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7-11(トラリア魔術学園その2).

 とりあえず、学生たちに怪我がなかったこともあり、卒業イベントもなんとか落ち着きを取り戻した。


 最後はメインイベントの魔術による模擬戦だ。ユイの出番である。


「ユイ、やり過ぎないようにね」と言って僕はユイを送り出した。「すぐ治すから大丈夫だよ」と言ってユイは控室に去っていった。うーん、そういう意味じゃなかったんだけど・・・。


「次はお待ちかねの魔法による模擬戦の時間です。今年の魔術科の学生代表は、クリスティーネ・バーンズさんです」


 模擬戦の魔術科の代表は大公の娘であるクリスティーネ嬢だ。ユイにいきなり魔法攻撃してきた娘で間違いない。


「冒険者ギルドからはこの模擬戦のために若手有望株の魔術師、ユイさんが来てくれています。ユイさんは先程のクレアさんと同じくなんとS級です」


 対戦相手としてユイが紹介される。ユイを見た観客が騒めいている。さっき回復魔法を使っていたユイを見ているからだ。それにユイが美人なのと思った以上に若いせいもあるだろう。どちらかと言うと、きつい顔立ちのクリスティーネ嬢よりユイのほうが若く見える。

 

 審判役の学園の教師が、審判が止めたら直ぐに攻撃を中止するなどのルールを説明する。


 審判から二人にフードの付いた体全体を覆うローブが手渡される。説明によると、このローブは魔道具で強力な魔法防御結界が発動する魔法陣が刻まれているとのことだ。二人はローブを着て説明された通りローブに魔力を流す。するとローブが白く光り始めた。これで約30分間は魔法防御結界が発動しているらしい。

 このローブの防御魔法結界が破られた時点で模擬戦は終了になるルールだ。そのほかにも回復魔法を使える教師が複数配置されているなど事故が無いように、色々配慮されている。訓練場自体にも結界が張られていて観客の安全にも配慮されていると説明された。

 僕は下級の魔法ですら限界突破すればドラゴンにもダメージを与えることができることを知っているのでちょっと心配だ。これまでの模擬戦で事故は無かったのだろうか?


 僕もいつでも防御魔法を使えるように備えておくことにしよう。


「よろしくお願いします」


 ニッコリほほ笑んでユイが挨拶するが、クリスティーネ嬢はフンっといった感じで相変わらず態度が悪い。

 

 審判の指示に従って、一定の距離を取った二人が対峙する。


 そして、審判の合図で模擬戦が始まった。


氷弾アイスバレット!」


 合図が終わるとほぼ同時にクリスティーネ嬢が氷弾アイスバレットを放って来た。冒険者ギルドでもユイに同じ魔法を使ってきたので得意なのだろう。だけど、最初から魔力を溜めておくのは禁止だと説明されていなかっただろうか? 


 今の発動速度、絶対に魔力を溜めてたよなー。


 ユイは予想していたのか、それを直ぐに避けると、距離を大きく取った。ユイはルールに則り逃げながら魔力を溜めているみたいだ。


氷弾アイスバレット!」


 クリスティーネ嬢がまた氷弾を放つ。最初と同じ初級魔法だが発動の間隔は割りと短い。さすがに代表になるだけあって優秀なのだろう。


「ユイさんは身体能力強化を使っていますね。でもあれでは・・・」


 デアンドロくんの言いたいことは分かる。身体能力強化も魔法の一種だ。普通はこれを使っていると攻撃魔法が使えない。魔力を溜めることができなくなると言い換えてもいいだろう。だからこそ、最初から魔力を溜めておいていきなり魔法を放つのが禁止というルールなのだと思う。身体能力強化をしていない魔術師がいきなり魔法を食らって試合が終わってしまう。

 だけど、それは一般論だ。僕たち異世界からの転生者においては後衛職であっても身体能力強化を使いながら戦うのは普通のことだ。それに別に異世界人しかできないわけではない。この世界の人にも少数だけどできる人はいる。クレアだって身体能力強化をして剣で戦っているときに風属性魔法を補助的にではあるが使っている。ただ、身体能力強化を使いながら属性魔法を使うのが、この世界の人にとって極めて難しいのは間違いない。レティシアさんでさえ最初は大変そうだった。

