8-9(『レティシアと愉快な仲間たち』再結成).
コウキには遅すぎると言われたけど、なんとかギリギリに間に合ったみたいだ。それに、冒険者ギルドを通じてユウトにも連絡しておいたんだけど、ちゃんと伝わっていたらしい。
ユウトは僕たちのそばにやって来ると、飄々とした口調で「やあ、ハル、久しぶりだね」と言った。そこにはただ飄々としているだけでなく自信のようなものが感じられた。きっとユウトは成長しているんだ。
「うん。ユウトも元気そうだね、それに・・・」
「また、仲間が増えたんだよ」
ユウトの上には鳥の魔物が旋回している。それにシャルカの盾の陰になっているけど可愛らしい魔導士の姿が見える。ちょっと羨ましい。
「ミリアとタロウだよ」
「ミリアです」
女の子がちょこんと頭下げて挨拶してくれた。ということは、あの鳥はタロウなのか・・・。
僕は他のユウトの仲間たちにも目で挨拶した後、コウキに「どうする?」と尋ねた。
「ハルたちのおかげで流れは変わった。だが、まだ油断できない」
「うん」
「イズマイル団長は俺たちが相手をする。ハルたちはネロアを頼む」
「ネロアが戦場に?」
「ああ」
コウキの視線の先には大きな黒い馬に乗った男が見える。暗くて赤い髪をした大柄な男だ。あれがネロアか・・・。エリルの話では皇帝ネロアは炎の化身アグオスとかいうジーヴァスの側近だ。
「あいつは強力な火属性魔法を使う。気をつけるのよ。それと負けたら承知しないわ!」とマツリさんが言った。
僕はマツリさんに頷いた。ネロアよりマツリさんのほうが怖いから負けるわけにはいかない。
「ハルくん・・・。久しぶり。それにユイさんも」
「サヤさんも元気そうだね」
「まあね」
「私もいるよ」とカナさんが言った。
「う、うん。カナさんも久しぶり」
「サヤさんも、カナさんも元気そうでよかったよ」
ユイの言葉に「お互いにね」とサヤさんが答えて他のみんなも頷いた。
みんなの顔を見ると、さすがに胸にこみ上げてくるものがある。本当ならもっと再会を喜びたい。でも、今は時間がない。
僕は必要最小限の情報交換だけをすると「ネロアは引き受けたよ」と言って改めてネロアの方を見た。
皇帝ネロアを数十人の精鋭らしい護衛が囲んでいる。皇帝なんだから当たり前だ。亡きエドガーがリーダーをしていたイチイチのような親衛隊だろう。ネロアだけならともかくあれだけ精鋭がいたら厄介だ・・・。これは、できれば・・・。
「レティシアさん、僕たちと一緒にネロア討伐に加わってくれませんか?」
チラっとレティシアさんがネロアの方を見た。そして、ちょっとだけ間をおいて「ハルくんは相変らず美人のお姉さん使いが荒いな。まあ、いい『レティシアと愉快な仲間たち』再結成といこうか!」と言った。
僕、ユイ、クレアがレティシアさんに頷く。
「イネスさん、ケネスさん、そうわけで軍の指揮は任せた」
レティシアさんは、さっとスレイプニルから降りて僕の隣に立つと「行こう」と言った。相変らずレティシアさんは、こういったところの決断が速い。
「ユウトたちは、ドロテア共和国軍と一緒にギルバートさんたちを支援してくれ。できれば、イズマイルやネロアが孤立するように動いてくれると助かる」とコウキが言った。
ユウトは「分かった」とコウキに頷いた。
「勇者殿、そのイズマイルとかネロアとかいうのが強敵なんですな」
そう尋ねたのは特使ゴンドだ。
「そして、その二人は勇者殿とハル殿に任せてよいと?」
「ええ」
「分かりました。ジャイタナ、ジネヴラ、我らは他の者たちに勇者殿やハル殿たちを邪魔させぬように動こうぞ」
特使ゴンドの指示にジャイタナさんは「了解だ。どっちにしても帝国の奴らには目にものを見せてやる。バデナ村の恨みを忘れることはできない」と応じた。
まあ、帝国の騎士たちもネロアの指示に従っているだけで全員が悪人ではないんだろうけど、ここは戦場だ。
「ハルくん、遅いぞ!」
見るとレティシアさんはすでにネロアとその親衛隊の方へ向かって走っている。僕たちは慌ててそれを追いかける。それを合図にドロテア共和国軍やゴンドたち、そしてもちろんコウキやユウトたちも行動を開始した。
「レティシアさん、すみませんでした」
「なんだ、急に?」
「よく考えたら、レティシアさんはイズマイルのほうを相手にしたかったんじゃないかと思って」
レティシアさんのお兄さんのネイガロスを殺したのはイズマイルだ。
「なんだ、そんなことか。イズマイルはネロアのために動いたんだから同じだよ。どっちにしろ二人とも殺るつもりだったからな。それより、よく気がついたな、ハルくん。ちょっと見ない間にまた成長したようでお姉さんうれしいよ」
「レティシアさん、ありがとうございます」
たぶん気遣われているのは僕のほうだ。
見ると、クーシーに乗ったユウトが一番にギルバートさんの下へ駆けつけている。ユウトの頭上では大きな鳥の魔物、なんとタロウという名前らしい、が「キー」と鳴いて旋回している。
ユウトに先導されてユウトの仲間、そしてドロテア共和国軍がギルバートさんたちとガルディア帝国軍の間に割り込んだ。目に見えないほどのスピードで剣を振るっているのはイネスさんだ。さすがだ。
戦場は怒号と剣の交わる音、それに魔法の使われる音で満たされた。
ゴンドさんに率いられた100人くらいの部隊、ジャイタナさんやジネヴラさんもいる、が側面から帝国黒騎士団が固まっている辺りに突っ込んでいる。それにイネスさんとケネスさんが率いるドロテア共和国軍も続く。
強い!
