8-4(コウキ~対獣騎士団その2).
「カナー!!!」
マツリに回復魔法をすぐ準備するように言おうとしたそのときだった。その鋭い爪でカナを引き裂こうとしたワイバーンに突然現れた黒い影が体当たりした。巨大な狼の魔物だ。額に大きな一本の角がある。
「ギャアアァァーーー!!!」
ワイバーンは地面に墜落すると同時に狼の魔物も着地した。なんと狼の魔物の背に人影がある。
「ユウトくん!」
カナが叫んだ!
何だって! よく見ると確かにユウトだ!
俺たちの、カナのピンチに現れたのはユウトだ。ユウトと狼の魔物が現れた方から3人の女冒険者が走って来た。大柄なのが一人と小柄なのが二人だ。3人の上空に鳥型の魔物の姿もある。
「炎弾!」
小柄な冒険者の一人が魔法で空を飛んでいるワイバーンを攻撃した。不意を突かれたのか見事にワイバーンに命中した。
ユウトのほうは「カナさんー!」と叫びながらカナのそばに墜落したワイバーンに止め刺そうと奮闘している。狼の魔物がワイバーンを4つの足で組み敷こうとする。そうはさせまいとワイバーンも暴れる。狼の魔物は巨体だがワイバーンはそれ以上に大きい。しかし両者が争っているところをユウトがワイバーンの目を剣で突き刺した。
「ギャーー!!」
ワイバーンが悲鳴を上げる。どうやらユウトと狼の魔物のほうが優勢だ。だがワイバーンは一体ではない。他の魔物だっている。
さっき小柄な冒険者の魔法攻撃を受けたワイバーンは大したダメージを受けていない。それでも怒ってその小柄な冒険者の方に急降下して襲い掛かった。
ガキッ!
「ミリア!」と叫んだ大柄の女冒険者が盾でワイバーンを受け止める。サヤと同じく盾役のようだ。巨大なワイバーンを受け止めている。大したものだ。
「ルル! 今だ!」
同時にもう一人の小柄な女冒険者が、「うぉー!!」と気合を入れて盾を足場にワイバーンに飛び掛かると両手に持った剣でワイバーンの頭付近を凄いスピードで何度も斬った。顔の辺りを何度も斬られたワイバーンは悲鳴を上げながら暴れまくる。二刀流の小柄な女冒険者はワイバーンの顔を蹴ると着地した。
「ルル、ミリア」と声をかけた盾役の女冒険者が二人の小柄な冒険者を守るように前に出た。
そのとき今度は3体目のワイバーンが襲ってきた。そのワイバーンの前を黒い影が横切る。鳥型の魔物だ。ワイバーンとは比べものにならないが、それでも鳥型にしては大きい。
「炎弾!」
どうやらミリアという名前らしい小柄な魔導士が、鳥型魔物の影に一瞬動きが止まったワイバーンにまた炎弾を放った。そして今回も見事に命中した。
「ぎゃー!」と叫んで高度を下げたワイバーンに狼の魔物が飛び掛かった。すでにユウトと狼の魔物は最初のワイバーンを倒している。狼の魔物は今度はワイバーンの片方の翼を噛み千切って着地した。
「ギャーーー!!」
片方の羽にダメージを受けたワイバーンはよろよろと地面付近まで降りてきた。
「氷槍!」
ユウトが発生させた巨大の氷の槍がワイバーンの首を貫くと、ワイバーンは鋭い悲鳴を上げながら地面に激突した。すると狼の魔物が痛めた首に噛みついてその命の灯を消した。
ルルに顔の辺りを滅多斬りにされて上空に逃げた最後のワイバーンの周りを鳥型の魔物が飛び回って牽制している。
「光弾!」
「氷弾!」
俺とマツリが最後のワイバーンに魔法攻撃を仕掛けた。目が見え難くなっているのか鳥型の魔物に注意を奪われているせいなのか、次々と魔法が命中する。
次々と魔法攻撃を受けた最後のワイバーンは奇声を上げながら高度を下げて地面の近くまで降りてきた。
「炎柱!」
すでに定位置であるサヤの盾の後ろにいたカナが魔法を使うと、地面からゴーっと火柱が吹きあがりワイバーンを包んだ。
「ギャアーーー!!」
炎の中のワイバーンは悲鳴を上げて暴れていたが、ほどなくして動かなくなった。こうして3体のワイバーンはあっという間に討伐された。不意をついたとはいえ凄い。
