2-1(目覚め).
第2章の開始です。第1章は、設定や世界観を書く必要があり、特に最初の頃は一話あたりが長くなりがちで、途中で話を分割して投稿したり、また統合したりと試行錯誤の毎日でした。
第2章は、3000字から長くても5000字くらいまでに留めるように書いていく予定です。少しでも読みやすくなるように心がけますのでお付き合いいただけると幸いです。
「うーん・・・」
どのくらい意識を失っていたのだろうか?
「グォォォー!」
獣が咆哮する声が聞こえる。
目を覚まして、すぐに目に入ってきたのは、たくさんの見たこともないような種類の樹木だ。
僕がいるのは、樹木が密集して薄暗く鬱蒼とした森の中だった。地面には枯葉が積み重ねっているが、あまり日光が届かないのか少し湿っていてひんやりしている。
「ゴルゥゥゥー!」
また獣が咆哮する声と何者かが争っているような音がする。
顔だけ動かして音がする方を見ると、白銀の髪の大きな剣を持った少女が、巨大な四つ足の獣と戦っていた。
クレアさんだ!
クレアさんが相手にしているそれは、体長5メートル、いやそれ以上あると思われる巨大な獣。頭に特徴的な大きな二本の角がある。二本の牙が覗く口はクレアさんを一飲みにしていまいそうな巨大さである。
魔物だ! それもかなり高位の。
周りには、その魔物がなぎ倒したと思しき折れた樹木も見える。僕が目を覚ます前にかなりの時間戦闘していたらしい痕跡がある。
だんだん頭がはっきりしてきた僕は、その巨大な魔物が書庫にあった図鑑で見た伝説級の魔物であるハクタクにそっくりなことに気がついた。巨大な魔物、ハクタクの目の一つはクレアさんに斬られてすでに物を見ることはできそうにない。だが、ハクタクにとっては大したことはなさそうだ。なぜなら傷ついてだらだらと血を流している目以外にもハクタクにはまだ目が8つもあるからだ。額に三角形の頂点のように3つ、左右の胴体に3つずつの計9つだ。血を流しているのは額の目の一つだ。
「グオオォォォォォー!」
ハクタクが一際大きく咆哮する。
空気が震え地面が揺れる。
恐怖で体が硬直する。
クレアはさんはそれほどの咆哮に動じる気配がない。その凛した姿はオーラを放っているようだ。クレアさんはハクタクの攻撃を躱しながら、隙を見て斬り掛かる。同じような、動きを繰り返しているが、よく見るとクレアさんもあちこちに傷を負っている。このままではじり貧だ。
どのくらい時間戦っているのか、だんだんクレアさんの動きが鈍くなってきている。クレアさん自身もそう感じているのか、一瞬動きを止めて大きく息を吐いた。
次の瞬間、クレアさんは真っすぐハクタクに向かって走り、ジャンプした。ものすごい跳躍力だ。風属性魔法を補助に使っているのかもしれない。
そして渾身の一撃を振り下ろす。
クレアさんの大剣がハクタクの頭を切り裂いた瞬間、ハクタクは大きく首を振った。ハクタクの角に絡め取られたクレアさんは5メートルほども飛ばされて、さらにゴロゴロと転がって大きな木の幹に激突した。
ハクタクは、左の目に加えて頭からも血を流しながら、大きな2本の角をクレアさんに突き刺そうと突進してくる。ハクタクも必死だ。
クレアさんは、まだ体が痺れているのか、動きが鈍い。大きな木の幹を背になんとか立ち上がろうとしているけど間に合いそうにない。
「炎盾!」
ハクタクの二本の角がクレアさんに届いたと思われたその瞬間、僕はクレアさんとハクタクの間に炎盾を発生させた。僕はクレアさんの戦闘を見ながら魔力を溜めていた。僕が発生させたのは、クレアさんをギリギリ守る程度の大きさに留め、あとは強度に全振りした炎盾だ。
「グギャォーン!」
炎盾に激突したハクタクが、悲鳴とも咆哮ともつかない叫び声を上げる。
バリィィーーン!
炎盾は、ハクタクによって破壊された。
しかしハクタクが残った8つの目でとらえたその場所には、すでにクレアさんの姿はない。
下だ!