ゴンドさん率いるバイラル大陸からの戦士の一団はもの凄く強い。僕はタイラ村の戦士たちを思い出した。
ギルバートさん率いるルヴェリウス王国騎士団は正面から帝国騎士団と激突している。それにユウトたちが加勢する。さらに側面からドロテア共和国軍が突っ込む。クーシーに乗ったユウトは縦横無尽に駆け回っている。
ユウト、本当に強くなったな・・・。
ユウトの仲間たちの連携も素晴らしい。シャルカの盾に守られながらミリアが火属性魔法を使って攻撃している。ルルは凄く速い二刀流の剣士だ。その上、空からはタロウが牽制している。
「炎超爆発!」
そのとき、カナさんの火属性最上級魔法が味方を巻き込まないように帝国騎士団の後方で大爆発を起こした。
ドゴォォォーーーン!!!
こ、これは・・・。
「ハル様の二段階限界突破した黒炎爆発にも勝るとも劣らない威力ですね」
クレアの言う通りだ。カナさんの魔法の威力は凄い。今ので一度に相当な数の敵を吹き飛ばした。味方を巻き込まないようにかなり後方で爆発したにもかかわらずだ。カナさんのメンタルが心配だ。僕はチラっとカナさん方を見る。サヤさんの盾に守られていてカナさんの表情はよく見えない。でも杖を掲げたカナさんは堂々としている。レリーフで見たことのある勇者一行の大魔導士にそっくりだ。きっと大丈夫だ。カナさんにはサヤさんが、僕たち仲間がいる。
今度は、カナさんの魔法に対抗するようにルヴェリウス王国騎士団の後方に無数の火の玉が降ってきた。あれが、ネロアの魔法か・・・。
カナさんとネロアの魔法の打ち合いはカナさんのほうが勝っている。カナさんはさすがだ。やっぱり、こいつらは勇者一行を、僕たち異世界人を甘く見過ぎだ!
戦場はすでに乱戦になっている。これからは、お互いにあまり広範囲の魔法は使えないだろう。
「ハルくん左からだ!」
隣を走るレティシアさんの声に戦場を見回す。なるほど、僕にも見えた。ネロアと親衛隊へ至る道が。
「みんな、行こう」
ギルバートさんたちルヴェリウス王国騎士団、イネスさんたちドロテア共和国軍、ゴンドさんたちバイラル大陸の戦士たち、そしてユウトとその仲間たちのおかげで、僕たちの前にネロアに至る道が開けている。それは、コウキたちも同じらしく、コウキたち4人もイズマイル団長に近づいている。
すでに人数的はこっちが有利になった。あとは僕たちがネロアをコウキたちがイズマイルを倒せば勝利は揺ぎないものになるだろう。
「ハル様、周りをかためているのはイチイチでしょうか?」
「まあ、同じような部隊だろうね」
「ハル、あの親衛隊みたいな部隊を率いている人も結構強そうだよ」
ユイの言う通りだ。親衛隊を率いている女剣士もかなりの強者であることが見て取れる。
「あれは、たぶんネフィーだ」
レティシアさんがそう教えてくれた。
「ネフィー?」
「『皇帝の子供たち』の一人で騎士養成所でも知られた名だ」
「なるほど」
「優秀な剣士だが、クレアには数段劣ると思うぞ」
レティシアさんはそう言ってニヤリと笑った。
エドガーの後任ってわけか・・・。
「で、ハルくん、いつものように作戦はあるのか?」
「はい」
「その、作戦とは?」
「単純です。ネロアは僕が倒しますので、親衛隊を3人でお願いします」
「ふむ」
「ハル、大丈夫なの?」
「いや、僕よりも親衛隊全員を相手にする3人のほうが大変だよ。でもユイの魔法があるし、レティシアさんの防御力とクレアの攻撃力があればなんとかなる」
「でも、ハル様が・・・」
「ネロアなんて、所詮四天王ですらない。その側近の一人に過ぎないんだ。大丈夫だよ」
「そうですね。ハル様が負けるわけありません」
「じゃあ、『レティシアと愉快な仲間たち』のみんな、作戦は決まったし行くぞ!」
レティシアさんの掛け声で僕たちはネロアたちの一団に突っ込んだ!
「炎竜巻!」
ユイが親衛隊に対して挨拶代わりの炎竜巻を打ち込む。
「うあぁー!!」と声を上げて数人の黒騎士が炎の竜巻の吹き上げられた。上々の出だしだ!
ユイ最強の魔法は隕石竜巻だが、あれは魔力の消費が激しすぎるのでほぼ封印状態だ。ユイには回復という役目もある。
少し離れた戦場では、同じようにコウキたち4人がイズマイルを相手に戦闘を開始している。
ん? あれは・・・。
イズマイルのそばに仮面を被った隻腕の剣士がいる。
まさか・・・。




