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8-13(終戦).

 結論から言うと、イズマイルとネロアが倒されて魔石に変わったことで戦争は終結した。ガルディア帝国皇帝のネロアと黒騎士団団長のイズマイルが魔石に変わったところは多くの騎士たちに目撃された。ネロアとイズマイルに近い者ほど多くがそれを目撃した。

 ネロアとイズマイルが人でも魔族でさえもなかったことは帝国騎士団だけでなくルヴェリウス王国やドロテア共和国側にも大きな衝撃を与えた。


 ユイとマツリさんが、敵味方関わらず多くの騎士に回復魔法を使ったことも戦争の終結に大いに貢献した。ネロアを倒した後倒れてしまった僕もさっき目を覚ましたばかりだ。なぜか今回はレティシアさんの膝の上で目を覚ました。僕が目を覚ましたのを確認したレティシアさんは、ニコっと笑うとすぐに戦後処理のため共和国軍の方に去っていった。


 その後、ルヴェリウス王国騎士団を率いているギルバートさん、ドロテア共和国軍を率いているレティシアさん、帝国白騎士団を率いている僕とも面識のあるグレゴリーさん、これらの人たちが戦争の終結と撤退を確認した。黒騎士団はネロアへの忠誠心が高かった分、今は混乱状態だ。ガルディア帝国側にはグレゴリーさんのほかになんとレオナルドさんもいた。


 グレゴリーさんがギルバートさんたちと戦後処理について簡単な打ち合わせをしている間に、レオナルドさんが僕たちのそばにやってきた。


「アディ、いや、クレア、元気そうだな。それに、また迷惑をかけた上、助けられたようだ」

「いえ、レオナルド様も無事で何よりでした。それに皇帝ネロアを倒したのはハル様です」

「そうか。ハル、ありがとう」

「・・・ある意味帝国の人たちも被害者ですから」

「そう言ってくれると、少しは気が楽になるが、この戦争で多くの人が犠牲になった。やはり俺たち帝国の人間の責任は免れない。すまない」


 レオナルドさんは頭を下げた。これからは賠償やら何やらで帝国も大変だろう。


「それより、これから帝国はどうなるのでしょうか?」

「そうだなー。うちの親父やグレゴリーの親父の出番になるんだろうな。黒騎士団は忠誠を誓うものを失った。皇帝ネロアは魔物だったんだからな。今でも信じられない気持ちだよ」


 僕は「これがネロアだったものです」と言ってネロアの魔石を見せた。


「これが・・・」


 レオナルドさんは魔石をしげしげと眺めると「こんなものに俺たちは従ってきたのか・・・」と言った。


「とにかく、日時や場所を改めて正式な戦後の話し合いの場が持たれるだろう。帝国にとってはしばらくキツイ時代になるかもしれないな。だが、それでも、皇帝ネロアは排除された。最近では多くの者が皇帝と魔族の関係を疑っていた。天国のヒューはこの結果を見てなんて思ってるだろうな」


 帝国の内乱でレオナルドさんの親友ヒューバートさんは亡くなった。皮肉にも、今になってヒューバートさんが目指していた皇帝ネロアの排除は達成されたのだ。

 少し肩を落としたレオナルドさんは最後にもう一度僕たちに頭を下げると帝国騎士団の方に去っていった。


「レティシアさん、打ち合わせは終わったのですか?」


 レオナルドさんと入れ替わるように、いつの間にか僕たちのそばにはレティシアさんが戻ってきていた。


「ああ、後日正式な話し合いの場を持つことを打ち合わせただけだからな。まあ、ゴンドさんが違法奴隷の件でガルディア帝国側に激しく抗議してたけどな。帝国とトルースバイツがしていたことを考えれば無理もない。ガルディア帝国もドロテア共和国もかなりの賠償金を支払うことになるだろうな。まあ、ジェフリーやカイゲルの私財もそれに充てることになる」


