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7-30(違法奴隷の解放).

 ユイとクレアは5人の悪者を相手にしていた。


 ユイは氷竜巻アイストルネードでクレアが剣で戦うのを援護していたが、正直、少人数の対人戦で効果的に使うのはかなり難しい。魔物や大人数での戦いではとても頼りになるのだが・・・。近づけすぎて味方を巻き込むわけにはいかない。しかも人は魔物より知性があるので当然避けようと動き回る。


 クレアが悪者の剣を捌いて斬りかかるが、他の悪者がユイに攻撃しようとするので、クレアもすぐにユイのそばに戻って来る。


 これでは、クレアの足手まといではないかとユイはイライラしていた。


「ユイ様!」


 また、クレアがユイを庇った。


 なんとかしないと。ユイは自分が使える魔法を思い浮かべる。


岩石錐ロックニードル!」


 床から岩石のドリルが突き出した。これなら奴隷には当たらない。


「おっと!」


 悪者たちは岩石のドリルに躓きかけたが、ギリギリで止まった。


 惜しかった! やはり人は厄介だ。もっとたくさんの人が押し寄せてくるような状況なら効果的なんだけど・・・。


 ユイは考える。


 広い範囲を攻撃する上級魔法は使いづらい。室内では味方や奴隷たちを巻き込むリスクがある。ハルぐらい魔法コントロールができれば、そうならないように凄く小さく発動できるのかもだけどユイには無理だ。


 火属性の炎柱フレイムタワーはどうだろう? 


 炎柱フレイムタワーは下から上に炎が吹き上がる魔法だ。上級魔法の中では一番奴隷たちに当たるのを避けやすそうだ。でも、よほど上手く使わないと今の状況では自分たちを巻き込んでしまいそうだ。


 ユイはちょっと離れたところにいるジャイタナとジネヴラを見た。ジャイタナもジネヴラを守りながらなのでやり難そうである。ジネヴラはときどき風属性魔法の初級である風刃エアカッターを使っているが、奴隷たちを気にしているので牽制程度だ。ジネヴラの必殺技の天雷ミリアッドライトニングは範囲が広すぎてもちろんここでは使えない。


 そのとき、ハルが戦っている方から「グフッ!」、「ぶおぉー!!」という悲鳴が聞こえた。見ると仰向けに倒れたハルが2発の黒炎弾ヘルフレイムバレットを使ったようだ。


 なるほど。下から上に黒炎弾ヘルフレイムバレットを使ったのか・・・。これなら奴隷たちに当たる心配はない。


「ハル様、さすがです!」


 隣でクレアが称賛の声を上げている。


 黒炎弾ヘルフレイムバレットはもともとは初級であり発動速度も速くて対人戦に向いている。それを下から上に使えば・・・。でも、同じように下から上に魔法使うのは・・・。


 ん? 


 そのときユイは一つの魔法を思いついた。これまであまりユイが使ってこなかった魔法だ。魔物相手にはそこまで強力じゃなかったからだ。でも・・・。


 よし! やってみよう。


稲妻ライトニング!」


 バリと音がして上から一本の稲妻が降ってきて悪者の一人を捉えた。


「グッ!」


 稲妻が直撃した悪者の体には縦にミミズ腫れのような傷ができている。しかも立ったまま硬直している。いや、すでに死んでいるようだ。中級魔法が直撃したのだから当然だ。 


 やった! 


 下から上じゃなくても上から下でもよかったんだ。しかも稲妻ライトニングは最上級魔法の天雷ミリアッドライトニングと違って発生する稲妻は一本だけで奴隷たちに当たる心配もない。おまけに風属性魔法は全体的に発動速度が速い。


「ジネヴラさん! 稲妻ライトニングです!」


 ユイは隣の戦場に声をかけた。ユイの言いたいことを察したジネヴラは頷いた。 


 ジネヴラに声をかけた後、ユイは「稲妻ライトニング!」とすぐに2発目の稲妻ライトニングを悪者の一人に放った。


「上だ! 上に気をつけろ!」


 相手も馬鹿ではない。やっぱり人間は厄介だ。2発目の稲妻ライトニングは寸前で躱されてしまった。稲妻ライトニングは発動の速い魔法だ。相手もなかなかの手練れだ。


 でも・・・。


 ユイの稲妻ライトニングを躱した悪者は硬直している。稲妻ライトニングは直撃しなくても近くにいる者を一瞬だけ硬直させる効果がある。


 ズサッ!