クレアさんはハクタクの巨体の下に滑るように潜り込んでいた。そして、ハクタクの喉を大剣で突き上げた。
「グゥゥルゥーーーーーーー!!」
ハクタクは、喉を突かれて、咆哮にもならない、奇妙は声をあげて、ドッとその場に蹲るように倒れた。クレアさんの大剣はハクタク自身の体重によってより深く刺さっている。
ハクタクは、しばらくピクピクと体を痙攣させていたが、やがて動かなくなった。
僕はハクタクの下敷きになって、足だけ見えているクレアさんも動いていないことに気がついた。
窒息でもしてるのか?
僕は、なんとかハクタクの顎を持ち上げ、ハクタクの死体の下から、クレアさんを引きずり出す。改めて見ると、やはり僕とユイを殺そうとしたクレアさんで間違いない。
クレアさんは、さっき木の幹に叩きつけられたときのものなのか、それより前にハクタクにつけられたものなのか、あちこちに傷を負っていた。よく見ると、右肩から胸にかけて、おそらくハクタクの角によってつけられたのであろう深い傷があり、ひどく出血している。
この傷で、あの動きをしてたのか。
他の傷と違ってこの傷はかなり深い。致命傷ともいっていい。このままでは間違いなく死ぬ。僕は、回復魔法は使えない。どうしたらいいのか?
近くに魔物の気配がする。僕の魔力探知能力は、みんなの中で一番というわけではなかったが、それでも通常の人よりは、はるかに優れている。
血の匂いに引かれているのか、複数の魔物が近寄ってくる気配がする。まだ距離はある。ハクタクの死体から離れたほうが良さそうだ。
僕は身体能力強化をするとクレアさんを背負って歩き出す。身体能力強化しても右足が痛くてゆっくりとしか歩けない。いつの間に痛めたのだろうか。
しばらく歩くと、やや背の低い灌木に覆われた場所に出た。さっきまでの巨木が多い茂っている場所と違い開けていて見通しがいい。すごく地面がぬるぬるしている。灌木の下は沼みたいになっているのかもしれない。
潅木の向こうに小川が流れているが見えたので、沼に注意しながら迂回して、小川のそばまで行ってクレアさんを下ろした。
僕は回復魔法は使えない。どうしたらいいのか?
そうだ! 魔物討伐の実践訓練のため渡されていた上級回復薬を持っている。
僕はアイテムボックスから上級回復薬を取り出すとクレアさんに飲ませた。飲ませた方法はユイには秘密だ。普通なら死んでいてもおかしくないような傷だけど、これで回復するんだろうか? ギルバートさんは上級回復薬はとても貴重なものだと言っていた。
他に僕にできることはないだろうか?
僕は、小川の水を大きく窪んだ石の中に溜めて、さらに平な石で蓋をした上、火属性の魔法で沸騰させた。胸当ては、破壊されて外れたのか、着けていなかったので、クレアさんの服を脱がせて、肩から胸の傷を煮沸消毒した水で洗った。この処置でいいのか分からない。
クレアさんの体は、その傷にもかかわらず、とてもきれいだった。ユイ以外の女の人の胸を見てしまった。ユイに心の中で謝った。傷が残らないといいんだけど・・・。
自分のシャツを煮沸消毒して、同じく火属性の生活魔法で乾かしたあと、破ってなんとかクレアさんの胸の傷に巻いた。そしてまた服を着せる。
それにしても、ここは一体どこなんだろう?
魔法陣で飛ばされたことは間違いない。また違う世界に転移したんだろうか? それとも、同じ世界のどこか別の場所なのか? ハクタクはルヴェリウス王国の書庫にあった本に載っていた姿とそっくりだった。おそらく違う世界に転移したわけではないと思う。そう信じたい。
何よりもユイは、ユイはどうなったんだろう? 転移した場所の周りに魔物の気配はあってもユイの気配は無かった。あのとき、ユイも魔法陣に飛び込んで来て・・・僕の目の前で消えた。ユイも魔法陣でどこかに転移したように見えた。
魔物が近づいてくる気配を感じたので、クレアさんを抱えてここまで移動した。移動の間も近くに人間の、ユイの気配はなかった。それは間違いないと思う。今も、魔物の気配はあるが、ユイの気配はない。だけど同じ魔法陣でまったく違うとこに飛ばされたとも思えない。
ユイを探さなくては・・・。
周りには複数の魔物の気配があるが、まだ距離がある。魔物たちはなぜかそれ以上はこの場所に近寄ってこない。ここにいても助けは絶対に来ないだろう。ここがどこかも分からない。とりあえず魔物の気配に注意しながら、しばらくここでクレアさんの回復を待とう。
その後、周りの魔物の気配に集中して、一晩中クレアさんを見守っていた。
さすがに疲れた。
眠い・・・。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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