 それは当然のことだ。それよりも・・・。


「レティシアさん・・・」

「兄さんのことだろう?」

「はい」

「結局、皇帝ネロアは排除された。兄さんが仕えていたネロアも兄さんを殺したイズマイルも迷宮の魔物と同じような存在だった」


 レティシアさんは遠くを見るような目をしている。


「ハルくん、心配するな。私はこれで兄さんの敵討ちができたんだ。兄さんが魔物に仕えていたことには思うところがある。でもそれはガルディア帝国全体がそうだったんだ。まあ、そんなに割り切ってるわけじゃないが・・・。時間が解決するしかないだろう。冷たいと思うかもしれないが、最近では兄さんのことを思い出す回数も減っている気がする。まだ、兄さんが死んでそんなに経っていないのに酷い話だな」


 いや、それは誰だってそうだ。人は忘れる動物なのだ。それでも、僕は生きている限り絶対にアカネちゃんのあの笑顔を忘れない。たぶん、それはレティシアさんだって同じだと思う。


「それじゃあ、我々はドロテア共和国に引き上げる。ハルくんたちはどうするんだ?」

「僕たちは少しコウキたちを話がしたいと思っています」

「そうか、異世界人同士積もる話もあるだろう。ハルくん、ユイさん、クレアさん、またな。やっぱり『レティシアと愉快な仲間たち』は最高だったな」


 レティシアさんの言う通り『レティシアと愉快な仲間たち』は最高だった。でも、レティシアさんは大公代行としてしばらくは忙しい時間を過ごすことになるだろう。レティシアさんはリーダーに向いている。だけど、忙しい事務仕事をブツブツ言いながらこなすレティシアさんを想像するとちょっと微笑ましい。


「ハルくんどうしたんだ? やっぱりハルくんも私と一緒がいいのか。なんなら・・・」

「いえ、それは結構です」

「そうか、残念だなー」


 僕とレティシアさんのやり取りをユイとクレアも少し笑いながら見ていた。


「レティシアさん、また会いましょう」

「レティシアさん、またね」

「レティシア様、お元気で」


 レティシアさんは「おー」と言いながら手を振って去っていった。


 こうしてレティシアさんはドロテア共和国軍と共に引き上げた。もちろんゴンドさんやジャイタナさんジネヴラさんたちも一緒だ。ゴンドさんは去り際に「ハル殿、おかげで我らもガルディア帝国に多少借りを返すことができた。感謝する」と言った。カナンもガガサトもフランもバイラル大陸に連れて帰るとのことだ。本当によかった。


