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6-46(ユウト).

 あの後も、ミリアは冒険者ギルドで苦労しながら回復魔法を使ってお金を稼いでいた。僕は結局、ルルとシャルカに相談してミリアをパーティーに誘った。


 ミリアはちょっと悩んでいる素振りだったが、結局応諾した。その後、僕たちはミリアの実家の商会を訪れ両親にミリアをパーティーに入れることを伝えた。それから、ハイリゲンを立つことも。ミリアの義母は僕たちに法外なお金を要求したが僕は突っぱねた。ミリアは15才であり、この世界では成人だ。自分の未来は自分で決める権利がすでにある。それにお金を払うのは嫌だった。僕たちはミリアをお金で買ったわけじゃない。


 その後、ミリアの義母が何か仕掛けて来るかもと警戒したが、何もなかった。そして、今僕たちは王都キャプロットに向かっている。このあたりには町や村もないので今日は野営だ。


「この辺りにしようか」


 僕たちは野営の準備をする。アイテムボックスから薪を取り出し僕が魔道具で火を起こそうとすると、ミリアがさっと生活魔法で火を付けてくれた。


「火属性魔法も使えたんだ」

「生活魔法だけです・・・」


 ミリアは小さな声で答えた。まだ、緊張しているようだ。無理もない。


「ミリアちゃん、心配しなくてもいいよ。ユウ様は見かけより頼りになるから、何かあっても大丈夫だよ」

「ミリア、もし魔物の討伐のことを不安に思っているのなら、私が守ってやるから心配するな」

「そうですよ。シャルカはこんなですけど、とっても頼りになる盾役ですよ」

「こんな、とはなんだ。ユウジロウどう思う?」

「確かに見かけとは逆で、案外シャルカのほうが女の子らしいとこが多いかな?」

「ユウ様、私がこんなガサツな女より女らしくないとはどいうことでしょうか?」

「ユウジロウ、見かけとは逆って言うのが、納得できないな」


 なぜか二人に叱られてしまった。


「ミリア、こんな感じだけど、実際二人とも頼りになるし安心していいよ」

「がうー」


 ミリアは黙っている。ハイリゲンを出て以来ミリアはこんな感じで元気がない。


「ミリア、何かあるんなら、何でも言ってよ。僕たちはもう仲間なんだから」


 僕の言葉にミリアは意を決したように話し始めた。


「わたしはユウジロウさんたちを騙したんです」

「騙した?」

「はい。冒険者ギルドの受付のエレナお姉さんも『赤い閃光』のヴラウさんもケインさんもグルなんです」





★★★





「ミリアは行ったのかー」

「はい」

「幸せになれるといいんだが」

「大丈夫ですよ。きっと」


 ヴラウはエレナの言う通りだと思った。


 あのユウジロウとかいう冒険者のパーティーは全員B級だ。あんなに若いのに・・・。それに皆仲が良さそうだった。何より人が好い。


 ヴラウはミリアの亡くなった母の幼馴染だった。本当はヴラウが嫁にしたかった。だが、ミリアの母のミランダはこの街の有力な商家のボンボンに見染められその商家に嫁いだ。ミランダは幸せそうに見えたがブラウに何か言いたそうだった。ブラウはそれを聞くことはせず、これで良かったのだと自分を納得させた。その頃のヴラウは明日をも知れぬ駆け出し冒険者だった。ミランダが結婚してすぐにミリアが生まれた。ミリアはミランダによく似ていた。家族は仲が良さそうでヴラウも安心した。


 ミランダが病気で亡くなったのはミリアが8才のときだ。ミランダの夫はずいぶん悲しんでいた。もちろんヴラウも密かに悲しんだ。それから3年経って、すでに商家の主人に納まっていたミランダの夫は再婚した。再婚した妻には連れ子がいた。ミリアと同じ年の女の子だ。そして、さらに二人の間には子供が生まれた。男の子だ。待望の商家の跡取りである。そして、その頃からミリアの商家での待遇は悪くなった。


 ヴラウはミリアの義母となった女の険のある眼差しを思い出す。


 最近では人前でさえミリアのことを、役立たずと罵っているのを聞いた。ミリアの父である商家の主人は最初はあんなにミランダとミリアを愛しているように見えたのに。今では妻がミリアに酷い態度を取っても何も言わないという噂だ。人はそんなに簡単に変わるものなのだろうか?


