6-42(再び1階層~新たなSS級冒険者).
僕たちは1ヶ月以上かけてエランドの街に戻って来た。考えてみれば迷宮攻略を始めてから半年近くが経過している。最短ルートを通ってもこれだ。エラス大迷宮は本当に広い。
そして今、僕たちは冒険者ギルドの一室でギルドマスターのセラフィムさんと向かい合っている。
「イネスさんたちから『レティシアと愉快な仲間たち』が6階層まで到達したと聞いています」
「ああ」とレティシアさんが頷く。
「ですが、イネスさんたちと同じく攻略することはできなかったんですね?」
「その通りだ。イネスさんたちから聞いているかもしれないが、白い龍がダメージを受けつけないんだ。あれじゃあ倒すことは不可能だ」
「ええ、イネスさんたちからもそう報告を受けています」
セラフィムさんは頷いた。
「いくらSS級以上の天才の私でも、ダメージを受けつけないものは倒せない」
「そうですか・・・。で、そのSS級なんですが」
「うん?」
「今回『レティシアと愉快な仲間たち」が6階層に到達したのは間違いなことが確認できましたので、『レティシアと愉快な仲間たち』のうち6階層到達に最も貢献した方をSS級に認定することになりました」
「SS級に?」
「はい」
これまで勇者パーティーとイネスさんたちしか到達したことのない6階層に到達したのだ。おそらく魔王パーティーもだろうけど・・・。確かにSS級になってもおかしくない。
「そうだなー、一番貢献したのは・・・」
「それはもちろんリーダーのレティシアさんです」
「ハルくん」
僕たちに最も欠けていた防御力、それをレティシアさんが補うことによって6階層に到達できた。それに例の件を除けば、レティシアさんの常に冷静なリーダーシップによるところも大きかった。
実はこうなることを予想して事前にユイとクレアには相談していた。もし全員がSS級になれると言われたら3人は辞退するつもりだった。メリットも大きいが、今の段階では目立ちすぎるのはデメリットの方が大きいと判断したからだ。幸いSS級になれるのは一人だけだ。それなら、それはレティシアさんであるべきだ。
「ハルの言う通りです。レティシアさんしかありえません」
「SS級冒険者は『鉄壁のレティシア』様です」
「ハルくん、ユイさん、クレアさん・・・」
こうしてレティシアさんは、ジークフリート・ヴォルフスブルク、イネス・ウィンライトに次ぐ3人目のSS級冒険者となった。
これは、すぐにこの世界中に伝えられることになる。なんせSS級冒険者は王族にも匹敵する存在だ。実際レティシアさんはそれに相応しい。
「SS級冒険者は王族扱いですが家名を名乗りますか?」
レティシアさんは「うーん、どうしようかなー。もともと平民だし。兄さんは帝国から叙爵されて何か家名をもらっていたが、あまり使ってなかった」と言って「それにネロアからもらった家名は名乗りたくない」と僕たちだけに聞こえるように小声で付け加えた。
「そうだ。ハルくんは家名があるのか?」
「ええ、一応ありますけど」
「それは、なんだ?」
「えっと、コジマです」
「コジマかー。なかなかいいな」
「レティシアさん、それはダメですよ」とユイが言った。
「ユイ様の言う通りです」
「え、ダメなのか? レティシア・コジマ。うん、なかなかいいと思うけどな」
「絶対にダメです」
ユイとクレアが声を揃えて言った。息が合っている。
結局、今のところどこの国の貴族にもなる気がないレティシアさんは、とりあえず家名は名乗らずに『鉄壁のレティシア』として活動することになった。ちなみにこの世界では平民であっても家名を名乗ることに何の問題もない。
「それからアルベルトはイネスさんとスレイドさんたちに連れられて出頭してきました。クラウドさんのパーティーを全滅に追いやったことを認めてました。何かほっとしたような顔をしていましたよ」
ほっとしたような顔か・・・。反対にセラフィムさんの顔にはちょっと疲れたよう表情が浮かんでいる。まあ、いろいろ大変ではあったのだろう。
アルベルトさんは、親友であるイネス・ウィンライトに囚われていた。それから解放されたんだろう。イネスさんの二度目のパーティーに誘われなかったのが実力不足のせいではないと分かったことも影響しているかもしれない。
「そういえば、5階層の攻略条件の件は・・・」
「それなんですが、イネスさんから冒険者ギルドに報告がありました。ギルドとしては相談した結果、5階層攻略の可能性がありそうなパーティーが現れたら伝えようと思っています。『レティシアと愉快な仲間たち』の皆さんがどうするかは自由です」
「私たちも公表する気はない」とレティシアさんが言った。
僕たちは5階層どころか6階層の攻略方法も知っている。だけど、どちらも公表する気はない。