 

「大丈夫だよ」

「ユイ様はS級の冒険者です」


 デアンドロくんは「そうですか。ユイさんは身体能力強化をしながらでも普通に魔法が使えるのですね。そういう人がいると聞いたことはあります。ユイさんはS級冒険者なんですから、できてもおかしくないのでしょうね」と感心したような顔で言った。 

 

氷弾アイスバレット!」


 クリスティーネ嬢は氷弾を次々放つが、ユイは身体能力強化した上で逃げ回っているので、なかなか当たらない。ただ、対人戦でバレット系の魔法を主力に使うのは間違いではない。


「ちょこまかと逃げてばっかり。それでも現役の冒険者なの」


 クリスティーネ嬢はかなりイライラしている。


 異世界人であるユイの身体能力強化は、剣士などの前衛職には劣るが魔導士としては高いほうだ。前衛のフォローも無い状態で、いくら優秀といっても学生のクリスティーネ嬢が逃げ回っているユイに魔法を当てるのは難しいだろう。


 ユイのほうはクリスティーネ嬢の攻撃を避けながらまだ魔力を溜めている。


「ハル様、ユイ様の魔法を溜める時間がずいぶん長いですね」

「うん」


 なんか嫌な予感がする。やり過ぎないといいんだけど・・・。


 しばらくの間そんな展開が続いた後、ついにユイは攻撃魔法に魔力を溜め終わったのか、突然足を止めてクリスティーネ嬢の方に向き直った。


氷弾アイスバレット!」


 チャンスとばかりにクリスティーネ嬢がを足を止めたユイに向かって氷弾を放つ。このままだと氷弾アイスバレットがユイを直撃しそうだけど、ユイに焦った様子はない。


 そして薄っすらと笑みを浮かべたユイが使った魔法に僕は仰天した。


隕石竜巻メテオトルネード!」


 ずいぶん時間をかけて魔力を溜めているとは思ったけど、なんだこの魔法は!?


 隕石竜巻メテオトルネードだって・・・。


 ユイが放った隕石竜巻メテオトルネードは巨大な竜巻だ。竜巻の中で赤く燃え盛る溶岩のようなものが渦巻いている。ゴゴゴオォォーっという音がここまで響いてくる。


「これは・・・」とクレアが呟く。デアンドロくんは口を大きく開けたまま固まっている。


 まさか、火属性上級魔法の火柱フレイムタワーと風属性上級魔法の竜巻トルネードに加えて土属性の上級魔法の岩石雨ロックレインの三つを合成したのか・・・。


 観客は騒然として、皆巨大な竜巻を凝視している。


 ユイはもともと二種類の上級魔法の合成である炎竜巻フレイムトルネードを得意にしていた。おそらく、それに土属性属性上級魔法を加えて合成した魔法だ。いつの間に練習していたんだろう? 隕石竜巻メテオトルネード、ぴったりな呼び名だ。


 巨大な炎の竜巻が真っ赤に焼けた無数の岩石を巻き上げながらクリスティーネ嬢に迫る。


 観客席のあちこちから悲鳴とも怒号ともつかない叫び声が上がる。大公の「止めろー!!」とか言っている声が混じっているような気がするけどよく聞こえない。


 凄い!


