表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

283/327

8-3(コウキ~対獣騎士団その1).

 ギルバートさんの指示で俺たち4人は獣騎士団を相手にすることになっている。騎士というより魔物相手だ。ギルバートさんがそのほうが俺たちが戦いやすいと判断したからだ。ギルバートさんなりの配慮だ。


 俺は広い戦場を見回した。こっちより遥かに多い数の帝国騎士団が目の前にいる。いよいよ始まるのだ。数千人同士の殺し合いが・・・。日本にいたときには遠い世界の話だと思っていた本物の戦争だ。

  振り返ると遠くに城塞都市アレクの影が見える。ルヴェリウス王国最大の都市だ。ギルバートさんたちは祖国を守るために死ぬ覚悟だ。


 俺たちは・・・。


「コウキ」

「大丈夫だ。必ず勝つ。勝って・・・」

「ええ」とマツリが頷いた。

「カナっち、私のそばをはなれないで」

「うん」


 みんな落ち着いている。頼もしい。最初日本から転移してきたときには俺がみんなを守らなくてはと思った。だが、今は全員頼れる仲間だ。


 情報通り獣騎士団は左端に陣取っている。ギルバートさんは俺たちとは離れた位置に陣取っている。イズマイル率いる本隊に対応するためだ。俺たちに加えて200人の騎士が獣騎士団にあたることになっている。相手は魔物主体なのでほとんどは歩兵だが一部は魔物に騎乗している。


 だが、この人数では・・・。


 相手の従魔は200体くらいいる。事前情報では獣騎士団が使役している魔物は約100体との話だったが、実際には倍の200体だ。隠していたのか、それともどこからか増員したのか、そのどこからとは・・・。


 魔物は下級から中級なので一体一体であれば俺たちにはなんの問題ない。騎士たちも中級に数人で対処できれば問題ない。しかし騎士は魔物と同数しかいない。それに上空には上級上位のワイバーンが3体、そして獣騎士団後方には伝説級のサイクロプスの姿が見える。


「行くぞ!」


 俺は騎士たちの先頭に立って魔物の群れに突っ込んだ。ギルバートさんがいる辺りでも大きな声が上がっている。


「勇者様に続け!」

「うおー!!」


 掛け声とも怒号ともつかない声が辺りに響く。


 そのとき一人の名前も知らない騎士が馬に乗って近づいてきた。部下なのか10人くらいの騎士を連れている。


「勇者様、俺たちがサイクロプスの相手をします。勇者様たちはその間に魔物の数を減らしてください。勇者様たちは強力な範囲魔法を使えると聞いています」

「ですが」

「大丈夫です。俺たちも無理はしません」

「分かりました。くれぐれも・・・」


 名も知らぬ騎士は頷くとニコっと笑って部下たちを引き連れ走り去った。


 相手は範囲魔法を警戒してか互いに距離を取って不規則な動きで王国騎士団を囲むように近づいてきた。しかも魔物は速い。


 くそー! 相手も馬鹿ではない。範囲魔法を使うタイミングを失った。俺も気付かない間に緊張していたのだろか? 冷静に判断しなくては・・・。


 帝国獣騎士団と王国騎士200が正面からぶつかりたちまち乱戦となった。俺たちの右側でも本隊同士の戦闘が始まっている。剣や防具が交わる音、叫び声、悲鳴、そして魔法攻撃が発動された音などが混じる。


 これが戦場だ!


