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8-17(ルヴェリウス王国からの招待).

 僕たちはミカミ王国王宮の一室に集まっている。元はキング侯爵の領主館だ。だけど、ルヴェリウス王国の最大の都市アレクの領主館は王宮と言ってもいい規模がある。

 集まっているのはコウキたち、僕たち、ユウトたちの他は宰相のキング侯爵とその側近たち、それに騎士団長のギルバートさんだ。

 僕たちはユウトの従魔タロウを通じて連絡を受け、急いでミカミ王国へ戻ってきた。ユウトたちはもともとミカミ王国で冒険者活動をしていた。


「陛下、招待に応じるのですか?」とキング侯爵が尋ねた。

「そのつもりです」

「うーん、4人で、ですか?」

「先方がそう要求していますから」

「私はコウキがダメって言ってもついていくわ」とマツリさんが言った。サヤさんとカナさんも頷いている。おそらく4人で事前に話し合っているのだろう。


 キング侯爵は考え込んでいる。


「陛下、これは明らかに罠です」とギルバートさんが言った。


 ギルバートさんは王になったコウキに丁寧に接している。


「それでも、行かないことには話が始まりません」

「それでは、私も騎士団を率いてお供しましょう」

「そうしてもらえると、助かる」


 僕は「ギルバートさん、何人くらいの騎士を連れていくのですか?」と尋ねた。


「そうだな。500・・・いや1000は連れていこう」


 1000か・・・。今のミカミ王国の騎士団の規模は3500くらいだと思う。もともとヨルグルンド大陸側には二つの師団で5000の戦力があった。それにギルバートさんがルヴェンから500を連れてきた。でも、2回の大きな戦いを経て残っているのはそのくらいのはずだ。戦いの激しさを物語っている。


「もっと連れて行っていいぞ、ギルバート」とキング侯爵が言った。さらに「今はドロテア共和国やガルディア帝国も我が国とは友好的だ。とはいえ、各都市や街の治安維持や魔物対策もあるから、全軍というわけにはいかないがな」と続けた。


 キング侯爵のそばにいる側近の人も頷いている。確か、リチャードさんだ。


「ルヴェンの周辺だけでもルヴェリウス王国騎士団の第一師団2000がいます」


 そのリチャードさんが言った。


「しかも、ローダリア近辺とクランティア近辺に第二師団と第五師団がいます。現在魔族との戦闘がどうなっているのか分かりませんが・・・」


 リチャードさんの言う通りで戦力的にはルヴェリウス王国のほうが圧倒的に上だ。だけど、先の戦争でも分かるように僕たち勇者一行は強い。別に己惚れているわけではない。それはルヴェリウス王国も分かっているはずだ。それでもコウキたちを招待するということは・・・。


「いや、1000でいい。ミカミ王国もまだ落ち着いているとは言えない。ないとは思うが、逆に俺たちの不在を突かれて困る。それに、いくら今は友好的だといってもすべての国境をカラにはできない」

「陛下、それはそうですが」


 キング侯爵たちは心配そうだ。


「エルロイ、心配するな。戦争に行くわけじゃない」


 コウキは落ち着いている。コウキは戦争に行くわけじゃないと言ったけど・・・。


「僕たちも行くよ」

「もちろん僕たちもね」


 僕に続いてユウトも言った。


「ハル、ユウトいいのか?」

「もちろんだよ。僕だってさすがにこの招待が怪しいのは分かるよ」


 僕の言葉にユウトも頷く。


「ハル、何か考えがあるのか?」

「コウキ、先の戦争で僕たちやユウトたちの存在はルヴェリウス王国にも伝わっていると思う」

「そうだろうな」

「それに、コウキたちを招待すれば、それなりの騎士団がついてくることも」

「ああ」

「それでも、コウキたちを招待するからには、何か考えがあるはずだ」


 コウキは頷くと「エルロイ、ギルバート、何か思い当たることはあるか?」と尋ねた。


 うーん、コウキは王様が板についている。


「陛下、まず王都ルヴェンは普通の都市ではありません」

「エルロイ、普通ではないとは?」

「はい。ルヴェンはかつて魔王べラゴスによって滅びる寸前だった人族に神が異世界召喚魔法陣を与えた地です」


 なるほど。ということは。


「神が与えたのは異世界召喚魔法陣だけでなく、それを守る方法もだと思慮します」


 異世界召喚魔法陣は2000年の間、人族の手にあり、それによって召喚された勇者が何度も人族を救ってきた。それは、凄いことであり、キング侯爵の言う通りでそれを維持する何らかの仕掛けがあると考えるのが妥当だ。


「そういえば・・・」

「ハル、何か思いついたのか?」


 あ、思わず声に出ていたようだ。


「う、うん。ルヴェリウス王国って神聖ルヴェリウス帝国の時代も含めて、ずっとルヴェリウスだよね。例えばドロテア共和国はここ200年だけとってみても大きな国が革命で分裂して、また揺り戻しがあったりして今の状態になったって聞いている。ガルディア帝国だって200年前の皇帝はトリスゼン家だった」

