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8-19(王都ルヴェンを調査せよ!).

「ハル、外側以上に厳重そうだね」

「うん」


 僕、ユイ、クレアの3人は物陰から内側の城壁の出入りを観察している。内側の城壁にも外側と同じで南、東、西、北の4つの門がある。今いるのは南門だ。


「ハル様、王宮の敷地の背後にある北門は一般の出入りは禁止されているはずです」

「そういえば、僕たちが生活していた建物や魔導技術研究所って王宮の敷地の北の方だったよね」

「はい」と返事をしたのはクレアだ。

「近くに宮廷騎士団の詰所もあります」


 宮廷騎士団と言えば近衛兵みたいのものだ。僕が師匠と呼ぶセイシェルさんは宮廷騎士団の魔導士部隊の隊長だ。師匠は元気だろうか?


「あれは商人の馬車かな?」

「あっちは貴族みたいだよ」


 貴族や商人が馬車で出入りしている。観察した結果、商人の馬車の出入りが一番多い。貴族はそれほど外側の街に出る用事がないのだろう。貴族なら何か用事があれば呼びつければいいのだ。


「あ!」

「クレア、どうかしたの?」

「いえ、ユイ様、貴族の馬車の中に獣人のような姿が見えた気がして・・・。気のせいかもしれません」

「だぶん、気のせいじゃないんじゃないかな。ルヴェリウス王国の貴族の間でも獣人系の使用人を持つことが流行ってるって聞いたよ。ドロテア共和国っていうかトルースバイツはガルディア帝国だけでなくルヴェリウス王国とも取引していたから違法奴隷かもしれないね」

「ハル様、もし違法奴隷なら」

「うん。解放してあげないとね」


 まだまだ、多くの違法奴隷が残っている。事件は完全に終わったわけじゃない。ゴンドさんが残していったバイラル大陸の調査団やレティシアさんたちがまだ調査を続けている。 


「とりあえず、東門と西門を見に行こう」

「うん」

「はい」


 その後、僕たちは東門と西門の出入りを観察した。その結果、馬車の出入りは南門が一番多い。というか南門以外の出入りは極端に少ないことが分かった。


「ユイ、どうかしたの?」

「え、ううん、気のせいだったみたい」

「ならいいけど」


 ユイは何かが気になったみたいだ。ユイは僕たちの中で一番魔力探知に長けている。最初に危険に気がつくことも多い。注意するに越したことはない。


「もう一度、南門に戻ってみよう」


 結局、その日は途中で昼食を取ったり、休息も挟んで時間帯も変えて4つの門を観察した後、みすぼらしい宿に戻った。一応北門も見に行ったが、クレアの言った通りで門は閉じられていて人の出入りはなかった。


「ハル、南門が一番出入りが多いけど、ほとんどが馬車だったよね」

「うん」

「ですが、夕方には徒歩で出てきた使用人らしい人もいました」とクレアが指摘した。

「うん。でも貴族の使用人って通いもいるの?」と僕は尋ねた。

「ハル様、貴族といっても平民とそんなに変わらない暮らしの人もいるので、使用人が通いということもあります」


 なるほど。以前訓練で王宮から出るときに見た内側の街の様子は、すべてが大邸宅というわけではなかった。王宮の近くほど大きな屋敷が多かった。


「ハル、通いの使用人らしい人には獣人系の人はいなかったね」

「逆に怪しいね」

「うん。獣人系の使用人は違法奴隷って可能性が高くなるよね。まあ、ビダル家の例もあるから違法でも奴隷でもない可能性もあるけどね」


 戦争が終結してレオナルドさんに会ったときにクレアがレオナルドさんから聞いたとこによると、ビダル家にいた獣人系の使用人はただの使用人で奴隷でさえなかった。バイラル大陸から渡ってきた人や、その2世などには普通に働いている人だっている。ただ、貴族の使用人として働いているバイラル大陸出身者、特に獣人系の人に違法奴隷がかなりの確率で混じっていることも事実だ。ここ数年、トルースバイツはガルディア帝国、実質的にはネロアや黒騎士団、それにカイゲル・ホロウと組んで、かなり派手に違法奴隷取引を行っていた。


「ハル、何か思いついたの?」

「いや、思った以上に警備は厳重だし、そもそも外側より人の出入りが限られているから中に入るのは難しいなって思って」

「だよねー」

「でもハル様、内側の城壁に結界はなさそうですね」

「うん。さすがにね」

「ハル、アレクで聞いた話では、アレクの結界はアレクを囲むように設置された4つの魔法陣で起動させるんだよね」

「うん。魔法陣はアレクの城壁の塔の地下にあるって話だ。塔の中央が吹き抜けになってるんだ。ルヴェンの外側の城壁にも同じような塔が4つある。絶対にあれが怪しいよ。だけど、この内側の城壁にはそんな仕掛けがありそうな場所はなかった」


 外側の城壁にある塔はユウトたちが調べているはずだ。内側の城壁は外側と同じで上部が凸凹している壁でできてるんだけどそれだけだ。とても結界のような大掛かりな仕掛けがあるようには見えなかった。


「でも、外側に結界が張られたらルヴェンの外にいるミカミ王国の騎士たちは中に入れないよね」


 コウキたちは1000人の騎士を連れているはずだけど、たぶん全員はルヴェンの街に入れてもらえないと予想している。


「うん」


 だからユウトたちは外側の城壁を調べている。だけど、仮にルヴェリウス王国がコウキたちに何か仕掛けてきて、それで外部からの支援を断つために結界を使ったとしても、それだけで勇者であるコウキをなんとかできるだろうか?

