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7-2(プロローグ2).

 王宮の一室に6人の男の姿があった。王宮の主であるグノイス・ルヴェリウス、その息子で王太子であるアルフレッド、宰相のジェズリー・ライト、王国騎士団長のアトラス・シグデマイル、そして王国騎士団副団長のギルバート、宮廷騎士団の筆頭魔術師のセイシェルの6人だ。


 ここに集まっている顔ぶれを見ても分かる通り、今日の議題は勇者たちの件だ。それに王国の戦力強化の話もあるだろう。

 先日ギルバートとセイシェルの二人は勇者たち異世界人4人を連れて魔族との戦いの拠点の一つである北東の街ローダリアを訪れた。魔族との戦いの様子を勇者たちに見せるためだ。少し予定とは違って勇者たちは実際に魔族と戦闘をすることになった。勇者たちは全員予想以上の働きを見せてくれた。


「勇者たちは十分に戦力になることを証明した。そうだな」

「はい。正直予想以上と言っていいでしょう。4人は能力的にもバランスが取れています」


 グノイス王の質問にギルバートが答えた。


「ふむ、結局残ったのが今の4人でよかったということか」

「父上、勇者は先だっての武闘祭で優勝しました。予想より速い成長ぶりですね」

「アルフレッドの言う通りだ。だが・・・」


 わずかにグノイス王の顔が曇った。この場にいるグノイス王以外の者に緊張が走る。グノイス王は有能ではあるが非常に厳しい、いや、はっきり言って残虐な王である。これまで王の機嫌を損ねた者がどうなったのか知らぬ者はこの場にはいない。


「勇者コウキは民に非常に人気があります。ただ、だからといって彼ら4人に何かできるわけではありません。今のところ4人は従順です。そうだな、ギルバート、セイシェル」


 そう、グノイス王は勇者たちの名声が思った以上に高まっていることを懸念しているのだ。それをとりなそうと発言したのはアトラス・シグデマイル、王国騎士団長だ。


「はい」

「はい」


 ギルバートとセイシェルはアトラスに同意した。実際4人の扱いに困ることはない。


「だが、ギルバート、武闘祭に勇者コウキを出場させるべきではなかったのではないか?」


 その件は、後で多少問題になった。だが、結局ルヴェリウス王国の威信を高めたということで不問になったはずだが・・・。アトラスはギルバートを庇うふりをしてをしてその件を蒸し返して責任を押し付けようとしている。


 アトラスの奴め・・・。


 ギルバートは本音は隠して「申し訳ありません。コウキがどうしても出たいと、思いの外強行に主張してきたものですから。闘技場の機能もありましたし、マツリもいましたので許可しました」と以前と同じ言い訳を繰り返した。


 この中で実際に武闘祭の様子を見たのはギルバートだけだ。ギルバートには他にも気になっていることがあったが、曖昧なことを報告しても自身の利にはならないと判断して何も言っていない。


「父上、思った以上に勇者コウキが民の間で人気なっているのは事実ですが、王国にとっては悪いことでもないでしょう。それより帝国の動きが気になります」

「アルフレッド様の仰る通り、最近では国境辺りに黒騎士団の2つの大隊に加えて白騎士団の大隊まで張り付いていると報告を受けております」とアトラスが恭しく口にした。


 帝国の大隊は獣騎士団と呼ばれる第三大隊を除けば1000人の騎士で構成されているから約3000がルヴェリウス王国との国境付近に配備されている計算だ。

 対してルヴェリウス王国が都市アレクを中心としたヨルグルンド大陸側に配置しているのは第三師団と第四師団の計5000だ。ヨルグルンド大陸側全体で5000なので帝国との国境に配備されているのは第三師団の2500だけだ。第四師団は都市アレク近辺、エニマ王国やドロテア協和国との国境付近などヨルグルンド大陸側の領土全体に配備されている。やはり、対魔族の前線に2つの師団を取られているのが痛い。ちなみに、王国騎士団には5つの師団がある。そしてそれぞれの師団は500規模の大隊5つで構成されている。全部で12500規模ということだ。


「ギルバート、有望な人材を発掘して騎士団の増強を図れないのか?」


 ギルバートはアトラスの勝手ないい草に腹がたった。もちろん口にも顔にも出さない。


 人口ではルヴェリウス王国を上回るガルディア帝国でも黒騎士団、白騎士団合わせて約9000だ。ルヴェリウス王国にはすでに2500規模の師団が5つもあり全体で12500もの王国騎士がいる。これはむしろ経済力から考えても多過ぎるくらいだ。それに、この世界では魔力量や魔力適性による個人の戦闘能力差が大きい。数を増やせばいいというものではないのだ。


「最近では対魔族の支援としてドロテア共和国も多少の金を出すだけで大した協力をしてくれませんからな」と宰相のジェズリーが言った。


 かつては、ヨルグルンド大陸側の各国は帝国も含めて金と騎士を魔族との戦いのため拠出していた。だが、今では申し訳程度の金を送ってくるだけだ。帝国などは徐々にルヴェリウス王国の領土をかすめ取ることすらしている。

