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7-5(特使ゴンドとジャイタナ).

 ゴンドたちがトラリアに到着して1週間が過ぎた。


 様々な歓迎行事も一段落し、テテルラケル連合からの特使であるゴンドは夕食を終え用意された高級な宿の部屋で寛いでいた。そこへ随行者の一人でゴンドと同じく獣人系の種族であるマサライが現れゴンドに何事が耳打ちした。


「それは、本当か」


 マサライは頷くと「私が確かめました」と言った。


「すぐに通せ」

「はい」


 しばらくしてマサライは男女二人の冒険者らしき人物を連れてきた。


 男を見たゴンドはニヤッと笑うと「こんなとこで会えるとは久しぶりだな」と言った。男のほうは「・・・4年ぶりでしょうか」と返事すると同じく表情を緩めた。


「まあ、座れ」


 ゴンドの言葉に二人の冒険者、ゴンド、マサライの4人がソファに座った。


「それで、そっちの美しい御婦人は? どうやらエルフの血を引いているようだが」


 エルフの血を引く者はバイラル大陸でも少数だ。


「ジネヴラと申します。ゴンド様」

「今は俺の冒険者仲間です」


 ジネヴラ?


 ゴンドにはその名前に聞き覚えがあった。確かS級冒険者ではなかったか。しかもSS級になるのも時間の問題だと噂されていた。バイラル大陸にも30年ほど前に冒険者ギルドができた。その頃からヨルグルンド大陸との交流が盛んになってきたからだ。

 冒険者のような職業は昔からあったし自由を好むバイラル大陸の人たちに冒険者という職業は向いていた。今ではバイラル大陸の各地に冒険者ギルドがある。


「ジネヴラといえばS級冒険者の」

「はい」


 ジネヴラは優雅にお辞儀をした。お辞儀をしたことで明るい緑の髪から特徴的な尖った耳が覗いた。一説によればエルフは魔族に近い種族ともいわれ魔力適性が高く長寿で知られている。


「それでジャイタナ、いつからこっちにいるんだ?」

「3年ほど前からです。ちょっと面白いことにジネヴラと一緒に関わっておりました」

「ほうー、面白いこと?」


 ゴンドは期待するような顔をしてジャイタナの話の続きを待った。元冒険者であるゴンドは同じ獣人系の冒険者であり若くしてS級の冒険者となったジャイタナとは顔見知りだ。


 その後、ジャイタナがときどきジネヴラの補足も交えて話した物語はゴンドを期待以上に驚かせた。


「なんと、そんなことが・・・」

「はい」

「噂には聞いていたが、一国よりも広い迷宮があるとは、わしも行ってみたかったな」

「私も最初に見たときには驚きました」


 隣でジネヴラも頷く。


「それで、伝説級の魔物や神話級の魔物まで討伐したと」


 バイラル大陸にも魔物はいる。いるどころか、どうもこっちよりも高位の魔物との遭遇率は高いようである。おそらく全体的に魔物が住んでいる地域がバイラル大陸のほうが多いのだと思う。バイラル大陸にはオリハルコンやアダマンタイトと言った魔鉱石も多く産出するので、高位の魔物素材や魔鉱石を使った武器や防具はヨルグルンド大陸への交易品として人気がある。バイラル大陸のドワーフ系の住人には職人系の固有魔法が発現する者が多い。今では血が混じっているのでゴンドの生まれた町でも鍛冶系の固有魔法を持っている優秀な職人がいた。


 だが、そのバイラル大陸でも、伝説級の魔物が現れれば大事件だ。ましてや神話級など・・・。


「その通りです」

「だが、攻略はできなかった」

「残念ながら」

「お前たちがいて攻略できないとは・・・」

「こちらのSS級冒険者もいました」

「うむ」

「実力的にもSS級冒険者に相応しいものでした」


 バイラル大陸にはまだSS級冒険者はいない。だが、それは冒険者ギルドの歴史が浅いせいとバイラル大陸の住民が階級のようなものにあまり興味がないせいでもある。目の前にいる二人だってSS級に匹敵するのではとゴンドは推測している。


 ただ、ジャイタナの話では、ジャイタナたちの前には勇者パーティーしか6階層に到達しておらず、その勇者パーティーさえ攻略はできなかったらしい。勇者でも無理だったとすれば、いかにジャイタナたちといえども攻略できなかったのは納得できる。勇者のことはバイラル大陸でもよく知られている。そもそもバイラル大陸の住人は、2000年前に勇者アレクたちの活躍により人族の勝利で終わった第一次人魔対戦において人族に味方した種族の子孫だ。人族に味方したにもかかわらず戦後人族から差別された獣人やエルフ、ドワーフなどが海を渡ったのだ。


