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8-10(マツリ、サヤ、カナ対ザギ).

 俺はマツリ、サヤ、カナを引き連れて黒騎士団団長イズマイルに迫る。ドロテア共和国軍やバイラル大陸の戦士たちが戦闘に加わったおかげでイズマイルに近づけるようになった。とはいえ、イズマイルの周りにはまだ数十人の黒騎士がいる。だが、敵が固まっているということは・・・。


「カナ、頼む」


 俺の言葉にカナは頷いた。


天雷ミリアッドライトニング!」


 カナは、サヤの盾の後ろから風属性最上級魔法である天雷ミリアッドライトニング放った。


 バリバリバリ!


 無数の稲妻が黒騎士に降り注ぐ。範囲は狭めに使っている。ハルほどじゃないがカナの魔法コントロールも確実に上達している。


 よし! 剣で追撃を・・・。


 しかし、天雷ミリアッドライトニングの範囲内にいた黒騎士たちはすでに息がなかった。範囲を狭めに使ったため威力が上がっていたのだ。そうでなくても天雷ミリアッドライトニングは伝説の最上級魔法だ! 


 これで一気に敵の数が減った。


 もちろん人には知恵があるので慌てて範囲外に逃れて生き残った者も少なくない。もともと俺たちの範囲魔法は警戒されていた。イズマイルもそうだ。


 俺は生き残っている黒騎士たちを次々に剣で相手をする。


 ズサッ!

 バシュ!


「うわぁー!」

「ぐふっ!」


 黒騎士たちは弱くはないが、サヤの魔法で動揺しているうちに次々と倒す。


光弾シャイニングバレット!」


 光属性魔法も使う。


「複数だ。複数でかかれ!」


 そんな声が聞こえたと思ったら数人の黒騎士が前から俺に迫ってきた。


 ズドーン!! 


 俺と黒騎士たちの間に巨大な氷の槍が突き刺さった。マツリだ!


 バシッ!

 ズシュッ!


「うわー!」

「グオッ!」


 俺は、一瞬怯んだ黒騎士2人を斬り捨てた。


 バーン!


炎弾フレイムバレット!」

「がはぁー!」


 少し離れたところでは、サヤが盾で黒騎士を弾いたところにカナの魔法が決まって、また黒騎士が数を減らした。


「イズマイル、こんな雑魚を差し向けても無駄に部下を減らすだけだぞ!」


 俺は大声でイズマイルに呼びかけた。その呼びかけを受けてなのかイズマイルが隣にいる黒騎士をチラっと見た。イズマイルもその黒騎士も騎馬している。


 その黒騎士は馬を俺たちの方へ向けて近づいてきた。その黒騎士は隻腕だった。仮面のようなものを着けているので表情は分からない。左手に剣を持っている。隻腕の黒騎士は素晴らしい身体能力で馬から飛び降りると俺に斬り掛かってきた。


 カーン、カーン、カーンと短い間に剣が3度交わる音がした。


 速い!


 すでに、お互い距離を取って対峙している。


光弾シャイニングバレット!」


 俺が光弾シャイニングバレットを放つが、黒騎士は簡単にそれを避けるともう目の前にいた。


 カーン!


 剣が交わった瞬間、俺はバックステップしてまた距離を取った。


「勇者、どうした? 逃げるだけか?」 

光弾シャイニングバレット!」


 俺は挑発に乗らず、再び光弾シャイニングバレットを放った。しかし、隻腕の黒騎士はそれも首をちょっと傾けて簡単に避けた。


「光魔法だか何だか知らないが、当たらなければ意味がない」


 隻腕の黒騎士が嘲るように言った。仮面をしているせいかくぐもった声だ。見るとイズマイルがすでに隻腕の黒騎士の隣いる。


 一人だけでも厄介なのに・・・。


 だけど俺にも仲間がいる。サヤが盾を持って俺の隣に立った。その後ろにはカナとマツリがいる。


「あら、貴方もしかして、謎の仮面男に無様に負けたザギって剣士じゃないの。今度は自分が仮面を着けてるなんてどういうつもりなの?」


 マツリの言葉に隻腕の黒騎士が怒っているのが仮面の上からでも伝わった。黒騎士は剣を持ったまま器用に片手で仮面を取ると投げ捨てた。俺は仮面を取った黒騎士を観察した。なるほど、確かにこいつはハルに負けたザギだ。それで隻腕なのか・・・。


