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7-18(ニダセク公国公都デクシア~イネス・ウィンライトその2).

 話題は違法奴隷の件に移り、僕はこれまでの経緯をイネスさんに説明する。


「その二人は奴隷商で売られていました」


 僕はトラリアでガガサトとフランの二人を買って、その後、バイラル大陸からの使節団に送り届けた経緯をイネスさんに説明した。二人は元気だろうか?


「売っていた奴隷商は二人が借金奴隷だとも犯罪奴隷だとも説明しませんでした。そもそも僕たちが大公の知り合いだと知って二人を見せてくれたのです。他にも獣人系の奴隷がいました」


 イネスさんは黙って僕の話を聞いている。


「しかも二人には新型の奴隷の首輪が嵌められていました」

「新型?」

「はい。通常の首輪の主人に危害を加えることができないという効果に加えて、主人から決して逃げられない、奴隷になった経緯が話せないなどの効果があるんです。しかも、主人にすら外せないようなのです」 

「新型の奴隷の首輪の噂は俺も聞いたことがある。これでも貴族の端くれだからな」


 端くれどころかSS級冒険者は王族と同じ扱いを受ける権利がある。ジークフリートさんと同じで世界中で英雄と呼ばれる存在だ。


「俺は長い間エラス大迷宮に籠もっていた。その俺にもすでに噂が聞こえてくるくらいだ。どうも貴族の間でバイラル大陸出身者の使用人や奴隷を所有することが流行っているらしい」

「やっぱり」


 クレアも同じような噂を聞いたことがあると言っていた。


「ああ、そうとしか言いようがない。より珍しい種族、より容姿の優れている者、そういった使用人や奴隷を持っていることが一種のステータスとなっているんだ」


 イネスさんの口調は忌々しいと言った感じだ。イネスさんはジャイタナさんやジネヴラさんというバイラル大陸出身の冒険者と一緒にエラス大迷宮を攻略していた。お金のこともあるかもしれないけど、バイラル大陸出身の二人はイネスさんに悪感情を持っているようには見えなかった。それに、そうなら3年もパーティーを続けないだろう。


「どうもガルディア帝国の貴族たちの影響もあるようだ」


 ガルディア帝国の貴族の・・・流行というのは伝播するものだが・・・。


「ハル様、ビダル家でも獣人系のメイドを見かけました。以前はいなかったと思ったのですが・・・」


 言われてみれば、お茶を持ってきたりしているのを見た気がする。クレアが最初に噂を知ったのはスパイになる前のことだろう。ということは、だいぶ前から流行り始めていたのが、ここにきてさらに流行っている。そんな感じだろうか?


「ハル、ユウトくんの仲間のルルさんも元貴族の奴隷だって言ってたよ」

「うん」 


 僕は心配そうなクレアに「ビダル家のメイドが違法奴隷とは限らないよ」と言った。


 普通に雇うこともできるし、違法じゃない奴隷だっている。ただ、貴族の中には違法にでも手に入れたいと思う者もいるだろう。いい商売になりそうだ。


「イネスさん、そうした奴隷とか使用人の中に違法奴隷が混じっているんでしょうか?」

「新型の首輪の性能を考えれば、そうなんだろうな。違法奴隷に使うために開発されたとしか思えない。逃げられないし奴隷になった経緯も話せないんだから」


 僕と同じ意見だ。 


「そういえば、お前たちその二人の首輪を外して使節団に届けたって言ったな。俺は、新型の首輪は絶対に外せない、例えはジネヴラのような最上級の魔法を使える魔術師でもダメだと、そう聞いたんだが、違ったのか?」

「ええ、まあ・・・」


 ユイが賢者だとは言い難い。


「そうか。それもエラス大迷宮の攻略に関係しているんだろうな。まあいい」

「とにかく、二人はバイラル大陸にある故郷の村から拉致されたんです。借金奴隷でもましてや犯罪奴隷でもありません」

「違法奴隷ってことだな」

「はい」

「奴隷商のところで大公の名を出したら二人を見せてくれた」

「はい。他にも違法奴隷らしい人たちがいました」

「許せんな」

「はい」

「俺は、こないだまで迷宮に籠もっていた。だから情報が不足している。ただ、トルースバイツ公国の公主が続けて大公に選ばれてドロテア協和国は発展した。同時に帝国との関係を深めた。大公ジェフリー・バーンズが帝国に接近し過ぎているという者もいる。俺のほうでもちょっと動いてみよう」