「それでパーティーは解散になった。お前たち二人がいて諦めるとは、よっぽどだな」

「まあ、あれはどう考えても無理ですね。それでジネヴラと二人、故郷に帰るか、こっちで冒険者を続けるか迷っていたところ、ゴンド様がこちらを訪れていると聞きまして」

「それで、訪ねてきてくれたのか。うん、よく来てくれた。もしバイラル大陸に帰るのであればわしらに同行すればよい」

「ありがとうございます」


 そのときマサライが口を挟んだ。


「ゴンド様、お二人は優秀な冒険者のようです。例の件、お二人にも協力をお願いしてはどうでしょうか?」

「ゴンド様、例の件とは?」

「うむ、ジャイタナ、お前になら話してもいいだろう」


 チラリとジネヴラを見たゴンドに「ジネヴラは信用できる人物です。俺が保証します」とジャイタナが言った。


 ゴンドは頷くと「実はな」とこの特使がただの特使ではなく、別の目的も持っていることを話した。話を聞くにつれジャイタナの顔は険しくなった。


 ゴンドの話が終わった後、ジャイタナはしばらく黙っていた。何か思い当たることでもあるのだろうか。


「それで、ヨルグルンド大陸の奴らの仕業ではないかと? 盗賊などではなく?」


 残念ながらバイラル大陸にも盗賊は多い。ヨルグルンド大陸より自由な生き方をする者が多いバイラル大陸の住人だが、その自由を履き違える者もいる。


「わしは、そうではないかと疑っている。いや、疑っていると言うより、ほぼそうだと思っている。あとは証拠を固めるだけだと。だから特使としてここへ来た」


 言われてみれば納得できるとジャイタナは思った。迷宮を出て以来そんな光景をよく見かける気がする。3年間迷宮に籠もっていたので気がつかなかったのか・・・。


「バイラル大陸では俺も似たような話を聞いたことがあります。それにヨルグルンド大陸の奴らが関わっていると。だとしたら絶対に許せませんね」


 大柄で額に二本の角があるジャイタナが顔を真っ赤にして怒っている。


 ジネヴラは、その厳つい外見にもかかわらず意外と冷静なジャイタナがこんなに感情を露にするのは珍しいなと思いながら「エルフの村ではそれほど大掛かりな話しは聞きませんが、それでも似たような話はありますね。それにもこちらの人族が関わっているとすれば・・・」と言った。


 ジネヴラも静かに怒ってた。


「ゴンド様、分かりました。この時期にゴンド様がヨルグルンド大陸を訪れ、俺たちのパーティーが解散になった。これも何かの縁でしょう。俺たちもちょっと動いてみますよ。俺たちはS級の冒険者ですし、SS級冒険者の知り合いもいます」

「さっきの話しに出てきた男だな」 


「はい。SS級冒険者はこちらの国の王に匹敵する存在です」

「信用できるのか?」

「まあ、迷宮攻略に取り憑かれていた変わった男ですが信用はできると思っています。今は迷宮の呪縛も解けたようですしね。それに3年以上も一緒だったのです。バイラル大陸の住人に差別意識などはないことは間違いありません」

「そうか、それならお前たちにも協力を頼みたい」

「分かりました。それで、もしその話が本当であることが裏付けられたらどうするのですか?」

「もちろん、ただでは済ませない」


 獣人系の一族は自由を好むが誇り高き一族でもある。


「この国は我々との交易によってずいぶんと栄えている様子ですから、そうなれば困るでしょうね」

「望むところだ」


 ゴンドはニヤリと笑った。ゴンドはバイラル大陸の住人を見下したような大公ジェフリー・バーンズの顔を思い浮かべていた。 


 その後、ドロテア共和国に来てからすでに動いている者たちやこの件のリーダーとの顔合わせなどの細かい段取りについて話をした後、ジャイタナとジネヴラはゴンドたちの宿を後にした。


「ジャイタナ、何か隠していることがあるんじゃないのか?」


 自分たちの宿への道を歩きながらジネヴラが尋ねた。


「気付いていたのか?」

「まあな」


 すでに辺りは薄暗い。ジネヴラの碧眼だけが光って見える。


「水臭いぞ」

「すまない。さっきのゴンド様の話だか・・・。実はゴンド様にも話さなかったことがある」

「聞かせろ」

「分かった」


 ジャイタナの話を聞き終わったジネヴラは「なるほどな。それで様子が変だったのか。それならちょっと本気で動いてみなくてはな」と言った。

 

「感謝する」とジネヴラに言った後、ジャイタナはまだ何かを思い出すように考え込んでいた。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 もし少しでも面白い、今後の展開が気になると思っていただけたら、ブックマークへの追加と下記の「☆☆☆☆☆」から評価してもらえるとうれしいです。

 また、忌憚のないご意見、感想などをお待ちしています、読者の反応が一番の励みです。

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