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7-19(ジリギル公国公都コトツカ).

 僕たちはついに目的地であるジリギル公国の公都コトツカに到着した。今回も頑張ってくれた・・・と言ってもメリンダに配慮して一緒に歩いてきただけだけど・・・プニプニと僕の馬を騎獣預かり所に預けると、さっそく街を散策する。相変わらずメリンダもついてきているが、その距離は僕たちのすぐ後ろだ。最初の頃より、ずいぶん距離が縮まった。


「ハル様、とても活気がありますね」

「それに、街の人たちが」

「うん」


 コトツカの街は、角が生えている人、見慣れない服装の人、珍しい色の髪を持つ人、とにかく多種多様な人で溢れていた。メリンダもキョロキョロと周りを見ながらついてくる。


「ニダセク公国とは全然違うね」

「うん」


 トルースバイツ公国の公都トラリアで聞いた噂だと、ここにはホロウ商会の支店もあって違法奴隷に関係しているという話なんだけど・・・。


「いろんな人種の人が自由に生きているって雰囲気があるね」とユイが感想を口にした。

「トルースバイツのトラリアも活気があったけど、なんかそれとは違うよね」と僕が言う。

「ハル様、私はトルースバイツには帝国に近い雰囲気を感じました」


 クレアの言う通りだ。例の学園も帝国の学院をモデルに創設されたって聞いた。トルースバイツは帝国を始めとした他国との交易で経済力を増してきた公国だ。公都トラリアは帝都ガディスに似ていた。帝都ガディスも活気がある街だった。民族的にも色んな国から来たらしい人を多く見かけた。だけど、一方で生き馬の目を抜くような競争社会の側面もあった。活気があると同時に厳しさも感じさせられる街だったのだ。


 それらと較べると、コトツカは活気があるだけでなく自由というかなんだか楽天的な雰囲気がある。


 ジリギル公国はドロテア共和国の南西に位置しているので海に面していない。西側が中央山脈で北が僕たちが通ってきたニダセク公国、そして東がヴェラデデク公国だ。南は複数の小国と国境を接している。そのさらに南は僕とクレアにはおなじみのキュロス王国だ。ちなみに東のヴェラデデク公国は海に面しておりマルメ公国のカイワンほどではないが大きな港がある。


 コトツカはそんな内陸部にあるジリギル公国の公都なのに異国情緒豊かだ。まるで港町である。同じ内陸部の公国である北隣のニダセク公国が質素で堅実な感じだったのに・・・。


 これは一体どういうことなのだろう?


「うーん、やっぱり角のある人が多いよね」

「はい」


 ユイの言葉にクレアも頷く。


「これって、やっぱりバイラル大陸からの人が多いってことなのかな? やっぱり噂通り奴隷なの?」


 確かに通りを歩く人を観察すると獣人系の人の割合が多い。髪の色も様々だ。これはコトツカに到着する前、ジリギル公国に入った辺りからすでに感じていたことだ。これだけ多種多様な人がいると真っ白な髪を持つ獣人系のメリンダもあまり目立たない。


 身分の高そうな人やお金持ちらしい人の中には従者や騎士を連れている人も多い。どこの街でも見る光景だ。ただ、ジリギル公国ではその従者や騎士に獣人系の人が多い。メリンダを後ろに引き連れている僕たちもこの風景に溶け込んでいる。


 これは違法奴隷と何か関係があるのだろうか・・・。


「ハル様・・・」


 クレアが示す方向には立派な3階建てくらいの建物がある。


「ホロウ商会の支店だね」とユイが言った。

「うん」


 さっそくホロウ商会の支店を見つけた。天秤とホロウという文字がデフォルメされた看板が掲げられている。僕たちの少し後ろでメリンダもホロウ商会の建物をじっと見詰めている。いや、あれは睨んでいる。 


 僕は大きなホロウ商会の支店を見上げて考える。ここで違法奴隷を扱っているんだろうか?


「先に宿を取ろうか?」


 ここまで歩き詰めだ。それに、ちょっと先にちょうど手頃な宿が見える。


「そうしようか」

「はい」


 ユイとクレアが同意したので僕たちはその宿に向かった。僕は、メリンダに声をかけようとしたが、すでにメリンダの姿はなかった。たぶん、もっと安そうな宿を探しに行ったのだろう。頑固なやつだ。





★★★





「とりあえず、冒険者ギルドには僕が報告だけしとくよ」

「ハル様、私が護衛に」


 クレアが赤龍剣を手にして出かけようとした。


「クレア、大丈夫だよ。冒険者ギルドにいつも通り僕たちのことを知らせて、僕たち宛の連絡がないか確認してくるだけだから」


 ついてこようとするクレアを手で制して僕は部屋を出た。


 通りに出るとやっぱりいろんな人種の人が目につく。ずいぶん大柄の人もいる。武闘祭に出ていたガロデアのことを思い出した。ガロデアは実際には四天王サリアナの配下の魔族で・・・本当の名は確かデロンだ。


 気がつくとちょうど目の前にホロウ商会の支店がある。トラリアにあったのと同じくらい大きな建物だ。倉庫も併設されている。一階は店舗になってるようなので、思いついて入ったみた。