「ぐぉーー!!」


 クレアの前で一瞬でも硬直したら終わりだ。クレアはさすがだ。稲妻ライトニングの硬直効果をギリギリ受けない距離を保っている。


 隣からも「稲妻ライトニング!」とジネヴラさんの声が聞こえて、その後、悲鳴が聞こえた。私たちの戦い方が参考になったようだ。


 ユイとジネヴラが効果的に魔法を使うことができれば、相手がいくらそれなりの手練れだとしても、この程度の人数差なら問題ではない。




★★★





「ジャズベル様」

「よし、ゼクスそれでいい」


 ゼクスと呼ばれた男が奴隷の少女を引き摺って戻ってきた。


「武器を捨てて投降しろ! さもないと、こいつを殺す」


 髯面の悪者のリーダーが悪者のリーダーに相応しいセリフを吐いた。奴隷の首輪を着けられた少女が震えている。


 僕と悪者のリーダーが睨み合う。僕は黒龍剣に手をかける。


「早くそれを捨てろ!」


 僕は黒龍剣を見る。そして顔を上げて悪者のリーダーを見ると、黒龍剣を放り投げる振りだけしてニヤリと笑った。


「貴様ー! なんの・・・」


 悪者のリーダーの顔が赤く染まる。


 ブスッ!


「ぐぶおぉー!!」


 ゼクスと呼ばれた男の胸から剣の切っ先が覗いている。クレアが後ろから刺したからだ。人質にされていた少女はすでに助け出されてジネヴラさんの下にいる。


「とうとう、お前だけになったな」


 すでにユイ、クレア、ジャイタナさん、ジネヴラさんの4人は相手をしていた悪者たちを倒したのだ。まあ、4人の実力からしたらこうなるのは分かっていた。


「く・・・。きさまあぁーー!!」


 リーダーの男は僕に突進してきたが、僕の前に出たクレアの剣に跳ね返されたところを「寝てろ!」とジャイタナさんに殴られて気を失った。


「ユイ、嫌だろうけど、こいつらを死なない程度に回復させといて」

「分かった」


 これは、僕が悪者たちに同情しているからではない。証人として確保するためだ。調べれば帝国黒騎士団だと分かるかもしれない。残念ながらすでに死んでいる者もいるがそれは已むを得ない。


 その後、ユイと僕が奴隷たちの首輪を次々に外した。ゴンドさんか確保していた違法奴隷の首輪を外したとき、僕にも外せることが分かったからだ。分かってみると僕でも簡単に外せる。思いっきり魔力を流すだけだ。それでも50人以上もいるから大変だ。ジャイタナさんとジネヴラさんは呆れたようにそれを見ている。異世界人の魔力量やはり相当なもので思った以上に早く全員の首輪を外すことができた。元奴隷たちは崇めるように僕とユイを見ている。


「みんな、バイラル大陸からの使節団が助けに来ている。もう少しでバイラル大陸に戻れるぞ」


 ジャイタナさんの言葉に歓声が湧く。涙ぐんでいる人も多い。助けることができて本当によかった。それでもメルメルやカナンの両親のように殺されてしまった者は戻ってこない。絶対に報いは受けさせる!


「だから、少しだけ俺たちに協力してくれ。こんな事をした奴らを懲らしめるためだ」


 元奴隷たちから「もちろんだ!」、「絶対に許せない」という声が上がる。


 奴隷たちに話を聞いてみるとほとんどがグジキル村という同じ村の出身者だった。奴隷になった経緯はカナンから聞いたのとそっくりだ。何度聞いても体が震えるほど怒りが湧く。中にはガガサトやフランと同じように個別に攫われた者もいた。これだけいれば、証拠として申し分ないだろう。奴隷の首輪も外れた今、いろいろと証言できることもある。


「そうだ」


 僕は思いついて外した奴隷の首輪を生き残った悪者たちに装着した。


「ジャイタナさんが魔力を流して主になってください」

「こんな奴らの主になんてなりたくないけどな」と言いながらジャイタナさんは僕の言った通り奴隷の首輪に自身の魔力を流した。


 悪者たちは「おい、やめろ!」とか騒いでいたけど、ジャイタナさんに蹴飛ばされて黙った。これで、こいつらも逃げられない。


 拠点も確保した。同じ村から攫われた多くの奴隷たちも確保した。証言もできる。黒騎士団と思われる悪者たちも確保した。これで、こいつらがバイラル大陸で村ごと襲って奴隷を確保していたことは証明できる。


 そしてカナンや奴隷たちの証言からその黒幕が誰かも・・・。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 次話はユウト編です。そして、その次のエピローグの後、そのまま第8章に入ります。

 もし少しでも面白い、今後の展開が気になると思っていただけたら、ブックマークへの追加と下記の「☆☆☆☆☆」から評価してもらえるとうれしいです。

 また、忌憚のないご意見、感想などをお待ちしています、読者の反応が一番の励みです。

 よろしくお願いします。

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