 そして共和国は交易と称してルヴェリウス王国から金を毟り取っていく。共和国を通じて手にはいる武器や防具が優秀なことはギルバートも認めている。だが装備品はともかく貴族たちが美術品や奴隷に大金と投じるのは馬鹿げている。


「宰相の言う通りだ。帝国だけでなくドロテア共和国も気に食わん」

「父上、共和国はずいぶん帝国との関係を深めているという報告を受けています」


 確かに両国の動きが怪しいと密偵たちから報告を受けている。しかし、共和国との交易の裏にも帝国がいることは、この場の誰も気がついていない。


「武闘祭の後に帝国で何かゴタゴタがあったと聞きましたが?」


 そう尋ねたのはセイシェルだ。セイシェルの口調は落ち着いている。グノイス王の前でもあまり緊張している様子はない。


「それについては未だに詳しいことは分かっておりません。ただ、前回報告したネイガロスとエドガーの排除は間違いないようです。いずれも過去の武闘祭優勝者で黒騎士団の幹部です」


 セイシェルはギルバートの言葉に頷くと「はい。前回そう報告を受けました。それなのにむしろ我が国との国境付近の戦力は増強されました。帝国は何を考えているのでしょうか?」と疑問を述べた。


 この場にセイシェルの疑問に対する明確な答えを持っているものはいない。ギルバートにはぼんやりと想像していることはあるが、それを口に出すつもりはない。


「それと魔族の動きも気になりますな」と宰相が言った。


「ギルバート、お前の報告にあった火龍の件は間違いなのだな」とアトラスが質問した。

「はい、火龍だけでなく、幹部と思われる双剣の魔族が二人、それに巨人兵の部隊も現れました。双剣の魔族のどちらかは四天王かもしれなせん。そのくらいの手練れでした」


 ギルバートの言葉にセイシェルも頷く。


「双剣の魔族が二人? 四天王?」


 アトラスが信じられないと言うようにギルバートに訊き返す。前回、魔王や四天王と戦ったのは遥か昔の話だ。


「はい。二人共黒っぽい髪をしていて、片方は曲剣を持っていました」

「しかし、ギルバート、双剣の四天王の情報はないぞ。もしかすると情報の少ない破壊の王ジーヴァスなのか?」

「分かりません」


 ギルバートはそっけなく答えた。実際分かるわけがない。 


「正直コウキたちがいて助かりました。しばらくローダリアにコウキたちと滞在していましたが、あれからは似たようなことは起りませんでしたので帰還しました。アイゼル師団長からは、その後も魔族との戦いの頻度は上がっていると報告がきています。クランティアのほうも同じような状況のようです。ただ、その後、火龍や二人の双剣の魔族は目撃されていません。しかし油断はできないと思います」


 しばらくしてグノイス王が「アトラスの言う通り騎士団の増強を図れ! 帝国と共和国の動きも怪しい。魔族との戦いに両国からの協力は期待できない。それと第四師団の配置を見直して少なくとも一大隊は帝国との国境へ回せ! それで数の上では互角だろう」と指示した。


 それではアレクを始めとしたヨルグルンド大陸側の都市や街の治安、ドロテア共和国やエニマ王国の国境付近の守りなどが手薄になる。だが誰もそれを指摘する者はいない。

 それにとギルバートは思う。数の上で互角になっても帝国騎士団のほうが強い。とくに黒騎士団は・・・。ギルバートは武闘祭の合間に行われた帝国騎士団の演舞や魔法の披露などを思い出した。かつては魔族との最前線であるルヴェリウス王国の騎士のほうが熟練度では上だったのだが。なぜこうなってしまったのか。この場にいる面々の様子を伺ったギルバートはそっとため息をついた。


「ギルバート、早速有望な者を探して騎士団を増強するのだ」


 アトラスが王に迎合するようにギルバートに指示した。ギルバートには「はっ!」と頷くことしかできなかった。あまり強引なことをすれば民の不満は高まるだろう。そうでなくても、すでに王国騎士団の数は人口に比べ多過ぎるのだ。これは国庫を圧迫するということでもある。おそらく宰相はそれを苦々しく思っているはずだとギルバートは想像している。実際、ジェズリーはこのままではまた税率を上げることになるだろうと考えていた。一昨年大幅に上げたばかりなのに・・・。


「それから、アトラス、ギルバート、勇者たちを定期的にローダリアやクランティアに派遣せよ。四天王クラスが戦いの場に姿を見せたとすればこちらとしても牽制しておく必要がある」


 クランティアは北西部の街でローダリアと並ぶ魔族との戦いの拠点だ。クランティアには第五師団が配置されている。これでコウキたちはまた実践経験を積むことになる。すでに彼らはギルバートやセイシェルより強い。確かに牽制にはなるだろう。


「かしこまりました」とアトラスが答え、ギルバートもアトラスと共に頭を下げた。


 ルヴェリウス王国は徐々に追い詰められている。ギルバートはそう感じた。

 昨日の晩に「第6章までの登場人物紹介」を投稿しました。

 それと、第6章のカナの戦闘場面でカナが使えないはずの土属性魔法を使っている描写がありましたので修正しました。作者が間違えていては話になりませんね。お恥ずかしい限りです。

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