「コウキ!」
ユウトたち4人が狼の魔物と鳥の魔物を連れて駆け寄ってきた。
だが、まだ油断はできない。多くの魔物が残っている。サイクロプスもいる。俺たちは、魔物を相手にしながら会話をする。
「ユウト、助かったよ」
「ほ、本当にユウトくんなんだね、ありがとう」
カナが涙ぐんでいる。心なしか顔が赤い。だが、再会の感動に浸っている暇はない。
「竜巻!」
カナがユウトにお礼をいいながら魔物の集団の真ん中辺りに風属性の上級魔法である竜巻を発生させた。巻き込まれた魔物たちが悲鳴を上げる。カナは一か所に魔物の集めるように竜巻をコントロールしている。
「離れて下さい!」
俺は大声で騎士たちに呼び掛ける。俺の声に騎士たちが慌てて竜巻と魔物たちから離れる。
「光矢雨!」
「氷矢雨!」
俺とマツリはカナの竜巻によって魔物が集められた辺りに範囲魔法を発動させた。魔物たちの悲鳴が辺りに響く。サヤは魔物たちから大きな盾でカナを守っている。俺もマツリを守りながら慎重に戦っている。
「炎爆発!」
俺たちに続いてユウトの仲間のミリアも魔法を放った。炎の塊が魔物を包んで爆発した。また魔物の悲鳴が上がる。ミリアは中級の魔法も使えるようだ。
そのミリアを盾で守っているのは大柄な女冒険者シャルカだ。サヤとシャルカがお互いが持つ大きな盾を見比べてニヤっと笑った。
「なかなかやるね」
「やるな」
ルルという名の小柄な二刀流の剣士はユウトに代わって狼の魔物の背に乗って暴れ回っている。なかなかの運動神経だ。
だが、魔物はまだまだいる。これだけ範囲魔法を使っても広い平原で動き回っている200体の魔物を簡単には殲滅できない。魔物にやられている騎士たちも少なくない。それでも、すでに魔物の半分以上を倒した。
少し離れたところでは10人くらいの騎士がサイクロプスを囲むようにして攻撃しているが苦戦している。最初に話しかけてきた騎士たちだろう。獣騎士団の隊長のケルカが炎属性魔法で援護している。ハルが獣騎士団の隊長は魔族だと教えてくれたが、使っている魔法は人族と同じだ。
「そうだ。こうしている場合じゃない。コウキ、さっきここに来る途中、あっちの方向から大軍が近づいてくるのを見た。たぶん共和国軍だ」
「なんだって!」
ついに国境を越えて侵入してきたのか・・・。
「あれって王国の味方じゃないよね?」
「ああ、違う。敵だ」
「コウキ、それじゃあ」
マツリが訊く。
「ああ、もう勝ち目はない。普通なら・・・」
ギルバートさんたち本隊が激突している辺りを見ると、奮戦はしているがイズマイルに率いられた帝国騎士団を相手にはっきりと劣勢だ。
「ユウト、帝国騎士団を率いているあの男が見えるか?」
「うん。二刀流の」
「あいつは魔族だ」
「なんだと!」
シャルカが叫ぶ。
「シデイア大陸で魔族と戦ったとき、あいつを見た」
「なるほど。ハルの言ってた通り帝国は魔族に支配されているってことだね」
「そうだ」
ユウトのおかげでカナは救われた。でも、このままではこの戦いは負けだ。まだこちらが崩壊していないのが不思議なくらいだ。これに共和国軍まで加わったら。
「逃げることを考えたほうがいいのかな?」
サヤがカナを守りながら訊いてきた。
「ギルバートさんたちは引く気はないようだな」
王国軍がまだ崩壊しないのはギルバートさんが本気で祖国を守ろうと奮戦し、それに部下が応えているからだ。それでも人数差と実力差はいかんともしがたいのだが・・・。
俺は昨日の夜のことを思い出した。
戦いの前に珍しく饒舌になったギルバートさんは、いざとなったら俺たちに逃げろと言った。ギルバートさん本人は死ぬ気だ。俺たちは捨て駒だ。グノイス王は俺たちが時間を稼いでいる間に帝国と交渉するつもりだろう。
「とりあえずサイクロプスとあの使役魔導士をなんとかしよう」
俺はこの場の戦いのことに意識を戻した。
「分かった」
俺の言葉にユウトは頷いた。




