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6-43(タツヤと魔族たち).

「なぜ、ジーヴァスの話に乗ったのですか?」


 メイヴィスはローダリアに勇者たちが来るという情報を得たジーヴァスから、ちょっと攻勢を強めたいので協力してくれという話に乗った。メイヴィスが話に乗ったことでデイダロスも巨人兵の部隊を派遣した。


「ちょっと勇者たちの実力を試すのもいいかなって思ったのよ」

「もしかして俺のためですか?」


 メイヴィスはジーヴァスの話に乗ると俺に行ってみるかと聞いたのだ。結局、俺と火龍がジーヴァスの作戦に参加することになった。それで俺は久しぶりにコウキたちを目にすることができた。


「別にタツヤのためっていうわけでもないけど、まあ、タツヤがクラスメイトとやらに興味があるかなって思ったのは、そうかな」

「ありがとうございます」

「別に」


 メイヴィスはそっけなく返事をした。


「行きがかり上、インガスティとコウキたちの戦いを邪魔したような格好になってしまいました」

「それもいいわよ」


 メイヴィスは言い訳のように「私はタツヤたち異世界人っていうより異世界人を召喚した人族に恨みがあるんだから」と付け加えた。

「でも・・・」

「私はずいぶん長く生きている。これだけ生きていればいろいろ思うところはある。ただ、これだけ生きていても人族、特にルヴェリウス王国のやつらへの恨みは消えていない。そういうことよ」

「そうですか」 

 

 メイヴィスの心を支配しているのは本当に恨みや復讐心なのだろうか? 俺にはむしろそれは・・・。


「それより、勇者たちはどうだったの」

「強いですね。ですが、さすがにインガスティには苦戦していました。グリフォンもいましたから」


 インガスティと一緒にグリフォンに乗っていたのはジーヴァスの配下で使役魔法を得意としている魔族でクダアクという名前らしい。クダアクには、同じく使役魔法を得意とする妹がいるんだとか。その妹は伝説級魔物一体に加えて上級のワイバーンを何体か使役していると聞いた。伝説級2体を使役している四天王サリアナに近い力を持っているという噂だ。まあ、サリアナの使役している魔物は伝説級でも上位のケルベロスとオルトロスだからサリアナほどってことはないとは思うが・・・。

 

「まあ、インガスティとグリフォンが相手じゃあね。それにデイダロスの部下たちもいたんでしょう?」

「ええ」


 苦戦はしていた。だが俺にはあの4人が協力すればインガスティでさえ倒せていたかもしれないと感じた。コウキはさすがだったし、カナの魔法は想像以上だった。そのカナをサヤが守っているのだから厄介だ。もちろん一瞬で戦況を立て直すマツリの聖属性魔法の有用性は言うまでもない。


「ただ、コウキはまだ力を隠していますね」


 最上級の光属性魔法、それは個々の勇者によって異なる魔法だ。初代勇者アレクはそれで大魔王べラゴスを倒したのだ。


「それはタツヤも同じでしょう?」

「そうですね」


 それにしても、もし俺があのままコウキと戦っていたらどうなっていたんだろうか? まあ、インガスティもいたし俺としても光属性魔法を使うわけにはいかなかった。それにしても勇者対勇者、これは歴史上でも初めてのことだ。  


「しかし、ジーヴァスはいったい何がしたいのでしょうか? やはり北にルヴェリウス王国の注意を引き付けようってことでしょうか」

「そうでしょうね」

「だとすると次に動くのはジーヴァスが支配しているらしいガルディア帝国ってこととになりますね。でも、魔王様が」


 魔王様がどう出るのか。小競り合い程度なら見逃されるだろう。なんといっても、まだ魔族と人族は戦争中なのだ。だが、大掛かりな戦争が起こったら・・・。


「前にも言った通り、たぶんジーヴァスにはあまり時間がない。思い切った手を使ったとしても驚かないわね。だけど、言いたくはないけどあまりあの小娘を侮らないほうがいいと思う。初代のべラゴス様を始め歴代の魔王は魔王と呼ばれるだけの力を持っていた。もちろんタツヤ、勇者のほうもそうだった」