 英雄であるSS級冒険者が動いてくれればありがたい。


「だが、お前たちには俺よりもっと頼りになるやつがいると思うぞ」

「え?」

「『鉄壁のレティシア』がいるだろう。お前たちのリーダーのな」


 確かに。


「トラリアでもレティシア様の人気は凄かったですね」

「そうだったね」とユイも同意した。


 バイラル大陸から特使の到着や勇者コウキの武闘祭での優勝を上回るほど噂になっていた。


 新たに登場した世界で3人目のSS級冒険者、しかも女性で容姿端麗だ。レティシアさんを見たことがない人たちがその強さと優れた容姿を噂していた。イネスさんやジークフリートさんには悪いけど、現時点では同じ英雄と呼ばれるSS級冒険者でも『鉄壁のレティシア』の人気は二人を遥かに上回っている。200年振りに現れ武闘祭で優勝した勇者コウキと並ぶスーパースターだ。いや、異世界人のコウキよりもっと身近なスターかもしれない。ましてや、レティシアさんの出身地であるドロテア共和国ならなおさらだ。


「レティシアさんは、帝国で整理することが済んだら故郷に帰るって言ってましたから、相談できるかもしれません」

「それがいいだろうな。今のレティシアの影響力なら国だって動かせそうだ。特にこの国ではな」

「それはレティシアさんがドロテア共和国の出身だからですか?」

「もちろん、それもある。だが、それだけでない。この国は共和国を名乗っている。それは平民にも選挙権があるからだ」


 なるほど、僕も以前同じことを考えた。


「議員を選ぶ選挙ですね」

「ああ、議員には貴族しかなれない。だが平民にも議員を選ぶ権利がある。公国によって多少制度は違う。同じ一票でも価値が違ったりだな。そして選挙で選ばれた議員が各公国の公主を選ぶ。だから、平民にも多少政治に参加する権利があるってことだ」

「ということは」

「ここドロテア共和国では民衆からの人気というのは権力者にとっても無視できない」

「レティシアさんは平民だと言ってましたけど」

「だが、今はSS級冒険者だ。貴族どころか王族と同じだ。おまけに民衆に大人気ときたもんだ。今レティシアが立候補すればすぐに議員になれる。その影響力からすれば公主や大公にだってなれそうだな」


 なるほど。


「レティシアさんに会えたら相談してみます」

「それがいいだろう」


 だけど、イネスさんだってドロテア共和国の貴族でSS級冒険者だ。最近までエラス大迷宮に籠もっていたとはいえ、この世界の英雄であることは間違いない。特にここニダセク公国でなら、今イネスさんがレティシアさんについて言ったことの大半はイネスさん自身にも当てはまるんじゃないだろうか?


「ハル、考えてみたら私たちってジークとも知り合いだから、この世界の3人のSS級冒険者全員と知り合いだね」

「お前たちジークフリートとも知り合いなのか」

「はい」

「俺にはお前たちのほうが国でも動かせそうに思えるよ。エラス大迷宮のこともあるしな」

「イネスさん、それは・・・」


 イネスさんは何か見透かすように僕たちを見ている。


「お前たちこの後どうするんだ?」

「ジリギル公国に行く予定です」

「ふむ、あの噂があるからか」


 イネスさんが言っているのはジリギル公国にはホロウ商会の支店があり違法奴隷に関わっているんじゃないかという噂のことだろう。


「はい」


 ほんとは別の理由もあるけど、それは言えない。


「確かにジリギル公国にはバイラル大陸出身者が多い。しかもここニダセクと同じ内陸部の公国なのにだ」

「やっぱり、そうですか」

「ただ・・・」

「ただ、なんですか?」


 イネスさんは少し考えていたが「それは、お前たちがその目で確かめてみろ」と言った。


 うーん、僕たちの目で? よく分からない。でも、とりあえず行ってみよう。サリアナから言われた件もある。


「分かりました。行って自分の目で確かめます」

「それがいい」


 こうして、僕たちはイネスさんの屋敷を後にした。次の目的地はジリギル公国だ。

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