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7-15(ハル、ジャイタナ、ゴンド).

 貧民街でメリンダという少女に会った翌日、僕たちは特使が泊まっているという迎賓館みたいな場所を訪ねた。前の晩もガガサトとフランと一緒に過ごしたユイとクレアの目が赤い。たった二日間だけど、ガガサトとフランはユイとクレアに懐いている。別れが辛いのだ。


「ここみたいだね」


 使節団一行が宿泊しているだけあって警備が厳重だ。警備をしているのはドロテア共和国軍の人みたいだ。


「バイラル大陸からの使節団の人と話がしたいのですが」


 僕は警備の軍人らしき人に話しかけた。


「なんだお前たちは」


 警備の人は若い子供連れの僕たちを胡散臭そうに見た。


「僕たちは冒険者です」と言って僕は冒険者証を見せる。


「冒険者が何の用だ」と言いながら僕の冒険者証を見た警備の人は、冒険者証に表示されたランクがS級であることに気がついたようで何度も冒険者証と僕の顔を見比べている。


「いや、いくらS級冒険者といっても、いきなり来てもらっても困る」


 うーん、いつものようにいかない。困った。


 ちょうどそのとき迎賓館の玄関の扉が開いて使節団の人と思われる人が数人出てきた。そのうちの一人がこっちに目をやった。その人は他の人にちょっと話しかけると、こっちのほうに走ってきた。


 走ってきた男の人は僕たちと警備の人を見比べて「どうしたんですか?」と尋ねた。警備の人が「こちらのS級冒険者の方が使節団に会いたいと言って、いくらS級とはいってもいきなりは無理だと話していたところです」と答えた。


「えっと使節団の方ですよね。僕たちはこの二人のことで話があって来たんです」

 

 僕は目でガガサトとフランの二人を示した。


「この二人のことで? どうやら私と同郷のようですが」

 僕は素早くその男の人に近づくと「ええ、二人は違法に奴隷にされていたんです。それで助け出したんですけど、二人を故郷に帰してあげたくて」と小声で言った。

「なんですって!」と思わず声を上げた男の人は、すぐに小声で「二人は違法奴隷だったんですね」と確認した。

「はい」

「分かりました」


 僕たちはその使節団の男の人に連れられて迎賓館の一室に通された。


 今ここにいる使節団の人で一番偉いというジグダスという人と僕たちをここまで連れてきてくれたデンバさんが話を聞いてくれるという。二人共獣人系だ。ジグダスさんは人の好さそうなおじさんで小さな一本の角が生えている。獣耳はない。まあ、おじさんのケモミミは僕の好みではないから問題ない。デンバさんのほうはもう少し若くて獣耳もあって、ガガサトが大きくなったらこんな感じになりそうだ。


 僕はジグダスさんとデンバさんにガガサトとフランを買った経緯を説明した。もちろん二人がバイラル大陸から拉致されて違法に奴隷にされたこともだ。見るとジグダスさんはボロボロと泣いていた。見かけ通りの人だったらしい。デンバさんは口をぎゅっと結んでいる。怒っているのだろう。


