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7-27(悪い奴ら).

「ジェフリー様、ドロテア共和国軍の件は間違いないので?」

「ああ、すでに国境付近に展開している」

「規模はいかほどで?」

「2000だ」

「それは」


 ガルディア帝国の貴族カイゲル・ホロウは2000あればネロア様も喜んでくれるだろうと笑みを浮かべた。


「議会の承認は必要ないので?」

「前回、国境付近でドロテア共和国系の住民が虐げられているから、ちょっと抗議するとは伝えている」

「ちょっと抗議ですか」

「ああ」


 どのみち今のドロテア共和国で大公ジェフリー・バーンズに逆らえる者はいない。ジェフリーはバイラル大陸との交易を通じて莫大な富をドロテア共和国にもたらした。交易の中には大規模な違法奴隷取引も含まれている。そのパートナーが目の前にいる帝国の貴族カイゲル・ホロウだ。カイゲルのほうも莫大な富をガルディア帝国にもたらし皇帝ネロアの覚えも良いと聞く。実際、こうやって軍事的な話についても皇帝の使いとしての役目を果たしているのだ。


 5つある公国のうちマルメ公国はトルースバイツと一蓮托生だ。ニダセクは内陸部で貧しい。ドロテア共和国が豊になることによりニダセクへの分配金も増加している。ジェフリーに逆らうことはないだろう。ジリギルとヴェラデデクの二つ公国はトルースバイツとあまり付き合いがない。だが、何もできないことに変わりはない。それより目障りなのは最近SS級冒険者になった『鉄壁のレティシア』だ。そろそろ故郷であるここトルースバイツに帰ってくるとの噂だ。その噂もあってトルースバイツでのレティシアの人気は異常なほどでジェフリーでさえ脅威に感じている。


 何が鉄壁だ。冒険者風情が・・・。そういえば、あの生意気な若い3人組も冒険者だった。忌々しい。


「バイラル大陸からの使節団の動きが怪しいと聞きましたが」

「ふん、あいつらに何ができる。獣人やドワーフの血を引く者など我らの奴隷になれて感謝してしかるべきだろう」


 ジェフリーは思う。まあ、獣人の血を引く者、特に女には確かに可愛らしい容姿をした者も多い。だが、それは可愛いペットと同じだ。我らに逆らうなど馬鹿な話だ。ドワーフだってそうだ。確かにその職人としての技術はすばらしい。彼らの技術があったからこそ魔導船も建造できた。だが、それだけだ。単なる技術馬鹿だ。我らのために働いていればいいのだ。


「全くです。ですが、我がホロウ商会の倉庫など何か所かが襲撃されております。まあ、その内、いくつかは罠なんですがね」


 そう、最近ホロウ商会やその関係先などを強引な手段で調べている者がいるのはジェフリーも知っている。強引な手段というか、カイゲルの言う通り襲撃されているのだ。全く野蛮なあいつらに相応しいやり口だ。


「まあ、新しい拠点が見つけられることはない」


 まさか、あんなとこが違法奴隷の拠点になっていると気がつく者はいないだろう。


「そうですな。ですが、拠点への出入りには細心の注意を払う必要があります」

「むろんだ」


 ジェフリーはバイラル大陸のテテルラケル連合からの使節団の特使ゴンドの顔を思い浮かべた。全く品のない戦士のような男だ。特使として精一杯もてなしてやったが、獣人風情に愛想笑いをするのは不愉快だった。


「ですが、ジェフリー様、油断は禁物です。彼らにだって奴隷を買うことはできます。彼らの手の者は帝国にもいるようです」


 カイゲルの言う通りだ。彼らなりに多少は知恵があるらしくドロテア共和国だけでなくガルディア帝国でも最近違法奴隷について調査している者たちがいる。


「しかし、カイゲルよ。奴らが数人の違法奴隷を手に入れたところで、奴隷たちは奴隷になった経緯を喋ることはできない。それでは証拠にならんだろう。そもそも、我らが、いや帝国黒騎士団がバイラル大陸で村ごと襲撃しているなど、誰も想像すらできんだろうしな」