「いらっしゃいませ」の声と共にすぐに店員が寄ってきた。店の中を見回すと商品別にキチンと区分けされている。


 僕が店の中を見回していると、店員が「家具や魔道具等の大型の商品は2階にありますよ」と説明してくれた。怪しいところはない。

 僕は小声で「ホロウ商会は奴隷を扱っていると聞いたのだが」と言った。すると店員は怪訝そうな顔をして「当店では奴隷は扱っておりません」と答えた。その後、ガガサトとフランを買ったときと同じように、僕がこの国の大公を知っていると仄めかして見たが何も起きなかった。

 ホロウ商会を経営しているカイゲル・ホロウ男爵が違法奴隷を扱っているとの噂は帝国でもよく聞いた。ホロウ男爵はとても評判の悪い皇帝派の新興貴族だ。その評判の悪さは旧貴族派を挑発するのに利用されたほどだ。そのホロウ男爵が経営するホロウ商会の大きな支店がここにある。別に港町でもなんでもないここコトツカに・・・。なんの成果も上げられなかった僕は、ユイとクレア、それにメリンダへの土産としてハンカチを買って店を出た。


 その後、冒険者ギルドに寄って、いつも通りS級冒険者である僕たちの到着を報告した。受付の職員の人はいつも通り僕の年齢に驚いた後「ハルさん、ちょっと待っていて下さい」と言って奥に引っ込んだ。珍しく男性であるその受付の職員は、すぐに戻って来ると「これを」と言って手紙を手渡してきた。


「ありがとう」


 僕は手紙を受け取りしばらく眺める。コウキか、それともユウトからだろうか? 宿でユイとクレアと一緒に読もう。僕は手紙をアイテムボックスに仕舞った。それにしても手紙の現物がどうやって届くのだろう。冒険者ギルドには郵便制度があるのだろうか?


「絶対に秘密は漏れませんから安心して下さい」


 じっと手紙を眺めていた僕が情報漏洩を心配していると思ったらしい。


「勝手に開けられない魔道具を使って運んでいます」

「空を飛ぶ魔物を使って?」

「詳しいことは言えませんが、そんなとこです」


 僕がS級冒険者なので冒険者ギルドも相当気を使ってくれているようだ。ありがたい。


「冒険者ギルドを信用していますよ」


 僕はギルド職員を安心させるように言うと職員はほっとしたような顔をした。S級冒険者の立ち位置を感じさせる一幕だ。僕はコウキやユウトを始めとした人たちにジリギル公国が次の目的地だと伝えていたから、ここに手紙が届いてもおかしくない。


 とりあえず宿に帰って確認しよう。僕は逸る気持ちを押さえて冒険者ギルドを後にした。


 冒険者ギルドを出てしばらくして、僕は後をつけてくる気配を感じた。魔力探知で確認する。2人、いや3人か・・・。


 僕は小走りになると急に角を曲がった。やっぱりついてくる。しばらくの間、追いかけっこが続いた。逃げ回っているうちに段々人通りが少なくなってきた。誘い込まれたのか・・・。初めて来た街だからしかたがない。僕は目の前の角を曲がる。


 まずい。行き止まりだ。僕は振り返った。


 予想通り、3人の人影が近づいてくる。フードを目深に被り表情は分からない。明らかに怪しい。体形からして男のようだ。


 そのとき、男の一人が何かを僕に投げつけた。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 僕は素早く防御魔法を展開した。


 カンっと男が投げつけたものが黒炎盾ヘルフレイムシールドにぶつかった音がした。


 しまった!


 あたりに煙幕のような煙が広がっている。くそー、目眩ましか。そのとき、すでに男の一人が僕の後ろに回り込んでいた。僕は油断していた。曲がりなりにも僕は武闘祭の準優勝者だ。でも、これは武闘祭とは違う。ここは闘技場ではない。しかも相手は3人だ。おまけに、僕はできれば殺さないで話を聞きたいなどと考えていたのだ。


 こっちにもクレアやユイがいれば・・・。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 僕は煙幕の中に闇雲に黒炎弾ヘルフレイムバレットを放った。黒炎弾ヘルフレイムバレットが何かものに当たった音がした。奇跡は起こらず相手には当たらなかったようだ。僕は黒龍剣を抜いて左手に持った。


 男が斬り掛かってきた気配を感じて黒龍剣で受けた。カーンと剣が交わる音がする。相手も速い。相当な手練れだ。そのとき反対側から右手を掴まれた。


 くそー! 僕は、右手を振りほどいて魔法使おうとした。


 そのとき、3人目の男が後ろから・・・。首に何か・・・。これは・・・奴隷の首輪なのか・・・。


 僕はとっさに黒龍剣をアイテムボックスに収納した。エリルから渡されたこれは守らないと・・・。





★★★





「ねえ、クレア、ハル遅いよね」

「そうですね」 

「ユイ様、ちょっと見てきます」

「私も行くわ」

「はい」


 しかし、二人がハルを見つけることはできなかった。そして、夕方になってもハルは宿に帰ってこなかった。

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