8-21(会議は踊る暇さえない).
前話がなんと300話でした。ですのでこれが301話ということになります。我ながらよく毎日投稿してきたなと感心します。これも読んで下さる方のおかげです。完結まであと少しとなっています。最後まで毎日投稿で頑張ります。
王宮の一室で長いテーブルを挟んで対峙しているのは、ルヴェリウス王国側がグノイス王、王太子アルフレッド、宰相のジェズリー・ライト、ルヴェリウス王国騎士団の団長アトラス・シグデマイルの4人、ミカミ王国側が俺、マツリ、サヤ、カナ、それにギルバートだ。その他にも部屋にはルヴェリウス王国側の宮廷騎士が数人、さらには事務方の高官も控えている。宮廷騎士の中にセイシェルさんの姿は見えない。もちろんクラネスもいない。
「勇者コウキよ。ルヴェリウス王国に戻ってくる気はないのか?」
グノイス王の何度目かの問に今まで通り、俺は否と答える。
「何度聞かれても同じです。俺をルヴェリウス王国の王にしてくれるのなら別ですが」
「王だと! 無礼だぞ!」
大声で叫んだのは騎士団長のアトラス・シグデマイルだ。
「そもそも、俺たちを勝手に召喚すること自体が犯罪行為です」
俺はできるだけ冷静に言った。
「勝手に召喚したことは申し訳ないと思っている。だが、この世界の人族も何も抵抗せずに魔族に滅ぼされるわけにはいかん。勇者を召喚できなければすでに人族は滅びていたであろう。あれは神が魔族に対抗するために我らに授けてくれたものなのだ」
「この世界の人族のことなど俺たちには関係ありませんね」
「なんだと!」と怒鳴なったのはまたもやアトラス・シグデマイルだ。
俺はアトラスを無視すると「百歩譲ってこの世界の人族も切羽詰まっていたとしましょう。そう、最初の魔王べラゴスに人族が滅ぼされかかったときのように。ですが、今はそうではありませんよね」
「魔王が出現したのは事実だ。だから、べラゴスのときと同じようになる前にお前たちを召喚したのだ」
「それも嘘ですね」
またも怒鳴ろうとしたアトラスを制して口を挟んだのは宰相のジェズリー・ライトだ。
「勇者殿、嘘とは? 何か根拠があるのかな?」
「まず第一に、ルヴェリウス王国は魔王がいないときにも異世界召喚魔法を使っている。しかも、神から与えられたという異世界召喚魔法陣を勝手に改造してだ。前回使ったのは10年前だ。しかも、そのときは召喚した者は全員死んでいる」
「その証拠は?」
俺は例の校章を取り出すと「これは俺たちが元居た世界のものだ。お前たちが10年前に召喚した者が持っていたもので間違いない」と言った。
本当は10年前か30年前かは分からないがとにかく最近のものだ。
ジェズリーは「ほー」と言って「それが異世界のものだと・・・」と呟くと俺が手に持った校章を観察している。
「ふん、そんなものが証拠になるのか?」とグノイス王が訊いた。
「俺たちには十分なんですよ」
「私たちが召喚されたとき、私たち以外に死んで召喚された人がいることも知ってるわ!」
マツリが冷たく言い放った。そのことはハルがタツヤの日記を読んだヤスヒコから聞いている。そのヤスヒコは今やタツヤという名とこの世界の人族への復讐を引き継いでいる。タツヤたちのことは俺もルクニールから聞いたから間違いない。俺とタツヤ、それにマツリとユキは仲が良かった。
「アカネちゃんが死んだ病気のことだって知ってたんでしょう!」
カナが続いた。一度蘇生されたタツヤもアカネと同じ病気で二度目の死を迎えた。ハルとクレアが訪れたタイラ村という場所でも同じような情報を得ている。
これまでの勇者一行は大体3人から多くても5人も程度だ。召喚されたときとその後の病気で死んでしまうからだ。そもそも生きて召喚できる人数も今より少なかった。それをこいつらは無理に改造しようとした。その結果、10年前の召喚では大量の人数が召喚されたが、結局その全員が死んだ。そしてルクニールがバラクから聞いた話では30年前はそもそも生きて召喚された者は一人もいなかったのだ。すべて、異世界召喚魔法陣をもっと短期間で使えるように、そしてより多くの異世界人を召喚できるようにと改造を試みた結果だ。
待てよ・・・。
改造しようとしたのは、今の王が初めてなのだろうか?
これはグノイス王が思いついたことなのか?
