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8-12(『レティシアと愉快な仲間たち』対ネロアと親衛隊).

 僕はネロアとその親衛隊に近づくと、少し離れた位置から黒炎爆発ヘルフレイムバレットを放った。たちまち黒い炎の塊がネロアたちの頭上に出現し彼らを飲み込むように広がった。


「離れろ!」


 ネロアの指示で黒騎士たちが黒い炎の塊の範囲から離れようと移動する。同時にネロアは防御魔法も使った。


 ドゴォォォーーーン!!!


 轟音と共に黒い炎の塊が大爆発を起こした。僕たちはレティシアさんの盾の後ろで爆風に耐える。二段階の限界突破をしているので凄い威力だ。轟音に混じって黒騎士たちの悲鳴が聞こえる。


「相変わらず凄い威力だな」

「ちょうどネロアたちだけを攻撃するようにコントロールされているのもさすがです」

「カナさんの最上級魔法も威力は凄いけど、ここまで範囲を限定しては使えないもんね」


 レティシアさん、クレア、ユイが褒めてくれた。ちょっとうれしい。


 今ので親衛隊は一気に半減した。半分しか倒せなかったのは急いで黒炎爆発ヘルフレイムバレットの範囲外に逃げたからだ。ネロアもほぼ無傷だ。強力な魔法ほど発動に時間がかかる。それにネロアの防御魔法のせいもある。それでも今の一撃でずいぶん多くの人を殺してしまった。この人たちにも家族がいるだろう。


「これが戦争ってことだな」

「レティシアさん・・・」

「ハルくん、油断するな!」


 残った黒騎士たちが僕たちを取り囲むように集まってきた。


「一定の距離を取って全員で囲め!」


 やはりネロアは馬鹿ではない。ここからはいくらコントロールしても範囲魔法は使い難い。


「レティシアさん、いつも通りユイの守りをお願いします。それで、3人で残りの黒騎士たちの相手をしてください。無理に倒さなくてもいいです。牽制する感じでお願いします。こいつらはただの騎士ではなく精鋭です。くれぐれも慎重にお願いします」

「分かった。無理せず牽制だな」

「はい。その間に僕がネロアを倒します」

「ハル、大丈夫?」


 僕は「大丈夫だよ」とユイに返事をすると、心配そうに僕を見ているクレアにも頷いた。ネロアはイズマイルと違って魔導士タイプに見える。それなら僕一人でもなんとかなる・・・はずだ。ネロアを倒せば戦いは終わる。さっきは僕の魔法で多くの黒騎士を殺した。だけど、無駄にこれ以上犠牲者を増やす必要はない。


炎竜巻フレイムトルネード!」


 ユイが得意の竜巻系合成魔法を放つ。威力は最上級並の魔法だ。しばらくその場に残った上、その動きをユイがコントロールできる便利な魔法だ。


「うわぁー!」

「くそぉー!」


 数人の黒騎士が炎の竜巻に巻き上げられて悲鳴を上げている。ユイは巧みに炎の竜巻を操り黒騎士たちを牽制している。そしてそのユイをレティシアさんが守る。クレアはネフィーとかいう親衛隊のリーダーに斬り掛かった。


 ガシッ!


 二人の剣が交錯すると、すぐにネフィーはクレアから距離を取った。


 ネフィーは一撃でクレアの強さを察したのか「複数で囲むぞ!」とクレアに複数で対応しようとするが、黒騎士たちはユイの炎の竜巻に邪魔されている。


 その上・・・。


氷盾アイスシールド!」

氷盾アイスシールド!」

氷盾アイスシールド!」


 レティシアさんが次々と氷盾アイスシールドを展開して黒騎士たちとネロアを分断する。


「な!」


 これにはネロアも驚いている。さすがレティシアさん。『鉄壁のレティシア』の真骨頂だ。


 よし、これなら親衛隊の相手は3人に任せて大丈夫そうだ。3人のおかげでネロアに近づけるようになった。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 僕が狙ったのはネロアの馬だ。ネロアを乗せた大きくて黒い馬は「グヒーッ!」と嘶くと地面に伏せた。ネロアはすで下馬している。


 僕とネロアは向かい合った。


炎弾フレイムバレット!」


 ネロアが炎弾フレイムバレットを放ってきた。発動が速い。ネロアは炎の化身アグオスとかいうジーヴァスの側近だ。その二つ名の通り火属性魔法が得意らしい。最初に固有魔法と思われる範囲魔法をカナさんと打ち合っていた。まあ、カナさんのほうが威力は上だったけどね。


 確かに魔法の発動速度も速いし初級にしては威力も高そうだ。だけど、その程度なら・・・。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 僕は二段階限界突破した黒炎弾ヘルフレイムバレットを放つ。


 バーン!


