
ギルバートは元上司であるアトラスを馬鹿にしたように見た。そして次にセイシェルに向かって「セイシェル、お前、王配になったところで、碌なことにはならんぞ。その女の好いのは顔だけだ」と言った。
「ギルバート、ずいぶん失礼なことを言うのね」
「事実だ」
ギルバート短く答えた。
俺の隣で「顔だって私のほうが上よ」と呟いたのはマツリだ。
「マツリ、カナ」
俺は小声で二人の名を呼んだ。
「光矢雨!」
「氷矢雨!」
「天雷!」
俺、マツリ、カナの3人は乱戦になる前に魔法を相手に打ち込もうとした。今なら相手も固まっているから範囲魔法が使える。
しかし・・・。
「!?」
「コウキ!」
「魔法が発動しないよ」
頭の中の魔法陣に魔力が流れていかない。というより魔力を感じられない。そういえば、剣も持つ手が重い。これは、まるで・・・日本にいたときに戻ってしまったようだ。
そのときガシャンと音がした。見るとサヤが巨大な盾を地面に落としている。
「た、盾が持てない・・・」
盾を落としたサヤがしゃがみこんでいる。
「コウキ、あれ!」
マツリが上を指さした。見上げると、いつの間にか広場と俺たち専用の建物と魔導技術研究所を囲むように、ドーム型の光のカーテンが生成されている。
結界だ。
「君たち異世界人の力の源泉は魔力が多く魔力適性が高いことだ」とセイシェルが言った。
もしかすると・・・。
「君たちが暮らしていたこの場所になんの仕掛けもないと思っていたのかい? これは君たち異世界人の魔力を封じる結界ですよ。ついでに教えてあげますが、この結界には他にも効果があります。例えば通常の結界と同じく敵の侵入を防ぐとかね。その上、この結界魔法陣も異世界召喚魔法陣も決して破壊することはできません」
「馬鹿な・・・」とギルバートが呟いた。
「ギルバートさんも驚いたようですね。まあ、私だって知ったのはクラネスが王の後継者となり私が将来の王配になると決まってからですけどね」
セイシェルとクラネスは顔を見合わせて微笑んだ。
そうか、俺たちの暮らしていたこの場所にこんな仕掛けが・・・。これがあるから二千年もの間、異世界召喚魔法陣は守られてきたのか・・・。この結界は、ハルが言っていたアノウナキとかいう奴が異世界召喚魔法陣と一緒にこの世界の人族、いや、ルヴェリウス王家に与えたものなんだろう。それにしても、そもそも破壊することすらできないとは・・・。
だが、これほどの結界が永久に持つはずがない。
とは言っても、時間を稼ぐ方法も思いつかない。今俺たちの中でまともに動けるのは異世界人ではないギルバートたちだけってことだ。しかも結界によって援軍も期待できない。
絶体絶命だ!