 ジェフリーたちはカイゲルが連れてきた帝国黒騎士団員を使ってバイラル大陸の村を襲わせ違法奴隷を確保している。特に獣人系の奴隷を。ジェフリーやカイゲルは獣人の血を引いている者を自分たちと同じ人間だなどと思っていない。だからなんの罪悪感も感じていない。


「そうですな」

「新型の奴隷の首輪の効果は確かなものだ。我が国最高の魔術師でもあれを外すことはできなかった」

「ええ、それは帝国のほうでも確認しています。あれを外そうと思えば、それこそ魔王でも連れて来るしかないでしょうな」とカイゲルも笑った。


 確かに、最近になって違法奴隷のことを調べているらしい者が増えてきた。ジェフリーたちは少々目立ち過ぎたのかもしれない。ゴンドとかいうバイラル大陸からの特使の動きも気にならないといえば嘘になる。それでも、拠点が見つからず、あの奴隷の首輪が外せない以上、ジェフリーは安泰だ。


「それより、ルヴェリウス王国を滅ぼしてしまって魔族に対する抑えはどうするんだ?」

「それについては、ネロア様が心配ないと仰っています。魔族などガルディア帝国の敵ではないと。ルヴェリウス王国に頼る必要などない。それがネロア様のお考えです」


 確かに音に聞くガルディア帝国黒騎士団ならそうかもしれない。まあ、ドロテア共和国が矢面に立つ必要がないのなら問題ないだろう。


「だが、そんなに簡単にルヴェリウス王国が滅びるだろうか?」


 ルヴェリウス王国にはなんといっても勇者たちがいる。そして3000年も続く魔族との戦いで常に最前線を担ってきたのはルヴェリウス王国だ。ジェフリーとしても、やはり、そこに一抹の不安を感じる。


「ジェフリー様、時代が変わったのです。今や人族最強国家は我がガルディア帝国です。そしてそれは魔族すら恐れるに足りないほどなのです。確かにルヴェリウス王国は今でも魔族と戦っています。ですが、そのために我がガルディア帝国と戦争になったとしても、それに割ける戦力は5000もありません。対して、帝国の周辺には現在帝国の脅威となる勢力はありません。さらに・・・」

「我がドロテア共和国が援軍を出せば、勝利は間違いない」

「その通りです」


 帝国黒騎士団が人族最強の騎士団だというのは今や常識だ。やはり、どう考えても、ガルディア帝国の勝利は間違いなさそうだ。だとすれば、ここは勝馬に乗っておくのが得策だとジェフリーは思った。


「勇者たちはどうするんだ?」

「殺します」

「勇者をか?」

「はい」


 これにはさすがのジェフリーも青ざめた。勇者とはこれまで人族の危機を度々救ってきた者だ。それを殺すのか・・・。確かに時代が変わったのだろう・・・。


 騎士でも冒険者でもないジェフリーには勇者たちの強さというものがピンときていなかった。コウキは200年ぶりに現れた勇者だ。この世界の多くの人々にとって勇者とはおとぎ話の中の存在なのだから、ジェフリーだけを責められないのかもしれない。とにかく帝国が勇者たちを殺すというのだから殺せるのだろうというくらいの認識だ。それにジェフリーはレティシアと同じく人気のある勇者コウキとやらがあまり好きではない。民衆はなぜあんな者たちを持て囃すのか。愚民を導くのはジェフリーのような貴族の役目だ。これからは勇者や冒険者ではなく、ジェフリーのような知恵のある貴族の時代なのだ。実のところ、ジェフリーは民衆にも選挙権がある自国の制度があまり好きではない。


「とにかくドロテア共和国軍のことはよろしくお願いします。ルヴェリウス王国が滅びればドロテア共和国の領土も、いやトルースバイツの領土も増えるでしょう。これは両国にとって大変有益なことです。もちろんジェフリー様個人にとっても」

「カイゲル、お前個人にとってもだろう?」

「仰る通りです」

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