 騎士たちはルヴェンの街に入るのを断られるかもしれない。でも、全く護衛無しということもないだろう。ギルバートさんと一定の人数の護衛は一緒に入ることを許されるのではないか。コウキたち4人とギルバートさん、それにある程度護衛の騎士を連れていれば簡単にやられることはなさそうに思える。特に王宮の中ではそんなに大勢では動き難いだろう。外に出ればカナさんの強力な魔法だってある。マツリさんの聖属性魔法はユイと同じで神の御業のような回復魔法だ。逃げるくらいはできそうな気がする。


 でも、なんだか嫌な予感がする・・・。


「やっぱり僕たちだけでも内側に、できれば王宮に入り込みたい」

「そうだよね」


 相手に何か隠し玉があるとすれば、こっちは僕たちが隠し玉になりたい。


「私が通いの使用人に化けてもダメですよね」

「僕たちの身分を証明するのは冒険者証しかない。僕たちの名前は知られている。内側の城壁を通るには何か証明書みたいなのがいるはずだよ。そもそも、ここまでだって違法に入ってきてるんだからね、僕たち」

「そうですね」

「ハル、商人か貴族の馬車の荷台に隠れるのはどうかな?」


 ユイが言っているのは外側の城壁を抜けたときと同じような方法だ。


「うーん、協力してくれる商人や貴族に当てがない。ギルバートさんにその辺を聞いておけばよかったね」

「ハル様、一応荷台も確認してましたね」

「うん。クレアの言う通りだけど、隅々までって感じじゃあなかったし、偉い人の馬車ほどいい加減にしか調べてなかった気がする」


 協力者がいれば入れそうな気もする。でも今のところ協力者はいない。それに入った後、さらに王宮の中に入るとなると不可能にも思える。


「やっぱり、最初からコウキくんたちと一緒に訪問したほうがよかったのかな?」


 それは、何度も考えた。だけど、やっぱり僕たちは隠し玉として行動したほうがいいと思ったのだ。





★★★





「ユウジロウ、やっぱりあの4つの塔が怪しいな」

「シャルカの言う通りですね」

「ユウジロウ様、いざというときはクーシーも使って破壊しますか?」

「そうだね。いざというときにはね」


 城壁の東西南北に設置された塔が怪しいというのは事前に分かっていたことだ。それでも、僕たちは他にも怪しい場所がないか調査した。それが僕たちの役目だ。実際街の中にある公園や広場なども調べた。ルヴェンの街は広いのでなかなか大変だった。だけど、結局城壁の4つの塔以上に怪しい場所はなかった。


「ルルは勇者記念公園の勇者の銅像が怪しいって言ってたよね」

「はい」

「ずいぶん熱心に調べていたよな」


 ハルたちとの待ち合わせに使った勇者記念公園は凄く広い。それに緑が多くて人通りは少ない。ルルはハルたちから聞いた冒険譚に影響されたのか、銅像に触ったり魔力を流したりしていた。でも何も起こらなかった。


「ルル、勇者記念公園よりも」

「はい。中央広場に凄い数の騎士が待機していました」


 僕たちがあちこちを調査する中で中央広場に騎士団が待機しているのを見た。


「あれは、1000以上はいたな」とシャルカ。

「この辺に王国騎士って何人いるんだっけ?」

「ユウジロウ様、普段はルヴェン周辺には第一師団2500がいると聞いています」とミリアが説明してくれた。なぜか一番年下のミリアが一番情報をよく記憶している。

「うん」

「ですが、うち500はギルバートさんと行動を共にして今ではミカミ王国の騎士となっています」

「なるほど。じゃあ、残りは2000か」

「はい。その2000のほとんどが今ルヴェンにいるんじゃないでしょうか。中央広場に1000人以上、残りは内側の城壁の中や王宮の敷地の中など他の場所に待機している可能性があります」


 うーん、やっぱりミリアが一番しっかりしている。


「そうとう勇者たちを警戒しているみたいだな。勇者コウキは格好良かったから当然だな」


 シャルカの言う通りだけど、コウキが格好いいのと何か関係があるんだろうか? とにかく、こっちもできるだけの準備をしておかないとだ。


「ユウ様、それでこの後は?」

「予定通り、ルヴェンを一旦出よう。だけど、コウキたちが来たら、その前にもう一度ルヴェンに入る。結界が発動したら入れなくなる可能性があるからね」


 僕たちは冒険者証を示して堂々とルヴェンに入った。そして王宮から使いが来た。招待は断ったけど僕たちがルヴェンにいることは王国に知られている。僕は慎重な性格だ。一旦ルヴェンを出ておくのが正解だ。ハルにもそう言われた。


「その前に、タロウ!」


 僕が呼ぶと「キー」と鳴き声がしてタロウが空から降りてきた。僕は調査の結果と一旦ルヴェンを出ること、中央広場にたくさんの王国騎士が待機していることなどをハルたちに報せるための手紙をタロウに託した。

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