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8-22(ユウトと副団長ハワード~防御結界を破壊せよ!).

 辺りに、ゴゴゴーという低い音が響いて地面が少し揺れた。


「ハワード副団長、地震でしょうか?」


 ミカミ王国騎士団の副団長を務めるハワードにそう尋ねたのは第一部隊長のペティグルーだ。ギルバート、ハワードに続くミカミ王国騎士団のNO.3だ。


「違うあれを見ろ!」


 少し離れたところには立派な城壁に囲まれたルヴェリウス王国の王都ルヴェンの威容が見える。ハワードたちミカミ王国騎士団900人がいるのはルヴェンの南西の平原でルヴェンの西門からも南門からも丁度等距離にある。ミカミ王国の王である勇者コウキと騎士団長ギルバートに率いられてきた1000人の騎士のうち100人しかルヴェンに入ることが許されず残りはここで待機している。


「防御結界・・・ですか・・・」


 ルヴェンの城壁の四隅の塔から空に向けて光が矢のように照射されている。光の矢は上空で円形に広がっている。4つの光の円はやがて繋がり、最後はドームのような形を形成してルヴェン全体を包んだ。


「あれはコウキ様たちに何かあった証拠だ。結界を破るぞ!」


 ハワードとしてはルヴェンの中での市街戦は避けたいが、こうなったからにはそうも言っていられない。事前にアレクと同じくルヴェンにも防御結界があるだろうと予想されていた。しかもルヴェンの防御結界はアレクのものとは違い失われた文明の遺物ではないかと推測されているのだ。 


 ハワードは900人の騎士を率いてルヴェンを包む結界に近づいた。結界は薄く光っている。神秘的な光景だ。


 生きているうちにこんな光景を目にすることになるとは・・・。まさに神の御業のようだ。だが、今のハワードはこの神の御業のような防御結界を破ってルヴェンの中に突入しなければならない。


 やはり、無理だったのではないかという気持ちを抑えてハワードは「魔導士たちを前に出せ!」と指示を出した。


「あの塔の方角を狙え!」


 ハワードはルヴェンの城壁の南西の角にある塔を示した。結界は間違いなく4か所の塔から生成さている。


炎弾フレイムバレット!」

岩石弾ロックバレット!」

氷弾アイスバレット!」


 ハワードの指示で魔導士たちが結界に向かって次々に魔法を放つ。バンバンと魔法が結界に激突する音がするが結界はそのままだ。


「副団長、やはり、この程度では・・・」


 相手は失われた文明の遺物である。ここにいる魔導士のほとんどが初級魔法しか使えない。少数が中級魔法を使える程度だ。魔導士たちは全力で魔法を放つが結界はびくともしない。魔法を放つのには一定の間隔も必要で連続では無理だ。それでも他に方法もない。


「このまま続けるのだ」

「はい」


 確かにこの結界は強力だ。だが、強力な魔法の常として時間制限があるはずだ。これほど広範囲の結界を永久に維持することは不可能だ。そのためには魔石を次々に供給する必要がある。


「ハワード副団長、あれを!」


 ハワードがペティグルーの指さす方を見ると、大きな狼の魔物が結界の内側から体当たりで結界を破壊しようとしている。


「あれは、コウキ様の仲間のユウト様の従魔だ」





★★★





「ユウ様」

「ああ、結界が発動したね。タロウ!」

「キー」


 タロウが僕の指示に一声鳴いて返事をすると空に舞い上がった。僕はある程度従魔たちと意識をシンクロすることができる。上空から見るとどうやらハワードさんたちミカミ王国騎士団が南西からルヴェンに近づいてきているようだ。


「南西の塔に向かおう」

「ユウ様、ルヴェンの中に入っていてよかったですね」

「ああ」


 僕たちは冒険者活動をしている振りをしながらルヴェンを出たり入ったりしていた。ルヴェンの中で一か所に留まるのは危険だと判断したからだ。丁度僕たちがルヴェンの中にいるときに結界が発動したのは運が良かった。