 そして・・・。


「コウキ、マツリさん、サヤさん、カナさん、みんな無事で何よりだよ」


 僕たちそばにコウキたち4人が集まってきた。僕の言葉に全員が頷いている。


「サヤちゃん、ハルくんに何か言うことはないの?」

「カナっち、何かって言われても。ハルくん、ユイさん、それにクレアさんも無事でよかったよ。それにほんとに久しぶりだよね」

「もうー、サヤちゃんったら、それだけなの」


 サヤさんは「いや、それだけって言われても・・・」と頭を掻いている。 


 そこへユウトが仲間たちを連れてやってきた。


「ユウト、改めて久しぶり」

「うん。ハルも元気そうだね」


 僕とユウトはお互いに軽く手を上げて挨拶した。


「ユウトくん・・・」


 カナさんの目がちょっと潤んでいる。 


「なんか、クーシーってまた大きくなったよね」


 僕はクーシーを眺めて言った。


「そうなんだよ。不思議だよね」


 カナさんが「ずいぶん仲間が増えたんだね」と言った。

「仲間が増えただけじゃなくて、ずいぶん逞しくなったな、ユウト」とコウキが付け加えた。

「当然です」とルルさんが胸を張る。


 そう言えば、コウキたちはユウトの仲間たちに会ったのは今回が初めてになるのかな。ガルディア帝国での事件のことも伝えてはいるけどユウトたちに会ってはいない。


「ルルにクーシー、シャルカとミリアにタロウだよ」


 ユウトが仲間たちを紹介する。紹介された面々は思い思いに挨拶する。


「ユウジロウ、なんで私がクーシーの後なんだ」

「いや、仲間になった順番だよ」


 シャルカさんはそう言いながらクーシーを撫でている。


「俺はコウキだ」

「マツリよ」

「サヤです」

「えっと、私はカナって言います」


 コウキたち4人も改めて名乗る。


「やっぱり勇者って格好いいよな」とシャルカさんが言うと、マツリさんの目が少し細くなった。


 それにしても、コウキがさっき言った通りでユウトはとても成長した。僕も成長できてるといいんだけど・・・。


「ハル、相変わらずだな。ハルも成長してるさ。それも凄くな。なんせ皇帝ネロアを倒したんだから」とコウキが僕の心を読んだように言った。


 コウキの言葉にみんな頷いている。クレアは得意そう顔を、ユイは、もっと自信を持っていいんだよ、とでも言いたそうな顔をしている。


「うん。ありがとう」


 それにしてもユウトの新しい仲間のミリアさんは可愛らしい。黒いドレスに大きめの黒いカチューシャのような防具を着けている。金髪にもよく似合っている。やっぱりユウトは趣味が良い。ミリアさんはカナンと同じくらいの年だろうか。カナンは一緒に来たがったけど、僕とジャイタナさんが説得してトラリアに残してきた。ふっと気がついたら、ユイがミリアさんのドレス風の防具を観察している僕を見ていた。


 本当に久しぶりに日本人7人が集まった。ここにヤスヒコとアカネちゃんがいればもっと良かった・・・。


 僕は「みんな、なんとか生き残れたね」と言った。本当にみんなと生きて再会できて良かった。


 僕の言葉に「ふん、勇者一行を甘く見過ぎなのよ」とマツリさんが言った。「そうだよねー。私たちって魔王だって倒す勇者一行なんだもんね」とユイが応じた。

「ユイさんの言う通りよ。四天王のそれも側近ごときが私たちをなんとかできるなんてあるはずがないじゃない」


 ユイやマツリさんの言う通りだ。カナさんの魔法は規格外だったし、サヤさんの膂力は尋常なものではなかった。ユイやマツリさんの聖属性魔法が凄いのは言うまでもない。そしてコウキはあのイズマイルを倒した。それにユウトの成長だ。僕だって『レティシアと愉快な仲間たち』の助けがあったとはいえ、ネロアを倒したんだから、みんなの言う通り、少しは成長したと誇ってもいいんだろう。


「なんといっても単独でイズマイルを倒したコウキが最強よ。さすが勇者ね」とマツリさんが得意そうに言った。

「いえ、ガルディア帝国のトップは皇帝ネロアです。それを倒したハル様が最強なのは疑いありません」

「二人とも何を言っているのですか、もっとも多くの帝国騎士を蹴散らしたのはユウ様ですよ。クーシーに跨ったユウ様の勇姿を見ていないとは言わせませんよ」

「ルルさんの言う通りです」と小さな魔導士のミリアさんがルルさんに同意した。


 マツリさん、クレア、ルルさん、ミリアさんが火花を散らして睨み合った。それを、他のみんなが呆れたように見ている。


「まあ、まあ、多数決でユウジロウが最強ってことでいいだろう」


 シャルカさんがまとめにかかった。でも、多数決って・・・。


「とにかく、みんな無事でよかった。もう少し再会を喜びたいところだが、ハルたちもユウトたちもとりあえずアレクに来てくれ」

「コウキ、僕たちが行ってルヴェリウス王国のほうは大丈夫なの」

「まあ、今更だろう。それにちょっと考えがある」

「どういう意味?」

「この戦いでは、俺たち4人とギルバートさんはルヴェリウス王国から切り捨てられようとしてたんだ」

「勇者を?」

「ああ、裏でガルディア帝国と交渉していたという情報を掴んでいる」


 そこまでして自分たちだけは生き残ろうとしていたのか。グノイス王め。異世界召喚魔法陣を使える間隔が改良により短縮されているのもあるんだろう。


「そういうことだからギルバートさんは信用できる。それにアレクの領主エルロイ・キングもなかなか面白い男なんだ」


 こうして全員揃ってルヴェリウス王国最大の都市アレクに向かうことになった。その後再会したギルバートさんは相変わらず渋いイケメンだった。

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