「そうか、そうか、大変だったなー」とジグダスさんがガガサトとフランに声をかけた。

「それで、二人を故郷に帰してあげたいんですが」

「あたりまえだ。おじさんに任せろ。今は不在だが特使のゴンド様はとても頼りになる方だ。なんの心配もない」


 隣のデンバさんも大きく頷いている。


 どうやらガガサトとフランを任せても大丈夫そうだ。僕はユイとクレアを見た。二人の目が赤い。ガガサトとフランと別れたくないのだ。分かる。でも・・・。


「ユイ、クレア」

「ハル、分かってるよ。二人を両親のところに帰してあげなくちゃね」


 クレアもユイの言葉に頷いた。頷いた拍子にクレアの目から涙が零れた。


「ガガサト、聞いた通りだ。この人たちが二人を故郷に帰してくれる」

「お父さんとお母さんのところに帰れるの」

「そうだ。ガガサトはお兄ちゃんだ。フランのことを頼んだぞ」

「ハルたちは一緒じゃないの」

「ごめん。そうなんだ」


 ガガサトは何かを言いかけたが、それをグッと飲み込んだ。


「分かった。フランは僕が守る」

「うん」


 その後、僕たち3人も一緒だと言って泣いているフランをみんなで宥めて僕たちは迎賓館を後にした。


「ハル、いつかバイラル大陸に行ってみたいね」

「ハル様、ユイ様、大人になった二人に会えるといいですね」

「そうだね」

「フランちゃんって、美人なりそうだもんね、ハル」

「そ、そうかな。ガガサトだってイケメンになっているかも。今でも可愛かったし」

「ふふ、そうね」


 ユイもクレアも笑ってはいるがまだ目が赤い。絶対に将来は二人に会いにバイラル大陸に行こう。





★★★





 ジャイタナとジネヴラの二人は公都トラリアの貧民街に足を踏みれた。ジャイタナたちが貧民街に足を踏み入れて以来、ジロジロ見られている。明らかに体つきが大きく強そうなジャイタナを警戒して一定の距離を取って観察しているようだ。

 ジャイタナたちのほうも貧民街に入ってから辺りを観察しながら歩いている。ジャイタナやジネヴラと同じバイラル大陸出身者も何人か見かけた。奴隷ではない。首に奴隷の首輪は見えない。バイラル大陸から自らの意志でこっちに渡った者のうち少なくない数の者が食うに困っている。自己責任とも言えるが、その背景にはバイラル大陸出身者への差別がある。特に獣人系に対する差別が・・・。そのくせ奴隷としては人気だというのだからたちが悪い。ジャイタナたちは長い間イネスと一緒にエラス大迷宮に籠もっていたので、そういったことに気がついていなかった。しかし、エラス大迷宮の攻略を諦めパーティーを解散した後、そういったバイラル大陸出身者の現状について知ることになった。


 こっちの人族ときたら・・・。特に許せないのはやはり違法奴隷の件だ。


「どこを探せばいいんだ?」


 ジネヴラが尋ねる。妖艶な美人であるジネヴラも注目されている。それにジネヴラは・・・。


「まさか、エルフ系なのか・・・」


 二人を遠巻きに見守っていた貧民街の住人のうちバイラル大陸出身者の一人が呟いた。バイラル大陸においてもエルフ系は珍しい。


「ジネヴラ、俺の予想では探さなくても向こうから接触してくると思う」

「そうかもな。私とジャイタナはどう見てもバイラル大陸出身者だ」


 しかし、二人の予想に反して、何も起こらない。住人たちは二人を遠巻きに観察しているだけだ。


「ジャイタナが怖いんじゃないか」

「俺のせいなのか」

「私のせいじゃないと思うけど。白髪のリーダーとやらも現れないし、やっぱりジャイタナはこういう仕事に向いてないな」


 いや、ジネヴラだってエルフ系の上、妖艶で只者じゃない雰囲気がある。ジャイタナよりある意味怖そうかもしれない。そう思ったジャイタナだがもちろん口には出さない。とにかく俺たちは目立ち過ぎる。ジネヴラの言う通りで隠密行動には向いていない。


「どうするんだ?」

「うーん、明らかにバイラル大陸出身者だと分かる俺たちに接触してこない。強引に白髪のリーダーのことを尋ねてみるか?」

「ジャイタナが尋ねても怖がられるだけだと思うけど・・・」

「それもそうか。それじゃあ、とりあえず。怪しいと噂のジリギル公国に行ってみるしかないな。ここでの調査はそれこそゴンド様が連れてきた専門家に任せよう。俺たちは・・・」

「ジリギルで、これまで通り力ずくの調査をする」

「まあ、そういうことだ」





★★★





「それは本当かマサライ」

「ええ、私もさっき二人の子供に会ってきました。二人は集団で攫われたわけではないようです」

「そうか。だが、それよりも」

「ええ、首輪をしてないってことです」


 首輪をしてないからこそ、二人は・・・ガガサトとフランという名前らしい・・・奴隷になった経緯を話すことができたのだ。これは大きな前進だ。だが、子供二人だけの証言ではまだ弱い。ゴンドとしては大公のやつが言い逃れできない証拠が欲しい。