「その前も何度か政権は交代している」とキング侯爵が言った。


 僕はキング侯爵に頷くと「なのに、ルヴェリウス王国は国の名前に未だにルヴェリウスを冠しています。ルヴェリウス王家がずっと権力を握っているってことですよね。魔王べラゴスと勇者アレクの時代から」と言った。


「その通りだな」とキング侯爵。

「とうことは、何かそれだけ長い間、権力を維持する方法、具体的には異世界召喚魔法陣を維持する方法を、ルヴェリウス王家が持っているのではと思うのです。ルヴェリウス王家だけが知る何かを・・・」

「なるほど、さすがハルだな。それでエルロイ、さっき王都ルヴェンは普通の都市ではないと言ったな」

「はい。私も詳しく知っているわけではありませんが、まず第一に結界魔法陣はあるでしょう」

「それは、ここアレクにもあると言ってなかったか?」

「はい。私はここにあるものはルヴェンにあるものを研究して作られたものと想像しています」

「ということは、ルヴェンにはオリジナルの結界があると・・・」


 もし、ルヴェンにある結界魔法陣が失われた文明の遺物でオリジナルだとすると相当な効果があるはずだ。隷属の首輪と奴隷の首輪の違いを見ても想像できる。


「そして、さっきハル殿が言ったように更に何か仕掛けがあってもおかしくありません。そもそもルヴェンは二重の城壁に囲まれた街です」

「俺たちの目的の一つは、異世界召喚魔法陣を破壊することだが、それは簡単ではない可能性があるってことだな?」


 コウキの言葉にキング侯爵は頷いた。


 簡単でないどころか、もしかしたら・・・。


「ハル、どうかしたの?」


 ユイが小声で訊いてきた。


「うん。もしかしたら異世界召喚魔法陣はそもそも破壊することができないのかも。アノウナキ人から聞いた話が本当なら魔王と勇者が現れることはこの世界の仕組みの肝となる部分だよね。どっちかが現れないと戦争の行方はすぐ決まってしまう。そうはならないようにしてある気がする」と僕もユイに小声で返事をした。


 アノウナキ人の件は、さすがにコウキやユウトたち以外には秘密だ。


「そっかー。言われてみれば」 


 しばらくしてコウキが「とにかく俺たちは招待に応じる。エルロイやギルバートが心配しているようになんらかの罠があるのだろう。だが、今が決着をつけるチャンスでもある。もし、俺たちが死んだらこの国はエルロイに任せる。今状態ならドロテア共和国やガルディア帝国も協力してくれるだろうから簡単にこの国が亡びることはない」と言った。


「陛下、それでは」

「エルロイ、心配するな。万一の話だ。グノイス王の敵はルヴェンにもいる。ギルバート、お前は元はルヴェリウス王国騎士団の副団長だ。今ルヴェンにいる第一師団の師団長でもあった。お前を慕う者も多いのではないか?」

「それは、確かに・・・」

「それに、ギルバート、俺たちと一緒にここに来た第一師団第一大隊の騎士たちは、お前も含めてほとんどがこの国に残ることを選択してくれた。だが、家族がルヴェンにいる者も多いだろう。この際、お前たちの家族も含めてミカミ王国に連れて帰りたいと思っている」

「陛下・・・」


 コウキの言う通りで、コウキやギルバートさんに付いてきた第一師団第一大隊の500人の騎士は普段はルヴェンに配置されていた部隊だ。家族がルヴェンにいる者も多い。今では人質のような存在になっている。


 やはり、一度は話し合いを持つ必要がある。必ずしも王が行く必要はないと思うが、コウキは行く気だ。


 こうして、コウキたち4人はルヴェリウス王国との話し合いのためルヴェンに行くことになった。ギルバートさんは1000人規模の騎士団を率いて護衛するという。ユウトもルヴェンに行く。もちろん僕たちもだ。

 僕たち全員が行くのは危険かもしれない。それは分かっている。だけど、ミカミ王国のほうはもともとキング侯爵を盟主とする地域だ。失うものは何もない。それよりも決着を付けることを優先した結果だ。


 もしかして、コウキや僕たちは焦っているんだろうか? それでも僕はこの決断を後悔はしない。


 僕はこの世界に転移してからのことを思い出していた。イデラ大樹海での苦労を、その後の神聖シズカイ教国など大陸南部の国々でのことを、ガルディア帝国、エラス大迷宮、ドロテア共和国での出来事を、先の戦争のことを、そして何よりアカネちゃんの死と親友のヤスヒコのことを・・・。


 そして今僕は、最初に転移したルヴェンに戻ろうとしている・・・。

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