 ネロアはバックステップして避けたが、黒炎弾ヘルフレイムバレットが地面に開けた穴を見て驚きの表情を浮かべている。


「やはり、謎の仮面男か・・・」


 動きからしてネロアも僕たちと同じで身体能力強化をしながら魔法を使えるのは間違いない。 


 僕は黒龍剣を抜いてネロアに斬り掛かった。


 カーンと剣と剣がぶつかる音が響く。いつの間にかネロアも剣を手にしている。魔導士タイプだと思ったが剣の腕も確かだ。そして・・・。何度か剣で打ち合った後、再び距離を取った。剣では互角だ。


「うわぁー!」


 僕の足元から炎が吹き出した。熱い! 僕はとっさにその場を離れたが右足に痛みがある。火傷したみたいだ。これは火属性上級魔法の炎柱フレイムタワーだ。発動が速い。それに、広すぎず、かといって僕が逃げられないように狭すぎない範囲で発動されていた。なかなかの魔法コントロールだ。炎の化身と呼ばれるだけのことはある。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 僕は黒炎弾ヘルフレイムバレットで反撃した。


炎盾フレイムシールド!」


 ネロアは防御魔法で対抗してきたが、僕の黒炎弾ヘルフレイムバレットはネロアの防御魔法を突き破ってネロアの脇腹を捉えた。当然だ。こっちは一段階だが限界突破している。


「ぐふっ!」


 ネロアは片膝を付いた。よし、いける!


 僕は間合いを詰めて剣で斬り掛ろうとした。そのときネロアがニヤリと笑った。


 僕の頭上から火球が降ってきた。僕はネロアに向かっていた足をギリギリで止めて避けた。この魔法は最初にネロアが使っていた固有魔法と同種のものだ。だけど、降ってきた火球は一つだけだ。


 いや、違う。


 僕の上からまた火球が降ってきた。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 バン、バン!と頭上に展開した黒炎盾ヘルフレイムシールドに火球が当たる音がする。


 一度に何発の火球を降らすことができるのか? 


 最初に放った範囲魔法と違って一定の対象に次々と火球を降らせる魔法か・・・。確かの二つ名に恥じない多彩な火属性魔法が使えるようだ。


 まずい・・・。


 バリン! 


 魔法の二重発動を使って二段階限界突破していた黒炎盾ヘルフレイムシールドが5発目の火球を受けて壊された。


 僕は転がるようにして火球を避ける。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 僕は、ヤケクソで限界突破していない即席の黒炎弾ヘルフレイムバレットを放った。それは意外にもネロアの頬を掠って傷をつけた。だけど、それだけだ・・・。


 くそー!


 また火球に当たってダメージを受けた。それでも僕は動きを止めずに右に左にと動き回って火球を避ける。だけど確実に火球は僕を狙ってくる。ネロアはさすがだ・・・。


 ああー。なんだか体中が熱い。


 やっと火球の雨が収まった後、僕はあちこちにダメージを受けてボロボロになっていた。


「ふっ」とネロアが笑った。


 その後、僕は防戦一方になった。僕は自分の状態を確かめる。あちこちを火傷して体が重い。


「ハル様!」


 クレアの声に僕は大丈夫だと身振りで伝える。こんなところで四天王の側近なんかに負けるわけにはいかない。一旦、ユイに回復してもらいたいとこだけど、ピンチはチャンスでもある。ここでケリをつけたい。それに3人は親衛隊の相手で忙しい。


 僕は、まだやれる! 僕は防御に徹しながら息を整える。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 僕の動作を見てネロアはすぐに距離を取る。


炎盾フレイムシールド!」


 しかも防御魔法まで使っている。ネロアも慎重だ。


 その後はジリジリとした攻防が続く。ダメージの大きい僕のほうが不利なことは否めないが、僕が謎の仮面男だと気がついてるネロアは限界突破した黒炎弾ヘルフレイムバレットを警戒して、迂闊に近づいてはこない。ネロアのほうもさすがにさっきの固有魔法を連発はできないようだ。


