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8-11(コウキ~対イズマイル).

 俺はイズマイルの部下の一人を斬り捨てると「団長さん、そろそろ1対1と行こうじゃないか」とイズマイルに呼びかけた。すでに少し離れたところではザギとマツリたち3人の戦闘が始まっている。


「ふん、いいんだろう。お前たち手出しは無用だ」


 イズマイルの声に残った部下たちが俺とイズマイルのそばを離れた。魔族は特に強者ほどプライドが高いと聞いていたがイズマイルも1対1に応じた。


「ローダリアでは4人がかりでも俺のほうが有利だと思ったがな」とイズマイルが言った。


 確かにそうだった。だが、俺は勇者だ。こんなところで負けるわけにはいかない。


光弾シャイニングバレット!」


 俺は光弾シャイニングバレットを放つと同時にイズマイルに斬り掛かった。イズマイルも二振りの曲刀で応じる。


 何度も剣が交わる音が戦場に響く。速い! イズマイルはザギと同じくとても速い剣士だ。しかもパワーもある。だが俺も負けていない。全く互角の戦いが続く。


光弾シャイニングバレット!」


 俺は、また光弾シャイニングバレットを放った。イズマイルはそれを最小限の動きで躱すが、その隙に俺はイズマイルに迫る。


「ちっ!」


 イズマイルは舌打ちをして、一旦俺から距離を取った。


 イズマイルは首を捻っている。どうやらイズマイルは違和感を感じている様子だ。ローダリアでは俺たち4人を相手にイズマイルのほうが押していた。なのに、今は1対1で互角だからだろう。


「団長さん、どうしたんだ。前より遅くなったんじゃないのか?」


 実際、イズマイルは遅くなどなっていない。俺が速くなっているのだ。俺は勇者であり創生の神イリスの加護を持っている。身体能力強化に優れる異世界人の中でも特別その身体能力は高い。だが、これまで、それを必要とする相手にあまり出会えていなかった。しいていえば武闘祭のときのハルくらいだろう。俺は勇者として確実に成長している。あのローダリアでの戦も俺の成長を促した。


「団長さん、あんた魔族だろう。ローダリアでも会ったしな。たぶんジーヴァスとかいう四天王の側近だ」


 四天王ジーヴァスとやらの側近、剣魔インガスティ、ついさっきハルから聞いたばかりの情報だ。


「・・・」


 イズマイルは何も答えない。


「そして、俺は知っての通り勇者だ。四天王の側近程度が魔王すら倒す勇者に勝てると思っているのか?」


 俺はイズマイルを挑発するように笑った。


「貴様・・・」


 カーン! カーン!


 二度剣が交わる音がした。イズマイルが凄いスピードで間合いを詰め俺に斬り掛かってきたからだ。だが、俺はそれを冷静に剣で受け止めた。俺は一旦大きく距離を取った。さっきよりも両者の距離は離れている。


「どうした。俺が怖いのか? ずいぶんと距離を取ったじゃないか」


 今度はイズマイルが俺を挑発するように言った。 


光矢雨シャイニングアローレイン!」


 イズマイルの頭上から光の矢が降りそそいだ。


「な!」


 イズマイルはコウキが魔法を使う動作を見た瞬間反応してその場を離れていたが、光の矢は広範囲に降ってきたので何本かがイズマイルを掠り傷をつけた。光属性魔法は威力が高い。それに光矢雨シャイニングアローレインは上級だ。「うわぁー!」と声を上げて比較的イズマイルの近くにいた数人の黒騎士も逃げ出した。


「この、状況で上級範囲魔法だと・・・」


 イズマイルが驚くのも無理はない。似たような上級魔法である氷矢雨アイスアローレイン岩石矢雨ロックアローレインは攻撃範囲が広すぎて今のような乱戦では使い難い。味方を傷つけてしまう可能性があるからだ。実際、カナとネロアの範囲魔法の打ち合いも両軍が距離を取った状態でのものだった。

 だが、俺の放った光矢雨シャイニングアローレインは確実に俺自身や味方には当たらないようにコントロールされていた。イズマイルの周りにだけ光の矢が降り注いだのだ。


「いやー、ハルの魔法コントロールを参考にずっと練習していたからできそうだとは思っていたけど、上手くいって良かったよ」


 イズマイルの表情が歪んだ。


 イズマイルは今の魔法で傷ついた。しかも、これからは、次の光矢雨シャイニングアローレインを警戒しながら戦う必要がある。

 今度は俺から間合いを詰めて斬り掛かった。また互角の戦いが続く。いや、光矢雨シャイニングアローレインで傷ついたイズマイルを俺が押している。こういった戦いでは僅かな差が勝敗を分ける。イズマイルとしては一旦距離を取って立て直したいところだろう。だが、距離を取れば、また俺が光矢雨シャイニングアローレインを使うチャンスが巡ってくる。


 何度か斬り合った後、俺がイズマイルを押し込む。イズマイルの額に汗が滲む。


 いける! 