 ヴラウにはミリアに同情する以外に何もできなかった。


 ある日ヴラウはミリアに聖属性魔法の適性があることが分かったと聞いた。なんでも、同じ年の義妹いもうとが鑑定を受けるついでにミリアも鑑定を受けて分かったらしい。ちなみに義妹いもうとのほうは属性魔法に何の才能もなかった。これはミリアの義母の怒りを買った。


 ミリアは何も悪くないのに。


 商家にはそれなりの属性魔法の魔導書が揃っていた。それに指導のため冒険者ギルドに頼んで魔術師を雇った。雇われた魔術師は『赤い閃光』のメンバーだった。しばらくの訓練の後、ミリアは初級の聖属性魔法が使えるようになった。中級も試したらしいがミリアは覚えることができなかった。当たり前だ。中級の聖属性魔法を覚えられる者などほとんどいない。そもそもなんで中級の魔導書なんてものがあったのかとヴラウは不思議に思ったが。指導に雇われたメンバーの魔術師に尋ねたところ、わざわざ付き合いのある王都キャプロットの商会から大金を払って取り寄せたらしい。


 そして半年くらい前からミリアが冒険者ギルドに現れるようになった。


 高い金を払ってミリアに聖属性魔法を覚えさせたのは、このためだったのだ。ミリアは義母に言われて毎日のように金を稼ぎに冒険者ギルドに現れた。ミリアは戦闘の手ほどきなんて受けていない。ヴラウはミリアが戦闘に参加するのではなく冒険者ギルドの中で回復魔法を使って金が稼げるように取り計らった。『赤い閃光』のメンバーも協力してくれた。『赤い閃光』はハイリゲンではそれなりに影響力のあるベテランパーティーだ。冒険者ギルドの受付のエレナも協力してくれた。


 そんな毎日が続く中、あのパーティーが現れた。


 ヴラウはあのパーティーがB級パーティだと聞いて、すぐにミリアを虐めている演技をした。あれだけ若くてB級パーティーなんて滅多にいない。それに話している感じではパーティーの雰囲気も良さそうに思えた。その印象が正しかったことは、あのパーティーの行動ですぐに確かめられた。

 ヴラウがミリアを虐めている演技をしたらすぐに助けに来た。それに、あんなに大きな従魔がいるのに仕事にありつけずに困っていたトッドたちを荷物運びに雇って狩りに出たのだ。間違いなくお人好しだ。


 ヴラウとエレナはこんなパーティーがミリアを連れていってくれればいいと思った。ミリア本人にも聞いてみた。ミリアも同意した。


義母おかさん義妹いもうとから離れたい。商家の跡継ぎももう決まっている。お父さんはわたしを心配しているけど義母おかあさんには何も言えない」


 ミリアはそう訴えた。


 その後もヴラウたちはミリアを虐めている演技を続けた。あのお人好しなパーティーが気の毒なミリアをハイリゲンから連れだしてくれることを願ってのことだ。エレナもそうなるように誘導しようとした。他のパーティーメンバーやそれ以外の冒険者も協力してくれた。


 みんなミリアを心配していたのだ。




★★★




 ミリアの長い物語は終わった。


「そうか・・・」


 ルルとシャルカは何も言わずミリアを見つめている。


「だから、今からでもわたしを追い出してください!」

「なんで?」

「だって、わたしはユウジロウさんたちを騙したんですよ」

「そうかな? 別に騙してはいないと思うけど」

「わたしの話を聞いていなかったんですか? ユウジロウさんたちがB級の冒険者で、若くて、しかもお人好しだから、可哀そうなわたしをこの街から連れ出してくれるんじゃないかと目を付けて騙したんですよ」


 でも、ミリアの身の上話に嘘はなかったし、ミリアをメンバーに誘うことにしたのは自分たちの判断だ。


 それに・・・。


「僕たちのことをお人好しだと思ったんだよね」

「そうです!」

「それはうれしいね」

「な、何を言っているんですか? 馬鹿にしているんですよ」

「だって、僕たちのことを悪い奴じゃなくて好い人だと思ったんでしょ? 会ったばかりの僕たちのことを。それはうれしいことだよね」

「ふふ、ユウ様の言う通りです」

「私のときだってそうだった。ユウジロウがお人好しなのは前からだから、今更だな」


 ミリアの目からポロポロと涙が零れた。


「わたしは聖属性魔法が使えると言っても凄く下手なんです。初級の中でも効果だって低いんですよ」

「まあ、それは練習していけばいいんじゃないかな?」

「それにルルさんが聖属性魔法を使えますよね。だったら、わたしのような初心者なんてB級パーティーに必要ないはずです」

「私は双剣で戦うのも得意なんです。でも双剣で戦っているときは聖属性魔法を使えないんですよ。一旦、身体能力強化を止めないと属性魔法を使うのは無理なんです。ユウ様はそれもできるんですけどね。とにかくそういわけだからミリアちゃんがメンバーになってくれるのはありがたいですよ」