「侵略者たちを許すな!」


 あの声はギルバートさんだろうか。 


光弾シャイニングバレット!」


 俺はなるべく魔物を牽制するように続けて光弾シャイニングバレット放ちながら剣で魔物の相手をする。騎士たちも懸命に俺に続く。しかし、魔物も次から次に襲ってくる。


氷弾アイスバレット!」


 マツリも俺に続く。


「マツリ出過ぎるなよ」

「分かっているわ」


 マツリを守るのも俺の役目だ。そしてカナを守るのはサヤだ。


「ぐおー!」


 数十体のブラックハウンドが騎士たちに突っ込んできた。足に噛みつかれた騎士が転がり回っている。そこへ雪崩のように次々と魔物たちが突っ込んでくる。早くもこっちが崩れそうだ。無理もない。この場にいる騎士の数は魔物の数と同じくらいしかいない。ほとんどがイズマイル率いる本隊と戦闘している。それでも相手の本隊のほうが遥かに人数が多い。もともと圧倒的に不利な戦いなのだ。


 遠くの戦場でギルバートさんとシトラス師団長が数十人の精鋭を連れてイズマイルを囲もうとしているのが見える。ギルバートさんは慎重に戦おうとしている。ローダリアでのイズマイルの強さを見ていれば当然だ。


 くそー! こっちもそれどころじゃない。


 俺は騎士たちが総崩れになりそうになっている場所に向かって走る。


光盾シャンニングシールド!」

氷盾アイスシールド!」


 俺に続いてマツリも防御魔法を発動する。かなり広範囲に発動しているので大した強度はない。マツリも同じだろう。


「コウキ!」

「分かってる」


 俺とマツリの防御魔法で数十匹の魔物が一瞬足止めされている。


「カナ! 今だ!」


 俺は大声で少し離れた場所にいるカナに向かって叫んだ! 


天雷ミリアッドライトニング!」


 カナが最上級風属性魔法の天雷ミリアッドライトニングを放った。それほど広範囲には展開していない。辺りは乱戦だから味方を巻き込まないためには仕方がない。天雷ミリアッドライトニングは防御魔法に足止めされた魔物の一団を直撃した。


 バリバリ!


「ギャー!!」

「ぐぇー!」

「グゴォーー!!」


 魔物の悲鳴が辺りに響いて耳が痛い。生き残った魔物に止めを刺そうと辺りを見回したが天雷ミリアッドライトニングが直撃した魔物の生命の灯はすでに消えている。さすがカナだ。一度に数十匹の魔物を葬った。中級程度の魔物が最上級魔法の直撃を食らえばこんなもんだ。しかもカナの魔法は普通よりも威力が高い。


範囲回復エリアヒール!」


 マツリがすかさず聖属性魔法で騎士たちを回復させる。これで一旦持ち直すだろう。


 しかしすでに次の魔物たちが目の前だ。相手も馬鹿ではない。カナの魔法を警戒して固まりすぎないように展開している。


 それでもさっきの要領で対処するのが一番効率的だ。


「うおー!!」


 俺は魔物の一団に突っ込んで剣で斬りまくる。魔物を集めるように動き回る。


「カナっち」


 サヤがカナを守りながら近づいてきた。一匹の魔物がカナに飛び掛かったが「させない!」とサヤが大きな盾を振り回して弾き飛ばした。


「きゃん!」と弾き飛ばされた魔物が鳴いた。


氷盾アイスシールド!」


 マツリが俺を補助するように防御魔法を展開した。


「カナさん今よ!」

「分かりました。みんな爆風に気をつけて」


 今度はあれを使うらしい。


炎超爆発エクスプロージョン!」


 俺が集めた数十匹の魔物の上に巨大な炎の塊が出現した。もう一つのカナ最強の魔法。火属性の最上級魔法である炎超爆発エクスプロージョンだ!


 それは見る見る魔物たちを包み込んだ。俺は素早くマツリを守るように移動して距離を取る。サヤも盾を掲げてカナを守っている。


「離れろ!」


 俺の声に騎士たちも慌てて距離を取る。


 バーーーン!!!