「そうですか。私も聞いて驚きましたが、あの条件を達成できるパーティーが現れるとは思えません。むしろイネスさんのパーティーに続いて『レティシアと愉快な仲間たち』が6階層に到達したことが奇跡としか・・・。イネスさんたちやスレイドさんから間違いないと報告を受けていなかったら、にわかには信じられなかったと思います。どうやって条件を達成したのか聞きたいところですが、マナー違反ですから止めておきます」
クレアと一緒にイデラ大樹海に転移したことが、こんな形で役に立つとも僕も予想していなかった。だが、6階層でも話した通り、あれは必ずしも偶然ではなかったのだ。
★★★
冒険者ギルドから出ると、レティシアさんは「『レティシアと愉快な仲間たち』は解散だ」と言った。
「解散じゃなくて、とりあえず活動休止でいいのでは?」
「やっぱり、ハルくんは美人のお姉さんに未練があるようだな」
「ハル様そうなのですか?」
「クレア、そ、そんなわけないじゃないか」
なぜか僕の返事が変にぎこちなくなってしまった。
「怪しいよね、クレア。でもレティシアさん、ハルの言う通りでここは休止ってことで」
「じゃあ、そうするかー」
レティシアさんはあっさり前言を撤回した。
「それと、迷宮で手に入れたお宝なんですけど」
「ああ、分配はあれでいいぞ」
魔石などは5人で等分に分けた。リーダーのレティシアさんがもっと受け取るべきだと僕たちは主張したが、それなら記念にハクタクの素材が欲しいということだったのでそうした。身体能力を強化する腕輪はレティシアさんが、効果の分からない指輪はクレアが貰うことになった。僕とユイには闇龍の杖と聖龍の杖がある。たぶん、この二つの杖が最も価値があると思う。ちょっと申し訳ない気がするけど、使える人が限られているのでこうなった。指輪についてはエランドの冒険者ギルドでも効果が不明だったので、もっと大きなギルドとかで鑑定してもらおうと思っている。
「それで、レティシアさんはこれからどうするのですか?」
「一旦は帝国に戻る。いろいろ整理した後は故郷で冒険者活動をしようと思う」
「レティシアさんの故郷はドロテア共和国ですよね」
「ああ、私はトルースバイツ公国の生まれだ。トルースバイツは5公国の中で最も広い。共和国の北西に位置していてガルディア帝国、ルヴェリウス王国、エニマ王国の3国と領土を接している。それもあって5公国の中で最も豊かだ。ただし、私の生まれたのはトルースバイツでも南西の中央山脈に近い小さな村だ。SS級冒険者になった私はさしずめ故郷の英雄ってとこだろうな」
「僕たちもこの後ドロテア共和国に行く予定です」
「そうなのか?」
「はい。ドロテア共和国のジリギル公国が次の目的地です」
「ふーん、どうせ、なんか事情があるんだろうな。でも、それならまた会うこともあるかもしれないな」
「そうですね。それまで『レティシアと愉快な仲間たち』は休止ってことで」
「ああ、それとハルくん、帝国には注意しろ。黒騎士団や『皇帝の子供たち』には裏の仕事をする部隊もある。あれはネロアの私兵みたいな組織だからな」
「『神々の黄昏』もその一つだったんですよね。レティシアさんが止めてくれなければ僕たちは襲われていたかもしれない。そうですよね?」
レティシアさんは騎士養成所で同期だったというアンガスのパーティーのフランシスと会っていた。レティシアさんがいなければ『神々の黄昏』に襲われていた可能性が高い。
「いや、あいつらを止めたわけじゃない。私がハルくんたちを始末するから任せろと話していただけだ。いつハルくんたちを始末するんだってずいぶんせっつかれたよ」
それで夜中に何度も会っていたのか。
「とにかく、ぜんぜん褒められたことじゃない。改めてハルくん、ユイさん、クレアさん、申し訳なかった!」
レティシアさんは深々と頭下げた。
「聖龍との戦闘のときレティシアさんが私を庇ってくれなかったら、パーティーは全滅でした」
「ユイの言う通りです。レティシアさんは命の恩人です。頭を上げて下さい」
「レティシア様、ハル様とユイ様の言う通りです」
しばらくして頭を上げたレティシアさんは、僕たち3人を見ると「やっぱり『レティシアと愉快な仲間たち』は解散じゃなくて休止で正解だな。そういうわけでまた会おう」と言ってニッコリ笑った。
「ええ、また会いましょう」
「リーダー、またね」
「レティシア様、またです」
こうして僕たちは『レティシアと愉快な仲間たち』のリーダーであるレティシアさんと別れた。また、会うこともあるだろう。レティシアさんはこの世界に3人しかいないSS級冒険者だ。その居場所を知ることは難しくない。
「それじゃあ、久しぶりにプニプニの顔を見に行こうか」
なんか、今日朝、本作が注目度ランキングに載りましたという通知がきました。最近特別評価ポイントが増えたということもないので、どんな基準なのかよく分かりません。とにかく読者の方々のおかげであることは間違いありません。感謝しています。ランキングに載っている間に読者の人が一人でも増えたらいいなと思っています。
第6章もお馴染みのユウト編(3話)を含めてあと4話で終わります。




