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7-28(特使ゴンドとの面会).

「ハル殿、我々も君たちを探してたんだよ。ガガサトとフランを助けてくれたお礼もせねばならん。だいたいガガサトとフランを買うにも金がかかっただろう。それに、二人の首輪をどうやって外したのかも訊きたかった」


 バイラル大陸からの使節団を率いているゴンドさんからそう言われた僕たちはすっかり恐縮した。そういえば、あのときは連絡先も告げずに立ち去ってしまった。


 今、僕たちがいるのはトルースバイツ公国の公都トラリアだ。バイラル大陸からの使節団が逗留している迎賓館を訪ねて特使のゴンドさんと面会している。ジャイタナさんとジネヴラさんは、もともと特使の依頼で違法奴隷について調べていたのだ。


 僕たちはゴンドさんに促されるまま、これまでの経緯を説明した。もちろん、エリルのことなど話せないこともある。ジャイタナさんたちにも僕はジリギルの騎士に救出されたと説明してある。


「デグダスさんもデンバさんも叱られたりしてないんでしょうか?」


 二人はとても人が好さそうでガガサトとフランのために怒ってくれた。


「まあ、あいつらは、人がいいのが取り柄だからな」


 ゴンドさんも苦笑いをしている。ゴンドさんは特使というより歴戦の戦士と言った顔つきだ。雰囲気としてはジャイタナさんによく似ている。二本の角があるのも同じだ。


「ゴンド様、これでゴンド様が欲しがっていた証拠のうちの一つが手に入りました」


 ジャイタナさんが隣に座っているカナンを見て言った。


「カナンは俺と同じバデナ村の出身です」

「7年前に襲撃された村だな」

「ええ」

「ジャイタナ、お前がバデナ村の出身だとは初めて聞いたぞ」

「言ってませんでしたから」


 ゴンドさんは「お前なー」と言って、今度はカナンの方を向くと「カナン大変だったな。姉のことは残念だった」と言った。カナンは無言で頷いた。


「それで、カナンよ。お前はエジル子爵に売られる前に拠点のようなとこに集められていたんだな?」

「ああ、おっさん、その通りだ」


 カナンは相変わらず口が悪い。ゴンドさんはそれを全く気にせず話を続けた。


「ふむ、そこでホロウとか大公とかいう言葉を聞いた」

「そうだ。絶対に忘れない」


 その後、ゴンドさんは奴隷になった経緯についてカナンにかなり細かいことまで尋ねた。


「やっぱり、帝国が関わっているようだな。バデナ村を襲ったのも名高い黒騎士団のように思えるな。それに魔導船が使われているようだ。そしてここドロテア共和国のどこかに拠点がある」

「ゴンド様、これで一定の証拠も手に入りました。カナンという生き証人もいます。奴隷の首輪が外れているから証言もできます」


 ゴンドさんはジャイタナさんに頷くと僕たちの方を見て「奴隷の首輪を外したのはユイさんでしたな」と確認した。

「はい」


 実は後日、僕でも新型の奴隷の首輪を外せることが分かった。ただ思いっきり魔力を流せばよかったのだ。最初にガガサトたちの首輪を外そうとしたとき、僕は、外れろと祈ってゆっくり魔力を流したりしていた。要するに考え過ぎだったのだ。僕の悪い癖だ。僕でも外せることが分かったとき、僕は放心状態になった。あいつらに捕まったときも簡単に逃げ出せたのだ・・・。あんな死にかけるような苦労をしなくても・・・。たぶん異世界人の魔力適性ならOKだったのだろう。まあ、これは後から分かった話だ。 


「ユイさんに頼みがあります。何人かのバイラル大陸出身の違法奴隷を確保しています。一応、我々の協力者が主ということになっています。これまではどうしても首輪を外すことができませんでした」


 なるほど。首輪を外せなければ違法奴隷となった経緯が話せない。証拠としてはちょっと弱いってことか・・・。


「その人たちの首輪を外せばいいんですね」とユイが確認した。

「お願いできますか」

「もちろんです」

「相応の報酬は」

「いえ、そんなものはいりません。大した手間ではないですし」

「しかし、そう言うわけには」


 ユイが僕の顔を見た。ここからが本題だ。


「お礼の代わりというわけではないんですが、お願いがあります」と僕が言った。

「なんだね?」


 僕は、ゴンドさんに頼みたいことを話した。


「なんと、それは、我々としても是非そうしたいところだが、我々だけでできるのかね。我々はこの国の人間ではない」


 そう言いながら、ゴンドさんの目は興味津々だ。もともとゴンドさんは借りを必ず返すと言っていた。そして、そのために使節団を装ってここまでやって来たのだ。ゴンドさんの表情は特使というより、まさに戦士の顔だ。