 だけど、そろそろ・・・。


 そのとき、頭上から火球が降ってきた。


 ついにきたか・・・。


 僕は全力でネロアに接近した。さっきのダメージで体が重いが僕は気力を振り絞る。逆にネロアは火球を降らせながら距離を取ろうとしている。


 僕とネロアの距離が縮まる。


 思った通りだ。火球を降らせているとき、ネロアは動きが遅くなるのだ。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 僕は、頭上に黒炎盾ヘルフレイムシールドを展開した。その形は細長い。僕とネロアの間の空中を覆うような形だ。二段階限界突破しているので、さっきの経験からすれば5発までは火球に耐えられるはずだ。


 僕は黒炎盾ヘルフレイムシールドの傘の下を通ってネロアに近づいた。僕の意図に気がついたネロアは黒炎盾ヘルフレイムシールドの傘の下から逃げようとする。


 僕はネロアを追う。次々と降ってくる火球が黒炎盾ヘルフレイムシールドに激突する音がする。


 バリン!


 ついに黒炎盾ヘルフレイムシールドが破戒され、何も遮るものがなくなった火球が次々と僕を襲う。あ、熱い・・・。最初の分と合わせてダメージが蓄積する。


 だけど、もう少しだ!


 火球のダメージで気を失いそうな中、僕はついにネロアの目の前に辿り着いた。


「ネロア!!!」


 僕は黒龍剣で上段からネロアを斬った。ネロアは剣で弾いたが、僕はすぐに追撃した。


「がはあっ!!」


 ネロアは僕の二撃目を防ぐことはできなかった。


 僕はネロアが再度固有魔法を使うのを待っていた。一度目のとき、ヤケクソの黒炎弾ヘルフレイムバレットがネロアの頬を掠った。それを思い出した僕は、もしやこの固有魔法を使っているとき、ネロアの動きは鈍くなるのではと思ったのだ。まるでブレスを吐いているときの火龍や氷龍のようだ。


 ネロアは膝をつき頭から血を流している。その顔に浮かぶものは、怒りか、絶望か、それとも・・・。


 そのとき僕は違和感を感じた。さっきからネロアは戦いながら様々な表情を浮かべていた。それなのに僕の目の前にいるネロアの表情から何も感じられなかったからだ。今まさにネロアは殺されようとしているのにだ。

 

「ネロア、これで終わりにしよう」


 僕はよろよろと立ち上がったネロアに向かって右手を突き出した。実は僕のほうも立っているのがやっとだ。ネロアは無言だ。その目には何も映っていないかのようだ。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 ズコッ!!


 絶対に避けることのできない近距離で発射された黒い鋼のような弾丸はネロアの胸を貫いた。ネロアは穴の空いた自分の胸に手をやると僕を見た。そして目を瞑ると仰向けにドサっと倒れた。


「ネロア様ー!」と叫んだのはクレアと戦っていた親衛隊のリーダーの女剣士ネフィーだ。


 ネフィーを始め黒騎士たちがネロアに近寄ろうとするが、レティシアさんの盾と防御魔法がそれを許さない。ユイも魔法で援護している。クレアが「ハル様ー!」と叫んで、なおも近づこうとするネフィーや親衛隊と争っている音が聞こえる中、僕は倒れたネロアをじっと見ていた。


 これは・・・。


 ネロアは死んでいるはずだ。胸にこんなに大きな穴が空いているのだ。なのに、その姿は揺れている。そして輪郭がぼんやりしてきた。


「みんな、これを見ろ!」


 僕は大声で叫んだ。


 ネロアの体を通じて地面が見える。透明になっているのだ。そして、その場に吸い込まれるようにネロアは消えた。そして透明な石が、魔石がその場に残された。僕はその魔石を拾い上げる。


 黒騎士たちから「ネロア様が・・・」と唖然としたような声が上がる・・・。

「これは迷宮の魔物と同じだな」と言ったのはレティシアさんだ。


 そのとき、少し離れたところからコウキの大声が聞こえた。


「ガルディア帝国黒騎士団の団長イズマイルは死んで魔石に変わった。イズマイルは人でも魔族でさえなかった。イズマイルは魔物だったのだ。帝国の者たちよ! お前たちは魔物に従っていたのだ!」


 い、イズマイルも魔石に変わったのか・・・。


「ガルディア帝国の皇帝ネロアも同じだ!」


 僕はコウキに続いて叫んだ。


「この戦争は無意味だ。両軍戦いを止めるんだ!」 


 僕はクレアと争っていた親衛隊リーダーの女剣士ネフィーを見た。そして「お前たちも見ただろう。これがその証拠だ!」と叫んで、ネロアだった魔石を高々と掲げた。

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