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7-1(プロローグ1).

 第7章「共和国編」の始まりです。

 その日、メルメルがいつもの薬草採りから帰ってくると村が燃えていた。


「村が・・・」


 メルメルはその光景にすぐには理解が追いつかない。一緒に薬草採りに行っていた幼馴染3人も唖然としてその様子を見ている。


「なんで・・・」


 メルメルの生まれたバデナ村は住民が200人位の小さな村だ。近くには小さな3つの森がある。森には薬草の自生地が広がっている場所がいくつかあり、村の貴重な収益源になっている。バデナ村を訪れる者は多くなく、偶に訪れる行商人に薬草や農産物、討伐した魔物の素材などを売って必要なものを手に入れるという生活だ。住民の大半が農業か魔物の狩りに従事しているが、メルメルのような年齢の子どもたちはこうして薬草の採取を行うのが通例だ。


 バデナ村の住人の多くは獣人の血を引いている。メルメルもそうだ。メルメルに角はないが獣のような耳をしている。メルメルは父親と同じ形のこの耳を気に入っている。村一番の戦士であるお隣のジャン兄さんなどは額から立派な2本の角を生やしている。メルメルは今日の朝もその父親と母親、そして弟に見送られて村を後にした。メルメルたち4人はまだ10才前後で成人していないが、父親たちと狩りの経験は積んでいる。獣人の血を引くものは身体能力強化に長けている。メルメルたちがいつも行く薬草の自生地辺りに出るのはメルメルたちでも倒せる弱い魔物だけだ。メルメルたちだけで全く問題ない。


「お父さん、お母さん、カナン」


 メルメルは両親と弟の名を呼ぶと薬草の籠を投げ捨て駆け出した。背後からメルメルの名を呼ぶ幼馴染たちの声が聞こえる。


 燃え盛る炎の中、やっとの思いでメルメルが自分の家に辿り着くと、それは燃えていた。でも他の家に比べると火勢は弱い。


「あつっ!」


 取手を思いきり引くとメルメルは家の中に飛び込んだ。煙に咳き込みながら小さな家の中を探す。誰もいない。みんな逃げることができたのだろうか?


 メルメルが家の外に出ようとしたとき、微かな物音がした。台所の地下にある保管庫からのようだ。メルメルが台所に近づくと何かに躓いた。


「お父さん、お母さん」


 それは朝笑顔でメルメルを送ってれた両親の変わり果てた姿だった。その黒くなった死体には獣に噛まれたような跡や剣で斬られたような跡もあった。


 なんで・・・。


 そのとき、また物音がした。


 メルメルは地下の保管庫への階段を塞いでいる金属の蓋のようなものを持ち上げる。


 重い・・・。だが、この年にしてメルメルの身体能力強化はなかなかのものだ。


 ガランと音を立て蓋を退けると階段を降りる。保管庫はかなり広い。


「誰?」


 暗闇から怯えたような声がした。


「カナンなの?」

「お姉ちゃん・・・」

「カナン、無事だったのね」


 メルメルは弟を抱きしめた。でも、こうしてはいられない。


「カナン行きましょう」


 メルメルは地下保管庫から弟を連れて出る。幸いメルメルたちの小さな家の火勢は更に弱まっている。メルメルは弟の手を引いて家の外に出る。更に村の外を目指す。


「お姉ちゃん、お父さんとお母さんは?」


 カナンは家の中の2つの黒い塊が両親だとは気がついていない。カナンに問われたことで、メルメルはもう両親がいないことを思い出した。だが、メルメルには泣いている暇さえない。


「分からない。それよりカナン何があったの?」

「怖い魔物が村を襲ってきたの。空を飛んでるのもいた」


 魔物が・・・。メルメルが村に帰ってきたときには見かけなかった。


「それに剣を持った人たちもいた」


 カナンのたどたどしい話によると、突然、剣士や魔物が村を襲ってきたらしい。それに魔法を使う人もいたと言う。火は魔法によるものだったのだ。村で属性魔法を使える者は一人しかいない。それも初級の土属性魔法で岩ようなものを飛ばすだけだ。それでも狩りには役立つのだが・・・。

