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8-7(コウキ~絶体絶命…).

 くそー!


 最初から予想されていたことだが、ドロテア共和国軍の登場により勝ち目がなくなった。できればドロテア共和国軍が参戦する前にケリをつけたかったが・・・。


「コウキ、どうする?」


 ユウトの質問にすぐには答えられない。


「コウキ、お前たちは機を見て離脱しろ。お前たちがルヴェリウス王国に殉じる必要はない」

「ギルバートさん・・・」


 ギルバートさんは昨夜から死を覚悟している様子だった。


「さて、どうするつもりだ。降伏でもするか?」


 ガルディア帝国騎士団の先頭に出てきてイズマイルと並んだ皇帝ネロアが言った。魔道具でも使っているのかここまで声がよく聞こえる。


「俺たちは降伏などしない!」


 大声で言い返したのはギルバートさんだ。

 

「我らはドロテア共和国軍だ。義によってガルディア帝国騎士団に助力する」


 ドロテア共和国軍の先頭に立つ人物が左側から声を上げた。こちらも、よく声が通る。宣戦布告のつもりだろうか。


「何が義だ?」


 ギルバートさんがドロテア共和国軍の方を向いて大声で訊き返す。


「お前たちルヴェリウス王国は帝国系住民や共和国系住民を虐げている」

「ふん、それが、やっとこじつけた理由か」

「なんだと!」


 ドロテア共和国軍の指揮官はギルバートさんの言葉に一瞬たじろいたがすぐに立ち直って言い返した。この指揮官はガルディア帝国の武闘祭でハルと戦ったドロテア共和国の剣聖ケネス・ウィンライトだ。なかなか気持ちのいい剣士でザギの非道にも怒っていた。それでも、国の命令となれば別ということか・・・。それともさっき口にしたことを本当に信じているのか・・・。


「どうやら話し合いは決裂だな」


 皇帝ネロアが皮肉な笑みを浮かべて言った。その後ネロアは一旦後方に下がった。ネロアの周りを精鋭らしき一団が固めている。イズマイルの方は先頭に立って待機したままだ。それに対峙しているのはギルバートさんだ。


 お互いに戦闘再開の準備は整ったようだ。前にはガルディア帝国騎士団、側面にはドロテア共和国軍、まさに絶体絶命だ。


 だが、一連のやり取りで時間は稼いだ。そろそろカナの最上級魔法が使える頃だ。だが、皇帝のネロアの範囲魔法も同じだろう。


 カナに合図して魔法を使わせた後、乱戦に持ち込むべきか・・・。だが、例えそうしたとしても、ドロテア共和国軍が参戦した今となっては勝ち目は薄い。しかし、他に方法もない。カナがこちらを見ている。すでに魔力も溜まったのだろう。俺の指示を待っている。


「コウキ・・・」


 ユウトが俺を見た。


 俺は故郷を守ろうとしているギルバートさんたちを見捨てる気はない。何より帝国のやり口は気に入らない。だが、みんなを巻き込んでいいものだろうか。そもそも俺たちにルヴェリウス王国のために戦う理由などないのだ。


「コウキ、私は逃げないわ。このくらいの逆境は跳ね除けてこそ勇者一行でしょう」


 マツリは俺の気持ちが分かっている様子だ。それでも、お前は逃げろと言いかけたが、俺がそれを言う前にマツリが首を横に振った。


「ふふ、マツリ、そうだな。俺たちは勇者一行だ」


 俺はくだらない勇者としての意地でみんなを巻き込もうとしているのかもしれない。


「それは違うよ、コウキくん」


 そう言ったのはサヤだ。


「私たちは私たちの意志でコウキくんと一緒に戦う」


 サヤの隣で杖を握りしめたカナも大きく頷いた。


「そうだな。コウキ、俺たちはたった9人の仲間だ」


 ユウト・・・。


 ユウトはユウトの仲間たちの方を向いた。


「ルル、シャルカ、ミリア、それにクーシーにタロウ、みんなは逃げて」

「ユウ様、私は逃げません!」

「同じくだ!」

「ユウジロウ様、最期まで一緒ですよ!」

「がうー」

「キー」


 ユウトの仲間たちもユウトと一緒に戦う気だ。どうやら覚悟は決まったようだ。


 相手のイズマイルとネロアもギロリと俺たちを睨みつけている。 


 まさに戦いが再開されようとしたそのときだった。さっきドロテア共和国軍が現れた方向から凄いスピードで何者かが近づいてくる。100人くらいの集団だ。俺たちが唖然としている間に、その集団は俺たちとドロテア共和国軍の間に割り込むよう位置取った。