 巨大な炎の塊は魔物を包み込んだまま大爆発を起こした。先ほど違って魔物の悲鳴は聞こえない。一瞬でその命を奪ったからだ。


 凄い威力としか言いようがない。距離を取っていたにもかかわらずマツリの髪が爆風で後ろに流れている。もともと炎超爆発エクスプロージョンは同じ最上級魔法でも天雷ミリアッドライトニングより効果範囲は狭い。それをさらに狭めに発動している。その分威力は絶大だ。


「コウキ、ギルバートさんたちが」


 見るとギルバートさんたちはイズマイルたちに押されて大きく戦線を下げている。相当な犠牲が出ているようだ。帝国騎士団は王国騎士たちの屍を越えてギルバートさんたちに迫っている。


 ギルバートさん・・・。


 ギルバートさんたちが押されて下がったことにより、左側の俺たちが突出して前に出ている。


「下がるぞ!」


 こちら側も一旦戦線を下げとようと俺が指示したときのことだった。


 一体のワイバーンが鋭い爪を武器に範囲魔法で魔物を蹴散らしてたカナを狙って急降下してきた。上級上位魔物の登場だ。他にも2体のワイバーンが近づいてくる。ワイバーンは事前情報通り3体のようだ。敵のケルカとかいう使役魔導士も馬鹿ではない。一連の攻防でカナを倒すのが優先事項だと判断したのだ。


「させない!」


 ガキッ!


 大きな音を立ててサヤが巨大な盾でワイバーンを受け止めた。受け止めただけでなく同時ワイバーンを弾き飛ばすように盾で攻撃した。ワイバーンがギャーッと悲鳴を上げる。ワイバーンは空飛ぶドラゴンであり巨体だ。それを小柄なサヤが弾き飛ばした。さすがサヤだ。ワイバーンはフラフラと上空に戻っていった。

 しかし、後方からもう一体のワイバーンがカナに迫っている。サヤは素早く振り返るともう一体のワイバーンとカナの間に割り込んだ。


 ガキッ!


 2体目の攻撃もサヤが盾で受け止めた。今度は同時に攻撃することまではできなかったようだ。そこへ3体目が今度はサヤに向かって突っ込んできた。


光弾シャイニングバレット!」

氷弾アイスバレット!」


 俺とマツリが次々に魔法を放つ。しかし空飛ぶワイバーンは巨体にもかかわらず素早い動きで二つの魔法を躱す。


「サヤー!」


 ガキッ!


 サヤがギリギリのタイミングで3体目のワイバーンを盾で受け止めた。俺とマツリの魔法攻撃でワイバーンの攻撃を遅らせることができたからだ。それでも不完全な態勢で受け止めたためサヤがバランスを崩している。そこにもう一体のワイバーンが襲い掛かる。

 やっとサヤの下に辿り着いた俺は剣で2体のワイバーンの相手をする。ワイバーンがギャーっと悲鳴を上げた。


炎弾フレイムバレット!」


 俺たちの戦闘に巻き込まれないように少し距離を取ったカナが魔法で攻撃する。


氷弾アイスバレット!」


 マツリも反対側からそれに続く。カナとマツリの魔法での援護もあり2体のワイバーンは高度を上げた。やはりワイバーンは強くて大きい。これまでの魔物とは違う。ただ、ローダリアではもっと多くのワイバーンを相手にした。倒せない相手ではない。ただ、ケルカの指示なのか複数で連携して攻撃してくるのが厄介だ・・・。


「サヤ、大丈夫か」

「コウキ、ありがとう」


 サヤはすでに態勢を立て直している。


「コウキ! カナさんが!」


 2体のワイバーンと戦闘していた俺やサヤから少し離れていたカナの方に一体のワイバーンが急降下してくる。あれは最初にサヤにダメージを与えられた一体だ。もう立ち直っている。


 くそー! ワイバーンの鋭い爪がカナに迫る。


「カナさん!」


 マツリが悲鳴を上げる。俺はカナに向かって走るが間に合いそうもない。


 くそー!


 マツリもさっき魔法を使ったばかりだ。


 カナは覚悟を決めたのか杖を掲げてワイバーンを待ち受けている。防御魔法を使うつもりなのか・・・。だが、マツリと同じでカナもさっき魔法使ったばかりだ。


 無理だ! 


 相手は上級上位の魔物だ。空を舞っていると気付きにくいが巨大な魔物なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
叫びたい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