 でも、ユイ・・・これはやり過ぎだよ。模擬戦で使うような魔法じゃない。


 対人戦はスピードが命だから魔導士が1対1で対戦すれば普通はバレット系の魔法の打ち合いになる。だけど、今日のユイの作戦は、魔導士としては高い身体能力強化を生かして逃げ回りながら魔力を溜めて、その後発動する高位の魔法一発で勝負を決めるというものだ。いや、でも、高位といっても限度が・・・。

 

 クリスティーネ嬢が放った氷弾アイスバレット隕石竜巻メテオトルネードに巻き込まれるとあっという間に消えてしまった。


 巨大な隕石竜巻がクリスティーネ嬢に迫る。これって別に合成魔法でなくても風属性上級魔法の竜巻トルネードだけで十分だったのでは・・・。


「やっぱりユイ様は凄いです」


 クレアの顔が輝いている。


 回復魔法のために備えていた教師も訓練場の端まで逃げている。クリスティーネ嬢も逃げるがそれ以上のスピードで隕石竜巻メテオトルネードが迫る。


 ゴゴゴオォォーー!!!


 隕石竜巻メテオトルネードは訓練場の石畳を破壊し巻き上げながら移動している。


 追い詰められたクリスティーネ嬢は腰を抜かしてへたり込んだ。


「こ、攻撃止めー!!」


 隕石竜巻メテオトルネードの余波で吹き飛ばされた審判が、ようやく我に返って大声で攻撃の中止を指示する。

 クリスティーネ嬢が絶体絶命と思われた瞬間、ユイの手の動きに合わせて隕石竜巻メテオトルネードは上昇し始め、やがて大空に消えて行った。


 バリン!!


「結界が破壊された・・・」


 誰かが呟く声が聞こえた。そうだ、訓練場を覆うように結界が貼られていたんだった。確かに結界に遮られることなく隕石竜巻メテオトルネードは上空に消えていった。


 隕石竜巻メテオトルネードが訓練場を移動した痕跡がはっきりと分かるように石畳が破壊されている。その先の地面にはへたり込んだクリスティーネ嬢の姿があった。


 あまりことに観客も静まり返っている。


 竜巻系の魔法は発生させてからしばらく消えずにその場に留まるという特徴がある。そしてユイは竜巻の動きをコントロールすることが得意だ。クリスティーネ嬢を傷つけないようにコントロールしていたと思う。


「私の勝ちでいいのかな?」


 ユイがニッコリ笑ってそう聞いた。なんか怖い。冒険者ギルドでいきなり攻撃されたことを思った以上に怒ってるんだろうか? 僕も絶対ユイを怒らせないようにしないとだ。


「それとも、まだどちらのローブの防御魔法結界も破壊されてないみたいだし、続けたらいいのかな?」


 ユイの問いかけに、クリスティーネ嬢は座り込んだままブンブンと首を振って審判の方を見た。


 それを見た審判の教師は、床にへたり込んでいるクリスティーネ嬢を確認すると、「こ、この勝負はユイさんの勝利でしゅ」とユイの勝利を宣言した。噛んだ。


 遅れて観客席から割れんばかりの拍手が送られた。ユイは一発しか魔法を放たなかったけど、それは滅多にみられない派手な3属性混合魔法だった。観客も満足しただろう。


 ユイは照れたようにクリスティーネ嬢に近づくと手を差し出した。クリスティーネ嬢がユイの手を取り起き上がる。なかなかいい場面だ。クリスティーネ嬢もやっと落ち着いたみたいで「完敗です」と言って目を伏せた。


 それに対してユイは「私はクリスティーネが氷魔法が得意なのは知っていたけど、クリスティーネは私のことは知らなかったでしょうから、私がちょっと有利だったかもしれませんね」と言った。


「あのときは、ごめんなさい」


 クリスティーネ嬢はユイにいきなり魔法攻撃したのを素直に謝った。


「ふふ、謝ってくれてありがとう」


 ユイはちょっと困ったような照れたような顔をしている。うん。ユイの顔、あれは自分でもちょっとやり過ぎたと思ってる顔だ。


「凄い魔法ですね。初めて見ました。何度やっても私が勝てるとは思えませんわ」


 ユイの魔法の前には結界や訓練のために相応の強度を持って作られているはずの訓練場の床さえ破壊されたんだから、実力の違いは明らかで、いっそクリスティーネ嬢もすがすがしいんだろう。


 二人が改めて握手を交わすと、会場は再び拍手に包まれた。


 なんかいい感じに終わって良かった。

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