8-5(コウキ~対獣騎士団その3).
俺たちとユウトたちは魔物たちを倒しながら徐々にサイクロプスに近づく。
「勇者様」
サイクロプスを囲むように相手にしていた騎士の一人が俺に声を掛けてきた。
俺はその騎士に「サイクロプスと魔導士は俺たちが引き受けます。皆さんは他の魔物たちを頼みます」と言った。
「分かりました」
その騎士の指示でほかの騎士たちもサイクロプスのそばを離れる。
「ユウトたちも他の魔物を頼む。できるだけここに近づけないようにしてくれると助かる」
できるだけ邪魔の入らない状況でこいつらを相手にしたい。
「分かった」
ユウトが返事をしてユウトの仲間たちも頷いた。ユウトが「ミリア、絶対にシャルカのそばを離れるんじゃないよ」と指示している。
「みんな、騎士たちとユウトたちが他の魔物たちを相手にしてくれている間にこいつらを倒すぞ!」
「ふん、できるものならやってみろ!」
ケルカが叫ぶ。
「もうワイバーンは3体とも倒したぞ」
「なんだと!」
ケルカは今初めて空にワイバーンが飛んでいないことに気がついたようだ。
「貴様ら!」
「勇者を甘く見るな! 俺たちは魔王すら倒す者だ! お前ら雑魚など相手じゃない!」
俺は自分に気合を入れるように言った。同時に俺はケルカに斬り掛かった。ケルカはすぐにサイクロプスの背後に逃げた。魔導士にしてはいい動きだ。魔族も俺たちと同じように魔導士でも身体能力強化をしながら戦えるのかもしれない。
サイクロプスは俺に近づき太い腕を振り回す。
「岩石錐!」
俺に近づこうとしたサイクロプスがマツリの魔法に足を取られて大きく態勢を崩した。
「炎柱!」
「ぐぉー!!」
態勢を崩したサイクロプスの足元から炎が吹きあがる。カナだ! サイクロプスはなんとか炎の中から逃げ出したが、そこで膝をついた。
「マツリさん、こっちに」
サヤの声にマツリは慌ててサヤの盾の後ろに避難する。さっきまでマツリがいたところに炎弾が飛んできた。ケルカの仕業だ。サヤは盾でカナとマツリの二人を守りながら冷静に戦況を観察している。頼りになる。
俺は膝をついているサイクロプスに光の聖剣で斬り掛かった。
ズサッ!
ズシュ!
「ゴアァァァーーー!!!」
俺がサイクロプスの2回斬ると、サイクロプスの咆哮が戦場に響いた。
「炎弾!」
「氷弾!」
膝をついて血だらけで咆哮しているサイクロプスに向かって、サヤの盾に守られているカナとマツリが同時に魔法を放った。
バリン!
カナとマツリが放った魔法は炎の盾に防がれた。ケルカだ!
「コウキ、角を狙って」
そういえばハルとお互いにいろいろと話したときに、イデラ大樹海でサイクロプスと戦った話も聞いた。よく生きて脱出できたものだと感心したが・・・。あのときハルはサイクロプスの弱点は角だと言っていた。マツリはそれを覚えていたんだろう。さすがだ。
態勢を立て直したサイクロプスが腕を振り回して俺を攻撃してきた。俺はバックステップで避ける。サイクロプスが近づく。
「岩石錐!」
マツリの魔法によりサイクロプスの足元に岩石のドリルが生成された。さっきと同じだ。今度は少しは学習したのかサイクロプスは立ち止まった。
「稲妻!」
だが、立ち止まったサイクロプスに向かってカナが稲妻を放った。風属性中級魔法だ。そして稲妻はその威力もさることながら一瞬相手を硬直させる効果を持っている。
「グギャー!」
俺はそのチャンスを見逃さずサイクロプスの後ろに回り込むと光の聖剣でサイクロプスを3回斬った。足を2回と背中を1回斬られたサイクロプスは、ようやく硬直が解けたのか振り返ると足元の俺に向かって両手を振り下ろしてきた。
ドーン!
