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6-45(ユウト).

「思ったより小さいですね」

「うん」


 ルルの感想に僕も同意した。


 僕たちはトドスと王都キャプロットの中間にあるハイリゲンの街に到着し冒険者ギルドを訪れていた。冒険者ギルドはトドスのそれより小さい。トドスだけでなくこれまで通って来たイデラ大樹海に面した街の冒険者ギルドはどれも規模が大きかった。やっぱりイデラ大樹海から離れると魔物も少なくなるのだろうか。


 僕たちは道中で狩った魔物の素材を換金しようとして列に並んでいる。クーシーは外に繋がれている。繋がれていても多くの冒険者はクーシーを遠巻きにして近づかない。最近は中に連れて入ると驚かれるくらい大きくなった。従魔じゃなくて騎獣に間違えられることがほとんどだが、それにしても大きいのだ。


「ギネリア王国のテルツやラワド、それにキュロス王国のトドスなどが冒険者の街と言われてるのは分るな」


 シャルカの言う通りだ。それらの街はすべてイデラ大樹海に面している。イデラ大樹海は魔物の宝庫だ。僕たちも浅層でちょっと活動してみたけど魔物との遭遇率が異常に高かった。浅層でさえときどき中級魔物が現れる。


「ユウ様の友人のハル様たちは深層から脱出してきたと言ってましたね」とルルが小声で言った。

「うん。僕がルヴェリウス王国を出た後、いろいろあって転移魔法陣で飛ばされたらしい」


 僕たちは声を潜めて会話する。


 ハルたちから聞いた話は凄かった。あんなことが現実に起こるなんて・・・。それに武闘祭ではコウキが優勝した。準優勝がハルだ。二人ともカッコよかった。僕ももっと頑張らないとだな。


「ユウ様は十分頑張ってますよ」

「そうかな」

「まあ、ルルの言う通りだが、あんまり調子に乗るなよ。それに、私はもっと可愛らしい感じのほうが好みだ」

「シャルカ、ユウ様は頼りになるだけでなく、とても可愛いですよ」

「がうー」


 いや、僕はどちらかというと勇者みたいにカッコいい冒険者を目指している。別にシャルカに撫で回されたいわけじゃない。たぶん。

 

 そうこうしていると僕たちの順番がきたので道中討伐した魔物素材の買い取りを依頼する。


「ずいぶんたくさんありますね」

「ええ、まあ」


 僕は指示に従って冒険者証を提示した。


「まあ、B級なんですね。失礼しました。あまりにもお若いので」 


 この反応はいつものことだ。ちょっと得意になってしまう。受付の女性の声が大きかったのか、周りから「B級だと・・・」などの驚きの声が聞こえる。


「ユウ様、調子に乗ってはいけませんよ」


 ルルからも調子に乗るなと言われてしまった・・・。


 そのとき争うような大きな声が聞こえた。


「ぜんぜん治ってないじゃないか!」

「それは、たぶん時間が経ち過ぎているからです」

「なんだと!」


 声のした方を見ると、杖を持った僕たちよりも若い少女と呼んだほうがいい女の子と厳つい顔をした冒険者らしい男の人が言い争っている。少女は金髪で上品な感じだ。一方、男の人の顔は傷だらけだ。でも古傷に見える。


「あれは?」と僕は受付の女の人に尋ねた。

「女の子は回復魔術師のミリアちゃんです。男の人は『赤い閃光』のヴラウさんですね」

「『赤い閃光』?」

「ええ、ここハイリゲンを拠点にしているC級パーティーです」

「それで、ミリアちゃんっていうのは?」

「えっと、冒険者登録をしたばかりの聖属性魔術師です。えっとそれ以上は・・・」


 冒険者ギルドとしても冒険者のプライバシーについては軽々しくは話せない。見ているとルルが二人に近づいている。


「どうかしたんですか?」


 ルルが二人に尋ねた。


「なんだ。お前は」


『赤い閃光』所属のヴラウとかいう冒険者がルルに凄んだ。ベテラン冒険者としての経験が顔に現れているタイプだ。C級らしいがベテラン冒険者らしい迫力がある。


「いえ、ちょっと話しが聞こえてきたので。よかったら私が回復魔法を使ってみましょうか? 初級しか使えないんですけど、これでもB級冒険者なんですよ」


 ルルがB級だと聞いてヴラウはぎょっとしたような顔をした。ヴラウのそばにいた冒険者が「さっき受付でB級って言ってただろう?」と言った。


「ふん、別にいい。だが、治らなかったんだから金は払わないぞ」と言ってヴラウとその仲間らしき男は去っていった。


「ありがとうございます」


 ミリアはルルに頭を下げている。


「私は特に何もしてないよ」と言ったルルにミリアは何度も頭を下げて去っていった。


 ちょっと気になる・・・。 


 その日僕たちは宿を取り、クーシーを預けた後、また冒険者ギルドに戻って来た。夕食のためだ。わざわざ夕食を冒険者ギルドで取ることにしたのは情報収集のためだ。


 情報収集した結果、昼間ミリアと呼ばれていた女の子のことが少し分かってきた。


 ミリアという名の聖属性魔術師はまだ15才で冒険者になったばかりだ。ミリアはこの街ではよく知られた商家の娘だ。だいぶ前に母親が亡くなり、今は後妻として商家に嫁いできた義母とその連れ子に虐められている。