「コウキは、そのイズマイルとかいう偉そうな奴をお願いね。ザギのほうは私たちで十分だからコウキが相手をするまでもないわ」


 マツリはザギを挑発した。


「貴様ー!」


 いきなりザギはマツリたちの方に斬り掛かってきた。


 バーンとサヤが盾でザギの攻撃を弾いた。なるほど、素早いザギを相手にするのはむしろサヤたちのほうが向いているかもしれない。


「それじゃあ、ザギのほうは任せたよ」


 俺はそう言うとイズマイルに斬り掛かった。イズマイルは二本の曲刀をクロスさせて俺の一撃を防いだ。俺は3人を心配してないわけではないが、それ以上に仲間を信頼している。





★★★





 ザギを挑発したマツリはカナと一緒にサヤの盾に守られている。残った黒騎士はザギ自身が手を出すなと身振りで示したため見守っている。どうやらザギが一人でマツリたちを相手にしてくれるようだ。


 思った通りプライドが高そうなザギが挑発に乗ってくれてよかった。マツリは今のうちにザギを倒さなければと思った。


氷弾アイスバレット!」

炎弾フレイムバレット!」


 マツリとカナはサヤの盾の後ろからバレット系の魔法でザギを攻撃する。しかし、それを躱すか剣で弾いてザギはサヤに迫る。「うおぉー!!」と気合を入れたサヤがザギの剣を盾で跳ね返す。


 さっきから、同じような攻防が繰り返されている。ザギは速いがマツリたちはほとんどその場を動かず向きを変えて常にサヤの巨大な盾の後ろにいるように移動して対応するだけだからなんとかなっている。

 それでもギリギリなのだからザギの速さは異常だ。ザギのような速い剣士には速さで対応するよりサヤのように盾で対応するのが有効だ。 


稲妻ライトニング!」

稲妻ライトニング!」


 今度は趣向を変えてマツリとカナで上から魔法で攻撃した。ザギは大きくその場を離れて二つの稲妻ライトニングを華麗に躱した。悔しいが素晴らしい反射神経だ。稲妻ライトニングは直撃しなくても近くにいるものを一瞬硬直させる効果がある。ザギはそれを察して大きく離れたのだ。


 これもだめか・・・。


 それにしても風属性魔法は発動が速いのが特徴なのに・・・。思った以上にザギの身体能力は高い。


 マツリは考える。


「カナさん、天雷ミリアッドライトニングは難しいわよね?」

「うん。この状態だと、さすがにみんなに当てずに使うのは難しいよ」


 天雷ミリアッドライトニングは超強力な魔法だが近接戦闘には向かない。そうこうしている間に距離を取っていたザギが再び近づいてきた。やっぱり、速い。


氷弾アイスバレット!」

炎弾フレイムバレット!」


 また、バレット系の魔法でマツリとカナが攻撃してサヤが盾でザギの攻撃を受けるということが繰り返された。


 バーン!


「うっ!」


 サヤが思いっきりザギの攻撃を跳ね返す。サヤの力技だ! 再びザギとの距離を取ることに成功した。マツリは落ち着てザギに対処しているサヤに感心した。


 やっぱりサヤさんは凄い・・・。


 それでも、マツリは徐々に押されているのを感じていた。やはり魔導士のほうが体力がない。隣を見るとカナも肩で息をしている。ザギのほうがマツリたちより遥かに動き回っているのに、その動きは最初と変わらない。


 またザギが斬り掛かってきた。


氷弾アイスバレット!」

炎弾フレイムバレット!」


 さっきまでと同じ攻防がまた繰り返されるのかとマツリが思った瞬間、ザギがサヤの盾を蹴ってジャンプした。ザギは上からマツリとカナを狙って斬り掛かってきた。速すぎて防御魔法の展開も間に合わない。そもそも魔法は使ったばかりだ!


 ガーン!