砂埃が上がる。凄い威力だ。だが、俺はそれを後ろに下がってギリギリで避けた。
「馬鹿め!」
目の前に地面に両手を叩きつけたサイクロプスがいる。サイクロプスの角は目の前だ。
俺はサイクロプスの角に思いっきり光の聖剣を叩きつけた。ゴリっと音がしてサイクロプスの角が折れた。
「ぐぎゃぉおぉぉぉーーーん!!!」
サイクロプスの地鳴りのような悲鳴が辺りに響く。
角を折られたサイクロプスの動きは見る見る鈍くなった。ハルから聞いた通りだ。
「炎弾!」
「氷弾!」
動きの鈍ったサイクロプスに次々とカナとマツリの魔法が命中する。
「光槍!」
俺は光属性の中級魔法を放つ。中級とはいえ単体には強い魔法だ。それに光属性魔法はもともと他の属性より威力が高めだ。それをこれだけ近距離から使えば・・・。
サイクロプスは「ぐほっ!」と奇妙な呻き声を上げて崩れ落ちた。
「ふん、まだ生きているのか。死ね!」
俺は地面に両手と膝をついているサイクロプスの首に光の聖剣を突き刺した。首から噴水のように血が噴き出してサイクロプスはそのまま地面に俯せになって動きを止めた。
その様子を見ていた騎士たちから「勇者様がサイクロプスを倒した!」、「さすが勇者様だ!」などの声が上った。士気が持ち直している。
俺はサイロプスを倒されて唖然としているケルカと対峙している。ふん、俺たちは勇者一行だ。伝説級とはいえ一体の魔物で俺たちに勝てるはずがないだろう。
ケルカは俺に向かって炎の弾を放ってきた。人族の魔法と変わらないが、ハルのほうが全然速い。俺は最小限の動きで炎の弾を避けると、一気に間合いを詰めた。
カーン!
いつの間に取り出したのかケルカは剣で俺の一撃を受けた。やはり魔導士にしては身体能力が高い。
だが、それだけだ!
俺はケルカに向かってさらに光の聖剣で2度攻撃した。一撃目はギリギリ剣で受けたケルカだが2撃目がケルカの左肩から胸にかけてを斬り裂いた。
「ぐぶっ!」
ケルカは血だらけになりながら逃げ出した。俺はすぐに止めを刺そうとしたが、複数の魔物に邪魔された。
くそー!
俺は「お前ら、勇者一行を舐め過ぎなんだよ。俺たちは世界を救う者だ!」と逃げるケルカの背中に向かって叫んだ。
見ると他の魔物やそれを操る使役魔導士たちもユウトたちによって次々と倒されている。騎士たちもそれに続く。
「皆さん、ここは俺たちだけで十分です。本隊の援護に行ってください」
俺は騎士たちに声をかける。
「マツリ、騎士たちに回復魔法を」
「分かった。範囲回復!」
マツリの回復魔法を受けた騎士たちは、俺とマツリに頷くとこちらの戦場を離れて次々にギルバートさんたち本隊の方へ向かった。本隊はかなり押されている。正直、まだ崩壊しないのが不思議なくらいだ。俺たちもすぐに合流しよう。
「みんな、残った魔物たちを一か所に集めるように動いてくれ」
「了解」
「分かったよ、コウキ」
「うん」
ユウトは俺の意図を察して仲間たちに指示して、俺の示した場所に残った魔物たちを追い込むように動く。
「氷弾!」
マツリもそれを魔法で補助する。もちろん、俺も光の聖剣を手にそれに参加する。俺はカナに目で合図する。カナは頷き待機している。俺の言いたいことは伝わっているようだ。サヤは盾を手にカナを守っている。
そして、ほとんどの魔物が一か所に集められた。そろそろいいだろう。俺はカナのほうを見る。カナが杖を高く掲げた。みんな急いで魔物たちから離れた。
「天雷!」
味方に当てないように気を使っていたさっきまでと違う。カナ本気の最上級魔法だ。
ズーンと腹の底に響くような雷鳴と共に無数の稲妻が魔物たちに降り注いだ。雷鳴が収まった後に生きている魔物の姿はなかった。
「やっぱり、凄いな」
俺は思わず口に出した。
「ええ」とマツリも俺に同意した。
「魔物と使役魔導士はもういないみたいだね」
見るとユウトがいた。そして隣には魔導士らしき死体を咥えた狼の魔物がいる。
「コウキ・・・」
マツリの声には悲壮感が漂っている。
ギルバートさんが戦っている辺りを見ると、今にも帝国騎士団に押されて瓦解しそうだ。
「シトラス様がやられた!」
悲鳴のような声がここまで聞こえた。
「俺たちもギルバートさんのところへ行こう。だけど、カナとマツリは決してサヤのそばを離れるなよ」
「シャルカ、シャルカもミリアを頼むよ」
サヤとシャルカは盾を掲げて頷いた。
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