もしかしたら勇者アレクのときには最初から3人しか・・・。
「馬鹿な、そんなことがあるはずがない」
俺たちに言い返したのは王太子のアルフレッドだ。クラネスには似ていない。母親が違うと言っていた。
「父上そうですよね」
「もちろんだ」
王太子が演技しているのか本当に知らないのかは分からない。それに護衛騎士や高官たちも黙って俺たちの話を聞いている。この場にいる者たちには知らされているのか、それともそういう風に訓練されているのか・・・。俺たちにとってはどっちでも関係のないことだ。
「グノイス王、俺が言ったことには全て証拠がある」
「それなら見せてほしいものだな」
「これ以上の証拠の必要性は感じない」
俺はそう言って校章を掲げた。
「他にも証拠はいろいろあるが、俺たちが事実だと知っていれば十分だ。グノイス王、お前は犯罪者だ。退位しろ!」
「無礼者が!」
アトラスが立ち上がると剣を抜いた。
「私が相手になりましょうか?」とサヤが同じく立ち上がった。
「お前ごときがサヤさんの相手にはなりませんから止めたほうがいいですよ」
マツリが冷たく言う。
「貴様ら!」
「アトラス待て!」
グノイス王がアトラス騎士団長を制した。
「勇者コウキよ、言いたいことはそれだけか」
俺はギルバートを見た。ギルバートは頷くと「グノイス王、あなたが今回のガルディア帝国との戦争で、私や我が王であるコウキ様たちを切り捨てようとしていたことは明らかです」と言った。
「そんなことはない。お前もあの会議に出ていたから知っているだろう、ギルバートよ。私はお前に500の騎士をつけた。それで勇者たちとお前なら何とかなると思っていたのだ。実際にそうなった」
「それは結果論です。ドロテア共和国が我らに味方するなど予想していなかったでしょう。あれが無ければ負け戦でした。あの会議でもっと多くの援軍を出すよう私は進言しましたが受け入れられませんでした」
そう、あれはハルのファインプレーだった。そしてそれは誰にも、ハル自身にさえ事前に予想することはできなかった。
俺はギルバートに続いて「アレクのキング侯爵はな、お前たちが思っている以上にガルディア帝国の情報を持っている。最近は帝国にやられっぱなしだったんだから帝国のことを情報収集するのは当たり前だ。お前たちが水面下でガルディア帝国と交渉していたことは知っている。俺たちは今のガルディア帝国とは友好的な関係を築いているからガルディア帝国から証言でもさせようか?」
俺がここまで言えるのもハルのおかげだ。現在ガルディア帝国で権力を握っている旧貴族派の貴族にハルは顔が効くのだ。
アトラスとサヤは睨み合ったままだ。
二人をチラっと見たグノイス王は「勇者コウキよ、お前たちが強いことは知っている。しかし、ここには宮廷騎士団はもちろん、王国騎士団も控えている。今ここで争ってもお互いに傷つくだけだ」と言った。ずいぶんと冷静で有能な王を装っている。だがな、お前はそんなに立派なもんじゃない。
そもそも俺たちをここに呼んだのはお前だろう、グノイス王!
「グノイス王、一つ教えてやろう。お前は自分がそこそこ有能だと思っているようだが、歴代の王の中でもお前が一番無能だ。少なくともこれまでの王はこれほど短期間に召喚を繰り返したりはしなかった。それにここまで俺たち異世界人に反感を持たれたのもお前だけだからな」
「貴様、重ね重ね王に対して!」
今にも斬り掛かりそうなアトラスを再び制したグノイス王は「勇者コウキよ、お互いに冷静さを欠いているようだ。落ち着いて話し合おうではないか」と言った。
グノイス王はあくまで冷静を装っているがアトラスを制した手が怒りで震えており、その目には強い怒りの炎が宿っているのを俺は見逃さなかった。こういうプライドが高い奴は馬鹿にされるのが一番嫌いなことを俺はよく知っている。
その後も全く友好的でない話し合いが続いた。ときどき休息が取られ、その度にメイドたちがお茶やお菓子を持ってきた。獣耳のあるメイドもいる。
俺たちは決してお茶などに口をつけなかった。毒殺に注意するようにとクラネスからの手紙に書いてあったからだ。クラネスは鳥型魔物ジャターを使ってアレクにいる俺に連絡してきた。クラネスのことは誰にも言っていない。俺はその連絡を俺の情報源になっているルクニールからだと言って誤魔化した。
結局、話し合いは平行線に終わった。いや、罵り合っただけというのが真実に近い。
「勇者コウキ、今日は王宮に部屋を用意しよう。贅を尽くした夕食も用意しよう。その席で少しこれまでの話題から離れて世間話でもしようじゃないか。異世界のことでも聞かせてくれ」
グノイス王は鷹揚に言った。この後に及んでも大物ぶっているようだ。
「お断りします。毒殺でもされたらかないませんから夕食は結構です。いや、話し合いそのものが今日で終わりです。これで一応義理は果たしました」
隣でギルバートも頷く。俺たちはルヴェリウス王国から独立した。だから、対外的にも一度は会談を持つべきだと思ってここまで来た。そして、それは終わったのだ。
俺、マツリ、サヤ、カナ、ギルバートの5人は会議室を出た。外には連れてきた騎士のうち10人が待機していた。
「外に出るぞ!」とギルバートが言った。
「グノイス王たちを始末したいけどな」
「コウキ様、ここでは地の利が相手にあります」
「分かっている」
俺たちはとりあえず王宮を脱出することにした。しかし予想通り俺たちの行く手を阻む者たちが現れた。宮廷騎士団か王国騎士団のどっちかか、もしくは両方だろう。
「みんな、突破するぞ!」