 仰け反るように盾を上に向けたサヤがギリギリでザギの攻撃を防いだ。それでも大きく態勢を崩してサヤは仰向けに倒れた。倒れたサヤにザギが剣を突き刺そうとする。


「サヤちゃん!」とカナが叫ぶ。


 サヤは下から盾を使ってザギの攻撃を防ぐ。サヤの膂力も凄い。ガシガシとザギの剣とサヤの盾がぶつかる音がする。下になっているサヤが不利だ。


氷弾アイスバレット!」

炎弾フレイムバレット!」


 やっと魔力を溜めることができたマツリとカナがバレット系魔法でサヤを援護したことでザギはサヤから離れて再び距離を取った。サヤは立ち上がり、マツリとカナもまたサヤの盾の後ろに陣取った。


 今のは、態勢を崩したサヤでなく自分やカナが攻撃されたら危なかったとマツリは思った。ザギを見ると悔しそうな顔している。たぶん、マツリと同じことを考えているのだろう。次はない・・・。


「サヤちゃん、大丈夫」

「カナっち心配ないよ」


 これは、そろそろ決着をつける必要がある・・・。


「これ以上、手加減できないから、次で終わりにするわね」とマツリはザギを挑発した。

「それは、こっちのセリフだ」


 マツリに挑発されたザギの顔は真っ赤だ。ハルと戦ったときより冷静だと思ったが、やはりそれほど性格は変わっていないようだ。


 これなら・・・。マツリは馬鹿にしたようにザギに笑いかけた。冷たい笑顔だ。


「貴様ー!」


 ザギがマツリたちに迫る!


炎弾フレイムバレット!」


 カナが炎弾フレイムバレットで牽制するが、ザギはそれを簡単に躱す。 


 マツリとカナを守るためにサヤが盾を構えて「おー!」と気合を入れる。カナがサヤの盾のすぐ後ろに立ち、さらにその後ろでマツリがサヤの巨大な盾に隠れるように屈んだ。ザギはサヤに接近すると、さっきと同じようにサヤの盾を蹴ってジャンプした。ザギは怒りの籠った目つきで挑発したマツリを狙っている。今度も仰け反るようにしてサヤが盾を上に向けた。

 マツリが「サヤさん」と小声で呼びかけると、サヤはマツリの声に反応して上に向けた巨大な盾を持ったまま転がるように横に逃げた。カナも一緒だ。


「ふん、あんたの小さな脳みそで考えることなんてお見通しなのよ」

「な! これは・・・」


 空中で剣を振りかぶったザギの目の前に氷の槍の切っ先があった。サヤの大きな盾に隠れてザギには見えなかったが、すでにマツリは氷槍アイスジャベリンを発動していた。

 ザギはスピードに優れる剣士だ。魔法を当てることは至難の業だ。魔法を発動するちょっとした動作にも反応する。それに魔法はどんな優れた魔導士が例え発動の速いタイプの魔法を使ったとしても、やはりほんの少しだけ発動までに時間がかかる。ザギには、そのほんの少しの時間があれば、魔法躱すか剣で防ぐことが可能だ。

 だから、マツリはサヤの巨大な盾の後ろ、完全にザギの死角となった位置で魔法を発動した。しかも、ザギが自分に攻撃してくることを予想して、ザギが攻撃してくるほんの少し前にすでに発動していたのだ。


「さようなら、性格が凄く悪い剣士さん」


 氷の槍はザギの顔面に激突し跡形もなく消し去った。ザギには悲鳴を上げることも許されなかった。ザギは片腕に続いて顔とその命を失った。最初から、ザギがいくら優秀な剣士でも勇者の仲間3人を相手にして勝てるわけがなかったのだ・・・。


 馬鹿な奴、他の黒騎士と一緒にかかってくればまだチャンスはあったのに・・・。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 もし少しでも面白い、今後の展開が気になると思っていただけたら、ブックマークへの追加と下記の「☆☆☆☆☆」から評価してもらえるとうれしいです。

 また、忌憚のないご意見、感想などをお待ちしています、読者の反応が一番の励みです。

 よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
あ、いかにもやられ役という終り方がですね。もう再登場の可能性が無いというのが……。
なんというか、ザギが可哀想になってきた。
流石のマツリ様ーーー!!
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