「イズマイル様!」


 そのとき、数人の黒騎士が俺に斬り掛かってきた。俺は黒騎士の攻撃を躱すと距離を取った。イズマイルはすぐに距離を詰めてくる。


光弾シャイニングバレット!」

「うっ!」


 光弾シャイニングバレットは一人の黒騎士を捉えてその生命を奪った。


「1対1じゃなかったのか?」

「ここは戦場だ」


 俺とイズマイルは凄い速さで剣でを交えながら会話する。黒騎士たちも俺を狙っている。数人の黒騎士にも注意する必要があるため、また互角に、いや今はイズマイルのほうがやや押している。


 だが・・・。


「確かにそうだな。だったら悪く思うなよ、イズマイル」


 俺とイズマイルが戦っている横から「うおー!!!」という声がしたと思ったら、サヤが大きな盾を構えて突進してきた。


 俺はさっとその場を離れた。


 ぐわあぁーーん!と大きな音がするとサヤはイズマイルと数人の黒騎士をまとめて盾で吹き飛ばした。


「ぐわぁー!!」

「ぶぼっ!」

「ああー!」


 イズマイルと黒騎士たちはゴロゴロと地面を転がって5メートル以上飛ばされた。勢いをつけ突進してきたとはいえサヤの怪力にその場にいる全員が呆気に取られた。


光矢雨シャイニングアローレイン!」


 俺はすかさず光矢雨シャイニングアローレインを放った。コントロールされた光の矢がイズマイルと数人の黒騎士に降り注ぐ。


「うあー!」

「ごふっ!」

「ぐぉっ!」


 サヤに弾き飛ばされ重なるように倒れているイズマイルと黒騎士たちに避けるすべはない。それでも、ヨロヨロと立ち上がったイズマイルに俺は斬り掛かってきた。


「グッ!」


 俺の剣がイズマイルを捉えイズマイルが呻き声を上げた。もう時間の問題だ。それでもイズマイルの目は死んでいない。俺は敵ながら大したものだと思った。俺はイズマイルを睨む。


 俺そばにはサヤのほかにもマツリとカナも集まってきた。


「ザギに思ったより時間がかかっちゃたわ」とマツリが言った。


 それを聞いたイズマイルは少し笑うと「やはり勇者や異世界人は馬鹿にできないな。あのとき地下通路で、あの3人と戦わずに引き上げたのは正解だったようだ・・・」と呟くように言った。


 イズマイルの表情からは何の感情も読み取れない。


「団長を、イズマイル様を援護しろ!」


 そのとき、どこからかこの戦いを見ていたガルディア帝国騎士団からそんな声が上がった。ガルディア帝国騎士団はルヴェリウス王国騎士団、ドロテア共和国軍、バイラル大陸の戦士たち、それにユウトたちを相手にしているのだから余裕はないはずだが、それでも、かなりの数の黒騎士、いや白騎士も混じっている、がこの場に駆けつけた。 


 だが、遅い!


 彼らが駆けつけたのも虚しく、すでにボロボロだったイズマイルは、俺の「終わりだ!」の一言と共に放たれた一刀で地面に俯せに倒れた。


「ま、まさかイズマイル団長が・・・」


 イズマイルはガルディア帝国の剣神だ。イズマイルが倒されたことで帝国騎士団に動揺が走る。


「やったわね、コウキ」


 俺はマツリの言葉に頷いた。


「コウキくん、あれ!」


 サヤの言葉に倒れているイズマイルを見ると、倒れているイズマイルが蜃気楼のよう揺れている。そして徐々にその姿は薄くなり消えた。その場には透明な石が残された。


 魔石だ・・・。


 この場にいる全員が唖然としてそれを見ている。ガルディア帝国黒騎士団にガルディア帝国白騎士団、それを追ってきたドロテア共和国軍やバイラル大陸の戦士たちもだ。


「め、迷宮の魔物と同じだ・・・」

「イズマイル団長は魔物だったのか・・・」


 俺自身も驚いていた。イズマイルが魔族なのは知っていた。四天王ジーヴァスとやらの側近らしいこともハルから聞いた・・・。だが、これは・・・イズマイルは人でも魔族ですらなかったのだ。


「なんらかの魔法で創り出されていたのかもね」


 ハルと同じで理論家のサヤが言った。


「サヤちゃん・・・」

「サヤさんの言う通りね。魔石に変わったんだから魔素でできてたんでしょう」


 これは使える。無駄に犠牲者を増やす必要はない。


 この場にいる多くの者がガルディア帝国黒騎士団団長イズマイルが死んで魔石に変わるところを目撃したのだ。

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