「僕たちは、ここトルースバイツ公国に来る前にニダセク公国に寄りました。SS級冒険者で英雄と呼ばれるイネス・ウィンライトさんに会うためです。その結果、ニダセク公国も協力してくれそうです」


 僕たちはニダセク公国の公都デクシアでイネスさんに会ってきた。イネスさんは僕たちや元パーティーメンバーのジャイタナさんやジネヴラさん、それにカナンの話を聞いて協力を約束してくれた。というよりイネスさん自身がもの凄く怒っていた。イネスさんはこの世界の英雄だ。特にニダセク公国においては公主以上の力がある。イネスさんは迷宮に取り憑かれた男として有名だったが、話をしてみると、迷宮のことを除けば至極真っ当な人だ。


 ジャイタナさんが「イネスは俺とジネヴラの元パーティーメンバーでリーダーだった。一つのことにこだわり過ぎる点はあるが、信用できる男だ。それに俺たちバイラル大陸出身者を差別するようなことは全くなかった」と補足してくれた。隣でジネヴラさんも頷いている。


「それから、ジリギル公国の公主のシーナ・スプロット様の協力も取り付けています」


 エリルがシーナ叔母と呼んでいたジリギル公国の女公主だ。エリルも頭が上がらない様子だった。久しぶりにエリルに会えたのは嬉しかったなー。

 ふふ、それにしても、シーナ様に頭の上がらない様子のエリルは可愛かった。それに、僕を助けてくれたときのエリルは相変わらず頼りになった。


 ん?


 視線を感じたので横を見ると、ユイがじっと僕を見ていた。クレアはうんうんと頷いている。


「ほうー、あの女傑と噂の・・・。ハル殿はずいぶん顔が広いようだな」

「そ、それほどでも・・・。それにシーナ様が言うにはジリギル公国はヴェラデデク公国とは親しいそうです」

「ヴェラデデク公国のことは我々も知っている。交易で世話になっているからな。その上、マルメやトルースバイツと違って、違法奴隷と関係しているという噂もない」


 僕はゴンドさんの言葉に頷いた。


「ハル殿の言うことはよく分った。ユイさんが新型の奴隷の首輪を外せるとすれば奴隷たちも証言できる。協力してくれる公国もある。だが、ハル殿の言うことを実現するにはまだ弱い。それだけのことをするとすれば念には念ということもある」

「確かになー。一部奴隷の証言だけじゃあ、ちょっと弱い。やっぱり拠点の場所を知りたいな。そこで大量の違法奴隷を発見できれば・・・」


 ゴンドさんとジャイタナさんが言うのはもっともな話だ。


「最近も村ごと襲撃されたという事件があったばかりだ。拠点を見つければまだ大量の違法奴隷がそこにいる可能性が高い」


 ゴンドさんが怒りの籠った目で言った。


 最近、カナンのときと同じで村ごと襲われたのか。カナンの表情が強張っている。それなら、早く拠点を見つけて助け出したい。それに、大きな証拠にもなる。カナンの話からしても拠点はドロテア共和国にある可能性が高い。だが、ジャイタナさんやゴンドさんたちの調査にもかかわらず発見できていない。


 一体どこにあるのか・・・。


「当初はやはりホロウ商会の倉庫が使われていたんじゃないでしょうか?」


 なんと言ってもホロウ商会が怪しことは間違いない。カナンの話にもホロウという名が出てきた。


「だが、今は違うと?」

「ええ、今はむしろホロウ商会の倉庫のいくつかは罠として機能しています。僕たちのような違法奴隷を調査している者を捕まえるための罠です」


 実際に僕は捕まった。


「それで、今は拠点は別のところへ移されているんだと思います」


 ホロウ商会が違法奴隷に関わっているというのはもっぱらの噂だ。だから拠点は別の場所に移した上、ホロウ商会は罠として使われている。特に僕が捕まったジリギル公国のホロウ商会はそうだろう。あんな場所に大きな支店を構えて疑われるような噂をわざと流していたんだと思う。


 あのときのことを思い出すと未だに冷や汗が出る。新型の奴隷の首輪、やっぱり許せない。


「そこがどこか分からないんじゃあ、同じことだろう」とジャイタナさんが言った。


 ジャイタナさんの言う通りだ。一体どこに? たくさんの人を集められる倉庫のような場所・・・。ホロウ商会か・・・大公ジェフリー・バーンズと関係ありそうな場所・・・。


 待てよ・・・。まさか・・・。


「ハル、なんか思いついたの?」

「うん」


 一つだけ思い当たる場所がある。


「当てがあります」

「何だって、ハル、本当か」


 ジャイタナさんが訊く。他のみんなも僕を見ている。クレアの目が期待に輝いている。


「はい」


 もちろん確実じゃない。でも・・・。

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