★★★





「ジーヴァス様、申し訳ありません」

「まあ、いい。そんなに簡単に勇者が倒せるとは思っていない。それに今回のローダリア襲撃の目的は勇者を倒すことではない」

「はい」

「これから、継続的にローダリア周辺を攻める。クランティア周辺もな」

「魔王様にはなんと?」

「魔王様は何もできまい。未だに人族とは戦争中なのだからな。それに、あくまでローダリアとクランティア近辺だけだ。何か言われてもこれまでの戦いの延長線上にあるものだとしらを切るだけだ」


 クランティアとは北東のローダリアと並ぶ北西側の人族最大の拠点だ。


「ドロテア共和国のほうにも楔は打ってある」

「なるほど、ジーヴァス様が人族を支配する日も近いと」


 ジーヴァスは頷くと「それでインガスティよ。勇者たちはどうだったのだ?」


「はい。とてもジーヴァス様の相手になるような実力があるようには見えませんでした。あのメイヴィスの側近に邪魔さえされなければ。なんせ火龍まで連れていたものですから」


 メイヴィス、一体何を考えているのやら・・・。ジーヴァス以上に長く生きているメイヴィスの考えはジーヴァスにも分からないところがある。


「私は勇者よりガルディア帝国で会った謎の仮面男一行のほうが気になります。ネイガロスやエドガーがやられたところをみても相当な実力者であることは間違いありません。それにおそらく異世界人です。なぜあそこにいたのかまでは分かりませんが」

「お前が戦闘を避けたくらいだからな」

「相手は複数でしたし、あそこには黒騎士団の騎士たちがいましたので」

「うむ、別に責めているわけではない」

「恐れ入ります」


 アグオスからの報告では謎の仮面男たちはエラス大迷宮に向かったようだ。エラス大迷宮にはガルディア帝国の息のかかったクランがある。アグオスは謎の仮面男一行を大迷宮で始末すると報告してきたが・・・。


 エラス大迷宮は謎の多い場所だ。


 2000年前勇者アレクに大魔王ベラゴスが倒された。しかし、その後数百年間の間は今よりもまだ魔族の支配地域が広かった。そんな時代の魔王の一人がエラス大迷宮攻略に挑んだことがあった。ものずきな魔王だ。その魔王は攻略はできなかったが大迷宮から一振りの剣を持ち帰ったという伝説がある。それが魔王の配偶者しか使えないとされている魔族の秘宝『闇龍の剣』だという者もいる。そうではないという者もいる。本当のことは分からない。

 謎の仮面男はそんな謎多きエラス大迷宮に向かったという。一体何を考えているのやら。


「謎の仮面男のことはアグオスに任せておくとしよう。我らにはもっと重要なことがある」

「はい」


 ジーヴァスの計画どおり人族国家の支配が進めば、人族との融和を唱える魔王様もさすがに黙っていないかもしれない。人族の支配を進めることが魔族と人族との融和策にプラスになるという詭弁がいつまで通用するか。サリアナもついているし慎重にことを進める必要がある。魔王様を侮ってはならない。

 それにジーヴァスはメイヴィスのことも気にかかっている。試しに人族を憎んでいるメイヴィスとデイダロスに今回の件への協力を要請してみたらメイヴィスは側近を派遣してきた。なんと神話級の魔物である火龍もつけてだ。


 だが、さっきインガスティも指摘した通りで今回のメイヴィスの側近だという男の動きはおかしかった。しかも黒髪だ。メイヴィスの奴め。一体何を考えているのか・・・。


 しばらく姿を見せなかったメイヴィスがあの側近と共に火龍を連れてゴアギールに帰還したときにはさすがのジーヴァスも驚いた。サリアナは睨みつけるように火龍を見ていた。サリアナが使役している伝説級魔物より上位の魔物を連れ帰ったのだから気持ちは分かる。それにしても魔王様はずいぶん熱心に火龍を眺めていた。


 ともかく、魔王様やサリアナ、それにメイヴィスやデイダロス、いずれも油断していい相手ではない。そろそろ魔族側でもいろいろと策を巡らす必要がある。

 次話から3話ユウト編を挟んで第7章に入ります。

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