 城壁の南西の角にある塔の周りには数十人の騎士たちがいた。


「ユウジロウ、クーシーは大きすぎて塔に入れないぞ」

「うん」

「クーシー、内側から直接結界を攻撃するんだ!」

「がうー!」


 クーシーは僕の指示に従って、城壁を飛び越えると結界に向かって走り去った。


「貴様ら何者だ!」


 南西の塔の周りにいる騎士の一人が尋ねてきた。


「ちょっと結界を破壊しに来た者です。通してもらえませんか?」

「なんだと、ぐわぁー!!」


 僕はみなまで聞かずにその騎士を斬り捨てた。すいませんね、と心の中で謝りながら続けて騎士たちを相手にする。彼らも任務だろうけど、こっちも仲間の命がかかっている。


「うおぉぉーー!!」


 僕たちはシャルカの盾を先頭に強引に塔の中に突入を試みる。


炎弾フレイムバレット!」

「がはっ!」


 ミリアが先頭の騎士に魔法を打ち込んだ。


「うおー!」


 ルルが両手に剣を持ってシャルカの盾を踏み台に騎士たちの中央に飛び込んだ。


「ルル! 無理をしちゃだめだ!」


 たちまち乱戦になった。





★★★





 狼の魔物という思わぬ援軍を得て、士気を取り戻したミカミ王国騎士団は再び結界の破壊に取り組んだ。


「やはり頑丈ですね」


 ペティグルーの言葉にハワードは頷く。だが、続けるしかない。このままではルヴェンの街に入ることすらできない。


炎弾フレイムバレット!」

岩石弾ロックバレット!」

氷弾アイスバレット!」


 魔導士たちが繰り返し魔法を打ち込む。だが、そもそも魔導士の数はそんなに多くない。内側からは相変わらず狼の魔物が結界に体当たりをしている。


 それでも結界が壊れる気配はない。


「おい、あれを見ろ!」


 騎士の一人が叫んだ。その騎士は空を見上げている。


「ま、まさか・・・」


 騎士たちがざわついている。そして揃って唖然とした顔で上を向いている。こんなときに一体何をやっているんだと思いながら、ハワードも釣られるように上を見た。そして、ハワードも他の騎士たちを同じように口を半開きにしたまま固まった。


 なんで、ドラゴンが・・・。


 上空にはなんとドラゴンがいた。よく見るとドラゴンの背に人の姿が見える。いや、魔族なのか・・・。


 そのドラゴンはハワードたちが攻撃している結界に近づくとなんと炎のブレスを吐いた。


 ゴゴゴゴオォォォーーー!!!


 結界の内側にいた狼の魔物も驚いて炎のブレスが当たっている辺りから離れている。誰もが唖然としてそれを見守っていた。しばらくしてブレスは終わりドラゴンが「ギャアァァーー!!」と高く鳴いた。まるで自分のブレスでも壊れない結界に怒っているようだ。


 今度は鋭い爪を持つ前足を下に向けてその赤いドラゴンは結界に激突した。そして、それを何度も繰り返している。ドラゴンが結界に激突するたびにグワアアァァーーン!!という音して大地が揺れた。


 それでも結界は壊れない。


 すると今度はドラゴンの背に乗った魔族の魔法なのか光り輝く巨大な剣がドラゴンの頭上に現れた。なんとドラゴンの巨体にも負けないくらいの大きさだ。 巨大な光の剣は凄いスピードで結界に向かって放たれた!


 ゴォオオーーーン!!


 巨大な光の剣はまるでガラスが細かい破片になって壊れるようにキラキラと光を反射しながら砕け散った。こんな場合なのにそれを美しいとハワードは思った。ハワードは一連の出来事をただ見ているだけだ。今日一日でこの世のものとは思えない光景を次々と見せられている。


 これは一体なんなのだ! あの光の剣の魔法はなんだ!


 水属性中級魔法である氷槍アイスジャベリンに似ているがその大きさと威力がまるで違う。ハワードが子供の頃絵本で見た勇者アレクが大魔王べラゴスを葬った魔法ようだ。だが、ドラゴンの背に乗った男はハワードが仕えるミカミ王国の王、勇者コウキではない。


 赤いドラゴンに乗った男が只者でないのは確かだ。そして、その尋常でない魔法でも結界は破壊されなかった。


 結界の内側からは巨大な狼の魔物が外側からは赤いドラゴンがもの凄い音を立てて何度も結界に激突している。


 ゴオオオォォォーーー!!


 ドラゴンから2度目のブレスが放たれた。それでも結界は壊れない。まだ壊れない結界に赤いドラゴンが怒りますます激しく結界に体当たりする。内側から狼の魔物もそれに続く。


 2体の魔物が結界に激突する音がグワングワンと辺リに響く。


 それでも結界は壊れない。王都ルヴェンを守るために神から与えられたという結界はそれほどまでに強力だ。


「お、お前たち魔法だ。よく分らんが魔物たちに続け!」


 やっと我に返ったハワードは魔導士たちに引き続き魔法で結界を攻撃するように指示した。


炎弾フレイムバレット!」

岩石弾ロックバレット!」

氷弾アイスバレット!」


 ミカミ王国騎士団の魔導士たちも再び魔法で結界を攻撃し始めた。


 そして、それは二度目の巨大な光の剣が結界に激突したときに起こった。一度目と同じように光の剣は轟音と共に砕け散った。しかし、一度目と違ってハワードの目には結界に細かいヒビが入っているのが見えた。それは最初は本当に小さなヒビだった。


 それでも、まるで神の裁きのような光の剣が、同じく神が与えたという結界にダメージを与えたのだ! 


 赤いドラゴンの首がうねる。そしてその首が後ろに引かれて口が大きく開いた。三度目のブレスだ!


 ゴゴゴゴオォォォーーー!!


 結界に入った小さなヒビが徐々に広がっていく、そしてそれは勢いを増しあっという間に結界全体を覆いつくした。


 バリーーーン!!!


 ルヴェンを覆っていた結界はまるでそれが光る細かい砂でできていたように崩れ落ちた。


 赤いドラゴンが「ギャーー!!」と今度は得意そうに鳴いた


「ハワード副団長、結界が破壊されました」

「ああ、そのようだ」


 そのとき最初と同じようにゴゴゴー!という地面が揺れるような感触と低い音が聞こえた。


 何だって!?


「ハワード副団長・・・また結界が・・・」 


 あれほど苦労して破壊した結界がまた再生されようとしている。4つの塔から再び光の矢が照射されているのだ。


「と、塔を、塔を壊せ!」

「無理です」


 ああ、なんてことだ・・・。絶望がハワードを襲う。

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