 うーん、よくある話だ。


 聖属性魔法が使えるミリアは義母に少しでも稼いで来いと言われて、冒険者登録をして回復魔法を使うことでお金を稼いでいる。


「ユウ様、さっき、ミリアちゃんのことを話してくれた冒険者の人、どこかいいパーティーがミリアちゃんをハイリゲンから連れ出してくれればいいのにって言ってましたね」

「ただ、初級聖属性魔法が使えるといってもまだまだ未熟で効果も低いって話だった。冒険者登録をしたばかりってことはE級だろうしな」とシャルカが言った。


 たぶんシャルカの言う通りだろう。でも、普通なら初級でも聖属性魔法が使えればいくらでも入れるパーティーはありそうな気もする。





★★★





「ユウ様、今ので最後です」


 ルルが最後のジャイアントウルフに止めを刺した。二本の小ぶりな剣を器用に両手でクルクルと回してサヤに収めた。カッコいい。


「やっぱりクーシーのせいだったんだなー」

「だな」


 この辺りの森にジャイアントウルフを討伐に来たのだが、最初は一向に遭遇しない。もしやと思って自由に食事をしてこいと言ってクーシーを送り出した。その後3人で討伐を初めてみたらすぐにジャイアントウルフの群れに遭遇した。たぶん、ジャイアントウルフはクーシーを恐れて近づいてこなかったんだと思う。ジャイアントウルフとホーンウルフはどちらも狼型の魔物で本来は同じくらいの強さの魔物だ。だけど、クーシーは会ったときから特殊個体で普通より大きくて強かった。それが、最近ますます大きくなっている。


「ユウ様は、仲間を成長させる魔法を持っているのかもしれませんね」

「だが、ルル、お前は小さいままだぞ」

「シャルカ、失礼ですね。これでも少しは大きくなっています。む、胸のことじゃないですよ!」


 ルルの胸を覗き込んでいたシャルカにルルが抗議した。


「それに自分でも言うのもなんですけど、すっごく強くなった気がします」

「それは、私も感じるな」


 ハイリゲンの街で雇った3人の男の子が僕たちが倒したジャイアントウルフを次々と荷車に乗せる。


「あんなに大きな従魔がいるのに僕たちを雇って頂いて、なんか申し訳ないです」とリーダーの男の子が言った。

「いやー、結局クーシーがいたらジャイアントウルフは現れなかったんだしね。それより運べる分だけでいいよ」


 辺りには10体以上のジャイアントウルフの死体がある。全部運ぶのは無理だろう。


「分かりました。運べない分は牙とか毛皮など素材をできるだけ採集することにしますね」

「うん。お願いするよ」


 僕たちには力持ちのクーシーがいるしアイテムボックスも持っている。いつもは荷物持ちは雇わない。でもハイリゲンの冒険者ギルドで冒険者たちから声が掛からなくて困っている様子の荷物持ちの3人の少年を見て雇うことにしたのだ。


 しばらくして、クーシーも合流したので、僕たちはハイリゲンの街に帰ることになった。


 ハイリゲンの冒険者ギルドには、続々と今日の仕事を終えた冒険者たちが帰還してきた。冒険者ギルドの片隅でミリアが冒険者の依頼を受けて初級回復魔法を使っている。下級の回復薬の値段より安く引き受けているらしい。


「どっかよいパーティーがミリアちゃんを引き取ってくれるといいんですけど」と受付の女の人が言った。昨日も同じようなことを聞いた。

「聖属性魔法が使えれば引っ張りだこじゃないですか?」

「確かにそうなんですけど。ミリアちゃんの魔法は初級でも効果が低めです。それに・・・」


 ミリアのほうを見ると額に汗を浮かべている。魔力も少ないようであまり連続では使えないらしい。


「おい、まだなのか」

「す、すみません。ちょっと時間を」


 ミリアが冒険者に文句を言われて困っている。


 ルルがミリアの方に走って行って「私が手伝いましょう」と言ってミリアの代わりに回復魔法を使っている。それでも、まだ文句を言っている冒険者たちをシャルカが睨む。


「なるほど。魔力は多くないようですね。それに技術もまだ未熟だと」

「はい。それにいくら回復役と言っても、ミリアちゃんを魔物の討伐に連れて行くのは正直まだ不安が大きいです。ミリアちゃんを安心して任せられるパーティーがあればいいんですけど。ミリアちゃんはとってもいい子なんですよ。それに高位のパーティーのほうがミリアちゃんの実家からなんか言われても大丈夫でしょうし。でもそんな都合のいいパーティーなんて、なかなかなくて・・・」


 なるほど。受付の女の人はミリアのことをずいぶん心配している様子だ。

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― 新着の感想 ―
新しい仲間の予感!?そして、大きくなってもクーシーは可愛いですね!!
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