「それにしても、どうやって首輪を外したんでしょうか?」

「分からない」


 ゴンドは高位の魔術師なら外せるかもしれないと考えジネヴラに試してもらった。だが、最上級魔法が使えるというジネヴラでもダメだった。今のところ新型の奴隷の首輪を外すことができていない。ゴンドたちが新型の奴隷の首輪を開発したと疑っているガルディア帝国とトルースバイツ公国なら何らかの手段を用意していると思うが、それ以外では外すことは不可能だというのがゴンドたちの出した結論だった。


「首輪が外せるのなら、主から助け出し、奴隷となった経緯を証言させることができますね」


 マサライの言う通りだ。それができないから行き詰まっている。


「ジグダスとデンバは連絡先も聞いてないのか」

「そうなんです。二人共人は好いのですが・・・」


 なんてことだ。


「ですが、ガガサトとフランの二人から3人の名前は聞いています。ハル、ユイ、クレアというらしいです。ですが、3人がどうやって首輪を外したのかまでは分かりません。子供たちが言うには寝ていて起きたら外れていたとかで」


 一体どうやって。ハル、ユイ、クレア・・・首輪を外せたということはガルディア帝国かトルースバイツの関係者なのか。いや、少なくともハルはS級冒険者という話だ。だとしたらなんで子供たちを助けたのか?


 分からない。


 とにかく慎重に行動しなければとゴンドは思った。


「それで、ジャイタナたちですが」

「相変わらず強引な調査をしているようだな」

「あれが、調査と呼べるのなら・・・ですが」


 マサライは苦笑いをしている。


 ジャイタナたちはトルースバイツ公国とマルメ公国の中のホロウ商会や違法奴隷を扱っていると確認できている商会の倉庫や関係先を調査している。一応闇に紛れて忍び込んで調べている。拠点になりそうな大きな建物だけだ。ほとんどの場所で警備の者と争いになっているが、正体はバレていない。さすがS級冒険者ではある。まあ、ゴンド自身も少々強引な手を使ってでも調査しようと思っていたから好きにさせている。


「ジャイタナはゴンド様の話を聞いて、ずいぶん怒っていましたからね」

「そうだな」


 確かに、ゴンドの話を聞いたジャイタナの顔には憤怒と言ってもいい表情が浮かんでいた。それに真剣に何かを考えている様子だった。


「ただ、それでも拠点を発見できていない」


 拠点を発見すること、新型の奴隷の首輪を外し奴隷たちに証言させること、この二つが揃えば・・・。だが、まだどちらの目的も達成することができていない。


「それで、ゴンドたちは?」

「ジリギル公国へ行ってみると。ジリギル公国の公都コトツカにもホロウ商会の大きな支店があるそうです。それに・・・」

「あの、噂か」

「はい」


 ジリギル公国には獣人系の住人が多いという。それ以外にも多くの種族がいるらしい。内陸部にもかかわらずだ。そしてホロウ商会の支店がある。これらのことからジリギル公国が違法奴隷と関係があるのではないかという噂がある。


「とりあえず、ジャイタナたちの調査の結果を待とう。それとハルたちのことを慎重に調べるんだ」

「はい。ただ、私にはハルたちが悪い奴らには思えません」

「二人の子供を保護してくれたんだからな」

「それに子供たちはとてもハルたち3人に懐いていたようなのです」

「そうか・・・。だとしたらちゃんと礼を言わねばならん。何より二人を奴隷商から買ったとすれば大金を使っているはずだ。それも返さねば」

「確かにそうですね。ジグダスとデンバは人は好いのですが、その辺りのことに全く気がつかなかったようで・・・」

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 もし少しでも面白い、今後の展開が気になると思っていただけたら、ブックマークへの追加と下記の「☆☆☆☆☆」から評価してもらえるとうれしいです。

 また、忌憚のないご意見、感想などをお待ちしています、読者の反応が一番の励みです。

 よろしくお願いします。

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