「ミリアちゃんって、子供扱いは止めて下さい。ルルさんだってどう見ても子供じゃないですか」

「確かに見た目は変わらないな」

「シャルカ! 私はミリアちゃんより3つくらいは年上のはずですよ」

「え?」


 ミリアは呆けたような顔をしている。僕と会って2年以上、ルルはそろそろ18才になるはずだ。ミリアが15才なら確かに3才くらい上だ。外見的には同じ年くらいにしか見えないけど・・・。


「ミリア、僕はパーティーのメンバーを選ぶときには人柄を重視しているんだ」

「だから、わたしはユウジロウさんたちを騙したと言っているんです」

「でも、ヴラウさんや他の冒険者の人たち、それに受付のエレナさんも協力したんでしょう? ミリアが悪い子だったら、そんなにたくさんの人が協力しないと思うよ。みんなミリアのことを心配していた。ミリアの人柄がいいって証拠だよ」

「ユウジロウさん・・・」


 ルルもシャルカもうんうんとミリアを見守っている。


「もしかして・・・。皆さん気がついていたんですか?」

「まあ、さすがにエレナさんの態度が露骨だったからね」


 まあ、気がついたのはミリアをパーティーに誘うちょっと前だ。たぶん、コウキやハルならもっと早く気がついただろう。でも、さすがにエレナさんの演技は下手過ぎた。


「そう・・・だったんですか・・・」

「でも、普通に私たちに頼むのではダメだったのかな? ユウジロウはかなりのお人好だしな」とシャルカが言った。


 どうだろうか? 普通に頼まれてもイエスと言ったような気もするし、そこまでミリアに興味を持たなかったような気もする。


「普通に頼んでもB級パーティーが私を欲しがらないだろうと。それにこのやり方のほうがいいパーティーかどうか判ると言われて・・・」

「なるほど。とにかく、ミリアそういうわけだ。ミリアがよければ僕たちはパーティーメンバーとしてミリアを歓迎するよ。だけど、冒険者は危険な職業だ。決めるのはミリアだ。どうかな?」


 ミリアは考え込んでいる。


 冒険者が危険な職業だっていうのは本当だ。正直に言えば、ミリアにどのくらい才能があるのかは分からない。でも、せっかく神様から属性魔法の才能を貰ったんだから最初から諦める必要はないと思う。ダメならダメでまた違う道もあるだろう。ミリアの人生はまだ長い。


「僕は人は自由に生きるべきと思うんだ。でも、それはなかなか難しいんだ。覚悟や努力が必要なんだよ。それに努力しても夢が叶わないこともある。僕もいい加減なことは言わない。ミリアが強い冒険者になれるかどうか、それは分からない。でも、ミリアがやってみると言うなら、僕たちは全力でそれに協力する」

「ユウジロウさん・・・」


 クーシーが心配そうに「がうん」と鳴いた。


「わ、わたし」

「うん」

「やってみたいです」

「うん」

「ユウジロウさんたちみたいな冒険者になってみたい・・・です」


 恥ずかしそうにそう言ったミリアの顔は希望に輝いていた。


「じゃあ決まりだね」

「ミリアちゃん、歓迎します」

「よろしくな、ミリア」

「がうー」


 こうして僕は4番目の仲間を得た。 

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 これで第6章は終わりです。明日から第7章「共和国編」に入ります。この後、6章までの登場人物紹介を投稿するつもりです。

 もし少しでも面白い、今後の展開が気になると思っていただけたら、ブックマークへの追加と下記の「☆☆☆☆☆」から評価してもらえるとうれしいです。

 また、忌憚のないご意見、感想などをお待ちしています、読者の反応が一番の励みです。

 よろしくお願いします。

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次のユウト編が楽しみです。
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