「兄さんなぜここへ!?」


 ケネスが驚いた様子で集団の戦闘にいる男の一人に呼び掛けた。兄さん? ケネスの兄と言えば・・・。


 ドロテア共和国軍の中から「英雄イネス・ウィンライトだ!」と声が上がった。それに呼応して「そうだ、あれは英雄イネスだ」などの声も上がる。 


 あれがSS級冒険者のイネス・ウィンライトなのか。武闘祭でケネスは英雄イネスの弟だと紹介されていた。イネスはエラス大迷宮を攻略中だと聞いていたが・・・。


「お前たちは騙されている。帝国と繋がっていた大公ジェフリーは失脚した」

「大公が失脚? 一体何が?」

「ガルディア帝国と大公は結託してバイラル大陸の村を襲って違法奴隷を確保していた。奴隷として攫った者以外の住人を惨殺してだ。これまでに数百人のバイラル大陸の住人が犠牲になっている。違法奴隷取引で儲けた金はガルディア帝国とトルースバイツ公国に流れていた。おまけに大公は私腹も肥やしていた。バイラル大陸側は怒り心頭だ。今、バイラル大陸との交易ができなくなればドロテア共和国には大きな痛手だ。それどころか、こちらの態度によってはバイラル大陸側は戦争も辞さない構えだ」

「違法奴隷、村ごと襲う? まさか・・・。兄さん、それは本当なのか」

「本当だ。俺の村も奴らに襲われ多くの村人が殺された」


 二本の角がある大柄な男が口を挟んだ。


「あなたは?」

「バイラル大陸出身の冒険者でジャイタナだ。おまえの兄の元パーティーメンバーでもある」

「証拠は揃っている。だからこそ、大公ジェフリー・バーンズは失脚したのだ」


 そう補足したのはジャイタナにも負けないくらい大柄でこちらも明らかに獣人系の男だ。この男は誰だ?


 俺の疑問を感じとったかのように男は「わしは、バイラル大陸からの特使ゴンドだ」と名乗った。


 バイラル大陸からの特使・・・バイラル大陸の代表ってことでいいのか・・・。特使の後ろには屈強なバイラル大陸出身らしい戦士や魔導士たちが控えている。


「そういうわけで、ケネス、ドロテア共和国軍はルヴェリウス王国軍に加勢するぞ」

「兄さん、それは一体誰の命令で」


 ケネスが問う。


「私だ!」と答えたのは大きな盾を手にした女だ。どちらというと騎士というより冒険者の格好をしている。そんな大きな盾を持った女を乗せているのはスレイプニルだ。


「あれは!」という声が聞こえた。そして「英雄レティシアだ!」という声もだ。


「私はSS級冒険者『鉄壁のレティシア』だ! 大公ジェフリー・バーンズの失脚によりドロテア共和国議会から大公代行を任命された。敵はガルディア帝国だ!」


 あれが、噂のSS級冒険者『鉄壁のレティシア』か。最近、ジークフリート、イネスに続く3人目のSS級冒険者になった。女性であることもあり大人気だ。特に故郷のドロテア共和国ではそうだと聞いている。3人の中で最強だとか、勇者パーティーでも無理だったエラス大迷宮を攻略したとか、その噂には事欠かない。その『鉄壁のレティシア』がなぜここに・・・。


 ドロテア共和国軍からはレティシアの登場により歓声が上っている。いや、帝国騎士団の間からさえ「『鉄壁のレティシア』だ!」などの声が上がっている。どうやら帝国でも有名人のようだ。


「ガルディア帝国は大公ジェフリー・バーンスと結託して我らの同胞を違法に奴隷にして虐げてきた。100人単位の同胞が殺されたのだ! バイラル大陸の戦士は借りは必ず返す!」


 バイラル大陸からの特使ゴンドが叫ぶ。その隣にいる獣人系でさっきイネスの元パーティーメンバーだと言った男と女性魔導士が、ゴンドに続いて皆を鼓舞するように「ゴンド様の言う通りだ。奴らに鉄槌を下すぞ!」、「お前ら、バイラル大陸の戦士の矜持を見せろ!」と大声で叫んでいる。


 完全に潮目が変わった。ドロテア共和国軍がこっちに味方すれば、しかも英雄と呼ばれているSS級冒険者が二人もいる。ゴンドとゴンドの連れている戦士たちもただ者ではなさそうだ。


 だが、それよりも・・・。


 一団の中から3人の冒険者らしき人影が俺たちに近づいてきた。ハルとユイ、それにクレアだ。


 ハルは俺を方を見てニコっと笑うと「間に合って良かったよ」と言った。俺は「ふん、ギリギリだったけどな」と答えた。俺は冒険者ギルドを通じて、つい最近ハルからの手紙を受け取った。だが、そこには、必ず助けに行く、としか書いてなかった。


 ハルの奴め・・・。


「ごめんね。僕はいつも助けに来るのが遅いみたいなんだ。前にユイにもそう言われたよ」

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!!!!!!ε-(´∀`*)ホッ
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