 両親は襲撃者たちからカナンをあの保管庫に隠した。父親には剣で斬られた跡があった。カナンの話の通りこの襲撃には人が関わっている。それもとても強い人が。メルメルたちの父親は村でも有数の戦士だ。いつもたくさんの魔物を討伐して肉や素材を得ていた。


 そのお父さんが・・・。


「剣を持った人? チギリアの騎士なの?」

「違うと・・・思う」 


 チギリアとはこの辺りでは一番大きな街で領主の騎士もいる。領主といっても、この辺りのまとめ役といった感じだ。この辺りは獣人の血を引く者が多く住む一帯だ。それぞれの町や村、そしてチギリアのような大きな街でも、人は基本皆自由に生きている。ただ、それでは揉め事が起こった場合など不便なことも多いので仲裁役というかまとめ役といったものをチギリアの領主が努めているのだ。領主といってもバデナ村でいうところの村長のような存在だ。


 村の外までカナンの手を引いて脱出してきたが、そこには幼馴染3人の姿はなかった。村の方を見ると、まだ赤い炎があちこちに残っている。メルメルたちが両親と暮らしていた平和な村はもうどこにもない。


 涙がメルメルの頬を伝って地面に落ちた。メルメルの手をぎゅっと握っているカナンの顔がぼやける。


 これから、どうしたら? 


 とりあえずチギリアを目指すべきなのか。メルメルは両親に連れられて一度だけチギリアに行ったことがある。でも、行き方などは全く覚えていない。


「まだ、残っていたのか」


 メルメルが振り返ると3人の大人がいた。そのうちの一人は狼のような魔物を連れている女の人だ。この辺りでは見かけない魔物だ。3人の格好は村の人たちとは明らかに違う。チギリアの騎士とも違う。しいて言えば、チギリアの街で見た冒険者という職業の人たちに似ている。メルメルが両親から聞いた話では、冒険者というのは冒険者ギルドに所属して魔物の素材や魔石を採取する人たちだ。比較的新しい職業で別の大陸から伝わってきたと聞いた覚えがある。


「しかもなかなか上玉じゃないか。お前ら早く拘束しろ」


 狼のような魔物を連れた女の人の指示で二人の男がメルメルとカナンに近づいた。


「大人しくしてろよ」


 男の一人がメルメルたちに手を伸ばした。


「痛!」

「てめえ何を!」


 男の手から血が流れている。メルメルがナイフで斬ったからだ。


 バシン!


「きゃあー!」

「お姉ちゃん!」


 男が激昂してメルメルを平手打ちにするとメルメルは地面に転がった。


「馬鹿、商品に傷をつけるな」

「す、すいません。このガキが」

「言い訳はいいからさっさとしろ」


 結局、メルメルの抵抗も虚しく、メルメルとカナンは拘束され連行された。ジャン兄さんがいればこんな奴ら・・・。そういえばジャン兄さんはどこにいるのだろう。


 メルメルたちが連行された先には魔物が牽く大きな馬車が3台も停まっていた。それに、メルメルたちを連行した大人たちと同じような格好の者が30人くらいいる。10体以上の魔物もいる。魔物はみな大人しくしている。メルメルは従魔という言葉を思い出した。メルメルが思ってた以上に大規模な人数で村を襲ったようだ。


 この人たちはいったい?


 メルメルとカナンは大きな馬車の荷台に押し込まれた。中は広く、そこには10人以上の人がいた。みんな若い。メルメルたちのような子供もいる。


「メルメル、それにカナンも・・・」


 メルメルは馬車の中で幼馴染たちと再会した。馬車の荷台には幌がかかっており外は見えない。


「そんな年寄は要らない。殺せ」

「た、助けてくれー」


 外から聞こえた助けを乞う声には聞き覚えがあった。あれはいつも偉そうにしている村長の声だ。今は偉そうにはしていない。


 その後悲鳴が聞こえ静かになった。


 しばらくして魔物の嘶く声が聞こえると馬車が動き出した。外は見えないのでメルメルたちにはこの馬車がどこに向かっているのかは分からない。


 この日、メルメルとカナンは両親を失い、その運命は大きく変わった。

 第7章「共和国編」からの展開は作者の勝手な基準では結構良いできだと思っていますので、楽しんでいただけると幸いです。いよいよ物語は完結に近づいてきました。最後までより面白くなるように頑張りますのでよろしくお願いします。

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